ある雪の降る日に

喜市

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17話

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コツ、コツ、コツ……

今日は、なんだか眠れなくて。
散歩がてら、学園の外を探検してみようかな。

今日の気温は10°前後と冬にしては暖かい。
羽織ったコートは熱が中に篭っていた。


時計塔のところには街灯がほかより多く、明るくなっていた。
吸い込まれるように、隣にあるベンチに座る。


ぼーっと、上を見上げる。

燦々と降り注ぐような、その星屑が放つ光は藍の空を透かして宇宙を映しているんだと感じさせる。

眼前に広がる空に、邪魔する者はいない。
遠くには満月が、淡白く光の筋を伸ばしていた。


ガクンッ
頭を下げ、俯くように足元を見る。

新しい環境のせいだろうか?それとも環境が変わっても見上げた空は同じように綺麗だからだろうか?

心としては不調だ。
最初は過去を思い出させるような出会いだった。
でも、今じゃ、

「あの温かさに安心感を与えられてたんだよなぁ。」

別に、泣くとかじゃないけど。
出会ったあの時一瞬で、心の重心が先輩に傾いていたのは確かだったんだ。

そんな想いを抱えたまま、しばらくその場に座り込んでいた。





カッ、カッ、カッ……
少し時間が経った頃だろうか、僕の元に靴の音が少し軽やかに響いてくる。

物思いにふける僕にはその音は聞こえない。

トッ、
僕の足のすぐ前に止まった革靴が視界に入った。

驚いた僕はゆっくりと顔を上げる。


「…やっぱりフレイじゃねぇか。こんな所でどうしたんだ?」

「せ、先輩っ……」

酷く心地の良さを感じさせるその声。見上げれば、幾度となく人混みの中探し続けていたその姿が、そこにあった。

伸ばしかけた手を、空中で止めた。
過去を連想させる感覚がちっぽけな理性を生む隙を作り、その動きを制したのだ。

そんな一瞬の逡巡でも、先輩は汲み取るように僕の手を引いた。

ぽすっ、と先輩の胸に収まってしまう。

「久しぶりだな。元気してたか?」

ふんわりと包まれる感覚とか、隣にいて感じていたほのかに香る先輩の匂いが、今は顔を埋めているせいで酷く僕の頭を惑わせていることとか。

身を案じていた心配事はすっぽりと抜け落ち、ただただ安堵の波だけが襲ってきていた。

先輩がそう言って僕を抱き締め返してくれる。


恥も外聞も捨てて、今だけは…

ぎゅっと、先輩がコートの下に来ているシャツを握る。

「なんだ?会えなくて寂しかったのかー?」

悪ノリするかのようにそう言う先輩。
だが今日は、そのノリに返すことは出来なかった。

首や耳には熱が篭っているのがわかる。

「…うん。」

そう返事するのが精一杯で、上なんて向けずにいた。

「っ……」

ゴクンと息を飲む声が上から聞こえる。
一瞬、腕にこもる力が強くなったように感じた。

が、その腕もすぐ離れてしまった。
その空間の終わりを惜しむように、僕もシヴァン先輩からそっと離れる。

「…どうしてこんな時間に、外に居るんだ?」

その質問は至極真っ当だ。

「今日、ちょっと寝れなくて。星を見に来たんです。」

綺麗だったから。
そう言えば先輩も、空を見上げた。

サァッと静まり返ったそこは夜更けを感じさせる。


「寝れないんだろ、俺の部屋でも来るか?」

先輩はそっと僕の頭に手を置く。

魅力的なその提案を、僕は断れるはずが無かった。
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