ホライズン 〜影の魔導士〜

かげな

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魔道帝国学院 入学④ 新入生歓迎会 中

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今回は長めです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「次は研究所だな。」

 総合図書館でスタンプを貰ったエミリアンヌとミゲルは同じ建物にある研究所に向かって歩いている。飾り気の無い真っ白な壁はまさに研究用と言った雰囲気を醸し出している。

「何の研究室に向かえば良いの?」

「錬金術だって。エミリアンヌは錬金術について何か知ってる?」

 さっき『錬金術 失敗例』という本も探したなと思い出しながら尋ねた。

「んー。私は魔道付与ばっかりやってたから錬金術は知らないなぁ。何かよく研究室が爆発するって話なら聞いた事があるけど。」

「僕もそれくらいだね。さっき探した本、ちょっと読んでおくべきだったかな?」

「錬金術の失敗例を?」

 何がツボに入ったのかは分からないがエミリアンヌはコロコロと笑い出した。それにミゲルも笑いながら反論する。

「混ぜちゃいけないものを当てる問題が出るかもしれないだろう?」

「そうね、出るかもしれないね。」

 笑いを止められないままエミリアンヌは言う。


「ここだね。」

 研究所の2階の奥に錬金術の研究室はあった。『錬金術』とだけ書かれたシンプルなプレートが目印になっている。
 失礼しますと控えめに言いながらスライド形式の扉を開くと、机の上に板が立ててあるのが見えた。
『ようこそ錬金術研究室へ
 君達には簡単な問題を解いてもらう。いくつか選択肢を出すので、正解だと思った番号のボタンを押してくれ。正解するまでスタンプは貰えないぞ。』

「クイズ形式みたいだね。」

「簡単って書いてあるけど、僕達でも解けるレベルなのかな?」

「そうだと良いけど。」

 エミリアンヌは板に魔力を通した。すると、板に書いてある文字が変わり、机の上にボタンが4つ現れる。
『ポイズンスパイダーはその名の通り毒を持っている魔物で、毒に対する耐性を持っている。だが、一種類だけ初級クラスでも致命傷を負うタイプの毒がある。それはどれかな?
①蜂用の毒
②蛇用の毒
③鼠用の毒
④蝶用の毒』

「何の毒って事は殺虫剤とかそういうものの事かな?」

「そうじゃないか?どれも売り出されているし。」

「じゃあ蝶用の毒だね。」

 特に考え込まずにエミリアンヌは言った。

「何で?」

「蝶用の毒って、毒蝶を退治するためのものでしょう?普通の蝶用の毒なんて売ってないし。毒蝶は魔物で、毒の成分がポイズンスパイダーに似てるの。というか毒蝶の方が毒性が強い。数が少なくて限られたダンジョンにしか居ないからあまり知られていないんだけどね。
 魔物の毒耐性って大抵は自分の毒で死なないためにあるから、同じタイプでその魔物より強い毒を持っている魔物を退治できる毒ならその魔物にも効くって訳。
 あんまり錬金術は関係なさそうだね。冒険者有利な問題だし。」

 へぇ、とミゲルは感心したように言った。

「冒険者はそういう知識もないといけないんだね。」

「ダンジョンに潜るならね。普段ならそれ専用の毒があれば良いんだけど、モンスターハウスの時や毒を使い切っちゃった時に臨機応変に対応できないと死への道一直線だから。」

 ポチっとエミリアンヌは④のボタンを押した。するとボタンはスタンプの形に姿を変え、板に書いてある字も変わる。
『正解おめでとう。今持ってるスタンプをカードに押して、次の場所に向かってくれ。』

「何かこれ僕達を追い出そうとしているみたいだね。」

「そうかな?」

錬金術の枠にスタンプを押すと、ボタンなどは全て消え、板の字も最初の文章に戻っていた。

「高性能だねぇ。」

ほう、と感心するエミリアンヌの横でミゲルも才能の無駄遣いだなと褒めているのか貶しているのか分からない感心の仕方をした。


「いつまで待たせるんだ!早く終わらせられないなら次は俺らにやらせろ!」

 金の糸でこれでもかという程刺繍をして豪奢にした制服を着た少年が言った。
 訓練場、赤の寮、広場で5つのスタンプを集め、黒の寮にやってきたエミリアンヌとミゲルは魔導訓練場に地図を頼りにやって来るや否や、聞こえてきた威張り声に呆気に取られた。
 魔道訓練場には5つの列が出来ているが、新入生が多いからか1列には4、5組ずつ並んでいる。といっても一組で長くて5分程度なので、今から最後尾に並んでも20分程度しか待つ必要は無い。

「もう何分も待たせられている!俺を誰だと思っているんだ。ダンルズベルク侯爵家の三男、サイラス・ダンルズベルクだぞ!さっさと対応しないか!」

「あら、第二魔導騎士団長の息子さんなので、お世話になってるわ。地位が高いけれど常識が備わっている紳士だったわね。そして貴方はその息子さん...ねぇ。随分と残念な感じねぇ、あなた。」

「なんだと!」

 のほほんと上品に喋る赤髪に赤目のグラマラスな上級生の女生徒に、金髪に青目のいかにもという貴族然とした少年が食ってかかる。
 サイラスと名乗った少年の怒声に他の上級生はちらりと視線を向けるが、女子生徒に頑張れよと言わんばかりにキリッとキメ顔をすると新入生の対応に戻った。何事も無かった用に説明を続ける上級生に戸惑っている。

「何か楽しそうな状況になってるね。」

「そう?僕にはとてもそうだとは思えないけど...」

 コロコロと笑うエミリアンヌを見てミゲルは君の沸点はどうやら僕には理解できないようだ、と考える。

「君の顔は見たことがない。気取った話し方をしているがどうせ下級貴族だろう?なら俺に刃向かったって良いことはないと分かっているはずだ。分かったらさっさと次を俺の番にしろ!
 そこに並んでる奴も、制服は見た限り中古品だろう?金のない庶民なら俺に譲って当然だ。勿論高貴な血筋の俺に次を譲るよな?」

 偉そうに言うサイラスを周りは白けた冷たい目で見ているが、サイラスは気付いているのか気付いていないのか、態度を崩さない。

「分かったらさっさと次を俺の番にしろ!」

 赤髪の女子生徒は上品に溜め息をつくと、首を傾げた。

「貴方はこの学院が実力主義で身分が通用しない事を理解していないのかしら?」

「そんな事を言ったって、俺が侯爵家の者だという事に変わりはないに決まっているだろうが!」

 不快そうに眉を上げたサイラスに、女生徒は言った。

「これは貴方のようにコモンセンス常識の足りない貴族の子女の為でもあるのよ?世界の権力事情を把握できていない貴方達の為の。」

「貴様は俺を侮辱しているのか!?俺に学が無いとでも!?」

「貴方の振る舞いを見る限りそうね。侯爵家の三男より地位が高い人間なんてこの部屋にだけでも何人もいるもの。
 次期侯爵、皇国の一級巫女、名誉子爵。この他にも沢山居るわよ?私も魔法議会の一席を担っているわ。」

 魔法議会の議員は貴族並の権力を持っている。他と比べ、類い稀なる才能を持つ者が所属し、世界中に散らばっている。軍人200人でやっと倒せる海竜を魔法議会の中でも『まだまだ』だと評価されている魔法議員が5人で倒したと言う出来事は有名だ。
 そんな彼らは魔法士や魔道士を纏め、守る立場にある。災害級の魔物が出た際には彼らが先陣を切りその地に住む人達を纏め上げて戦い、魔力の高い人間を標的に犯罪を犯す人達を粛清して守る。多くの人々は彼らに助けられた事があるため、彼らを支持しており、信用している。それ故に彼らには高い地位が与えられているのだ。

 言葉に詰まるサイラスを見て、クスリとエミリアンヌは笑った。

「侯爵家の三男っていうのは自分で仕事を見つけないと将来平民になってしまうのに、敵を作る真似をして良いのかな?」

「この学院には将来高い地位に着く人達も多いから、例え今地位が無かろうともやってはいけないだろうね。その為にのだから。」

 二人でサイラスと女子生徒を見ていると、サイラスは顔を青くして元々並んでいた位置に戻った。彼のペアの男子生徒は呆れた目をして彼を受け入れた。この男子生徒も豪奢な制服を着ており、身分が高そうだ。


 その後は大きな問題は無く、エミリアンヌとミゲルは20分程で自分達の番が来た。

「あら、エミリアンヌ。久しぶりね。」

 先程サイラスに絡まれていた女子生徒が言った。

「うん。久しぶり、イザベラお姉ちゃん。」

 エミリアンヌは人懐っこい笑顔を浮かべる。ぎゅっとハグをすると、イザベラはミゲルに向き直った。

「こんにちは。私はイザベラ・ルイス・ロゼッティ。エミリアンヌの姉のようなものよ。よろしくね?」

 艶やかに微笑むイザベラにミゲルは慌てるでも見惚れるでもなく、優し気に微笑み「こちらこそよろしくお願いします。」と答える。こういう所が貴族っぽいんだよなぁとエミリアンヌは考えた。

「じゃあ簡単に説明すると、この空間に仮想敵を作るから、二人で3分内に倒して欲しいの。手段は問わないわ。前の人達を見て分かるだろうけど、仮想敵、作るのは魔物なのだけれど。は、切っても血は出ないし、攻撃されてできた傷はこの空間から出ればから心配しないで戦って大丈夫よ。
 3分内に倒せなければもっと弱い魔物を作れけれど、貴方達は大丈夫よね。」

 じゃあ早速始めましょう、と言ってイザベラは呪文を唱え始めた。唱え終わると、空間の先に狼ができていた。バチバチと放電している。

「サンダーウルフだね。その名の通り雷の魔法が使えるよ。」

「どうすれば倒せるんだ?」

「雷を無効化すればただの狼だよ。」

 エミリアンヌは両手を前に出して『雷無効化』と唱えると、エミリアンヌとミゲルの足元に魔法陣が広がった。

「これで良し、と。ミゲルはどうやって戦うの?」

「僕は色んな武器を使うからなぁ。今回は弓にしようかな?」

「了解、弓ね。じゃあ狼を近づけないようにするから戦うのはよろしくね。」

「ああ、分かった。」

 ミゲルは耳につけていたピアスに触れると、小声で『弓』と唱える。パッと手の近くが光り、弓が現れた。それを確認したエミリアンヌは凄いねと感想を述べて、しゃがんだかと思うと、両手を床につけてサンダーウルフの両脇に壁を作る。サンダーウルフの進路を自分達へ一直線に絞ると、サンダーウルフは勢いよく此方へ走り出した。

「勢いを削いだ方が良い?」

「いや、大丈夫。」

 ミゲルはぐっと力を込めて弓を引くとそれをサンダーウルフに向けて離した。矢はサンダーウルフの脳天に突き刺さった。雷を使って矢を燃やそうと試みるが、矢はダメージを受けない。エミリアンヌの『雷無効化』は自分達だけでなくその攻撃も含まれていたのだ。
 ミゲルがまた弓を引き、首に矢を射るとサンダーウルフは動かなくなり、それから消えた。


「良い連携ね。とってもバランスが良いわ。」

 イザベラはミゲルから受け取ったカードにスタンプを押しながら言う。エミリアンヌとミゲルは嬉しそうにお礼を言った。
 スタンプカードを受け取ると、二人はイザベラにお礼を言って次の場所へ向かった。

「良かったら黒の寮に入ってね。楽しいわよ?」

 去り際にイザベラはウインクをして二人を見送った。


「次は...緑の寮だね。あと5つだよ。」

ミゲルはスタンプカードを確認しながら言った。

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 ポイズンスパイダーと毒蝶の毒は、ここだけの話だと思って下さい。毒についての知識を作者は持っていないので、でっち上げの様なものだと思って貰えれば...
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