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2. アルバン様とはどなたですの?
しおりを挟む「お嬢様、目を覚ましてくださいませ。」
まだ瞼が重くてとても起き上がれませんわ。
だって私、とても痛くて熱い思いをしたんですもの。
「お嬢様、今日はカルザティー侯爵令息様がお見えになる日ですよ。早く支度しませんと……。」
カルザティー侯爵令息様?どなたかしら?
重い瞼をゆっくりと何度か瞬きを繰り返しながら開くと、目に入ってきたのは先ほどの私の血の様に赤い天蓋でしたわ。
あんなに痛くて熱かった胸の辺りも、今は何にも感じませんし、この天蓋には全く見覚えがありませんのよ。
「ここは……?」
ゆっくりと起き上がりますと、寝台近くに待機しておりました若くてソバカスが浮いたお顔の侍女の姿が目に入りました。
ただ、その侍女の制服もお顔も見覚えはないのです。
「どなたかしら?」
「お嬢様、寝ぼけてらっしゃるのですか?カルザティー侯爵令息様ですよ。お嬢様の婚約者のアルバン様です。お早く支度なさいませんと、支度が終わらないうちにお見えになってしまいますよ。」
いえ、随分と気安い雰囲気の侍女だけれど……貴女がどなたなの?
それに婚約者とはどういうことですの?
さあさあと私の腕を引いて寝台から引っ張り出されて、まず第一に公爵家の侍女にこのような事をされたことがありませんからとても驚いたのですけれど……。
「これは……。どなた?」
ドレッサーの前に腰掛けらように促され、鏡を覗きましたら柔らかなピンクブロンドが緩くウェーブを描いた長い髪と、ラベンダー色の瞳の少女が居ましたもので更に驚いたのです。
「お嬢様、今日は一体どうなさったんですか?具合でも悪いんですか?」
「……ええっと。そうね、今日はどうやら具合が良くないようですわ。」
「えっ!?大丈夫ですか?お顔色はよろしいですし、流行り病などではないと思いますが……。それでは念のためアルバン様に今日は会えないとお知らせをした方が宜しいですか?」
「ええ、お願いできるかしら?」
急いで部屋を出て行ったソバカスの侍女を見送って、もう一度よく鏡の中を覗きましたけれど、やはりこれは私の姿ではないようですわ。
私は太陽のように眩しいと言われる金髪で、髪にウェーブはかかっておりませんでしたし、瞳の色も深いブルーでした。
どちらかというと私の国ではありきたりな配色で、顔立ちも可もく不可もなくといった感じでしたの。
この鏡の中の少女ように美しいピンクブロンドの髪とラベンダー色の瞳を持った方など国中探してもなかなかおりませんわ。
しかもこのお顔立ち!
白い陶器のような素肌に、髪色と同じ長いまつ毛が瞳を縁取り、形の良いお鼻と薔薇なように美しいお色の唇がポッテリと素敵ですわ。
ありきたりな令嬢だった私とは大違い。
そんな私も、あの時確かにアニヤ伯爵令嬢に刃物で胸を刺されて血まみれになったのです。
そして、ヒューバート様が現れて……。
「確かにあの時私は死んだのですわ。」
それでは、この身体はどなたのものなのかしら?
本来の身体の持ち主はどこへ行ったのかしら?
「それに、どうしてこのようなことになったのかしら?」
ひとまず、この見覚えのない部屋の中で何か手がかりがないかと探しておりますと、机の引き出しに隠すようにしてしまわれた手紙の束と赤い表紙の日記があるのを見つけましたのよ。
「タチアナ・ド・ドゥイエ……。」
開封された手紙の表にはタチアナ・ド・ドゥイエと書かれていますから、この身体の持ち主はタチアナ嬢と言うのでしょう。
手紙の裏にはアルバン・レ・カルザティーと書かれてありますから、これが先程侍女が言っていたカルザティー侯爵令息様なのでしょうね。
一旦手紙を置いて、私は日記を手に取りパラパラとめくりましたのよ。
「なんてこと……。」
カスティーユ公爵令嬢イライザとしての私が殺されて、何故このタチアナ嬢の身体を手に入れたのかは分かりませんわ。
しかし、この身体の持ち主のタチアナ嬢はどこへ行ってしまったのかは分かりましたの。
「自ら服毒自殺をなさるなんて……。よほど辛かったのですわね。」
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