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31. 騒動の結末
しおりを挟む「美香! 大丈夫か⁉︎」
「ジェレミー……」
「悪かった! 怖かったんだな……もう大丈夫だから、泣くな!」
集まった貴族たちへ、新しく国王になるロレシオがこれからのことを説明しているうちに私とジェレミーは大広間を出て近くの居室へ移動した。
アニエスは最後まで私の方へと憎悪の視線を向けていた。
こんなに他人に恨まれたことは初めてかも知れない。
ジョージの方はアニエスから『役立たず!』と罵られて悲しそうに肩を落としていた。
結局この二人の関係は何だったのか、今はまだ分からない。
残された宰相、リッシュ伯爵、関係する貴族たちも次々に連行されていった。
最後に元国王陛下も騎士たちに連行されていったが、一度もジェレミーやロレシオの方を見ることもなく、ただ『自分は悪くない』と呟き続けていた。
何もかもが、悲しくて……腹が立った。
ポロポロととめどなく溢れる私の涙を、ハンカチがなかったらしいジェレミーはとりあえず自分のマントで拭いてくれたけど、それでもなかなか止まらなかった。
どうしたものかと心底困った顔をしているジェレミーに、私は話しかけた。
「ジェレミーが怪我しちゃうと思って……怖くて……」
「なんだ、それで泣いてるのか?」
「それだけじゃないけど……。みんなすごく自分勝手だし、ジェレミーのこと何だと思ってるんだって思ったら腹が立って……」
私がそう言うとジェレミーは、ふわりと硬い胸板に私を押しつけてからギュッと抱きしめた。
「美香はやっぱり優しいな」
「……第一、ジョージって誰よ? ジェレミーに怪我させたら許さないんだから……」
「ククッ……、それは俺のセリフだろう? 美香に怪我がなくて本当に良かった。騎士が美香に斬りつけてきた時には本当に焦ったぞ」
ジェレミーの高価そうな正装を涙でぐちゃぐちゃにしてしまった罪悪感が今更に湧いてきたけれど、それよりもこの温かなジェレミーの腕の中がこれから私のいるべき場所なんだと実感して、また涙が流れた。
「美香、これからも俺が必ず美香を守る。だから、これからも俺のそばで支えてくれ。兄上もしばらくは大変だろうから、その手伝いもしなければならない。美香にも負担を強いることになるだろうが……。嫌になったりしないだろうか?」
ジェレミーは時々こうやって私の気持ちを確認する。
私はジェレミーのことを本当に大好きだけど、きちんと伝わってないのかな?
すごく心配性で、でも頼れる私の大好きな人。
「大丈夫だよ。ジェレミーと一緒にいられるなら、きっと私は何でも頑張れそうだから。こんなに大好きなジェレミーのこと嫌になることなんて絶対ないよ。心配しないで」
「そうか……俺は美香の事が大切過ぎて、いつか失うんじゃないかと怖い時があるんだ。俺は兄上のようによくできた王子じゃないから……。だが、もうこれから美香のことは必ず俺が幸せにする」
分かってる、だからそんなワンコみたいに潤んだ可愛い目をして見つめないで。
私だけに見えるその耳と尻尾は、やっぱりワンコ系王子のジェレミーには似合ってる。
「うん、私もジェレミーのことを幸せにするって約束するよ」
そうして、私とジェレミーは約束の口づけを交わした。
その後のことは本当に大変で、国王の交代や宰相をはじめ重鎮たちの職も一掃されて、新しい体制を作り出す為にロレシオもジェレミーも必死だった。
隣国との戦については、まだ交渉中ではあるもののあちらも一部の者たちだけの企てだったようで大きな戦になるような事はなさそうだ。
元国王陛下、宰相とその妻、リッシュ伯爵は斬首刑となった。
王妃はその知らせを聞いても反応は薄く、国王との仲もあまり良くなかったようだ。
国王の刑の執行に伴い、王妃も実家の領地へ帰り蟄居することとなった。
リッシュ伯爵家は爵位剥奪の上、アニエスは強制労働の刑に処されることとなる。
女ばかりの受刑者がいる場所で、生涯働き続けることになるらしい。
働いた事などない彼女には辛い刑だと思う。
私を襲ったジョージという騎士は、男爵家の三男坊で伯爵令嬢であるアニエスのことを以前から慕っていたそうだ。
それをジェレミーやロレシオを求めて城内を度々訪れるアニエスに上手く利用されたということだが、今では反省して牢の中で静かに過ごしている。
彼の刑は十五年ほどのものになるという。
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