殿下、真実の愛を見つけられたのはお互い様ですわ!吸血鬼の私は番いを見つけましたので全力で堕としにかかりますから悪しからず

蓮恭

文字の大きさ
上 下
19 / 40

19. 無事伯爵領の邸に到着しましたわ

しおりを挟む
 翌日も結局双子たちはアドリエンヌと馬車に乗りたがり、昨日少し気まずい雰囲気になったことを気にしたアレックスはホッとしていた。

「アドリエンヌ!見て。遠くの方に木がいっぱい見えてきたでしょう?あれが私たちの領地だよ。」
「僕らの領地は木がいーっぱい生えてて鹿もいるんだよ!」

 双子たちは窓から見える景色を指差して嬉しそうにアドリエンヌに話した。
 アドリエンヌも、窓の外に広がる青々とした森林に心を躍らせた。

「まあ素敵ね。森には可愛い鹿がいるのね。見てみたいわ。」




 周囲が薄暗くなり、やっと領地の伯爵邸に着いた時には双子たちは疲れ果てていたが何とか目を開けていた。

「「眠いよー。」」
「頑張ったわね。良い子にしてたから、疲れたでしょう。」

 アドリエンヌと双子たちが馬車から降りると、アレックスが出迎えた。

「ようこそ、伯爵邸へ。マリー、フィリップ、アドリエンヌ嬢を邸内に案内して。」
「「はーい!アドリエンヌ、こっち!」」

 双子たちに手を引かれて玄関ホールまで来ると、初老の男性がボウアンドスクレープでアドリエンヌたちを出迎えた。

「アドリエンヌ様、私は伯爵家の家令を務めさせて今だいております、マシューと申します。皆様お疲れでございました。部屋の支度は整っております。アドリエンヌ様には二階の客間をご用意しました。晩餐も準備はできておりますのでどうぞ。」
「マシュー、ありがとう。これから宜しくお願いしますわね。」

 アドリエンヌは家令のマシューに感謝の言葉を述べた。

「「アドリエンヌ、二階はこっちだよ!マシュー、案内するね!」」
「お待ちになって。気をつけなければ転んでしまうわよ。」

 走って階段を駆け登る双子たちに吸血鬼のアドリエンヌは息を切らせることもなく追いつき、ハアハアと呼吸の荒い二人を片腕ずつに抱き上げた。

「「うわー!アドリエンヌ力持ち!」」
「そうでしょう?お部屋はどちらかしら?」
「「あっちー!」」

 二階の客間に案内されたアドリエンヌは、旅装から着替えようとしたが、伯爵邸にはどれくらいの侍女がいるのかどうか聞いていなかった為に呼ぶのが憚られた。

「マリーとフィリップに聞いておけば良かったわ。」

 ポツリと呟いたアドリエンヌは、部屋に運ばれた荷物の中から何とかワンピースを探し出して着替えたのだった。


――コンコンコン……

「アドリエンヌ嬢、晩餐に行きませんか?」

 アレックスが晩餐の誘いに来たので、アドリエンヌは共に食堂へ向かった。



「アドリエンヌ嬢、双子たちとの旅路は疲れたでしょう。申し訳なかったね。」

 先に席についていた伯爵がアドリエンヌに言葉をかけた。
 双子たちは夫人の隣でワイワイと話している。

「いいえ、とても楽しかったですわ。マリーとフィリップは優しくて良い子たちですから。」
「本当のことを言っていいんですよ。兄である僕ですら疲れるんですから。」
「まあ、アレックス様。私は嘘はつきませんことよ。本当に楽しかったのです。」

 そう言ってアレックスとアドリエンヌは笑い合った。
 伯爵もそんな二人を見てどこかホッと安心したようだった。



「お料理はハーブや野菜がたくさん使われているのですね。こちらも邸内で作られているのですか?」

 伯爵家の晩餐は野菜が多く使われており、そのどれもがとても美味しいとアドリエンヌは絶賛した。

「そうですの。タウンハウスではアドリエンヌさんもお手伝いしていただきましたけれど、こちらでは使用人もいますからもっと大規模な畑をつくっているのですわ。」

 夫人が答えると、伯爵は思い出したかのようにアドリエンヌに礼を述べた。

「そういえばタウンハウスでは畑仕事など手伝ってくれたそうで、どうもありがとう。アドリエンヌ嬢はとても働き者で助かるのだとアレックスから聞いたよ。」
「父上!」
「なんだ、本当のことだろう。」

 伯爵から聞いたアレックスの褒め言葉は、アドリエンヌの心を温かくした。

「こちらのお邸でも、森林の作業の合間に時間ができた時にはまたお手伝いさせてくださいね。」
「それは助かります。アレックス、よかったな。」

 伯爵に話を振られたアレックスは、少しばかり頬が赤らんで視線を逸らしたが軽く頷いた。


 




 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

処理中です...