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後日談(全10話)※本編ネタバレあり

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「まあ、それをきっかけにロイスの特産物を買って気に入ってくれる人も多くてな。本当にありがたい限りだよ」
「そ、そうですよね……!」
 
 僕は店主の笑顔を見ながら、考えを巡らせていた。
 アルベルトがテラの本を販売しようと提案したときには驚いたものだが、もしかしてロイスの観光客を増やすためだった……のか?
 そういえばアルベルトは、テラに『ロイスの街や景色の描写を、もっと詳細にしてくれ』とも言っていたっけ。
 
「で、兄さんたち。何か欲しいものはあるかい? もう一度ロイスに来てくれたお礼に、安くしておくよ」
 
 店主の言葉に、はっと我に返る。
 僕は気になった野菜や果物を指定して、アルベルトをちらりと見た。彼も僕の視線に応えるように、ようやく口を開く。
 
「そうだな……。ちなみに、観光客からは何が一番人気なんだ?」
「やっぱり、ロイスの特産物がよく売れてるよ! 特にこれとか――」
 
 アルベルトは店に並べられた品物を見ながら、店主と話し込みはじめた。彼にしては積極的に話しかけているが、これも情報収集の一環なのだろう。
 僕は手持ち無沙汰になり、アルベルトと店主をぼうっと見つめていた。
 
「ねえ、あの人すっごく美しくない……?」
「わ、本当だ……あんなに格好いい人初めて見た」

 その時、背後からかすかに声が聞こえてきた。
 気になってこっそり振り返ると、後ろにいた女性たちがアルベルトを見て、ひそひそと話をしている。店主と話をしているからか、彼女たちの会話はアルベルト本人には聞こえていないようだ。
 そして彼女たちも、僕と同じようにテラの本を手に持っていた。

「観光で来ている方なのかしら? 気品もあって、まるで王子様みたい……」
「うん、本当に……。あ、でもあんまりじろじろ見てたら、不審に思われるよ」
「そ、そうよね。ごめん。ついこの物語の王子様が実在してたら、あのような御方なのかなって想像しちゃって」

 うっとりとアルベルトを眺める女性たちを見て、僕は息が詰まったような感覚がした。
 彼女たちの言う『王子様』――アルベルトを題材にした人物は、自然と周りを魅了してしまうほど美しくて、寡黙だけど優しい完璧な人物として書かれていた。
 ……正直に言うと、僕は実際のアルベルトと、この本の『王子』は、どこか違う印象を受けていた。けれど、城の従者たちや領民たちにとっては、アルベルトはこの本の『理想の王子様』そのものなのだろう。
 あらためて周囲を見回すと、道行く人がちらちらとアルベルトのほうを見ているのがわかってしまった。
 一般市民の恰好をしていても人の目を惹いてしまう彼を見て、僕は俯き、胸のあたりをぎゅっと抑えた。
 彼が好意的なまなざしを向けられて嬉しいはずなのに……なんでこんな複雑な気持ちになってしまうんだろう。
 
「エミル、どうしたんだ?」
 
 突然呼びかけられて、ぱっと顔を上げた。すでに店主と話し終えたのだろうか、アルベルトが僕の顔を覗き込んでいた。
 
「な、なんでもないです」
 
 僕はすぐさま笑顔を取り繕って答える。アルベルトが一瞬不思議そうな顔をしたが、「そうか」とだけ言って、それ以上は何も聞いてこなかった。
 買い物を終えた僕たちは店主に礼を言ってその場を離れると、護衛に購入した品物や本を預け、再び中央通りを歩きだした。
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