上 下
23 / 29

23. はじめての海へと

しおりを挟む

 あれから順調に『うどん屋』は人気店となり、従業員も二人増えた。

 従業員というより、『讃岐うどん』を勉強したいという希望で働いてくれているサラさんと、ロッシュさん。
 初めから厨房を手伝ってくれているレナちゃんに加えて、三人はとても熱心に讃岐うどんを作ってくれる。

 夜はフォンドールの方に来て、昼にうどん屋の方に来てくれる常連さんも増えたけど、最近アントン騎士団長さんは騎士団全体が忙しく動いている様子で夜にフォンドールに来るのも難しいようだ。

「わかめうどん三つとぶっかけうどん四つな!あと天ぷら盛り合わせ五つ!」
「ロルフ船長、いらっしゃいませ。乗組員の方たちもお疲れ様です。」
「おう。ここも人気店になって、よく混んでるからなかなか来れねぇな。」

 ロルフ船長たちは海の男だから、あまりゆっくり陸に上がる時間はないのかも知れない。

「たしかに最近はたくさんのお客さんが来てくれていますね。街の外や国外からの観光の方も食べに来られます。良かったら今度港の方にでもうどんと天ぷらくらいなら差し入れしますよ。」

 だってこの店のウリであるダシはロルフ船長がいなかったら絶対に作れなかったから。
 この讃岐うどん作りでお世話になった人が食べられないのはなんだか悲しい。

「ほんとか?それは有難いな。じゃ、また頼むな。」
「はい。明日の昼にでも港に行きますね。明日は定休日なので。かまいませんか?」
「それは嬉しいな。今日来れてない奴もいるから喜ぶだろ。ありがとな。」

 

 翌日は定休日なので、ロルフ船長のところに持って行くうどん二十玉と、天ぷら二十人前を午前中に下準備をした。

 うどんや天ぷらは出来立てが美味しいから、もう随分顔馴染みになった港の方で調理室をお借りして、調理させてもらうことになった。

「ソフィア!何か手伝うか?」
「大丈夫ですよ。あちらで食べる場所の準備をしておいてくださいね。」
「分かった。何かあったら呼べよ。」

 早速ロルフ船長は乗組員の方たちを集めて、市場も終わり無人になった港に机と椅子を並べている。

「できましたよー!それでは申し訳ないですが、出来上がったものから運んでもらってもいいですか?」
「了解。まかせろ。」

 出来上がりのうどんと天ぷらから順番に運んでもらって、順に食べて行ってもらった。

 十五人ほどの乗組員の方々は、なかなか店の方に来れない人もいて今日讃岐うどんを食べられたことをとても喜んでくれた。

「ソフィアちゃん、これ本当に魚のスープなのか?めちゃくちゃ美味しいし、生臭くもないんだな。」
「天ぷらも、フライとはまた違って美味いな!」

 たくさん作ったのに、あっという間に平らげて皆ありがとうと感謝してくれた。

「こちらこそ、いつもありがとうございます。」

 机と椅子を片付けしてくれている間に私は調理室で洗い物をすることにした。

「ソフィア、今日はありがとな。皆喜んでたし、ソフィアも嬉しそうな顔してたから良かったよ。」
「船長、私も嬉しいんです。讃岐うどんにかかせない、ザディヌイリコスキプジャクカツオを見つけられたこの港で、漁師の皆さんに喜んでもらえて。」

 さりげなく洗い物を手伝ってくれるロルフ船長に、私は嬉しさを隠しきれずに微笑んだ。

 手伝いをしなくてもいいと言う私に、船長は、『船の上では男だろうが何だろうが家事でも何でもできないといけないから』と言ってくれた。


「ソフィア、船に乗ってみるか?」
「船って、ロルフ船長たちの船に?」
「そうだ。船、乗ったことないだろ?気持ちいいぞー。」
「はい、乗ってみたいです!」

 ロルフ船長が自分の船に乗せてくれると言うので、お言葉に甘えてこの世界では初めての海へと出ることになった。


「うわー。当たり前だけど、海って広いんですね。ずっと向こうまで広がって、向こう側の国は見えないんですね。」
「そりゃそうだろ。海はめちゃくちゃ広いからな。」

 今日の海はとても凪いでいて、初めての船でも船酔いがなく安心した。






 



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

告白さえできずに失恋したので、酒場でやけ酒しています。目が覚めたら、なぜか夜会の前夜に戻っていました。

石河 翠
恋愛
ほんのり想いを寄せていたイケメン文官に、告白する間もなく失恋した主人公。その夜、彼女は親友の魔導士にくだを巻きながら、酒場でやけ酒をしていた。見事に酔いつぶれる彼女。 いつもならば二日酔いとともに目が覚めるはずが、不思議なほど爽やかな気持ちで起き上がる。なんと彼女は、失恋する前の日の晩に戻ってきていたのだ。 前回の失敗をすべて回避すれば、好きなひとと付き合うこともできるはず。そう考えて動き始める彼女だったが……。 ちょっとがさつだけれどまっすぐで優しいヒロインと、そんな彼女のことを一途に思っていた魔導士の恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~

咲桜りおな
恋愛
 前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。 ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。 いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!  そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。 結構、ところどころでイチャラブしております。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆  前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。 この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。  番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。 「小説家になろう」でも公開しています。

女嫌いな騎士団長が味わう、苦くて甘い恋の上書き

待鳥園子
恋愛
「では、言い出したお前が犠牲になれ」 「嫌ですぅ!」 惚れ薬の効果上書きで、女嫌いな騎士団長が一時的に好きになる対象になる事になったローラ。 薬の効果が切れるまで一ヶ月だし、すぐだろうと思っていたけれど、久しぶりに会ったルドルフ団長の様子がどうやらおかしいようで!? ※来栖もよりーぬ先生に「30ぐらいの女性苦手なヒーロー」と誕生日プレゼントリクエストされたので書きました。

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

拾った仔猫の中身は、私に嘘の婚約破棄を言い渡した王太子さまでした。面倒なので放置したいのですが、仔猫が気になるので救出作戦を実行します。

石河 翠
恋愛
婚約者に婚約破棄をつきつけられた公爵令嬢のマーシャ。おバカな王子の相手をせずに済むと喜んだ彼女は、家に帰る途中なんとも不細工な猫を拾う。 助けを求めてくる猫を見捨てられず、家に連れて帰ることに。まるで言葉がわかるかのように賢い猫の相手をしていると、なんと猫の中身はあの王太子だと判明する。猫と王子の入れ替わりにびっくりする主人公。 バカは傀儡にされるくらいでちょうどいいが、可愛い猫が周囲に無理難題を言われるなんてあんまりだという理由で救出作戦を実行することになるが……。 もふもふを愛するヒロインと、かまってもらえないせいでいじけ気味の面倒くさいヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより pp7さまの作品をお借りしております。

処理中です...