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28. 歓迎式典
しおりを挟む結局、早々と歓迎式典の日が来てしまった。
ロレシオからは『とにかく式典で』と言うばかりで、ジェレミーともロレシオともあれからまともに会うことすらできていない。
モーリスによると、ジェレミーとロレシオは宰相はじめ国内の貴族たちの悪事とその証拠を集めるのに奔走していたらしい。
特にジェレミーは第二王子という立場上、自由な時間も多かったからその合間に色々と探っていたそうだ。
「美香様、とてもお美しいです! まるで他国のお姫様のよう。殿下も驚きますよ」
「リタ、ありがとう。こんなに綺麗にしてもらって、私じゃないみたいに大人っぽくなったね」
最近は一人で身支度を整えていて、衣服も自分で着られるワンピースやドレスが仕立て上がったからそれを着ていたからリタに支度を手伝ってもらうのは久しぶりだった。
リタが渾身の出来だという私の身支度で、鏡の中の私は別人のように凛々しく大人っぽい雰囲気になった。
――コンコンコン……
ノックが聞こえてリタが対応しているが、どうやらジェレミーが迎えに来たみたい。
「美香、そのドレス似合ってる。とても綺麗だ。それに今日はいつもより大人びて見えるな」
「ありがとう、ジェレミー」
そう、今日は黒のドレスでハリのあるレース生地がゆるやかに裾までずっと広がっている。
Vネックの胸元をスカラップレースが覆って大人っぽい雰囲気のドレスになっていた。
ドレスというものに私はまだ着慣れないけど、この黒のドレスはエスコートしてくれるジェレミーの髪色に合わせて作られたもので、私は少し気恥ずかしいけど嬉しかった。
「それでは、向かおう」
ジェレミーにエスコートされて向かったのは、今にも舞踏会が開けそうなほどの豪華絢爛な広間だった。
敷き詰められたえんじ色の絨毯と、豪華なシャンデリア、周囲の柱には彫刻が施されている。
「今日は国内の貴族たちが集まる場だから、陛下も美香に無理は言わないと思うが……。順調に準備はできている。心配はない」
「そうだね。できることをするしかないもんね」
耳元で聞き取れるくらいの小さな声で囁いたジェレミーにエスコートされて、私は広間を進んだ。
少し離れた両脇にズラッと並んでいるのは、着飾った貴族たちだろうか?
皆一様に私の方へと視線を向けている。
一体天使がどんなものかという人々の好奇心に晒されているんだと思う。
私はすごく緊張しながらジェレミーとともに前に進んだ。
玉座の前に到着すると、立ち上がった国王陛下は先日のことなど何もなかったかのように明るく笑いかけてくる。
ロレシオも、その隣の椅子の前で立ち上がって私の方を見ていた。
ロレシオ、大丈夫かな?
私が知らず不安げな顔つきになったのか、目が合ったロレシオはニコリと華やかに微笑んだ。
「美香様、今日はわざわざ歓迎式典にお越しいただきありがとうございます。ここにいる貴族たちは皆、美香様のお姿を拝見したいと願っておりました。今日はごゆるりとお過ごしください」
「ありがとうございます、国王陛下。私には過ぎるほどの歓迎に感謝します」
国王陛下と言葉を交わしたあとに、私は玉座の近くに置かれた椅子へと腰掛けた。
少し離れた隣の椅子にはジェレミーが座る。
そのあとは国王陛下のお言葉からはじまり、この国独特の特別な音楽が奏でられた。
続いて国内の貴族たちが次々と私の元へ訪れて、声をかけていった。
そしてしばらくはその繰り返しが続いた頃……。
「美香様、お久しぶりでございます」
相変わらず優雅なカーテシーで挨拶するのは、先日庭園で会ったっきりのアニエスだった。
とても豪華なネックレスとイヤリングはアニエスに似合っていたが、いささか目が眩むほどの煌めきだった。
一緒にいるのは父親であるリッシュ伯爵だろうか?
壮年の男性は、口髭を生やした神経質そうな外見をしていて、お辞儀をしながらも鋭い視線をこちらへ向けている。
アニエスは私が件のブローチを身に付けていないことを確認すると、ひどく悔しそうにしたあとに憎悪に満ちた視線を向けてきた。
「私とのお約束を守っていただけなくて残念ですわ」
やっぱり、あのブローチで私に何か仕掛けるつもりだったんだ。
友達になりたいというのは嘘だったのかと、まだ僅かな希望を持っていた私は肩を落とした。
やはりアニエスは想像以上に悪役令嬢らしい令嬢だったなあ。
リッシュ伯爵とアニエスがその場から去ろうとした時、ジェレミーがそのよく通る声で二人を制した。
「待て。リッシュ伯爵、アニエス嬢、少し尋ねたいことがある」
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