【完結・短編】もっとおれだけを見てほしい

七瀬おむ

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 そして、次の日も、その次の日も。
陸斗は俺を昼休みに誘い、それに四人組が自然と加わって、みんなで弁当を食べるのが続いた。
「でさー、今度みんなでカラオケでも行かない?」
「え、それめっちゃいいじゃん!」
「うちらの高校の近くにあるよねー? 高校生はフリータイム超安いらしいよ!」
「まじか!? 行くしかないべ」
軽快に交わされる言葉のキャッチボールに、俺は相変わらずついて行けていない。
片岡たちは陸斗の友達として紹介された俺に積極的に話しかけることもないが、仲間外れにしようとか、そういう雰囲気は感じられない。
きっと片岡たちは悪い人達ではないのだろう。

 しかし自分の立場は、俺と陸斗の周りを囲んでいるキラキラした人間より、遠目から見ているクラスメート達の視線でわかってしまった。
これから間違いなくこのクラスの中心になる人種に向けての憧れや少しの嫉妬の目線とは違う。「なんでお前みたいな地味な奴がそのグループにいるのか」という訝しげな目線が常に俺に向けられているからだ。
「祐介? どうした?」
ハッと気がつけば陸斗が俺の顔を不思議そうにのぞき込んでいた。
相変わらず整った顔してるよなあ、なんてぼんやり考えながら、「なんでもない」と返す。
陸斗は俺が明らかに話についていけていないとき、こうやって気にしてくれる。
でも、このグループの空気は、俺にとって息苦しいものだった。


 高校生活四日目。
キーンコーン……。
四限目の終了を告げるチャイムが鳴った。
「祐介おつかれ! 昼食べようぜ」
陸斗がいつものように俺に話しかけてきた。
弁当を出そうと鞄を開けたとき、俺はあることに気がついた。
「あれ、ない……」
「どうした?」
陸斗が不思議そうな表情で声をかける。
「五限の古典で出す宿題がないんだよな……。昨日家でやってきたんだけど……」
鞄の中をくまなく探すが、提出する予定の宿題が見つからない。
どうやら家に忘れてきてしまったようだ。
高校も始まったばかりなのに、いきなり先生に目をつけられるのはまずいだろう。
「陸斗、ごめん。ちょっと家に取りに行ってくるわ」
高校から家までは歩いて十分。充分間に合うはずだ。

「おーい! 昼食おうぜー! 屋上いかね?」
片岡たちが陸斗を呼ぶ声が聞こえた。
「おー、わかった。祐介、授業遅れるなよ!」
陸斗も納得したようで、そう言い残して片岡達のところへ向かっていった。
俺は昼休みに弁当を食べることは諦め、家に宿題を取りに帰ることにした。


 授業開始まで五分前。
やはり宿題は家に置きっぱなしになっていたようだ。取りに戻り、なんとか間に合った。
教室に入ろうと、ドアに手をかけた時、ふいに声が聞こえた。
「それでさ、祐介くんなんだけど……」
「あー、ちょっとうちらとはノリが違う感じするよね。っていうか、祐介くんいつも一言もしゃべらないし、うちらと居て楽しくなさそうっていうか」
背筋にひんやりとした感覚を覚えた。
廊下から歩いてくる二人組。港さんと曾根崎さんだった。
まだこちらから少し距離があるが、まさか俺がここに居るとは思っていないのだろう、聞きたくなくても声が聞こえてしまう。
本人がここにいると気づかれる前に、早く教室に入らなくては。そう思っていても、身体が固まったように動かなかった。

「そうなんだよね~。陸斗の小学校からの仲って言ってたけど、どれくらい仲良いんだろう……。あんまり無理にお昼とか誘っても迷惑そうだよね」
「ねー、そういえば今日居なかったじゃん。新しい友達と食べてたんじゃね?」
無慈悲に俺の話題が続いてしまう。
思わず渚さんと曾根崎さんに視線を向けてしまう。
あ、やばい。
そう思った時にはすでに遅く、近づいてきた二人と思いっきり目が合ってしまった。
「あ……」
三人の視線が交わる。

 一瞬の出来事のはずなのに、まるで数分間目が合っていたような、そんな感覚がした。
そして渚さんと曾根崎さんは俺からとても気まずそうに目をそらすと、俺とは反対側のドアから教室に入っていた。
相手も俺に聞かれているのに気がついただろう。
俺は数秒間、ドアに手をかけたまま動けなかった。
別に、二人が言っていたのは俺の悪口だったわけじゃない。
ただ事実を述べていただけだ。
それに俺がもし逆側の立場だったとしたら、俺みたいな奴がいたら絶対にそう思うだろう。

「あ、いたいた祐介! 宿題家にあった?」
ふいに背中から声をかけられ、びくっとなってしまう。
振り返ると、いつも通りの陸斗がいた。
「あ、あった。ありがとう」
「おお! 良かった。古典の先生厳しそうだったしな。ていうかそこにぼーっと立ってないで教室入ろうぜ」
陸斗に促され、教室に入る。
席に座り、五限の授業が始まってからも、俺の頭の中に先ほどの出来事が何度もよぎる。
自然と俺はこのグループから抜けていくのだろうか、そんな予感が、現実のものになっていくのを感じていた。
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