政略結婚だと思っていたのに、将軍閣下は歌姫兼業王女を溺愛してきます

蓮恭

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43. レンカとレネ様は仲良し?

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 朝からひどく嘆いていたレンカも、今日はこの街で人気の、海の貝を使った占いを有名な占い師にしていただく事を楽しみにしている。私も占いというものは初めての経験で、貝占いが名物の一つであるルーエの街で、経験してみたかった事の一つだった。

「エリザベート様、楽しみですね! このルーエで貝占いは日常生活の事から恋愛、金運までを占う事で昔から庶民にとっても身近なものだったのですって」
「レンカは何を占ってもらうの?」
「私は勿論恋愛と婚姻運ですよ! エリザベート様がご成婚なされてお子様に恵まれるような事になったら、私だって是非乳母の役割をしたいですからね!」
「それは……あまりにも気が早いのではないの?」

 乳母になりたいと意気込むレンカの張り切り具合を見ていたら、相手を見つけるなりさっさと婚姻を結んでしまいそうで心配になる。大丈夫かしら?

「ワルターは結局レンカの恋人なんかじゃなくて、従兄妹なんでしょう。てっきりそうだと思ったのに」
「残念ですが、ワルターは目下大失恋中ですからそれどころでは無いと思いますよ。それに、私はもっと頼れる方が好きなのです。スラリとしているのに筋肉質で、強くて凛々しくて、護衛の時の真剣なお顔なんて本当に素敵」
「え、良い方がいらしたの?」
「まぁ、今猛アピールしているところですから。どうなるかは分かりませんけれど」

 私の知らない間に、護衛についてくださっている軍人の方のどなたかと、レンカは仲良くなったようだ。幸せそうなレンカを見ていると、今後二人の仲が上手くいく事を応援したくなる。

「それにしても、良かったのですか? 閣下に離れた場所で待っていただいて。そりゃあ占いの店には女性が多いですけれど、閣下はエリザベート様以外には目もくれないと思いますよ?」
「いいの、私が嫌なの。アルフ様の素敵な姿を、この街に住む明るい雰囲気の女性達が見つめているなんて、醜い嫉妬で堪えられそうにないんだもの」

 実はその占いの店にはアルフ様もご一緒する予定だったけれど、あまりに女性に人気だというところから、私が少し離れたところで待っていただくようにお願いした。この旅行の途中だって、アルフ様の事を熱い視線で見つめる女性達は多くいたから。

「でも、エリザベート様がそのような事を素直におっしゃれるようになったのは大きな進歩ですね」
「けれど、アルフ様には笑われてしまったわ」
「嬉しくて笑っていらっしゃったのですよ。エリザベート様の嫉妬が」

 私とレンカがそんな風に会話している少し後方から、ハアッと大きなため息が聞こえてくる。実は占いの店には、私とレンカだけでは危険だとレネ様もついてきてくださっているのだ。

「レンカさんがうちの部下の事を気に入っていたなんて知らなかったわ。どいつもこいつも、薄紅色のオーラを出しまくって幸せそうですね!」

 今日はプラチナブロンドに似合う紺色のワンピースを身に付けて、可憐な令嬢のようなレネ様。今日はレンカが侍女という装いでお供についているから、レネ様は私のお友達という設定らしい。

「あら、レネ様はアルフレート様に振られてしまわれましたものね。ですが、お可愛い顔立ちですからすぐに相応しい方が見つかりますよ。案外すぐ近くにいるかもしれませんしね」

 レネ様の言葉にレンカはツンとして答えた。私はレンカの手を引っ張ってやめるように促すけれど、こうなってしまっては二人はしばらく言い合いをしてしまうのがこの旅での常だった。

「まぁ、レンカさんに褒めてもらえるなんて思わなかったわ。第一、部下の誰の事を気に入っているの⁉︎ そんな素振り一つも無かったくせに」
「あーら、レネ様が気づいてらっしゃらないだけですわ。優秀な軍人ですのに、案外鈍感なんですね」
「何ですって⁉︎」

 レンカとレネ様は事あるごとに言い合いをしているけれど、実は仲が良いのではないかしら。二人とも言い合いをしながらも楽しそうですもの。

「中はすごく暗いんですね。レネ様、先を行ってくださいよ」
「へぇ、レンカさんってこういうのが怖いのね。意外だわ」
「い、いいじゃないですか! さ、早く!」

 占いの店は雰囲気を大切にしているのか、とても薄暗い店内にレネ様を先頭に一歩足を踏み入れた。こういう雰囲気の苦手なレンカが、思わず前を歩くレネ様の手を握るのを見て、やはりレンカはレネ様の事を嫌ったりなどしていないのだと悟る。

 案内に沿って狭い通路を三人が並んで進んでいる時、辺りに薬草のような匂いが漂いはじめる。それと同時に意識がすうっと遠のくのを感じた。急速に歪む視線の先に、鼻と口を手で覆って何かを必死に訴えるレネ様が見えたけれど、レンカは私の前で倒れてしまっている。

「レン……カ……」

 声にならないような声でそう呟いたのを最後に、私は急速に増した瞼の重さに屈してしまった。


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