殿下、真実の愛を見つけられたのはお互い様ですわ!吸血鬼の私は番いを見つけましたので全力で堕としにかかりますから悪しからず

蓮恭

文字の大きさ
上 下
39 / 40

39. 半分狼というのも可愛らしいのですけれど

しおりを挟む

 ガンブラン王国の国王はアドリエンヌとアレックスの婚姻から十年が経った頃に儚くなった。

 そして王太子が、他国の姫君と婚姻を結んだと同時に国王へ即位した。
 元王妃はそれ以前に蟄居の途中で儚くなっていた。

「アドリエンヌ、国王陛下が儚くなられたとのことですが陛下は眷属となったんですよね?吸血鬼は病では死なないのではなかったですか?」
「ええ、アレックス様。きっと吸血鬼を楽に死なせる毒を使用したのでしょうね。国王陛下は随分とお年のはずでしたから。あまり長生きするのもおかしなことですからね。」
「成る程。その辺りはあまり考えない方が精神衛生上良さそうですね。」
「ふふっ……。そうですわね。その方が宜しいかと。」

 アレックスはあれから立派な領主となり、伯爵家はその復興の功績からシャトレ侯爵家と同じ侯爵位を、亡くなった前国王から賜った。
 伯爵領はそのまま侯爵領となり、伯爵はその一部を領地とした。

 だから今ではアレックス侯爵とアドリエンヌ侯爵夫人として知られている。

 領地は安定的な収入で潤っていたし、他国からの移民同胞たちの受け入れも進んでおり人間と異形の者の共存がきちんとなされた領地となっていた。

 シャトレ侯爵はガンブラン王国の政務が忙しく、シャトレ商会の方まで手が回らないという理由からアドリエンヌに商会の全てを譲ったのだった。
 幼い頃から商会を継ぐことを目標に努力を重ねてきたアドリエンヌにとっては寝耳に水の出来事であったが、さりげない侯爵の優しさに素直に喜んだ。

 既にガンブラン王国のほとんどの領地に同胞たちが渡っている。
 それらは各地で人間と共存する道を探して、これからもっとガンブラン王国を発展させていくだろう。

「邸の中で母が呼んでいるようです。どうやら子どもたちが暴れているみたいで。」
「本当ですわね。急がないと。」

 忙しい仕事の合間に庭園で散歩をしながら休憩していたアドリエンヌとアレックスだったが、邸の中で子どもたちの世話をしてくれているアネイシア伯爵夫人が嘆く声が微かに聞こえている。
 五感が優れた吸血鬼でなければ聞こえないほどの声は子どもたちを必死で制止しようとしているようだ。

 二人は急いで邸内へと戻った。

「パトリック!サロメ!イレーヌ!おばあちゃまを困らせては駄目よ!」
「「「あ、お父様とお母様!」」」

 長男パトリックと長女サロメ、次女イレーヌはサロンでいたのだがその姿はそれぞれが白、黒、灰の色をした狼であった。
 しかも狼とは言ってもまだ中途半端な変身しか出来ないため、裸の体に大きな三角耳、フワフワモフモフの尻尾が生えているのである。

 そしてそれぞれの瞳はやはり吸血鬼の印であるルビーのような紅であった。

「ダメだろう。変身するのはいいが、狼になったお前たちは力が強いのだから追いかけっこなどしたら部屋の中がめちゃくちゃだ。おばあちゃまに謝りなさい。」
「「「はーい、お父様。おばあちゃまゴメンなさい。」」」

 パトリックは六歳、サロメは四歳、イレーヌは二歳となったが三人でよく変身をして遊んでいるのだ。
 その度部屋の中がめちゃくちゃになるのでアネイシアに怒られていた。

「怪我をしたらダメですからね。今度からはおばあちゃまの言うことを聞くのですよ。」
「「「はーい!おばあちゃま!」」」

 優しい顔に戻ってそう言ったアネイシアの言葉に、三人の子どもたちは人間の姿へと戻り急いで裸身に服を纏ったら、元気よく手をあげて返事をした。

「お義母様すみません。」

 アドリエンヌがアネイシアに謝ると、気にしないでと言う。

「アドリエンヌも働き詰めですもの。たまには息抜きしないとね。アレックス、今晩は久しぶりにアドリエンヌと食事でもしてきなさい。帰りは遅くても大丈夫だから。」
「母上、よろしいのですか?」
「当たり前よ。私だっているし、もう少ししたら双子たちがアカデミーから帰ってくるでしょう。甥っ子姪っ子の面倒を見るのが大好きだから大丈夫よ。アドリエンヌを労わってあげてね。」
「お義母様、ありがとうございます。アレックス様と公務以外でお出かけなんて久しぶりのことですから、とても嬉しいですわ。」

 こうしてアカデミーからアドリエンヌのことを大好きな双子たちが帰って来る前に、夫婦は久方ぶりの外出をすることとなった。






しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】「君を手に入れるためなら、何でもするよ?」――冷徹公爵の執着愛から逃げられません」

21時完結
恋愛
「君との婚約はなかったことにしよう」 そう言い放ったのは、幼い頃から婚約者だった第一王子アレクシス。 理由は簡単――新たな愛を見つけたから。 (まあ、よくある話よね) 私は王子の愛を信じていたわけでもないし、泣き喚くつもりもない。 むしろ、自由になれてラッキー! これで平穏な人生を―― そう思っていたのに。 「お前が王子との婚約を解消したと聞いた時、心が震えたよ」 「これで、ようやく君を手に入れられる」 王都一の冷徹貴族と恐れられる公爵・レオンハルトが、なぜか私に異常な執着を見せ始めた。 それどころか、王子が私に未練がましく接しようとすると―― 「君を奪う者は、例外なく排除する」 と、不穏な笑みを浮かべながら告げてきて――!? (ちょっと待って、これって普通の求愛じゃない!) 冷酷無慈悲と噂される公爵様は、どうやら私のためなら何でもするらしい。 ……って、私の周りから次々と邪魔者が消えていくのは気のせいですか!? 自由を手に入れるはずが、今度は公爵様の異常な愛から逃げられなくなってしまいました――。

処理中です...