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10. 突然のお茶会ですか?
しおりを挟む突然聞こえた透き通った声に顔を向ければ、王太子殿下がこちらを見て華やかに微笑んでいる。
「は、はい」
この王太子殿下、お姉ちゃんの小説の中では大人っぽくて常にヒロインを包み込むような優しいキャラだったけど、今目の前にしてみればどこかその笑顔に腹黒いものを感じるのは私だけだろうか。
「天使様とお話したことはこれが初めてです。私も色々と話を聞きたいものですから、是非近々お茶にお誘いしても?」
お茶のお誘い……。
まさか王太子殿下からそのような提案があるとは思いもよらず、つい隣のジェレミーに視線を向ける。
ジェレミーはまだ陛下たちに許されていないから、頭を下げたままでチラリと私へ目を向けて頷いた。
そうか、断るべきではないか。
ジェレミーの恋敵を知ることも何かの役に立つかも知れない。
「はい、是非」
「それは喜ばしいな。では、またお会いできるのを楽しみにしていますよ」
壮絶に美しい笑顔を王太子殿下に向けられて、私はふふふっと曖昧に微笑んでやり過ごした。
お姉ちゃん、さすがお姉ちゃん好みのイケメンは破壊力抜群だよ。
でも、私はやっぱりジェレミーが推し!
こういう場には慣れないからさっさとお暇しよう。
「すみません、このような場には慣れていなくて……。そろそろお暇してもいいですか?」
「おお! まだこちらに着いて間がないにも関わらずお呼び立てして申し訳なかった。ジェレミー、美香様のことくれぐれも頼んだぞ。」
ここで初めて国王陛下はジェレミーに声を掛けた。
「はい、陛下」
そう言って立ち上がったジェレミーは、まだ跪いたままの私の方へと手を伸ばす。
これは、手を乗せろという意味かな?
そおっとジェレミーの手に自分の手を乗せて立ち上がると、国王陛下と王太子殿下に一礼したジェレミーは私の手を掴んだままで謁見室の扉の方へと歩き出した。
これは、手繋ぎというやつでは?
入院生活が長く、異性と手を繋いだこともなかった私にとって推しと手を繋いで歩くということは夢のようなことであった。
いやいや、ジェレミーはアニエスのことが好きなんだから……。
勘違いするな、私。
ジェレミーの優しさは王子様として当然のもので、特別な感情はヒロインであるアニエスへ向けられているのだ。
謁見室の大きな扉から廊下へ出ると、扉を守る衛兵たちはギョッとしていた。
そりゃあこの国の王子様が訳の分からない娘と手を繋いで謁見室から出てきたら驚くよね。
変な噂にならなきゃいいけど。
「ジェレミー、これからどうするの?」
廊下をズンズンと進むジェレミーに手を引っ張られるようにして私も歩くが、広い王城内でどこへ向かっているのか検討もつかない。
「美香、お茶しよう」
「へ?」
ただそう言ったっきりでジェレミーはどんどん歩く。
すれ違う城の中の人(何て言うのか分かんない)たちは好奇の目線を向けるか、不思議そうに私たちを見ていた。
やがて着いたのは城の庭園に作られたガゼボで、テーブルと椅子が備え付けてある。
周りには美しい薔薇が咲き誇っていて、まさに王子様とお姫様にふさわしい場所である。
ジェレミーは、いつのまにか現れた侍従に何かしらの指示を出して椅子へ座るようにと私を促した。
「綺麗な場所だね」
「ここが城の中で一番気に入ってる。母上の自慢の庭なんだが、ここでのんびり過ごすのが気晴らしになるんだ」
「そうなんだ」
テーブルに向かい合わせで座ったものの、何だか気恥ずかしくてジェレミーの方を見ることはできない。
「国王陛下も王太子殿下も、観光ってこと信じてくれたかな?」
「……ははっ! 美香、お前嘘を吐くのが下手だな」
「え? やっぱり嘘ってバレたかな? だってまさか恋敵である王太子殿下の前で本当のこと言う訳にはいかなかったし……」
ジェレミーは急に静かになって、何かを考えているようだ。
「それのことだが……」
暫くして口を開いたジェレミーの言葉を、鈴を転がしたような可愛らしい声が遮った。
「まあ! ジェレミー様!」
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