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3. お姉ちゃんの小説、私の推しキャラはワンコ系男子

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「ここ、どこ?」

 空を見上げれば、生きてた頃と同じ月とそれを隠す雲、ところどころに散りばめられた星が煌めいてる。

 ってことはさっきの場所から寝てるうちに移動したんだ。

 今自分が置かれた環境はまるでお姉ちゃんのテンプレ小説の始まり。
 テンプレ小説って悪い意味じゃないよ。
 だってすっごく面白いからみんなその設定な訳で……。
 かくいう私もテンプレ小説大好きJKだったんだけど。

「ここら辺で待ってればいいの? 自分から動くパターンかな?」

 座り込んだ身体の下には固い地面と短い草の感触、着ているものはやっぱり高校の制服だ。
 ブレザータイプの制服は、赤いリボンとプリーツスカートのアーガイル柄が可愛くて気に入ってたんだよね。

 誰もいない森の中のポッカリと開けた空間で、座り込んだままじゃどうしようもない。

 しかし、いかんせんあの神様は気が利かない。

 手元には懐中電灯もないし、当たり前だけど異世界で電灯もない暗い森の中に入るのは難しいだろう。

「どうしろって言うのよー」

 懐中電灯とか、それに代わる何かも必需品だからお願いしますと願っても、あの少し腹の立つ神様は願いを叶えてくれないようだ。

 そんなことを考えてれば、すっごく眠くなってきた。

「ジェレミーの恋を成就させないと……」

 瞼を開けようとしても、白目でとっても不細工な顔になって……それでもこの眠気には勝てそうもない。
 まるで睡魔という怖い生き物にガブリと飲み込まれるようにして、グーンと眠りの海へと潜って行った。



「美香! 見てみて! ランキング三位! すごいでしょー?」
「え⁉︎    ほんとに? お姉ちゃんすごいじゃん! もしかして書籍化したりして!」
「いやぁー、それはないと思うよー。テンプレ小説だし」
「お姉ちゃんの小説ってすっごく面白いし、ランキング三位ってことはファンも多いんだよ」

 あー、これはお姉ちゃんが書籍化する前の話だ。
 なんか『婚約者が浮気して婚約破棄したら、騎士団長に溺愛されました』みたいな話を書いた時だったかな。
 
「美香! とうとう本屋に並んだの! 思わず三冊も買っちゃった! 表紙も綺麗だよねー」
「うわー、ほんと! 表紙のイラストすっごくイメージ通りだね!」

 書籍化が決まってから、発売日に本屋に並んですぐにお姉ちゃん三冊も買ってきて病室に置いてったんだよね。
 そういうのが好きな看護師さんに貸したら回し読みになって、みんな喜んでたなー。
 あの後わざわざみんな本屋で買ってくれたみたいだし。

「聞いて! 今度の新刊に美香の好きそうなキャラ出したよー。当て馬キャラなんだけど、ヒロインに振られて闇堕ちしちゃうの。悲しいけどさ、こういうキャラあんた好きでしょ?」
「うん! 好き好き! 発売日に持ってきてよ!」

 そうだ、この後新刊が発売されてそれを読んで私がジェレミー推しになったんだった。

 ジェレミーは第二王子なんだけど、王太子である大人の色気ダダ漏れイケメンに想い人を取られちゃうんだよね。
 別に告白もしてなかったんだけどさ、王子達とアニエスって伯爵令嬢がイベントで出会って、そこからアニエスが二人を翻弄ほんろうするんだよねぇ。
 でもまあ確かに健気で可愛らしい守ってあげたくなる系令嬢なんだよねぇ。

「美香はジェレミー派だろうけど、私はこの大人な王太子が好きなのね。で、ヒロインのアニエスは王太子妃になるの。そこからはジェレミー闇堕ちしちゃってさ、兄の王太子を暗殺しようと画策したりするんだよ」
「なんか可哀想だよね、ジェレミー」
「まあ、当て馬キャラだからね。闇堕ちして結局王太子に罰せられるんだよ。兄弟の愛憎劇だね」

 大人っぽい王太子と違って、ジェレミーは私の好きなワンコ系男子だった。
 好きな相手に誠実で一途、寂しがり屋で甘え上手、褒められると頑張っちゃう、そして嫉妬深い。

「ねえ、私が死んだらジェレミーのいる世界に異世界転生してジェレミーとアニエスをくっつけちゃってもいい?」
「何よそれー。あんたそこまでジェレミー推しだったの? ふふっ……いいわよ。もし……もしもそんなことがあったら……その時は美香の大好きな小説の世界に転生できたらいいわね」

 あの時お姉ちゃんは、私が死ぬってことを想像したのかとても悲しそうな顔をしてた。
 でも、ちゃんと覚えててくれたんだ。

 






 

 

 
 

 


 
 


 

 



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