17 / 33
17. モーリスとの再会
しおりを挟む公務に同行するにしても必要だということで、急ぎ私の服を仕立てるという。
お城お抱えのお針子さんたちが呼ばれた。
私は採寸してもらったり、布地を決めたりして一人でも脱ぎ着できるドレスやワンピースを作ることになったんだ。
この世界の令嬢はまさに豪華なドレスというような物を着ているから、朝から侍女に身支度を整えてもらうのが当たり前なのだという。
私はやっぱりそれには慣れなくて、身支度くらいは自分でできるようにしたい。
ジェレミーもそれで良いというので、良しとさせてもらう。
胸下からふわりとスカート部分に切り替えられているエンパイアラインのドレスは踝丈で、他にも膝下丈のものやデザイン違いのロングワンピースなど数着仕立てることになった。
全て一人でも着脱できるように留め具の位置などにこだわった。
この国では、私の制服のように膝を見せるのはとてもはしたないらしいから全て長めのものにした。
靴だって、私は高いヒールの物なんて履き慣れないから所謂ぺたんこシューズや、低いヒールの靴を用意してくれるそうだ。
ちなみに、この世界に来た時の私のローファーはこちらの服には似合わないので大事に仕舞ってある。
この国の令嬢らしからぬ注文の数々に、お針子さんたちも驚いていたが『斬新な試み』だと褒めてくれた。
「ジェレミー、本当にいいの? こんなにたくさん頼んじゃったけど……」
「いいんだ。その分これから働いてもらうからな」
「もちろん、頑張るね! ありがとう」
冗談混じりに答えるジェレミーに、私は本気で頑張ろうと思った。
この世界で私のやるべきことが出来ると、自然と居場所も出来た気がしたんだよ。
ジェレミーは私に優しくしてくれるけど、それに甘えてばかりじゃいけない。
私もきちんと返さなきゃ。
その時部屋の外からジェレミーのことを探す声が聞こえた。
「殿下ー! 殿下!」
「モーリス……」
ジェレミーが『モーリス』と呟いたのと、部屋の扉が開くのとがほぼ同時だった。
確かモーリスって……。
「ああ、殿下! 探しましたぞ!」
やっぱり、あの人だ。
扉を開けてすぐにジェレミーの姿を見つけてホッとした様子なのは、私が初めてこの世界に来たときに森でジェレミーと一緒にいた老齢の男性だった。
「どうした? 何かあったのか?」
「どうしたもこうしたも、ここ連日殿下が儂を上手く撒いてしまわれるから探していたのですよ! 何故この年寄りを置いていかれるのか!」
「置いていこうと思った訳ではないんだが……。モーリスは心配性だから……」
チラリとジェレミーが私の方を見た。
モーリスは私のことをあまり良く思っていないのかも知れない。
初対面の時の印象はあまり良く無さそうだったもんね。
「あのっ! 先日はありがとうございました。私、気絶しちゃって……。ご迷惑をおかけしました」
私が急に話しかけたから、モーリスは意外そうな顔をしてこちらを見た。
そしてニカっと笑って皺だらけの顔で優しく答える。
「天使様、謝る必要などありませんぞ。この世界に来てすぐで、身体に負担がかかったんでしょう。仕方のないことです。儂はモーリスと言う、殿下のお目付役みたいなもんです」
「モーリスさん、美香と呼んでください。これからよろしくお願いします」
「美香様、儂のことはモーリスと。美香様はこれから儂にとっても大切なお方ですからな」
「ありがとうございます、モーリス」
目尻に皺の目立つ瞳をパチンと片方閉じてウインクしたモーリスは、思ったよりも陽気な人みたい。
「それで? 殿下、美香様に式典のことはお話されたのですか?」
「いや、まだだ」
式典?
「いやはや、殿下はそれだからいかんのじゃ! 美香様、実は近々美香様の歓迎式典が開かれることになっておりましてな。そこで……」
「モーリス! いい、俺が言う」
「そうですか? それではどうぞ、殿下」
「お前がそこにいると言いづらい。外で待て」
「はあ? 何ですか? その程度のこと言いづらいとは何事ですか。まあいいでしょう。では、美香様後ほど」
モーリスはそう言ってお辞儀をしてから、また部屋の外へと出て行った。
そして、ジェレミーが私の方へと向き直ると耳まで顔を赤くして口を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返している。
「ジェレミー? どうしたの?」
0
お気に入りに追加
592
あなたにおすすめの小説
猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない
高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。
王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。
最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。
あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……!
積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ!
※王太子の愛が重いです。
【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?
うり北 うりこ
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。
これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは?
命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。
貴族との白い結婚はもう懲りたので、バリキャリ魔法薬研究員に復帰します!……と思ったら、隣席の後輩君(王子)にアプローチされてしまいました。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
秀才ディアナは、魔法薬研究所で働くバリキャリの魔法薬師だった。だが――
「おいディアナ! 平民の癖に、定時で帰ろうなんて思ってねぇよなぁ!?」
ディアナは平民の生まれであることが原因で、職場での立場は常に下っ端扱い。憧れの上級魔法薬師になるなんて、夢のまた夢だった。
「早く自由に薬を作れるようになりたい……せめて後輩が入ってきてくれたら……」
その願いが通じたのか、ディアナ以来初の新人が入職してくる。これでようやく雑用から抜け出せるかと思いきや――
「僕、もっとハイレベルな仕事したいんで」
「なんですって!?」
――新人のローグは、とんでもなく生意気な後輩だった。しかも入職早々、彼はトラブルを起こしてしまう。
そんな狂犬ローグをどうにか手懐けていくディアナ。躾の甲斐あってか、次第に彼女に懐き始める。
このまま平和な仕事環境を得られると安心していたところへ、ある日ディアナは上司に呼び出された。
「私に縁談ですか……しかも貴族から!?」
しかもそれは絶対に断れない縁談と言われ、仕方なく彼女はある決断をするのだが……。
【完結】なぜか悪役令嬢に転生していたので、推しの攻略対象を溺愛します
楠結衣
恋愛
魔獣に襲われたアリアは、前世の記憶を思い出す。 この世界は、前世でプレイした乙女ゲーム。しかも、私は攻略対象者にトラウマを与える悪役令嬢だと気づいてしまう。 攻略対象者で幼馴染のロベルトは、私の推し。 愛しい推しにひどいことをするなんて無理なので、シナリオを無視してロベルトを愛でまくることに。 その結果、ヒロインの好感度が上がると発生するイベントや、台詞が私に向けられていき── ルートを無視した二人の恋は大暴走! 天才魔術師でチートしまくりの幼馴染ロベルトと、推しに愛情を爆発させるアリアの、一途な恋のハッピーエンドストーリー。
変態王子&モブ令嬢 番外編
咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と
「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の
番外編集です。
本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。
「小説家になろう」でも公開しています。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
姉に全てを奪われるはずの悪役令嬢ですが、婚約破棄されたら騎士団長の溺愛が始まりました
可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、婚約者の侯爵と聖女である姉の浮気現場に遭遇した。婚約破棄され、実家で贅沢三昧をしていたら、(強制的に)婚活を始めさせられた。「君が今まで婚約していたから、手が出せなかったんだ!」と、王子達からモテ期が到来する。でも私は全員分のルートを把握済み。悪役令嬢である妹には、必ずバッドエンドになる。婚活を無双しつつ、フラグを折り続けていたら、騎士団長に声を掛けられた。幼なじみのローラン、どのルートにもない男性だった。優しい彼は私を溺愛してくれて、やがて幸せな結婚をつかむことになる。
【完結】悪役令嬢に転生ですが乙女ゲームの王子が推しです、一目惚れ王子の幸せが、私の幸せ!?
百合蝶
恋愛
王子との初めての出逢いで、前世の記憶が甦る。
「うっそ!めっちゃイケメン。」京子の理想とするイケメンが目の前に……惚れてまうやろ。
東 京子28歳 普通の会社員、彼氏無しの腐女子(BL好き、TLもおk)。推しカプ妄想しながらの通勤途中にトラックにひきかれ他界。
目が覚めた時何と! 乙女ゲームの「天空の乙女に恋する。」に自分が悪役令嬢クリスティーヌとして転生していた。
内容はこうだ、王太子殿下ルドルフは、公爵令嬢のクリスティーヌと10歳の時婚約していたが、ヒロインアリアが「天空の乙女」に選ばれる。それを気に心をかわせるルドルフはアリアを「好きになった」とクリスティーヌに告げる。王太子ルドルフ殿下を奪われ事を腹正しく思い、アリアを虐め倒した。
ルドルフは「愛するアリアを虐めぬいた罪で、クリスティーヌとの婚約を破棄する」そして断罪される。
攻略対象が三人いる、正統派のルドルフ殿下と殿下の側近アイル、宰相の息子ハーバスどのルートに流れても断罪のフラグしか無い❗
これは、いかーーーん❗
一目惚れ王子に嫌われたくない❗出来れば好かれたい!
転生先が悪役令嬢、断罪される前にフラグを回避、ヒロインをなんかします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる