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5. 本当に、とても良いご趣味ですこと
しおりを挟む二日間高熱で寝込んでしまった後には、これ幸いとばかりに私は高熱による一時的な記憶障害でしばらくの間乗り越えさせていただくことにしましたの。
タチアナ嬢の日記に書かれていた事柄はほとんどがアルバン様関係のことで、あとは少しばかり家族のことも書かれてある程度でしたわ。
何でも相談できるような親しいご友人もいらっしゃらなかった様子。
「タチアナ嬢は以前の私と違ってこんなに美しいお方でしたのに、お寂しいことですわね。」
そうそう、二日間寝込んでいる間に意外にもアルバン様からお見舞いのお手紙が届いたのですわ。
まあ内容に関しては、『ひと月後に王城で舞踏会があるのでそれまでには体調を万全にして、当日は美しく着飾ってこの国の誰よりも美しいと認められるようにすることを覚えておけ』というような個性的なものでしたけれど。
「王城での舞踏会に着て行くドレスはどのようなものが良いかしらね?」
――ガチャッ
ワードローブを開けましたら中にあるのは白いドレスばかり。
「これは……。タチアナ嬢の髪と瞳でしたら白も素敵ですけれど、少しぼんやりとした印象になってしまいますわね。」
舞踏会まであとひと月、ギリギリですけれど新しいドレスを作りましょう。
「お父様、お母様失礼いたします。タチアナですわ。」
ドゥイエ伯爵ご夫妻のお部屋の前からご挨拶いたしました。
タチアナ嬢となってから何度か顔を合わせたご両親はタチアナ嬢が私に変わっていることなど気づく気配もなかったんですの。
決して悪人ではないのですが、少しぼんやりとしたところがある方たちですわ。
「タチアナ、どうしたんだ?入りなさい。」
「失礼いたします。」
お父様もお母様もお茶を飲みながら寛いでらっしゃった様子。
「実は、ひと月後の王城での舞踏会で着て行くドレスを新調したいのです。アルバン様がこの国で一番美しくとおっしゃるので……よろしいでしょうか?」
「珍しいな……。タチアナが自分でドレスを新調するなんて。いつもはアルバン様から送られたドレスばかり着ていたのに。」
あのワードローブの白いドレスたちはアルバン様からの贈り物でしたのね。良いご趣味ですこと。
「タチアナが滅多にしないお願いをしているんだもの。あなた、よろしいわよね?」
「そうだな。タチアナ、たまには自分の好きなようにドレスを作りなさい。」
お二人ともとてもお優しい方たちなんですけれども、タチアナ嬢の本心には気付いてあげられなかったのですわね。
「ありがとう存じます。」
――早速ソバカスの侍女アンを伴って、タチアナ嬢となって初めて街へ繰り出しましたのよ。
ソバカスの侍女はタチアナ嬢の専属侍女で名前は『アン』、私がタチアナ嬢と成り代わってから辻褄が合わない話が出てくると少し疑っている気配が見受けられますから、とりあえずは体調を崩した際に記憶に一部混乱が見られるということで誤魔化しております。
「お嬢様、どちらの仕立て屋に向かわれるんですか?」
「そうね、最近人気のお店はあるかしら?」
「人気のお店ですか?」
「私体調を崩してからというもの、まだ世の中の流行に追い付いていないんですもの。」
アンは最近人気だという仕立て屋がいるお店へ向かうよう御者に命じて、二人で伯爵家の馬車へと乗り込みましたわ。
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