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23. はじめての海へと
しおりを挟むあれから順調に『うどん屋』は人気店となり、従業員も二人増えた。
従業員というより、『讃岐うどん』を勉強したいという希望で働いてくれているサラさんと、ロッシュさん。
初めから厨房を手伝ってくれているレナちゃんに加えて、三人はとても熱心に讃岐うどんを作ってくれる。
夜はフォンドールの方に来て、昼にうどん屋の方に来てくれる常連さんも増えたけど、最近アントン騎士団長さんは騎士団全体が忙しく動いている様子で夜にフォンドールに来るのも難しいようだ。
「わかめうどん三つとぶっかけうどん四つな!あと天ぷら盛り合わせ五つ!」
「ロルフ船長、いらっしゃいませ。乗組員の方たちもお疲れ様です。」
「おう。ここも人気店になって、よく混んでるからなかなか来れねぇな。」
ロルフ船長たちは海の男だから、あまりゆっくり陸に上がる時間はないのかも知れない。
「たしかに最近はたくさんのお客さんが来てくれていますね。街の外や国外からの観光の方も食べに来られます。良かったら今度港の方にでもうどんと天ぷらくらいなら差し入れしますよ。」
だってこの店のウリであるダシはロルフ船長がいなかったら絶対に作れなかったから。
この讃岐うどん作りでお世話になった人が食べられないのはなんだか悲しい。
「ほんとか?それは有難いな。じゃ、また頼むな。」
「はい。明日の昼にでも港に行きますね。明日は定休日なので。かまいませんか?」
「それは嬉しいな。今日来れてない奴もいるから喜ぶだろ。ありがとな。」
翌日は定休日なので、ロルフ船長のところに持って行くうどん二十玉と、天ぷら二十人前を午前中に下準備をした。
うどんや天ぷらは出来立てが美味しいから、もう随分顔馴染みになった港の方で調理室をお借りして、調理させてもらうことになった。
「ソフィア!何か手伝うか?」
「大丈夫ですよ。あちらで食べる場所の準備をしておいてくださいね。」
「分かった。何かあったら呼べよ。」
早速ロルフ船長は乗組員の方たちを集めて、市場も終わり無人になった港に机と椅子を並べている。
「できましたよー!それでは申し訳ないですが、出来上がったものから運んでもらってもいいですか?」
「了解。まかせろ。」
出来上がりのうどんと天ぷらから順番に運んでもらって、順に食べて行ってもらった。
十五人ほどの乗組員の方々は、なかなか店の方に来れない人もいて今日讃岐うどんを食べられたことをとても喜んでくれた。
「ソフィアちゃん、これ本当に魚のスープなのか?めちゃくちゃ美味しいし、生臭くもないんだな。」
「天ぷらも、フライとはまた違って美味いな!」
たくさん作ったのに、あっという間に平らげて皆ありがとうと感謝してくれた。
「こちらこそ、いつもありがとうございます。」
机と椅子を片付けしてくれている間に私は調理室で洗い物をすることにした。
「ソフィア、今日はありがとな。皆喜んでたし、ソフィアも嬉しそうな顔してたから良かったよ。」
「船長、私も嬉しいんです。讃岐うどんにかかせない、ザディヌとスキプジャクを見つけられたこの港で、漁師の皆さんに喜んでもらえて。」
さりげなく洗い物を手伝ってくれるロルフ船長に、私は嬉しさを隠しきれずに微笑んだ。
手伝いをしなくてもいいと言う私に、船長は、『船の上では男だろうが何だろうが家事でも何でもできないといけないから』と言ってくれた。
「ソフィア、船に乗ってみるか?」
「船って、ロルフ船長たちの船に?」
「そうだ。船、乗ったことないだろ?気持ちいいぞー。」
「はい、乗ってみたいです!」
ロルフ船長が自分の船に乗せてくれると言うので、お言葉に甘えてこの世界では初めての海へと出ることになった。
「うわー。当たり前だけど、海って広いんですね。ずっと向こうまで広がって、向こう側の国は見えないんですね。」
「そりゃそうだろ。海はめちゃくちゃ広いからな。」
今日の海はとても凪いでいて、初めての船でも船酔いがなく安心した。
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