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12. まことに愚かな人間だな

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 シャトレ侯爵は国王からの呼び出しに王城へと訪れていた。
 先日のパーティーでこの城に来た時とは違って、どこか足取りは軽かった。

「あの愚か者の王太子と婚約破棄をしてもらえて、その上国王からの謝罪を賜るなど僥倖だな。ここはしっかりと誠意を見せてもらうことにしよう。」

 吸血鬼の証である紅目を細め、フッと笑った侯爵はこれから起こる事を想像してか極めて満足気な表情であった。

 


 何度来たか分からない謁見の間は相変わらず豪華絢爛で、この貧乏国には相応しくないものであった。
 それも、この愚かな王族のくだらない見栄のせいである。

「シャトレ侯爵、本日はわざわざご足労いただいて申し訳ない。それと、先日の生誕記念パーティーでの出来事は本当にすまなかった。」

 玉座に腰掛けた国王は恐縮した様子で小さくなっており、玉座の下で堂々と礼を取る侯爵とどちらが立場が上なのか分からないほどであった。

「国王陛下、婚約破棄の件についてはユベール王太子の一方的な宣言によって我が家の不名誉となりましたこと、大変遺憾なことです。」

 侯爵は厳しい表情で国王に向かって遺憾の意を述べた。

「誠に申し訳なかった。この件については慰謝料の支払いをすべきところではあるのだが……貴殿も承知のようになにぶんわが国は金銭的な余裕がなくてな。そこで、儂のできる範囲のことにはなるが侯爵家の望みを叶えよう。」

 侯爵は思った通りの展開になったことに、危うく浮かびそうになる喜びの笑みを堪えている。

「我が侯爵家の望みですが、面倒な手続きなどせずとも侯爵領への移民の受け入れをすることを認めていただきたい。」
「移民の受け入れだと?」
「その通りです。実は侯爵領をもっと発展させる為、労働力を補う為に他国からの移民を受け入れたいのです。しかし移民の受け入れは面倒な手続きがあり、今まではなかなか実現するのは難しかった。そこで陛下のお力によって我が侯爵領への移民受け入れ手続きを簡素化し、積極的に許可していただきたいのです。」

 侯爵領が発展すればますます税収が上がるかもしれないと考えた欲深い国王は、そのようなことでこの侯爵の機嫌が取れるならばと快諾した。

「陛下、我が侯爵家の願いを聞いていただいてありがとうございます。ユベール王太子には、是非あのネリー・ド・ブリアリとかいう令嬢とお幸せに。我が娘も真実の愛に出会ったようですから、ちょうど良かったですね。」

 侯爵としては娘があの愚か者に嫁ぐことにならず、その上移民の受け入れについても良い返事が貰えたことで何ら損はしておらず、何ならメリットしかない話であった。

「それでは陛下、どうかよろしくお願いします。」

 こうして謁見室を後にした侯爵は、やっと遠慮なく喜びの笑みを浮かべられるのであった。

「親子揃って愚かな人間よ。」

 侯爵は肩を竦めて独りごちた。


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