【完結・短編】もっとおれだけを見てほしい

七瀬おむ

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 それから、学校での陸斗は変わった。
正確に言えば小・中学校時代に戻ったのだが、あの四人組と一緒にいることがなくなり、俺と一緒にいるようになった。
四人は陸斗に話しかけ、昼も誘っているようだが、陸斗は全て断っている。
「祐介と一緒にいたいから」
友人にしては気持ちがこもっている言葉に、誘ってきた高岡や佐々木も困惑気味だった。
陸斗が高校からの新しい友人ではなく、俺を選んでくれることに、自然と笑みがこぼれてしまう。
キラキラとしたものではない、ドロドロとした独占欲が満たされる感覚だ。
親友に催眠術なんてかけて、俺だけのものにしようなんて。
俺はなんてどうしようもない人間なのだろうと思う。

 陸斗と歩く帰り道。
高校から家までの道は、まだなんとなく慣れない。
「祐介はどこの部活に入ろうと思ってるの?」
「いや、まだ決めてない。というか特にやりたいことないし、帰宅部でもいいかなって」
「そうなんだ。だったら俺も帰宅部にしようかな」
「いや、陸斗は運動神経もすげーいいし、どっか運動部に入ったらいいんじゃないのか? もったいないぞ……」
「えー、いやだってそれじゃあ祐介と一緒に帰れなくなるじゃん。そっちの方が嫌だよ」
俺達の家の分かれ目になる角にさしかかると、ふと陸斗が顔を綻ばせて言った。
「祐介、今日も家くるだろ?」
「あ、うん……。お邪魔しようかな」

 あの出来事以来、俺は毎日こうして陸斗の家に寄っている。
陸斗はただの親友の頃とは違う、いつも熱の籠もった目を向けてきた。
それは友情だけではない、紛れもなく恋愛感情も含んだ目だったけれども、何故か気持ち悪さは全くなかった。
帰り際に手を握られたり、ふと「好きだよ」と囁かれるのも慣れてしまった。

 むしろ、それに心地よさを感じてしまっているのだ。
だって、陸斗を友情よりもっと強い感情で独占できるから。

 陸斗の家に上がると、直子さんも不在のようだった。
俺は少しそわそわしながら階段を上がり、陸斗の部屋に入った。
二人っきりになった途端、陸斗の視線がさらに甘さを帯びたものに変わった。
「ね、祐介。キスしてもいい?」

 最初は陸斗を独占できるなら友情でも恋愛でもかまわないと思っていたけど。
「うん」
陸斗が俺に愛情表現をする度に、俺も変に意識するようになってしまって。
親友の枠を超えて、さらに強い感情を向けてくれるこの関係を手放せなくなってしまった。
「祐介、この前の返事を聞かせて」
俺は催眠術を解く方法は知らない。
だけど、もし解く方法がわかってもやらないだろう。

 だって俺も、陸斗のことを親友としてではなく、好きになってしまったから。
「俺も好きだよ」
陸斗は心の底から幸せそうに微笑んだ。
「祐介、――この時を待ってたんだ」
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