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5. 死後のボーナスステージはこんなに幸せでいいの?
しおりを挟む「モーリス、やはりこの女子は天使だ。昨晩俺の部屋からこの女子が空から降り立つのが見えた。空から降り立つなど人間にはできぬ芸当だ。丁重にもてなせ」
どうやら昨日私がこの世界に来た時にジェレミーに目撃されていたようだ。
話が早くて助かる。
天使……これが神様の与えてくれた私の『設定』なのかな。
「はっ! 承知いたしました」
モーリスと呼ばれた老人も、まだ疑念の目をむけてはいるが何とか私への敵意はなくしてくれたようだ。
「こんな森の中でずっといる訳にもいかないだろう。おい、美香とやら」
「はい?」
「馬には乗れるのか?」
「乗れません」
「では、昨日のように空に浮かぶことは?」
「できません。もう私はこの世界に来た段階で普通の人間と同じ体になってしまいましたから」
私の答えを聞いたジェレミーは、顎に手をやり考えてから最適な答えを導き出した。
「とりあえず、俺の前に乗るか?」
推しの……前に……乗る。
馬の二人乗りは、まさに王子様とヒロインの特権だと思うけど……いいのかな?
「じ、じゃあお願いします」
ずっと馬上から手を伸ばしたジェレミーの長くて綺麗な手指に見惚れながら、触れてみれば剣ダコのような固さもあって……私の胸はこの激しい動悸に耐えられるのか非常に心配な状況に陥った。
死後のボーナスステージ、こんなに幸せでいいのか?
待って、私はジェレミーとヒロインのアニエスの恋愛を成就させる為にこの世界に来たんだから。
失恋の末のジェレミーの闇堕ちを防がないと、私がここに来た意味がないのよ。
なんとか馬の上に乗れた私は、背中に感じるジェレミーの気配に失神寸前だった。
「じゃあ、城に戻るぞ」
暫くはとにかく揺れる馬の感覚に必死で、短めのスカートはヒラヒラとはためくし、何度か下着が見えちゃったかもしれない。
それに、擦れた太ももがとにかく痛む。
「二度と制服で馬には乗らない」
「ん? なんだ?」
「いや、何でもないです」
ミミズ腫れになっているであろう太もものことを考えれば、なおさら痛む気がしたからとにかく背中に感じるジェレミーのことだけに集中することにした。
推しにこんなに密着して貰えるなんて幸せ過ぎる。
神様、お姉ちゃん、ありがとう!
とにかく揺れる馬の上でえらく長く感じる時間を過ごした私は、目の前に見えてきたまさに西洋のお城に興奮を隠せない。
装飾の美しいアーチ型の入口をくぐって、まだ暫く進むとやっと城門や跳ね橋が現れた。
馬に乗ったままで通り過ぎると、大きな柱とその間の門扉が現れる。
衛兵によって開けられた門扉を通り過ぎれば、やっとお城の本体に近づけた。
首が痛くなるほどに見上げないとお城の塔の先まで見えない。
尖った屋根や美しい窓の形はまさにファンタジー!
「私、ほんとにこの世界に来ちゃったんだ……」
思わず零れた呟きは、いまだに馬を走らせていたからすぐ後ろのジェレミーには聞こえなかったようだ。
森を抜けてからも、城の中まで随分と長い時間馬で進んだ私の太ももや身体のそこかしこは限界に近い。
もうそろそろ馬から離れたいなあ。
そう思ったところでジェレミーが馬を止めた。
そして後ろでゴソゴソやったかと思えば、いつの間にか馬から降りたジェレミーがこちらに向けて両の手を広げているではないか。
「ま、まさか……、そこに飛び込めと?」
「降りられないだろ?」
それでなくとも今までの流れで心臓にかなりの負荷をかけてきた自信があった私に、ジェレミーの腕の中に飛び込めなどと……どんだけの試練、もといボーナスステージなのか。
「お願いします……」
なんとか上半身からジェレミーに向かって飛び込んだものの、やはり制服で馬に乗るという荒業をこなした私の太ももやその他の部分はジンジンと痛んだ。
「この奇怪な格好は馬には向かんな。怪我をしただろう。あとで侍医に見させよう」
「あ、お構いなく。大したことないから……」
太ももやその他の部分を擦りむいたなどと恥ずかしくて思わず断ってしまった。
とにかくもう馬は遠慮したい。
できれば、どこかで休ませて欲しい。
「その脚では部屋まで歩けんな。モーリス、俺の上着を持て」
「はい、殿下」
何をするのかと思えば、上着を脱いだジェレミーがモーリスにそれを預けた。
そして私はふわりとした浮遊感とともにジェレミーに横抱きにされている。
これは、まさか……お姫様抱っこというやつでは。
「モーリス、この衣服では脚が見えすぎる。その上着を掛けてやれ」
モーリスがジェレミーの上着を私の脚を隠すようにして掛けた。
あの……、イケメン過ぎやしませんか⁉︎
確かに私の推しはジェレミーだけど、こんなにイケメン過ぎるとは予想外。
しかも口調が私の知ってる人懐っこいジェレミーと違って、クールでそれまたカッコいい。
何故これでアニエスがジェレミーを選ばないのか謎過ぎるんだけど!
そのまま横抱きにされた私はあまりの興奮からか意識を失った。
人間、興奮が過ぎると失神するらしい。
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