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51. センセーショナルな事件
しおりを挟むその後、しばらくニュースはめぐみ医院の話題でもちきりだった。
看護師達による組織的な安楽死の数々と、医師による隠蔽事件は、マスコミによってセンセーショナルに取り上げられたのだ。
世間はめぐみ医院を連続殺人病院だとして騒ぎ立てた。
「続きまして、連日お伝えしております『めぐみ医院元看護師らによる連続殺人事件』についてですが……」
ほぼ毎日、ニュースやワイドショーでめぐみ医院の外観が映され、時々元患者や患者の家族がモザイクをかけられて出演するなどしていた。
その中には見覚えのある患者もいて、自分があの現場であるめぐみ医院に、ついこないだまで確かに居たのだと実感する。
「……ということは、元看護師らが使用していた薬剤は本来、決められた濃度に薄めて使われるものだったのですね?」
「はい、薄めて使う物です。それを希釈せずに使っていた。しかも、本来は点滴でゆっくり投与するところを、元看護師達はチュウッと注射器を使って大量に、しかも急速に投与していたわけです」
今もテレビの画面の中ではアナウンサーやコメンテーター、それに近頃は毎日のように見かけるテレビ医者が事件について語っている。
「なるほど、そのような間違った使い方をすると不整脈を起こしたり、更には心停止するという事なんですね。しかし、指示のない薬剤がそんな風に使われている事に、経営者である元院長が気づかない事などあるのでしょうか?」
「いや、それはあり得ないでしょう。そもそも、薬液を卸した業者も不審に思ったはずですよ。めぐみ医院で見つかったのは、あの規模の医院にしては桁違いの在庫でした。これまでの不審死の数々と照らし合わせても、長年にわたって大量の納入があったはずですから」
このテレビ医者はとある大学の教授らしいが、その分かりやすい説明と優しげな外見によって人気急上昇で、どの局でも引っ張りだこのようだ。
他にもアイドルや芸人、著名人などが出演するなか、様々な情報が飛び出す。
「なお、今回の事件が発覚したきっかけは、元看護師らの殺人を関係者から聞き知った佐藤杏奈被告が、元院長を恐喝した事だったんですよね」
「あぁ、そのようですね。別の傷害事件の容疑者として逮捕された際に、元院長や元看護師らとの会話を録音したデータを提出したそうです。それと、どうやら佐藤杏奈被告に情報を渡した人物というのは、元々めぐみ医院に勤めていたけれども既に退職した元看護師Aの関係者との事です」
言わずもがな、元看護師Aというのは姉の事だ。
「え、じゃあその退職した元看護師Aも今回逮捕されたのですか?」
「いえ、どうやらその関係者と言われる人物の証言によると、その元看護師Aはめぐみ医院にそういった疑惑がある事を知り、怖くなって退職したとの事です」
「なるほど。それにしてもね、その看護師Aが通報するなり何なりしていたら助かる命もあったでしょうに」
新一は姉の事をそのように証言したらしい。
そして逮捕された看護師達も、恐らく姉が手を下した事件を口にする事で、自分達の罪が重くなる事を恐れて話さないのだろう。
姉が手を下したのは、あの日の姉の言葉を信じるならば、少なくない人数だったらしいから。
とにかく、何度か警察が姉が入院する病院を訪れたという事は、今にも死にそうな声で電話をかけてきた両親から聞いていた。
しかし元看護師Aである姉は、未だに逮捕されずに入院しているというのが現状だ。
「そういえばネットで見たんですけどぉ、卸の業者もワンマンな院長には逆らえなくて、おかしな注文も黙認していたとの事ですよね。そういった業者にも患者の命を奪う手助けをした責任をちょっとは感じて欲しいなって思います。人殺しの手助けをした訳ですから」
テレビの中では今人気の女性アイドルがそのようなコメントをしたところだった。居た堪れなくなってテレビを消す。
事件解明の決め手になった事として安楽死させられた患者の同室患者の証言もあったとされるが、どれも連日のワイドショーの中で語られた事であり、真実がどこなのか……既に蚊帳の外である私には知る術は無い。
「人殺しの手助け……」
私がめぐみ医院の秘密を知ってすぐに警察に通報していれば、詫間の同室だったあの寝たきり患者は井川にKCLを盛られる事もなく、死なずに済んだのかも知れない。
あの時は確たる証拠も無く、どうにも出来なかったと自分に言い聞かせようとしても、その事実は私の心に暗い影を落としていた。
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