【完結・短編】もっとおれだけを見てほしい

七瀬おむ

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「陸斗。じゃあちょっと目を閉じてもらって良い?」
「何の催眠術だろうな~。おっけー、目閉じるな」
なんだか陸斗はわくわくしているように見える。陸斗はゆっくりと目を閉じた。俺の心臓がより一層どくどくと音を立て始める。
「俺が一、二、三と数を数えて、ある言葉を二回言うよ。その言葉を聞いたら陸斗はゆっくり目を開けてくれ」
本で見た手順を思い出しながら、陸斗が目を閉じてから三秒を数える。
「一、二、三……」
「あなたが目を開けると、そこには人生で一番大切な人がいます」
ゆっくりと、言葉を紡ぐ。
陸斗は目を閉じたまま、特にその言葉に反応する気配はなかった。そしてもう一度、言い聞かせるように。
「あなたが目を開けると、そこには人生で一番大切な人がいます」
「……さあ、目を開けてください」

 陸斗がゆっくりと目を開ける。
こんなのにかかるわけがない。もし失敗しても、こんなのがテレビで紹介されていたんだと言えばいい。冗談にしてしまえばそれでおしまいだ。
そう自分に言い聞かせ、陸斗の反応を待った。
「……今のってどういう催眠術なんだ?」
目を開いた陸斗は不思議そうに俺を見つめながら言った。
特に変わった様子はない。
ほら、やっぱり。カァっと顔に熱が集まる。急に自分が恥ずかしくなってきた。
そりゃそうだ、こんなの効果があるはずがない。なんとか繕わなくては。
「あ、いや……。これがテレビでやっててさ、素人でもできるってやつ。なんか元々嫌いな人でも、相手のことをすっごい大切な人と思っちゃうみたいでさ。キモイって言ってた芸人のことを、女優さんがめっちゃ好きになっちゃってたんだよ。それが面白くて」
「そうなんだ? なんか変わってるか変わってないのかわかんないな。もうちょっとわかりやすい催眠術ないのかよ~」
ははは、と笑って流された。
あんまり深掘りされなくて良かった。
今思えばこんな催眠術をためすのもよくわからないし、気持ち悪いと思われなかっただけ良かった。
自分の愚かさにため息が出そうだ。
「そうだよな。ごめんこれだけしか方法覚えて無くて。俺宿題の続きするわ」
恥ずかしさで赤くなった顔を隠すように俯き、今となってはただの記号の羅列にしか見えない数式に視線を落とした。

 正直全く集中できない宿題だが、終わらせようとシャーペンを走らせる。
自分の宿題は終わっているはずなのに、陸斗は何故か俺をじっと見ていた。チラ見どころじゃなくてガン見だ。
もしかして、変な風に思われた? とびくびくしていると、陸斗がふいに俺に話しかけてきた。
「なあ、祐介ってさあ……」
「ん?」
パッと陸斗の方に視線を向ける。
思った以上に顔が近い。驚いて、少しのけぞってしまった。
「実はまつげ長いよな。髪の毛もサラサラで綺麗だし」
「……は?」
「なんか、俺自覚しちゃったのかもしれない」
「え、何が?」
陸斗が考えこむような仕草をしている。一体どうしたのか。その瞬間、陸斗がとんでもないことを言いだした。

「オレ、祐介のこと好きだ」

 ――ん?
一瞬、時が止まったような気がした。
好き、ってなんだ。いや親友としてはもちろん俺も好きだが。
ただ、陸斗が俺をまっすぐ見る目には、なんとなく熱が籠もっているような気がして。
きっと友愛的な意味ではないと分かってしまった。

「そ、それはあの……」
「いや、恋愛的な意味で。なんかさっき祐介のこと見てて、めっちゃ好きだなーって思って。いきなりなんだけど、気持ち伝えたくなっちゃって……。
オレ、自分で自分がよくわからないんだけどさ……」

 陸斗自身も戸惑っているようだ。
え? 俺を好き? どういうことだ……。
ていうかいきなりすぎないか。今までそんなそぶりを見せたこともないし、さっきのような熱の籠もった目を向けられたこともなかったのに……。

 その時、頭の中で何かがはじけたような感覚がした。
――さっきの催眠術。
相手の「一番大切な人」になれる。
それって、俺が陸斗の「一番大切な人」……つまり友情をもすっ飛ばして、
恋愛感情も含めて「一番大切な人」になったのではないか?
つまり、あの催眠術は本当に効果があったのではないか。

 考えを巡らせていると、陸斗が俺の手を取って言った。
「ごめん。戸惑うのも当たり前だと思う……。返事は今はいらない。ただ、ずっとそばにいさせてくれ」
「あ、ああ……」
まっすぐに見つめられ、さっきよりも顔に熱が集まった。
陸斗がこうなったのは、あの催眠術のせい、つまり俺のせいなんじゃないのか。
複雑な思いを抱きながらも、「ずっとそばにいさせてくれ」という言葉が、どうしようもなく嬉しいと感じてしまった自分がいた。
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