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11. これはもしや、まさにテンプレ?
しおりを挟む私とジェレミーは同時に声をした方に顔を向けた。
おお、あれこそヒロイン!
少し離れた場所からでも、ヒロインオーラを感じる。
ピンクブロンドのふわふわとした髪に、潤んだ紅い瞳はまるでウサギのようで可愛らしい。
フリフリのフリルがたくさんついたドレスは濃いピンク色で、きっとこの人以外にはなかなか着こなせない代物だ。
「アニエス嬢……」
ジェレミーが呟いたヒロインの名前に、私の胸はギュッと締め付けられた。
だから、なんでここまで苦しいのかな。
私は推しの恋愛を応援する為に来たんだから!
とにかくアニエスと仲良くなって損はないよね。
「あのー、こんにち……」
「ジェレミー様、私もご一緒してもよろしいでしょうか?」
『は』って言う前に言葉を被せてきたけど……。
あれ? 可憐な令嬢というよりは、えらく積極的な……。
「どうする?」
ジェレミーは私にどうするかを聞いてくれた。
そう、こういう気配りができるのが私の思うワンコ系なんだよ!
優しいし、この眉を下げながら聞いてくる感じ!
可愛いじゃないか!
「良かったら、一緒にどう……」
「まあ! ありがとう存じます!」
あれ? また私の『ぞ』の前に被せてきたよね?
待てよ……、これは……。
ニコニコとちゃっかりジェレミーの隣の椅子に腰掛けたアニエスは、見れば見るほど可愛らしい令嬢だった。
小動物のような動きは、男からすると守ってやりたくなるのだろう。
暫くして、お茶のセットが届いたが侍従はまさかアニエスが居るとは知らずに驚いた顔をしていた。
そして追加のお菓子とカップを取りに戻って行った。
「はい、ジェレミー様。私、最近美味しくお茶を淹れられるように練習しましたのよ。どうぞ」
アニエスが二つのカップに紅茶を注ぐ。
一つをジェレミーに、もう一つは……
「ああ、とても美味しいですわね。さすが王家御用達の茶葉は違いますわ」
あ、ご自分で飲まれるんですね。
これは……、やはりまさか……。
「美香、飲め」
アニエスが彼のために淹れたカップを私に手渡す。
「お、美味しいです。はい」
仕方なくカップを受け取って飲めば、アニエスがもの凄い目で睨んでいる。
これは、まさに『悪役令嬢』というやつでは?
「ジェレミー様、ひどいですわ。私、ジェレミー様の為に淹れましたのに」
ウルウルとした瞳でジェレミーを見つめ、そっと白魚のような手を隣に座るジェレミーの手に添えようとした。
私はそんな場面に釘付けになり、当初の自分の目的である『ジェレミーとアニエスをくっつけよう作戦』を忘れそうになった。
「アニエス嬢、こちらのお方は大切なお客様だ。失礼な態度は改めるように」
ジェレミーのひんやりと底冷えするような声は初めて耳にした。
アニエスが触れそうになっていた手をスッと引いて、ジェレミーは隣に座る令嬢を冷たい瞳で見下ろしている。
「そんな……、私はそんなつもりじゃ……」
アニエスは驚愕の表情をした後に、悲しげな表情に変化させた。
ほんの一瞬、私への憎悪の視線を向けたけど。
両手を胸の前で組んで、コテンと小首を傾げるその仕草はそこら辺の男たちならコロリと騙されるだろう。
あ、悪女だ……。
なんか、思ってたヒロインと随分違うんですけどー!
お姉ちゃーん! どういうこと⁉︎
「今日は無理を言って俺からお客様をお茶にご招待したのだ。申し訳ないが失礼を働くのであれば其方には退席していただこう」
「そんな⁉︎ ジェレミー様! 私はそのようなつもりではございませんでした!」
とりあえず、私は何も喋るまい。
ジェレミーに突き放されたアニエスは、必死で弁明している。
どうすればいいんだ。
ヒロインが思ってたのと違い過ぎて、自分がどういう動きをしたら良いのか分かんなくなってきた。
「あの、えっと……。とりあえず、私はこれで失礼しますっ!」
パニックになった私はその場にジェレミーとアニエスを残して走り出した。
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