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23. 王太子と第二王子の差
しおりを挟むモーリスの声に、ジェレミーはハッとして頭を抱えた。
「もしや、やはり遅かったのか……? モーリス、入れ!」
入室の許可を得たモーリスは、室内に入るなり慌てた様子でジェレミーに報告する。
「殿下、大変です! 王太子殿下が国王陛下に、美香様と自らの婚姻を望まれたそうなのです。『この国をより平和と繁栄に導く為に、我が国へと降り立ってくださった神の使いである天使様と未来の国王の婚姻は不可欠である』と。散々説得されて、国王陛下もどうやら乗り気のようですぞ!」
モーリスはよほど慌てて走って来たのだろう、肩で息をしてとても苦しそうだ。
私はそっと背中を撫でてあげることしかできなかった。
「モーリス、大丈夫? リタ、モーリスにお水をあげたいんだけど……」
壁際に控えていたリタにお願いして、モーリスに水を渡すと老齢の侍従はそれを一気に喉へと流し込んだ。
「ゴホ……ッ、ゴホッ!」
案の定咽せてしまって、苦しそうなその背中を再度撫でた。
「いやはや、美香様かたじけない。年寄りにこの運動はきつぅございました。少しでも早くお伝えせねばと……」
「ごめんなさいね、ありがとう。モーリス」
ジェレミーは腕を組み、ずっと考え込んだ様子で黙り込んでいる。
やがて口を開くと強張った声音で強い意志を告げる。
「俺が、父上と兄上に話してくる」
「私も一緒に行く! その方がきっと良い気がするから。私の意志を自分の口で伝えたい」
「そうだな、じゃあ共に行こう」
国王陛下へ謁見申請を行うとジェレミーだけでは暫く待つように言われた。
そこで私から国王陛下に会いたいと申請を行った。
すると、すぐに会ってくれるとのことでジェレミーと二人で国王陛下に謁見することにした。
二度目の謁見室はやはり荘厳な造りで緊張したが、今回はそれどころではなくて。
玉座に座るのは国王陛下一人。
今日は王太子ロレシオはいない。
「美香様、これはこれは何用かな? それに、ジェレミーもいるようだが。急ぎの用だとか?」
国王陛下は私とジェレミーとのことなんか知らないから、別に私がロレシオと婚姻を結んでもいいと思っているんだろう。
でも、そこに私の意思など存在していないんだ。
天使様などと持ち上げてはいるものの、結局女というのは自分たちの思う通りに動くだろうというこの国の男尊女卑の考えが根付いているだと思う。
この国のことを学ぶうちに、私の生きてきた国とは全く違うことが多くあることに気づいたんだ。
何食わぬ顔で私へと問いかける国王陛下に対して、私は少し改まった口調で話しかけた。
「突然のお話で驚かせてしまうかもしれませんがご容赦ください。実は私、ジェレミー様とこれから先ずっと共に生きて行きたいと思っているのです。どうか、お父君である国王陛下にそのことをお許しいただきたくて参りました」
私はとにかく堂々と、威勢の良い声を張り上げた。
国王陛下は非常に驚いた表情をして、思わず玉座から立ち上がっている。
「な、なんと! 美香様はジェレミーと婚姻を結びたいと、そのようにお考えか?」
「はい、その通りです。私はジェレミー様のことをお慕いしています。ですからどうか、お許しいただけますよね?」
そちらがその気ならこちらだって遠慮しない。
私の二度目の人生、他人に行く末を勝手に決められたくないんだから。
国王陛下はジェレミーの方をジロリと睨んだ。
ジェレミーは頭を垂れたまま。
私しか頭を上げることを許可されていないからだ。
「ジェレミー、顔を上げよ。先ほど美香様が仰ったことは誠なのか? お前が美香様を……」
私を、そそのかした? そう言うつもりなのかな。
思ったよりも、王太子であるロレシオとジェレミーの立場には差をつけているらしい国王陛下に、私はどうしても納得がいかなかった。
「国王陛下、いえ……父上。私は初めて会った時より美香様のことを愛しているのです。どうか、私と美香様の婚姻をお許しください」
ジェレミーは真摯に国王陛下へと許しを乞うた。
「やはり……、宰相の言う通りだ。ジェレミー、お前は美香様に取り入っていずれはこの国の国王となるつもりなのであろう。儂の色味を継いだ自分こそが、この国の国王に相応しいと思っているのだな!」
「父上! そのようなこと思っておりません! 何故? 何故そのようなことを……」
「いや、お前は所詮卑しい身分の妾から生まれた子! その妾が死ぬ間際に儂を恨んでいたように、お前も儂を恨んでおるのだろう!」
国王陛下は初対面の時とはまるで人が変わったように激しくジェレミーを罵った。
ジェレミーの出自が何であれ私の気持ちは変わらないけど、私の方を心配そうに見つめるジェレミーが辛そうで胸が苦しかった。
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