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30. ジョージって誰よ⁉︎
しおりを挟む大変な騒ぎになったと、大広間は好奇と失望とそれにこれから先どうなるのかという期待で包まれている。
集まった貴族たちのほとんどは今回のことに無関係な者たちだから、蚊帳の外でこの断罪を楽しんでいるように見えた。
「国王陛下、恐れながら王太子ロレシオは正直に発言いたします」
「よし! 許すぞ! 王太子よ、美香様はジェレミーに騙されて婚姻を結ばされようとしておる。お前が助けなければこの国は大変なことになろうぞ」
ロレシオは自分の味方だと信じて疑わない国王陛下は、ロレシオの発言を今か今かと待ち侘びている。
「陛下、ジェレミーの申したことは全て真実です。何故なら私も一緒に調べ上げた事実ばかりだからです。陛下と宰相、そしてリッシュ伯爵家やその縁故の者たちが犯した罪は全て把握しております。国宝を数多く他国へ流したことは大変な罪です。もしその宝を利用して戦を仕掛けられるようなことがあればどうするつもりだったのですか?」
「そ、そんなことは……あるわけがない。儂はただ……、金に変えろと言っただけで……。戦になるようなことは……」
「国王陛下、ご存知でしょう? 宰相の妻は元々隣国の貴族です。今、隣国の一部の者がこの国に戦を仕掛けようとしているという情報があるのですよ。その者たちに戦の資金源として国宝が渡っていることを確認しました。これは大変な罪となります。分かりますよね?」
それって、まさかあの『外患誘致罪』みたいなもの?
すごく怖い話だったから、私も病室で本を読んで調べたことがあった。
日本だったら死刑だよ。
「王太子! 其方は何故儂を追い落とそうとするんだ⁉︎ ジェレミーに美香様を奪われて悔しくはないのか⁉︎」
国王陛下、そんなことこんな大衆の面前で言うことないのに。
どうしてジェレミーとロレシオの父親がこんな人の気持ちも考えられない人なんだろう。
「国王陛下、ジェレミーと美香様は心から愛し合っているのです。謀りごとなどそこには存在しません。それに、今から貴方は国王ではなくなりますからね。私も忙しくなるでしょうから、ジェレミーにはしっかりと私の補佐をしてもらうことにしています」
「な、なんだと⁉︎ どういうことだ⁉︎」
長年すれ違っていたジェレミーとロレシオが分かり合えたなんて想像もしていなかったんだろう。
国王陛下の狼狽ぶりは大変なものだった。
「ここに集まる皆に宣言する! 国王陛下は罪を犯した。この国の平和を乱すような大変な罪だ。よって、ただ今をもって国王の地位を剥奪し、罪を償ってもらおう。異議のあるものは今ここで申し立てよ!」
宰相も、リッシュ伯爵も、そして恐らくその縁故者である貴族数名も青い顔をして震えているばかりで何も言わない。
「それでは、正式な王位継承の儀までは仮に私が政を行う。それで良いか?」
広間に集まった貴族たちはやっと事の大きさに理解が追いついたのか、皆が頭を下げて新しい国王となるロレシオに敬意を表した。
そんな中、アニエスだけは歯を食いしばってドレスを強く握りしめている。
「ジョージ! あの女を殺して!」
そう叫んだかと思えば、玉座の脇で王族を守るはずの騎士が一人私の方へと走り寄って来ている。
アニエス! ジョージって誰よ⁉︎
その騎士は、鎧を身につけたその隙間からギラついて血走った目をしているのが見えた。
「アニエスの為に! 死ねぇー!」
もう、こんなことってあるの⁉︎
頭では警報が鳴り響いて逃げろと言うのに、足は動かない。
アニエスってば、どうやってこのジョージを籠絡したんだろうか、とかどうでも良いことばかり考えてしまう。
早く逃げなきゃ、早く……!
走り寄りながらその騎士は、腰に差した長剣をスラリと抜き、その妖しく輝く刀身で斬りかかってきた。
ゆっくりとスローモーションでその場面が流れていくのに、私の足も身体も何も動かない。
声を出すことも出来ずに、ただ斬りかかってくる騎士を見つめていた。
「美香ッ!」
ガキンッ!と騎士の剣を受けたのは、ジェレミーの剣で。
騎士の一撃を防いだジェレミーが素早く自らの剣で斬り返して、すぐ目の前で騎士と斬り結んでいる。
「アニエス・オブ・リッシュを捕らえよ!」
我に帰ったロレシオがそう命じれば、騎士たちがアニエスの方へと向かう。
同時にジェレミーと斬り結んでいる騎士は、横目でアニエスの方を見てから叫んだ。
「アニエス様!」
その隙にジェレミーは目の前のジョージという騎士の剣を跳ね飛ばした。
ジョージの剣は大広間の中でクルクルと回転して床に突き刺さり、パキンと真っ二つに折れた。
それからはアニエスは騎士たちに連行され、ジョージという騎士も連行された。
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