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17. モーリスとの再会

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 公務に同行するにしても必要だということで、急ぎ私の服を仕立てるという。
 お城お抱えのお針子さんたちが呼ばれた。
 私は採寸してもらったり、布地を決めたりして一人でも脱ぎ着できるドレスやワンピースを作ることになったんだ。
 
 この世界の令嬢はまさに豪華なドレスというような物を着ているから、朝から侍女に身支度を整えてもらうのが当たり前なのだという。
 私はやっぱりそれには慣れなくて、身支度くらいは自分でできるようにしたい。
 ジェレミーもそれで良いというので、良しとさせてもらう。

 胸下からふわりとスカート部分に切り替えられているエンパイアラインのドレスは踝丈くるぶしたけで、他にも膝下丈のものやデザイン違いのロングワンピースなど数着仕立てることになった。
 全て一人でも着脱できるように留め具の位置などにこだわった。

 この国では、私の制服のように膝を見せるのはとてもらしいから全て長めのものにした。

 靴だって、私は高いヒールの物なんて履き慣れないから所謂いわゆるぺたんこシューズや、低いヒールの靴を用意してくれるそうだ。
 ちなみに、この世界に来た時の私のローファーはこちらの服には似合わないので大事に仕舞ってある。

 この国の令嬢らしからぬ注文の数々に、お針子さんたちも驚いていたが『斬新ざんしんな試み』だと褒めてくれた。
 
「ジェレミー、本当にいいの? こんなにたくさん頼んじゃったけど……」
「いいんだ。その分これから働いてもらうからな」
「もちろん、頑張るね! ありがとう」

 冗談混じりに答えるジェレミーに、私は本気で頑張ろうと思った。
 この世界で私のやるべきことが出来ると、自然と居場所も出来た気がしたんだよ。

 ジェレミーは私に優しくしてくれるけど、それに甘えてばかりじゃいけない。
 私もきちんと返さなきゃ。

 その時部屋の外からジェレミーのことを探す声が聞こえた。

「殿下ー! 殿下!」
「モーリス……」

 ジェレミーが『モーリス』と呟いたのと、部屋の扉が開くのとがほぼ同時だった。
 確かモーリスって……。

「ああ、殿下! 探しましたぞ!」
 
 やっぱり、あの人だ。
 扉を開けてすぐにジェレミーの姿を見つけてホッとした様子なのは、私が初めてこの世界に来たときに森でジェレミーと一緒にいた老齢の男性だった。       

「どうした? 何かあったのか?」
「どうしたもこうしたも、ここ連日殿下がわしを上手くいてしまわれるから探していたのですよ! 何故この年寄りを置いていかれるのか!」
「置いていこうと思った訳ではないんだが……。モーリスは心配性だから……」

 チラリとジェレミーが私の方を見た。
 モーリスは私のことをあまり良く思っていないのかも知れない。
 初対面の時の印象はあまり良く無さそうだったもんね。

「あのっ! 先日はありがとうございました。私、気絶しちゃって……。ご迷惑をおかけしました」

 私が急に話しかけたから、モーリスは意外そうな顔をしてこちらを見た。
 そしてニカっと笑って皺だらけの顔で優しく答える。

「天使様、謝る必要などありませんぞ。この世界に来てすぐで、身体に負担がかかったんでしょう。仕方のないことです。儂はモーリスと言う、殿下のお目付役みたいなもんです」
「モーリスさん、美香と呼んでください。これからよろしくお願いします」
「美香様、儂のことはモーリスと。美香様はこれから儂にとって大切なお方ですからな」
「ありがとうございます、モーリス」

 目尻に皺の目立つ瞳をパチンと片方閉じてウインクしたモーリスは、思ったよりも陽気な人みたい。

「それで? 殿下、美香様に式典のことはお話されたのですか?」
「いや、まだだ」

 式典? 

「いやはや、殿下はそれだからいかんのじゃ! 美香様、実は近々美香様の歓迎式典が開かれることになっておりましてな。そこで……」
「モーリス! いい、俺が言う」
「そうですか? それではどうぞ、殿下」
「お前がそこにいると言いづらい。外で待て」
「はあ? 何ですか? その程度のこと言いづらいとは何事ですか。まあいいでしょう。では、美香様後ほど」

 モーリスはそう言ってお辞儀をしてから、また部屋の外へと出て行った。
 そして、ジェレミーが私の方へと向き直ると耳まで顔を赤くして口を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返している。

「ジェレミー? どうしたの?」



 
 


 
 







 
 
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