【完結・短編】もっとおれだけを見てほしい

七瀬おむ

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「あなたが目を開けると、そこには人生で一番大切な人がいます。さあ、目を開けてください」
ああ、どうか目を開けたら、君がおれのものになりますように。

**

 ひらひらと舞う桜の花びら。着慣れない制服。
そわそわしながら目の前のクラス発表の掲示板に釘付けになっていた俺に、聞き慣れた声が響く。
「祐介! 同じクラスだな!」
振り向くと、太陽の光に照らされて、よりいっそう輝かしい笑顔を浮かべる幼なじみが立っていた。
「陸斗……良かった一緒で」
たわいもない話をしながら、早速初めての教室へと向かう。

 席に着いて担任がHRを始めるが、クラスのみんなはざわざわして浮き足立っている。
それもそのはず。誰と友達になるか、どのグループに所属するかは今後の一年間、いや、今後の高校生活を左右する大きな転機になるかもしれないのだから。
席は陸斗と離れてしまった。俺は窓側の席、陸斗は廊下側の席だ。
「ねーねー、あの人超かっこよくない……?」
「え、だれだれ?」
中学校からの友達なのだろうか、俺の前の席にいる女子達がひそひそ話しているのが聞こえる。
その女子達の一人が指を指す。指をさした方向には陸斗がいた。

 長身でスタイル抜群、さわやかで端正な顔立ち。
贔屓目なしに見ても、クラスの誰よりも目立っていた。
陸斗は中学の頃からクラスの中心であり、なおかつスポーツ万能で頭も良かった。
本人曰く「家から近いから」という理由でこの公立高校を選んでいたが、本当はもっと上の高校だって行けたはずなのだ。


 入学式も終わり、高校生活で最初の昼休みがおとずれた。
早速陸斗は「イケてる」雰囲気の男女に囲まれ、話しかけられていた。一方俺の周りには誰もいない。そりゃそうだろう、俺は陸斗とは正反対、地味で顔も格好良くないし、運動や勉強だって平凡だ。特に特徴がなくて地味な雰囲気の男に、友人作りで一番大切な時間を誰が使うというのだろう。だけど……
「祐介!」
先ほどの取り巻きをやんわりとかわし、陸斗がこちらに来てくれた。
安心とちょっとした優越感。思わず笑みがこぼれてしまう。
イケメンでなんでもできる人気者、世良陸斗は、まごうことなき俺の親友である。小学校から中学校まで今までずっと一緒に過ごしてきた。これからも変わることのなくこの親友と過ごせるのだろうと、当然のように思っていた。


「陸斗くんの友達~?」
陸斗が俺に話しかけた途端、先ほどかわされた取り巻きが一斉に俺に注目した。陸斗の友達だからか、よっぽどイケてる人種を思い浮かべたのだろう、俺の顔を見たとたん、みんな意外そうな顔をしていた。
「そ! 小学校の頃からの友達!」
何故か、陸斗に続いてぞろぞろと俺の席の周りに集まってきた。
「へぇ~! 仲良いんだな。名前なんていうの?」
「同じ小中ってすごいね!」
取り巻きは男二人、女二人の四人だった。
みんな気後れせずにどんどん声をかけてくる。
「あっ……、高山、祐介です……。よ、よろしく……」
キラキラオーラにあてられて、どもってしまった。
陸斗以外まともな友人を作ったことがないから、初対面の人とどんなノリで話せば良いかなんてわからない。
「祐介な、よろしく! 俺、片岡 将大って言いまーす! マサって呼んで!」
そこからひとしきり自己紹介が続いた。
長めの前髪にマッシュヘアーのいかにもチャラそうな雰囲気を醸し出しているのが片岡、長身で短髪黒髪の爽やかな男が佐々木、茶髪のロングヘアーでギャルっぽいのが渚さん、黒髪ミディアムヘアーの清楚でかわいらしいのが曾根崎さんというらしい。

 それから、どこの出身だ、とか、何部に入る予定だ、とか取り留めのない会話は続いた。
初対面なのに淀みなく会話が交わされ、楽しそうな雰囲気がまるで教室中に広がるようだ。そしてその会話の中心は陸斗で、みんなも陸斗のことをもっと知りたいと思っているのだろう。
俺はどこか別の世界を見ているような気持ちで愛想笑いを続けていた。
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