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16. 憧れの仕事をしたい

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 あの衝撃の告白から一夜明けて、私は再びジェレミーの訪問を受けていた。
 
 ここに来たのは観光が理由と国王陛下に話しているということもあって、暫くは第二王子であるジェレミーが私に関する対応をするようにと王命が下されたらしい。

「俺は第二王子で、暇だからな」
「そんなことはないんでしょう?」
「王太子である兄上に比べれば随分と公務も少ない。俺はそのうち臣籍降下して公爵位を授かることになるしな」

 そういえば小説でもそんな描写があったような……。
 あれ? 何か記憶が曖昧なところがある?
 あれほど読み込んだ小説なのに、何故かぼんやりとして思い出せないことが多いことに気づく。

「ジェレミーは国王になりたいと思ったことはないの?」

 お姉ちゃんの書いた小説の中ではアニエスの心を手に入れられなかったジェレミーが王太子であるロレシオを討ち、国王の座につくことを画策していたんだ。
 そうすることで王太子の婚約者となっていたアニエスを我が物にしようとしたんだよね。

 それで……あれ?
 どうなったんだっけ?
 
「美香……」

 私の質問に、ジェレミーは一度瞠目どうもくしたけど私の口元に人差し指を当てて黙らせるように『しーっ』のポーズをした。

「それは不敬な質問だぞ」

 悪戯っぽく笑うジェレミーだったけど、その金の瞳だけは何故か少し辛そうにも見えた。

「ごめんなさい……」

 私が謝れば、ジェレミーは先程の憂いを隠すように明るい笑みを見せた。

「それで、リタから聞いたんだが。美香は俺にお願いがあるんだったな?」
「あっ! そうなの。実はこの国のドレスって一人じゃ着れないんだよね。私は前の世界と同じで、自分のことを自分でできるようにしたいから、一人で着られるような服が欲しいんだけど……」
「なんだ、そんなことか」

 服が欲しいのと、私でも出来る何かバイトのようなことをさせて貰えれば助かるとリタに話したけれど、とっても渋い顔をされた。

「そのような些細なこと、ジェレミー様に仰れば山のようなドレスが届きますよ。私は身支度のお世話ができなくなるのは寂しいですけれど。バイト? 何ですかそれは?」

 リタの表情はクルクル変わって面白い。
 それで、ジェレミーに相談するように言われたんだ。

「できれば、私でも出来る仕事とかあれば助かるんだけど……」
「仕事? そんなことしなくとも、美香の着る衣装くらい俺がすぐに準備させるが……」
「そんなのダメだよ。私、何にもしないままでこんなに良い生活させて貰っちゃって申し訳ないんだもん。この上ジェレミーに服まで貰ったらダメ人間になっちゃう」

 私が真剣に話してるのに、ジェレミーは肩を震わせてククッと笑いを堪えているようだ。

「そうか……。ダメ人間か。それなら仕事を与えよう。これからは俺と一緒に公務に出かける。天使様として民に安心と安らぎを与えてやってくれないか?」

 私、本当の天使なんかじゃないんだけどな。
 この世界での設定が『天使』なんだろうけど。
 いいのかな……。
 そんな嘘吐いちゃうみたいなことして。

「でも、厳密に言えば私は天使じゃなくて『神様にこの世界に送られてきた』なんだけど」
「なんだ、そんなことを気にしていたのか。この国では時々お前のように空から人が降りてくることがあると以前に言っただろう。その者たちはここじゃない他の世界からやってくるらしい。それは美香もそうなんだろう?」
「まあ、そうだね」

 私は死んでからここに転生させられたんだけど。
 他にも同じような人がいるの?
 そういえば、初めて会ったときにそんなこと言ってたような気がするけど……。
 でも、そんな描写はお姉ちゃんの小説にはなかった……よね?
 あれ? またこのモヤモヤする変な感じ。
 何なんだろう?

「そういう者たちのことを、俺たちの国では『天使』と呼ぶ。神の使いの天使と同じく敬われる存在だ。だから美香は紛れもなく天使様だ」
 
 これは転生させてくれた神様のおかげなのか何なのか……。

「ジェレミーがそれで良いなら、お願いします。私に出来ることがあるなら手伝いたい」

 本当は、仕事をするということに憧れてた。
 私には病気があったから、友達みたいに仕事に就くのは難しいんじゃないかと思ってたから。
 
 この世界で、私にも出来ることがあるなら嬉しい。

「頼んだぞ」

 ジェレミーはまた私がドキドキするようなイケメン笑顔で頷いた。





 
 
 





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