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【三章/極夜の終わり、唯我は蹂躙せし】その9
しおりを挟む耀子との戦いは直ぐに優劣が決まったものの、もう一時間以上も続いていた
いくら力を得ようとも所詮は人の身、神にも近しいこの身には傷一つ存在していない。
生徒会室を始め校舎は、驚異的な破壊力を発揮した耀子によって、彼女諸共に壊滅状態だった。
「何故、ですの。何故! わたくしはアナタにッ! 勝って……ッ!」
肌理の細かい肌は煤で汚れ、癖の無い金髪はぐしゃぐしゃになっている。
制服は自らの炎に耐えかねて所々穴開いている。
満身創痍の彼女は、涙ながして叫び。それでもまた立って、立ち向かってくる。
――どうして。
「どうして貴女は、何度も立ち上がるの?」
私は、闇の触手で彼女を拘束する
「なにが貴女を駆り立てるの?」
人としては異常な、熔岩のようにドロドロとし嵐の如く吹きすさぶ焔の魂。
その勢いに怯み、耀子の心を読むのを私は諦める。
彼女は私に憎しみに染まった眼光で睨み、地獄を這いずる亡者のような声で言う。
「……復讐ですわ」
「復讐?」
「わたくしの父はバケモノとは関係の無い人でしたが、ソレが故に一族内の政戦で蹴落とされ殺されましたわ」
「……」
「母は、幼いわたくしが身売りされる代わりとなり、ボロボロになるまで消耗した挙句、わたくしを怨んで自殺しましたわ」
耀子は体から、真黒い炎を上げ咆哮した。
「憎い、憎いですわ! 斎宮の一族が! ただ見ているだけだった御影様も! 円さんとヌクヌクと暮らしていたアナタも! 優しくて弱かった父も、献身的だった母も。――わたくし自身も!」
彼女の憤怒に合わせ、黒炎は勢いを増す。
「だから、アナタの力を手に入れ! 総てを壊して、壊して! わたくしの手で! 全部! 燃やし尽くして!」
「……耀子」
彼女の心からの叫び、全ての闇が私へ届いた。
「死ぃねええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
耀子の体が、魂が変質を初め、闇色の炎が尚濃く噴出し私の身を焼く。
身震いするほど心地のよい快楽、けどどこか物悲しくて私は――
「――貴女の想いは私が貰っていくわ。もう、無理をしなくてもいいのよ」
彼女の、魂の歪みだけを取った
「――ぁ」
正常な魂に戻った彼女は、悲しい顔をして気を失う。
「………………たぶん、私はもう一人の貴女だったのよ耀子」
私はそう零すと、先程から苺が足止めしている円の下へと歩いて行った。
■
月夜だけが照らすグラウンドの中央で、円と何か話していた苺は、私の姿を見つけると大仰に礼をし消えた。
「……姉さんを、殺したのか?」
彼は悲しそうな、それでいて何かを怖がるような顔を向ける。私は沈黙をもってそれに答えた。
もう、何を考えていいか解らなかった。
――どうでもいいわ。
自分に言い聞かせるように、思考を止める。
「火澄は、本当にこの地を闇に飲み込む気か」
私と向かい合う円は、これまでにない厳しい態度を取っている。
その事に胸への微かな痛みを感じつつ、余裕の笑みを浮かべた。
「愚問ね――話はそれだけ?」
「オレはっ! この地を侵すバケモノ殺すために産まれた。君への気持ちは最初は作られたものだったかもしれない! でも今はそうじゃない! 自分の意思で君が好きなんだ。愛しているんだ。だから――君と、戦いたくない」
彼は必死なって言う。
心はざわめいたが、それだけ。
冷たい目を向ける。
「それで?」
「火澄!」
「円、私はね。もう、貴方の言葉なんて信じられないの、わかるでしょう?」
「……っ!」
悔しそうな顔で押し黙る。
「でも大丈夫よ。貴方の怒りも哀しみも憎しみも悲哀も何もかも」
私はグラウンド中を、闇で覆い尽くし、
「私と共に闇の中で揺蕩えばいいのだから――」
円ごと一気に飲みこもうとして、驚愕に揺さぶられた。
「どうして!」
闇が届こうとした瞬間、光が満ち溢れそのすべてを弾きとばした。
「オレは言ったよ火澄」
円の悲しげな声。
――拙い!
後方に飛び、距離を取る。
「この地のバケモノを殺すために生まれたって、それは君が今の状況に陥った時も考慮されている」
彼は、私にゆっくりと近づく。
「つまり、君が幾らこの地の歪みを背負おうとも、オレは」
「オレは、君を殺すことが出来る」
「まぁああああああどおおおおおかあああああああ!」
私は円への身の毛もよだつ様な恐怖を誤魔化す為、激昂の叫びを上げる。
闇を操り、大地を歪め押しつぶそうとし、失敗。
空気を歪めて、窒息させようとし、失敗。
様々な方法を繰り返しながら隙を見せず、彼の力の考証した。
――攻撃効かない? いえ、まるで何かに寸前で打ち消されている様な。
幾度もの攻撃失敗の後、そこに行き着いた時。
とくん。
私の中に仕舞われている〝詩〟の魂が共鳴するように鼓動を打った。
――そう〝詩〟と同じなのね。
虫食いの記憶を思い返す。
嘗ての斎宮の巫女も一切の穢れ、歪みという歪みを受け付けない性質だった。
そして全ての負や歪みを司る私が、全ての生きとし生けるものの天敵だいうこと。
つまり〝詩〟や円は、この地において私に対抗できる例外である。
そんなモノにどうやって――
「――次は、オレの番だ!」
不利な状況に怯んだ次の瞬間。
泣きそうな声と共に、光の剣を出現させた円が私の脇腹を刺した。
「なっ――!」
激痛が身を貫く、即座に刺された箇所を不定の闇へと変え瞬時に後ろへ下がる。
しかし喰らい付くように伸びた刃はそれを許さず、私の全身を切り刻んだ。
「がっ! ぐあああああああっ! があああああああ!」
裂かれ、焼かれた箇所からちからが抜ける。
皮一枚繋がった四肢を必死で維持し横に力任せに飛び、一足飛びに殺傷領域から逃れ、そのまま無様に転げまわった。
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」
本物のバケモノとなり、なくなったはず心臓が、早鐘を撃つ幻聴が聞こえる。
血の代わりに体中を流れる歪みが、轟々と耳の中五月蝿い。
――何か、何か、何かないの!
私は心臓に手を当て鼓動を感じ――
「ふ、ふふっ、ふふふふっ」
それに思い至った。
「火澄?」
「――そうよね〝詩〟貴女は私と一緒だものね」
私は自分の魂のちからの根源ともいえるモノを詩のそれと入れ替え、目一杯動かし始める。
歪んだ力が、清浄なる力と反発し対消滅を起こす。
陰と陽の天秤が平行になり、肉体が一時的に人と同じになる。
痛みが一気に度を越えて、何も感じなくなり、上下もわからぬまま立ち上がった。
「いったい何が起っている!」
円は体を支配していた陽の浄化強制力が消え、戸惑っている。
「円、貴方が言ったのよ。――バケモノを殺すって」
「っ! それじゃあ今の君は!」
「そう、限りなく人間に近い体。そして――」
私は体が内側から崩壊しそうになるもの無視して、邪悪な意思をもつ聖なる光を伸ばし円を地面に縫い止めた。
「私の勝ちよ」
「火澄っ!」
彼はもがくが、為す術も無く。
私は光を手足のように操り、その体を侵食し始めた。
――このまませめて、魂だけでも。
偽りの心でもいいから取り込もうと、私は細胞の一つに至るまでまで犯して、犯して、そして――
「……………………何故」
何故、最後の一歩飲み込めない。全身全霊をかけて動かそうとするが、私のモノで無いと言う様に、光は少しも動かなかった。
「何故なの」
――どうして私は。
「君はオレを殺せないよ。だってそんな顔して泣いてるのヤツが、酷い事できる訳ないから」
その悲しそうな優しい言葉が体に染み渡り、遂には心から崩れ落ちる。
〝詩〟の心臓は再び闇に還り、この地全ての負が私を強制的に癒し始める。
だけど私にはもう、指先一つ動かせそうに無かった。
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