婚約者に見殺しにされた愚かな傀儡令嬢、時を逆行する

蓮恭

文字の大きさ
上 下
42 / 91
第一章 逆行したレティシア(幼少期)

42. 過去の行く末、今からの未来

しおりを挟む

 どれくらいレティシアはリュシアンを抱いていただろうか。そのうちリュシアンは此処へ来る前に何があったのかを、レティシアに話して聞かせていた。
 
 帝国フォレスティエの未来へ礎を作ったリュシアンは、全ての幕引きを終えた後に自ら生命を絶とうと決めていた。
 禍根となりかねない皇帝の血が、この世に残らぬように。
 
 そんなリュシアンを不憫に思ったアヌビスは、自身に使うはずだった魔法を使ってリュシアンを過去へと逆行させる事を提案したという。

「リュシアンさま……痛かったでしょう……。自害などと……っ」

 レティシアはその話を聞き、怖くてたまらなくなった。生命を他人から奪われる時だってあんなに苦しくて痛かった。それを自分で生命を断つなんて、想像しただけでも恐ろしいと。
 自害の痛みを思って泣き出したレティシアに、リュシアンは悲しそうに首を振る。

「あの革命を起こした日も、石さえあればレティシアは助かるのだと信じていた。それが駄目だと分かった時の方が、自害した時よりも俺にはよほど辛かった」
「でも……それじゃあ、皇帝となったリュシアン様が居なくなれば帝国は……」
「あの時はレティシアが死んだと思っていたし、他の誰も皇后にするつもりが無かった。それでもいつかは後継者が必要となる。そこで俺は君主制を廃止した」
「帝国フォレスティエの君主制を……廃止。それは……思い切った事をなさいましたね」
「帝国フォレスティエには、そうすべき時がとっくに来ていた。革命の前から、俺自身はそのつもりで動いていたからな」

 その点で、ジェラン侯爵やイリナとリュシアンは意見の対立があったという。
 ジェラン侯爵はイリナを皇后にして自らが影から帝国を掌握しようとしていたし、イリナについてもレティシアが生命を落とす事になったあの革命の直後からは、露骨に皇后の座を欲しがるようになった。

「俺はあの親娘を利用してでも事を成そうとした。そしてイリナの協力さえあれば、ジェラン侯爵を上手く使う事が出来るだろうと。そう慢心したのが全ての元凶だ。もう二度と、同じ過ちは繰り返さない」

 この先、帝国で起こる大きな出来事は分かっている。リュシアンは帝国の民の為、何が一番良い方法なのかを考えているという。
 民達が皇帝など要らぬというならば、喜んで君主制を廃止すると。
 しかしリュシアンが君主となってこそ出来る事があるならば、その職務を全うするつもりだと。

「ですがソフィー様がご存命だという事で、随分と未来が変わってしまうような気がします。私が此処に来て新しい行動を取った事で、ベリル家の人々も別人のようになってしまったのです。少しの違いが、未来へと大きく影響するのでは無いかと」
「なるほど、それは一理ある。アヌビスが言うには、此処は単なる過去というわけではなく、とある分岐点での一つの選択肢の先にある別世界だと」
「難しいですね。だとすれば元々此処に居なかった私達という存在の動き次第では、かなり未来が変わってしまう事になるという事ですもの」

 そうなれば二人の持つ記憶は今後あまり役には立たない。少なくとも、そればかりを盲信するのは危険だ。

「レティシア、母上は俺達の婚約破棄を受理していないと言ったのだな?」
「はい。教皇聖下にお願いしてあると」
「ならばもうしばらく、その事を明かすには時を見極めよう。皇帝もそのような事に気付かないとは、余程この世界でも腑抜けているらしい。カタリーナと共にこの帝国に害を成さない存在とするには、少しでもこちらに有利な手は隠しておいた方が良い。そのうち分かるだろうが、少なくともその時までは」

 レティシアとしても、既に皇后付きの女官に任命されている時点でジェラン侯爵の愛妾となる話は立ち消えになるだろうし、無理に婚約を継続している事を知らしめるよりも、イリナの事も含めて安全だろうと考えた。
 そしてここでレティシアがリュシアンに、ジェラン侯爵の愛妾になるよう皇帝から命じられた事を話せば良かったのだが、どうせ無くなる話を無理に話さずとも良いと判断してしまった。

 これが後に面倒を引き起こすのだが、この時のレティシアには分かるはずもなかった。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

処理中です...