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歓迎パーティー①

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 私は本日のお供、長い白い毛が特徴なサーラちゃん(♂)を抱きしめて、耐えている。

「ねぇ、そんなに硬くならなくて大丈夫だよ。僕はただ、君と友達になりたいんだ」

 王太子の誘いとキラキラオーラに、必死に耐えている。
 何故、こんなことになっているのか。



 遡ること五日前。
 この学園では、新入生が入ると毎年5月中に歓迎パーティーが開かれる。
 と、言うことで私もおめかしすることに。
 いくら、公式ではないとはいえ、貴族の多いこの学園では、それなりの体裁を整える必要がある。
 更に言えば、この会でデビューを迎えることになる。それは、私を含め、他の女子もそうだ。その為、親が子のためにドレスやなんだを用意する。

 しかし、私にはそれは無い。
 母親から止められているからだ。
 父親はそんなことはつゆ知らず、手紙でドレスを送った旨が書かれていたが、その手紙が届いたのは、入学した二週間後だった。
 そして、今日はパーティーから五日前という日付。うん、これは途中で邪魔されて届いてない感じだな。約一ヶ月経ってもドレスが届かないのはあり得ない。
 と、言うことで私は自分のツテに声掛けた。

「ご無沙汰してます、リンヴィーラ様。本日は私に声を掛けてくださり、誠に有難く光栄でございます」

 ミセス、ヴォンドラに来て頂いた。
 彼女とは、仕事の関係で普段からお世話になってる人物の一人だ。
 コルセットを無くさせたファッションから始まり、彼女と手を組んで世の女性のファッションの最先端を作っている。

「話したとおり、五日後には学園のパーティーがありますの。それに向けてドレス一式を頼むわ」
「承知致しました。では、早速時間に限りがありますので進めていきたいと思いますが、宜しいでしょうか」

 仕事も話も早くて助かる。
 そう、彼女は私の家庭事情を知っている極一部の人間でもあるのだ。
 私の方から、仕事に当たって何かと支障が出る前に話したのだ。

 普通であれば「ドレスは両親が届けてくれるはず」なのだ。

 しかし、私にはそれが無い。
 今回もミセス、ヴォンドラは察して話を進めてくれた。

 私は、一つの紙を取り出し彼女に渡す。

「こちらの型をベースに作って欲しいのですわ。色やデザインはミセス、ヴォンドラに任せます」
「!またこれは…ふふ。作りがいがありそうな案ですわね。私も腕が鳴りますわ」

 どうやら、彼女から見ても良い案だったらしく、早速店に戻って取りかかってくれるとのこと。

 さて、私も取りかかりますか。
 本当は、ドレス制作は私がしても良かったのだ。しかし、別のやることがあったため、今回は彼女の手を借りることにした。

 その、やらなくてはいけない事とは、パーティー内で披露するパフォーマンスだ。
 新入生はダンス、音楽、武芸、芸術作品の中から一つ選択し、大勢の人の前で発表するのだ。
 なので、通常のパーティーより皆、気合いが入っている。
 運が良ければ、高位貴族から目を付けてもらえるかもしれないからだ。
 皆、それぞれの得意分野を活かして練習中である。

 私もそうしなければいけないんだろうが、とてもやる気が出なかった。
 今もやる気が出ない。
 何故、自分の嫌いな物に囲まれて、ホールのど真ん中で披露しなければいけないのか。
 はぁ…。しんどい。
 どうしても考えるだけでもしんどくて、他のことに逃げてしまう。

「うさちゃぁん!」

 逃げ先は愛しのペット、ウサギである。
 もふもふの山に身を投げて、埋もれる。
 ウサギは、いつものことと慣れているため、おのおの好き勝手に過ごしてる。
 飼い主が自身のお尻に埋もられると、驚きつつもそれ以上はしないので、大きな目をしながらも、むしゃむしゃ草を頬張る。
 お互いマイペースで、良い関係である。

 


 そして、パーティー当日。
 結局、出し物はヴァイオリンにした。
 楽器はヴァイオリンとピアノを嗜んでいる。
 普段から教養の一貫でしていたので、披露するのに問題ない。それに、別に上の者から目に留まって貰うなんて全く望んでないので、これが妥当だろう。
 ミセス、ヴォンドラに頼んだ見事なドレスを身に纏い、会場へ向かう。
 
「ご機嫌よう、ステアトローネ・リンヴィーラ様。そちらは、本日披露される道具とお見受けします。こちらでお預かり致します」

 扉の前に来ると、警備の者がそう声掛けてきた。私は言われた通り、ヴァイオリンをその者に渡す。

「そちらのウサギは、理事長から話しは聞いています。どうぞ、パーティーをお楽しみください」

 本日はサラサラな毛を持つサーラちゃん(♂)をお供に連れてきた。
 見た目も美しく、本人もよく美を意識して毛づくろいをしている。男の子なのに、綺麗な子だ。

 ヴァイオリンを彼に預け、いざ輝かしくも私には敵の巣窟へ向かう気持ちで足を踏み入れた。


 ざわついていた場合が一瞬、静けさに染まった。
 カツコツとヒールから床を歩く音が、辺りに響く。そして、少しずつあちらこちらから小声でザワつきだす。
 プラチナと紫の長く綺麗な髪を複雑な髪型に結い上げ、髪飾りと場内の照明でキラキラ輝いて見える。更に新しいドレスにより、どこの誰よりも目が惹くデザイン。通常は腰の細さを強調させて胸は強調させた作りに、下は大きく膨らみ存在感を強調とインパクトがある物だった。
 しかし、彼女が着ているのは、彼女の髪色に合わせた スミレ色の淡いレースをあしらった可愛らしくも、彼女らしい知的さが溢れた物だった。
 これまで、ドレスに淡いカラーを使うことはなかったうえに、彼女の不思議な魅力に、人々は釘付けになっている。

(ウサギ?)
(あの毛の固まりは…)
(長い耳があるからウサギか)

 更に、腕に抱えるウサギも注目されていた。
 こちらも世間で知るような種類ではなかったため、この場をざわつかせている、一つだ。

「ぶふん」

 その人々の反応にご満悦なサーラちゃんであった。

 あら?パーティーなのに、やけに静かね。何かあったのかしら?
 まさか、自分が注目の的になってると思わず、静々と歩く。目の前に人がいても、何故か波が引くように避けていくので歩きやすい方だ。

「サーラちゃんの好物なバナナはあるかしらね?」
「ぶふー」

 そんな、場合を騒がしている元はマイペースにパーティーに参加したことにより、周囲もようやく元の賑やかさに染まっていった。

 よし、サーラちゃんのご飯も確保したし(バナナとリンゴ)、私は飲み物でも頂きましょうか。

 壁の花になろうとしていたところ、一際大きなファンファーレがなった。
 王族の登場である。
 今回は、王は他国へ出向いていて来られなかったが、王妃とその幼い少年…第二王子を連れて登場した。
 この学園には、第一王子が通われている。
 その為、王下の方も挨拶に参ったのだ。

 あら、王妃が来たならば挨拶しなくてはね。
 農業のことについて、一度顔を合わせたことがあった。今も直接やりとりはしてない物の、お世話になっているので、食事を中断しサーラちゃんを抱えて、王妃の元へ足を運んだ。

「あら、ご機嫌よう、リンヴィーラ嬢。そういえば、貴方も今年から飛び級で入学したわね」
「ご無沙汰してます、アリアーナ王妃様。はい、私情の都合により、今年から入学させて頂きました」
「ふふ、そんな私情で入れるなんて貴方ぐらいだわ」

 久々に顔を合わせたが、元気なようで私も安心した。今後も、ウサギのために環境を改善するべき所はしなくてはいけないので、新たな人脈を作るなんてことがあれば大変なのだ。

「今日は下の息子も連れて来ましたの」

 そう、言って視線を動かせば幼い幼児が私とウサギを交互にじっと見ていた。

「王子、お初目にかかります。ステアトローネ・リンヴィーラと申します。いつも貴方のお母様とお父様にお世話になってる者です」

 そう自己紹介を述べ、軽く頭を垂れながらスカートの端をつかんで挨拶する。

「は、はじめまちて。ケレディ・アリアーナです。4歳です!」

 そう言って、ぺこりと初々しい姿で挨拶を返してくれた。

「ウサギが気になりますか?」
「!あ、いえ!その…」

 ケレディ王子はしまった!と言う表情をして、慌てて否定したが、やはり気になるようでサーラちゃんをチラチラ見ていた。
 流石に、こんな幼くて大人しい少年が酷いことするわけないだろうとサーラちゃんを目の前に置く。

「宜しければ、どうぞサーラちゃんをお触りになってください」
「!良いのですか?」

 王妃にも目で確認すると笑顔で応じた。

「ケディ、リンヴィーラ嬢のウサギに触れることはとても名誉なことです。どうぞ、触ってあげてください」

 お母様のきょかをもらい、さっきまで緊張で硬かった表情がぱっと明るくなった。

「わぁ!このウサちゃん、きれいでサラサラ」

 そう言われて、優しい手つきで撫でられてまんざらなさそうな表情で、こちらもふんぞり返っていた。
 そうよね、いつも綺麗好きで毛皮が自慢だから、嬉しいわよね。

 私もその状況を表情は変わらないが、暖かく見守った。



「ご機嫌よう、お初目にかかります。レディ」

 王妃がいる壇上から下りると、一人の青年が声を掛けてきた。はて、確かに始めてみるが、顔立ちはなんだか見覚えがある感じがする。
 無視したいところだが、いきなり無下にするのは良くない。仕方なく、彼と顔を合わせた。

「…ご機嫌よう、私に用で?」
「僕のことは聞いたことないかな」

 初対面でなんでしょう、彼は。早くも対応するのが嫌になった。聞いたこと?ないわよ。

「申し訳ありませんが、分かりませんわ」
「そっかー。結構学園では有名だと思ったんだけどな。僕はクラウディ・アリアーナ。この国の第一王子だよ」

 なる程、この人はこの人のお父様、つまり王に顔立ちが似ているのだ。この薄笑いで裏で何考えてるか分からないような表情が、瓜二つである。

 これは、早々に話を終わらせよう。

「そうでしたか。ご存じないとはいえ大変、失礼しました」

 そう告げ、頭を垂れる。建前で。

「いや、気にしなくて大丈夫だ。僕もまだまだだったと言うことだし。確かに生徒会長とはいえ、なかなか外には出ないからね」

 聞いてもいないのに、ベラベラと話してくれる。まぁ、順調にいけば国のトップにいずれなる人だ。ここで統率を学んで、本番で活かせるように練習しているのだろう。

「そうでしたか。この学園の生徒会長をお勤めでいらしてたんですね。私は、リンヴィーラ侯爵の長女、ステアトローネ・リンヴィーラと申します。と、申し訳ないですがサーラちゃんのご飯が途中なので失礼させて頂きます」

 普通は自分から切り上げるのは失礼だが、毎回、これで通用している。今回もいけるかなと思って告げる。

「サーラちゃんと言うんだね。食事させながらでも構わないよ。リンヴィーラ嬢も食事は済ませたかい?そこの給仕に運んでもらうよ。…ねえ、そこの君」

 何故か、許可もしてないのに勝手に着いてくることになった。
 どう言うつもりだと睨みたいが必死に押さえて、彼が給仕を呼んでる間に、先にその場を後にした。構って貰うなら他を当たりなさい。

 しかし、結局彼は、世間には爽やかな笑顔に、私には薄気味悪い笑みに感じる顔でこちらに来た。

 が、良いタイミングでそれは訪れた。

「ステアトローネ・リンヴィーラ、前へ!」

 お披露目の順番が回ってきたからだ。
 しかし、それでも彼は「貴方のお披露目、楽しみにしているよ」と耳元で囁いた。
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