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36. 王太子だけでは手が足りなくなってきたのでね
しおりを挟む「王太子、最近働き過ぎではないか?」
王城の執務室で国王は愚か者と罵っていた王太子へと語りかけた。
「父上、この程度で働き過ぎなど笑止の至りですよ。」
「い、いや……それにしても最近の王太子は儂の政務までこなしてくれておるからな。申し訳ないと思ってだな。大丈夫なのか?」
「勿論です。父上、なんなら退位していただいて私に国王の座を譲ってくださっても宜しいのですよ。そうすればもう少し効率よく政務がこなせるのですがね。」
王太子は以前の愚かさなど微塵も感じさせないほどの手腕を発揮して政務を行なっており、国王のすることなどほとんど無いに等しかった。
「い、いや……。さすがにそれは……。それより、ネリー嬢との婚約を破棄などして平気なのか?王妃も心配していたぞ。」
「ええ、大丈夫ですよ。考え直したのです。私があのようなただの令嬢と婚姻を結ぶよりも、もっと利のある縁を結んだ方がこの国の為になるでしょう。例えば他国の王族などと婚約したほうが余程メリットがありますよね。」
「まあ、それはそうだが……。なんだか最近の王太子は人が変わったようだな。」
「父上、私がこのように利巧になった秘密をお教えしましょうか?」
そう言って王太子は国王の耳元へと近づいた。
――ヅプリ……ツプリ
「へ……?な、なにを?」
国王は訳もわからず首元を押さえた。
するとすぐ傍にいたはずの王太子は、その姿をシャトレ侯爵へと変えたのだった。
「陛下、お久しぶりです。」
「こ、侯爵!一体何を!」
「まだお分かりになりませんか?王太子殿下は私の眷属となってこの国を動かしているのですよ。今は王太子の執務室で政務を行っております。」
はじめから、この部屋を訪れていたのは王太子ではなく王太子の姿をした侯爵であった。
「最近はこの国も随分と豊かになりましたからね。他の国に侵略されたり王族が無駄に贅沢をしないように見張らないといけませんから。王太子殿下だけでは手が足りなくなってきましてね。国王陛下にもご協力いただくことにしました。」
そう言った時には既に国王の瞳は侯爵と同じ紅色に変化していた。
ぼうっとした国王に、侯爵は命令を下す。
「国王陛下にはすぐに退位いただいて王太子には新たな国王になっていただきますよ。重要で無い政務については、引き続き公爵の位を引き継いでいただく国王陛下にしていただいて、王妃については国民にだけ苦しい生活を強いて自分は贅沢な生活をやめられなかった罪として蟄居していただきましょう。」
「承知した。そのようにいたそう。」
虚な国王は侯爵の言う通りに動いた。
「宜しい。役に立つ間は生かしておいてあげますからね。せいぜい頑張ってください。」
そう言って侯爵は紅い瞳を細めて口元を緩め、ニヤリと笑った。
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