上 下
28 / 33

28. 歓迎式典

しおりを挟む

 結局、早々と歓迎式典の日が来てしまった。
 
 ロレシオからは『とにかく式典で』と言うばかりで、ジェレミーともロレシオともあれからまともに会うことすらできていない。
 モーリスによると、ジェレミーとロレシオは宰相はじめ国内の貴族たちの悪事とその証拠を集めるのに奔走していたらしい。
 特にジェレミーは第二王子という立場上、自由な時間も多かったからその合間に色々と探っていたそうだ。



「美香様、とてもお美しいです! まるで他国のお姫様のよう。殿下も驚きますよ」
「リタ、ありがとう。こんなに綺麗にしてもらって、私じゃないみたいに大人っぽくなったね」

 最近は一人で身支度を整えていて、衣服も自分で着られるワンピースやドレスが仕立て上がったからそれを着ていたからリタに支度を手伝ってもらうのは久しぶりだった。
 リタが渾身の出来だという私の身支度で、鏡の中の私は別人のように凛々しく大人っぽい雰囲気になった。

――コンコンコン……

 ノックが聞こえてリタが対応しているが、どうやらジェレミーが迎えに来たみたい。

「美香、そのドレス似合ってる。とても綺麗だ。それに今日はいつもより大人びて見えるな」
「ありがとう、ジェレミー」

 そう、今日は黒のドレスでハリのあるレース生地がゆるやかに裾までずっと広がっている。
 Vネックの胸元をスカラップレースが覆って大人っぽい雰囲気のドレスになっていた。

 ドレスというものに私はまだ着慣れないけど、この黒のドレスはエスコートしてくれるジェレミーの髪色に合わせて作られたもので、私は少し気恥ずかしいけど嬉しかった。

「それでは、向かおう」

 ジェレミーにエスコートされて向かったのは、今にも舞踏会が開けそうなほどの豪華絢爛な広間だった。
 敷き詰められたえんじ色の絨毯と、豪華なシャンデリア、周囲の柱には彫刻が施されている。

「今日は国内の貴族たちが集まる場だから、陛下も美香に無理は言わないと思うが……。順調に準備はできている。心配はない」
「そうだね。できることをするしかないもんね」

 耳元で聞き取れるくらいの小さな声で囁いたジェレミーにエスコートされて、私は広間を進んだ。

 少し離れた両脇にズラッと並んでいるのは、着飾った貴族たちだろうか?
 皆一様に私の方へと視線を向けている。
 一体天使がどんなものかという人々の好奇心に晒されているんだと思う。

 私はすごく緊張しながらジェレミーとともに前に進んだ。

 玉座の前に到着すると、立ち上がった国王陛下は先日のことなど何もなかったかのように明るく笑いかけてくる。
 ロレシオも、その隣の椅子の前で立ち上がって私の方を見ていた。
 ロレシオ、大丈夫かな?
 私が知らず不安げな顔つきになったのか、目が合ったロレシオはニコリと華やかに微笑んだ。
 
「美香様、今日はわざわざ歓迎式典にお越しいただきありがとうございます。ここにいる貴族たちは皆、美香様のお姿を拝見したいと願っておりました。今日はごゆるりとお過ごしください」
「ありがとうございます、国王陛下。私には過ぎるほどの歓迎に感謝します」

 国王陛下と言葉を交わしたあとに、私は玉座の近くに置かれた椅子へと腰掛けた。
 少し離れた隣の椅子にはジェレミーが座る。

 そのあとは国王陛下のお言葉からはじまり、この国独特の特別な音楽が奏でられた。
 続いて国内の貴族たちが次々と私の元へ訪れて、声をかけていった。

 そしてしばらくはその繰り返しが続いた頃……。

「美香様、お久しぶりでございます」

 相変わらず優雅なカーテシーで挨拶するのは、先日庭園で会ったっきりのアニエスだった。

 とても豪華なネックレスとイヤリングはアニエスに似合っていたが、いささか目が眩むほどの煌めきだった。
 一緒にいるのは父親であるリッシュ伯爵だろうか?
 壮年の男性は、口髭を生やした神経質そうな外見をしていて、お辞儀をしながらも鋭い視線をこちらへ向けている。

 アニエスは私が件のブローチを身に付けていないことを確認すると、ひどく悔しそうにしたあとに憎悪に満ちた視線を向けてきた。

「私とのお約束を守っていただけなくて残念ですわ」

 やっぱり、あのブローチで私に何か仕掛けるつもりだったんだ。
 友達になりたいというのは嘘だったのかと、まだ僅かな希望を持っていた私は肩を落とした。
 やはりアニエスは想像以上に悪役令嬢らしい令嬢だったなあ。

 リッシュ伯爵とアニエスがその場から去ろうとした時、ジェレミーがそのよく通る声で二人を制した。

「待て。リッシュ伯爵、アニエス嬢、少し尋ねたいことがある」




 

 

 







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?

うり北 うりこ
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。 これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは? 命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。

【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?

三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。 そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?

猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。 王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。 最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。 あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……! 積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ! ※王太子の愛が重いです。

【完結】なぜか悪役令嬢に転生していたので、推しの攻略対象を溺愛します

楠結衣
恋愛
魔獣に襲われたアリアは、前世の記憶を思い出す。 この世界は、前世でプレイした乙女ゲーム。しかも、私は攻略対象者にトラウマを与える悪役令嬢だと気づいてしまう。 攻略対象者で幼馴染のロベルトは、私の推し。 愛しい推しにひどいことをするなんて無理なので、シナリオを無視してロベルトを愛でまくることに。 その結果、ヒロインの好感度が上がると発生するイベントや、台詞が私に向けられていき── ルートを無視した二人の恋は大暴走! 天才魔術師でチートしまくりの幼馴染ロベルトと、推しに愛情を爆発させるアリアの、一途な恋のハッピーエンドストーリー。

【短編】転生悪役令嬢は、負けヒーローを勝たせたい!

夕立悠理
恋愛
シアノ・メルシャン公爵令嬢には、前世の記憶がある。前世の記憶によると、この世界はロマンス小説の世界で、シアノは悪役令嬢だった。 そんなシアノは、婚約者兼、最推しの負けヒーローであるイグニス殿下を勝ちヒーローにするべく、奮闘するが……。 ※心の声がうるさい転生悪役令嬢×彼女に恋した王子様 ※小説家になろう様にも掲載しています

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

変態王子&モブ令嬢 番外編

咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と 「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の 番外編集です。  本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。 「小説家になろう」でも公開しています。

婚約破棄したい悪役令嬢と呪われたヤンデレ王子

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「フレデリック殿下、私が十七歳になったときに殿下の運命の方が現れるので安心して下さい」と婚約者は嬉々として自分の婚約破棄を語る。 それを阻止すべくフレデリックは婚約者のレティシアに愛を囁き、退路を断っていく。 そしてレティシアが十七歳に、フレデリックは真実を語る。 ※王子目線です。 ※一途で健全?なヤンデレ ※ざまああり。 ※なろう、カクヨムにも掲載

処理中です...