上 下
2 / 33

2. いかにも神様っぽい老人に選択肢を与えられる

しおりを挟む

 広くただ真っ白な空間は、浮いてるのか立ってるのかさえ分からない目の錯覚が起きそうなほどの気持ち悪さ。

 向かい合うのはいかにも神様然かみさまぜんとした白髪と長い白髭の特徴的なお爺さん。
 キリストみたいなゆるっとした衣装はくるぶしまでの長さで、いかにも仙人とか、神様ってかんじ。

 そのいかにも『私は神様です』といった雰囲気のおじいさんは、よく響く声で目の前の私に話しかけてきた。

四ノ宮 美香しのみや みかよ。もう分かっておるだろうが、其方そなたは死んだ。残念なことよ」

 そんなことはとっくに理解してますよ。
 私は思わずいぶかしげな視線を送ってしまった。
 仕方ないよね、だって私だって死にたくなかった。

「そ、そんな目で儂を見るなんて……! まあ一応これがここにいる神の決まり文句じゃから怒らんでくれ。そこでじゃ、これからの其方の行く末を選ばせてやろう」

 神様はゴホンと咳払いをしてから話を続ける。
 決まり文句とかあるんだ……。

「楽しいが退屈な天国へ行って次の転生を待つか、其方と姉の望んでいた世界へ行って次の転生を待つか……。どうする?」

 へぇ……退屈なんだ、天国って。
 なんかゲームの選択肢みたいに選ばされるんだね。

「私と姉が望んでいた世界に行くことなんて、できるんですか?」

 やっと話に食いついた私に、満足したように大きく頷く神様は答えた。
 なんか無性に腹立つのは私が死んだばかりで情緒不安定だからかな?

「まあ儂からしたらどっちで其方が待ってようが一緒じゃからな。其方の姉は信心深いのう。毎日神に祈っておったわ。『病気の妹が死後にあちらの世界で楽しく暮らせますように』とな」

 お姉ちゃん……。覚えててくれたんだ

 小説家の姉が書く話が大好きで、書籍化されたそれを病床で読むのが病との戦いの中で唯一の楽しみだったもんなぁ。

 それで一番好きだったのが、『頑張り屋の伯爵令嬢がイケメンの王子様に溺愛される』っていういわゆるテンプレなんだけど、『異世界ファンタジー(恋愛)』の話。

 ヒロインがすごく頑張り屋の令嬢というところがまず感情移入しちゃって、何よりそこに登場するイケメンキャラにハマってたんだよね。

 ヒロインの相手役のじゃなく、でヒロインに振られて闇堕ちしちゃうめっちゃ可哀想な『ワンコ系王子様』が私のだったんだ。

 だからいつも姉には『私が死んだらこんな世界に異世界転生できますように』と冗談半分で話してたんだよね。

「神様、そしたらお姉ちゃんの作品の世界へ送ってもらえますか? 私、恋愛もしないまま死んじゃったからどうしても『ワンコ系王子様』に逢いたいの! それに、出来るならワンコ系王子様ジェレミーの闇堕ちを阻止したい……。だってあんな結果悲し過ぎるんだもん」

 『闇堕ちした当て馬役のワンコ系王子様ジェレミー』は、イケメン王子様に殺されちゃうんだ。
 ストーリー上仕方ないにせよ、泣いたよねー。
 王子様で当て馬キャラなんて私の好物だもん。
 
「構わんぞ。最近は信心深い人間も減り、儂らも嘆いていたところじゃ。それを其方の姉は随分と熱心に祈っておったからな。其方一人くらい天国じゃなくとも他所よその世界に送ったところでバチも当たるまい。バチも何も、儂が神じゃからな。フォッフォッフォッ……」

 やっぱりこの神様ちょっとだけ腹立つ。
 でも、本当に願いを叶えてくれるなら感謝するよ。

「じゃあお願いします! 絶対にあの当て馬キャラのジェレミーを愛しのヒロイン頑張り屋令嬢のアニエスとくっつけちゃうもんね!」

 まあ、逆に振られるイケメン王子様の方は自力でなんとか幸せ掴んでください。
 なんてったって私は『ジェレミー推し』だから。

「フォッフォッフォッ……。まあ儂も楽しみに覗かせてもらうよ。神も昔と違って、最近は暇じゃからな」

 その直後、とてつもない睡魔が襲ってきた。
 寝ていいのかな?
 起きたらすぐジェレミーと会えたりする?

「神様! どうかそこのところお願いしますよ! ちゃんとその世界での私の『設定』も頼んだからねぇー!」
 
 

 
 


 




 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

貴族との白い結婚はもう懲りたので、バリキャリ魔法薬研究員に復帰します!……と思ったら、隣席の後輩君(王子)にアプローチされてしまいました。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
秀才ディアナは、魔法薬研究所で働くバリキャリの魔法薬師だった。だが―― 「おいディアナ! 平民の癖に、定時で帰ろうなんて思ってねぇよなぁ!?」 ディアナは平民の生まれであることが原因で、職場での立場は常に下っ端扱い。憧れの上級魔法薬師になるなんて、夢のまた夢だった。 「早く自由に薬を作れるようになりたい……せめて後輩が入ってきてくれたら……」 その願いが通じたのか、ディアナ以来初の新人が入職してくる。これでようやく雑用から抜け出せるかと思いきや―― 「僕、もっとハイレベルな仕事したいんで」 「なんですって!?」 ――新人のローグは、とんでもなく生意気な後輩だった。しかも入職早々、彼はトラブルを起こしてしまう。 そんな狂犬ローグをどうにか手懐けていくディアナ。躾の甲斐あってか、次第に彼女に懐き始める。 このまま平和な仕事環境を得られると安心していたところへ、ある日ディアナは上司に呼び出された。 「私に縁談ですか……しかも貴族から!?」 しかもそれは絶対に断れない縁談と言われ、仕方なく彼女はある決断をするのだが……。

悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。

白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。 筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。 ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。 王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

変態王子&モブ令嬢 番外編

咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と 「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の 番外編集です。  本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...