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27. ワンコの彼は
しおりを挟む「なるほど。美香様はやはりこの世界とは違った理で動く場所で育ったお方だ。私が国王となった暁には貴女には王妃としてそばにいていただきたかったが、それをするとジェレミーが私の事を手伝ってはくれないだろう」
「兄上……」
ジェレミーが苦笑いするロレシオに向かって言葉を放つ。
「兄上、私は必ず兄上のお役に立てるように手助けします。しかし、美香という存在だけはどうしても譲れないのです。どうか、お許しください」
「私も少しは自信があったんだがな。この外見は女性受けするらしいし、次期国王という地位もある。だがどうやら美香様にはそのどれもが魅力的ではなかったようだ。初めからずっと、ジェレミーにしかその瞳は向いてなかったんだな」
寂しそうに笑うロレシオは、結局本当に私のことを好きだったのかそれとも単に珍しいからそばに置きたかったのかは分からないけれど、とにかくこのピンチを乗り越えられたことに私は脱力した。
「ジェレミー、どうやら宰相とリッシュ家が組んで悪事を働いているようだ。自分たちの思い通りに政を行う為に、アニエス嬢を国母にしようと画策している。美香様にも罠を仕掛けるだけでなく、直接危害を加えようとするかも知れん」
「兄上、どうするおつもりか? 宰相は国王陛下の信頼も厚く、我々の言葉すら陛下には届かないでしょう。何かお考えがあるのであれば、俺は何でもしますよ」
凛々しい顔つきでロレシオに尋ねるジェレミーは、やっぱり兄であるロレシオのことを尊敬しているんだ。
この二人が協力すればきっと、この国は今よりとても良い国になるだろうと思えた。
「歓迎式典で、奴らはきっと何か行動を起こすはずだ。ジェレミーはしっかりと美香様をお守りするんだ。私は私で、奴らのことを探ってみることにしよう」
「分かりました。美香のことは必ず守ります」
ロレシオはスッと視線を私の方へと向けた。
「ジェレミーで頼りなければいつでも私の元へ来てくださって構いませんよ。では、ブローチは私が返しておきます。王太子は宝物庫に比較的自由に入れますからね」
「ありがとう……ロレシオ」
私が礼を言うと、ロレシオは悠然と微笑んだ。
その微笑みはスッキリと何か吹っ切れたような笑みで、ロレシオが強いコンプレックスのしがらみから抜け出せてどこか安堵したようなものだった。
そしてロレシオは部屋から去って行った。
モーリスも一人で訪れたロレシオについて出て行った。
リタはロレシオが来た時にお茶の準備をしてくると言って出たきり、気を利かせているのか戻ってこない。
この部屋には私とジェレミーだけになった。
ジェレミーはなんだか心配そうに私の方を見て、真剣な声音で言った。
「美香! 兄上との確執やこの国の腐敗に美香を巻き込んでしまって悪かった。俺は情け無い男だ。兄上のように頭脳明晰でもなければ、王太子という地位もない。それに、兄上に比べれば頼りないと思われているかも知れない……。だが、美香のことだけは誰にも譲りたくないんだ」
私がジェレミーのことを嫌いになったとでも思ったのかな?
ジェレミーの良いところは、素直で分かりやすくて、そしていつも私のことを好きって表してくれるところ。
それはロレシオにはないんだよ?
この兄弟は二人して無い物ねだりしてるんだ。
「ジェレミー、私はジェレミーのことが好きだよ。ロレシオのことを尊敬してる素直なところも、表情が豊かで分かりやすいところも、優しいところも、それに私のことをいつも好きだって表してくれるところも」
まるで仔犬みたいにその瞳を潤ませて私を見つめてくるところなんか、可愛くてたまらないって言いたいけど……言ったら怒るかな?
ジェレミーがギュウッと私を抱きしめた。
そして私の耳元で、私の大好きな低くて甘い声を絞り出すようにして言葉を奏でる。
「兄上に触れられているところを見ていたら嫉妬でおかしくなりそうだった。美香が例え俺の為だとしても、兄上を選ぶんじゃないかって不安で……。俺は、美香に好きだって伝えることしか能がないから」
ジェレミーは普段の第二王子としての顔は男らしいけど、時々こうやって私の気持ちを確かめたがる。
潤んだ瞳と、私にだけ見えるワンコのような耳と尻尾で気持ちを伝えてくるんだよね。
「ジェレミー、大丈夫。私はこの世界で貴方と生きていくって決めたから」
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