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素敵な場所だった。
絵本の世界かと思うくらい一面に咲く白い花々。
隣には離れたいと思っても離れることが出来ないベネディクト様。
幸せな時間だったことは確かだ。今後、城内でどのような扱いを受けようが、あの一時を思い出せば辛くはない。
こんな私を外に連れ出してくれたベネディクト様には感謝しきれないでいた。
あの丘で摘んだ花を花瓶に挿し、毎日眺めることが私の唯一の楽しみでもある。
きっと、周囲から見れば私は幼子みたいだと思われているはずだ。それでも、この花々を見ていると昨日のように思えて幸せな気分に浸れる。
部屋付きの侍女が、廊下が騒がしいというので確認しに行ったと思えば、慌ただしく戻ってきた。
元々、私が皇女として宮中にいたときより仕えてくれていた者だから心許している。その者が慌てているということは、ベネディクト様以外の者がここを訪ねてくるということだ。
「クリスティーナいるのでしょ」
この声を聞き間違えるはずがない。会いたくても、距離があり中々会うことの出来なかった人物の声なのだから。
――――母上
すぐに声に出してしまいたかった。だが、声を出すことよりも先に涙が溢れ出てくる。
母に甘えるような年頃ではない。だけれども、久しぶりに会うことが出来る、そのことがとてつもなく嬉しくて仕方がなかった。
それに、母は滅多なことがない限り現在床に臥せている皇帝陛下のそばから離れない。
そんな母上が私を訪ねてくるなんて、何がったのだろうと思いながら部屋へと招く。
「ああ、クリスティーナ久しぶりね。そんなに泣かないで頂戴。愛しい我が子、会いたかったわ」
侍女も気を効かせてくれたため、久しぶりに母とふたりきりになれた。
持ち歩いているハンカチを差し出され、目元の涙を拭くように促される。有難く受け取り、涙を拭く。
窓辺のソファに座っていたため、横に座るように促す。
「私も母上にとてもお会いしたかったです」
「あなたにそう思われていて嬉しいわ。ベネディクト殿下がなかなか、あなたに会わせてくれなくてね」
「ベネディクト様が?」
その名前を聞くまでは、どれだけ再開を喜べただろうか。
母から聞かされた名は、私の夫である人の名前だ。
あの人が部屋に訪れていたのは、私と母が接触していないか監視するためだったのか。
何も知らない。何も聞かされていない。
「てっきり、私。…母上に見捨てられたかと思っていました」
「私がそのようなことするはずがないでしょ。お腹を痛めて産んだ、愛する我が子なのですから」
怒りなのか、悲しみなのかごちゃ混ぜになった感情がわからない。
手を握られるが、握り返すだけの力が私にはない。
母は涙を浮かべながら「あなたは私の大切な宝なのよ。亡きお父上だってそのはずです」と、言いながら握り返せないでいる私をそっと私を抱きしめてくれる。
懐かしく感じる、この感覚、匂い。母の暖かさに私は酔っているのかもしれない。
いつも感じていたベネディクト様が与えてくれる温もりとは違う。柔らかさを持つ女性特有のものでと、柔らかくはないがしっかりとした安心感を与えてくれるのでは違うのは仕方がない。それに、ベネディクト様に抱き締められると、胸が苦しくなる。
だえれど、母の言葉を聞いたあとでは、あの温もりは偽りのように思えてしまう。
「城から出ないあなたが最近、外出したと聞いたときは倒れるかと思いました。でも、あなたの夫君が一緒にいたのでしょ」
「ご心配を掛け、申し訳ございません」
「いいのよ。全てはベネディクト殿下から報告を聞いているから」
母の許可が必要だとは言った。だが、彼は王太子妃に必要はないと、そう断言したのに。それなのに、母に事後報告を行っていたなんて。それさえも、私は知らずに幸せな気分に浸っていたなんて。滑稽すぎる。
だから、私は「籠の鳥」と呼ばれているのだろう。夫にすべて管理されている妻など、籠の鳥で十分ではないか。それなのに、彼は私に外の世界を知れと言い、手を差し伸べてきた。何故なの。
私はどうしたらいいのかわからない。母と故意に引き離されているなど、誰が想像するだろう。
母の前で泣いてはいけないと言い聞かせながらも、涙は勝手に流れだす。
枯れたはずの涙が何故、流れてくる。今日はなんて最悪な日なのだろう。
「母上、私は…もう無理です」
「…どうしたのかしら?あなたは弱音を吐くような子ではないでしょ」
母と離れた数年。母の中での私はベネディクト様と婚姻を結ぶ前で止まっているのだ。
私はあの日以来弱くなった。誰が見てもわかるほどに弱くなった。
それなのに、母には皇女であったときの私しか映っていないのだ。
「母上に会うことが叶わずにいたこの数年間、私のそばにはあの方しかいませんでした。私は、家族が…母上が、ブリアナが、好きなのです」
「…そう。私の可愛いクリスティーナ」
背中を擦られるが、そこには母の愛情を感じることが出来ない。ただ、義務のよう擦られているように感じてしまう。
皇女の時から成長を止めた私しかみていない母に、いままで貯めていた全ての感情をぶつけた。だけれど、それさえも、母にとっては弱音という言葉で片づけてしまうのだろう。
この感情をベネディクト様にぶつけていたら、彼はどう返してくれただろう。きっと、厳しい言葉を述べたとは思うが、その言葉の中には優しさがあったはず。
だけれど、感情を全て彼に向ければ、私は母に見放されたようにベネディクト様にも見放されてしまったらと考えると出来るはずもない。
「あなたの夫は悪い人ね。こんなにもあなたを追い詰めて。きっと愛する人が他にいるのでしょ」
発せられた言葉に、身体がぴくりと反応し母を押し退ける。
私の行動に驚いたのか、目を見開いたかと思えばすぐに優雅な顔つきへと変わる。
私を「何れ、国母となる存在」「妃」と言ってくださったのに愛する人が他にいる?
何を言っているの?あの人が私に嘘を吐いているというのか。
そして、私の口は勝手に紡ぐ。
「私はベネディクト様に見放されるのでしょうか?」
この言葉がなにを意味しているのか自分自身でもわからない。
ただ、母上は「そんなことはないわ。だって、あなたは王太子妃なのだから」と少し上がった口角に、笑っていない目元。
ただ、ここには嘘しかないことがわかった。
この王城で本当に信じられるは誰?
絵本の世界かと思うくらい一面に咲く白い花々。
隣には離れたいと思っても離れることが出来ないベネディクト様。
幸せな時間だったことは確かだ。今後、城内でどのような扱いを受けようが、あの一時を思い出せば辛くはない。
こんな私を外に連れ出してくれたベネディクト様には感謝しきれないでいた。
あの丘で摘んだ花を花瓶に挿し、毎日眺めることが私の唯一の楽しみでもある。
きっと、周囲から見れば私は幼子みたいだと思われているはずだ。それでも、この花々を見ていると昨日のように思えて幸せな気分に浸れる。
部屋付きの侍女が、廊下が騒がしいというので確認しに行ったと思えば、慌ただしく戻ってきた。
元々、私が皇女として宮中にいたときより仕えてくれていた者だから心許している。その者が慌てているということは、ベネディクト様以外の者がここを訪ねてくるということだ。
「クリスティーナいるのでしょ」
この声を聞き間違えるはずがない。会いたくても、距離があり中々会うことの出来なかった人物の声なのだから。
――――母上
すぐに声に出してしまいたかった。だが、声を出すことよりも先に涙が溢れ出てくる。
母に甘えるような年頃ではない。だけれども、久しぶりに会うことが出来る、そのことがとてつもなく嬉しくて仕方がなかった。
それに、母は滅多なことがない限り現在床に臥せている皇帝陛下のそばから離れない。
そんな母上が私を訪ねてくるなんて、何がったのだろうと思いながら部屋へと招く。
「ああ、クリスティーナ久しぶりね。そんなに泣かないで頂戴。愛しい我が子、会いたかったわ」
侍女も気を効かせてくれたため、久しぶりに母とふたりきりになれた。
持ち歩いているハンカチを差し出され、目元の涙を拭くように促される。有難く受け取り、涙を拭く。
窓辺のソファに座っていたため、横に座るように促す。
「私も母上にとてもお会いしたかったです」
「あなたにそう思われていて嬉しいわ。ベネディクト殿下がなかなか、あなたに会わせてくれなくてね」
「ベネディクト様が?」
その名前を聞くまでは、どれだけ再開を喜べただろうか。
母から聞かされた名は、私の夫である人の名前だ。
あの人が部屋に訪れていたのは、私と母が接触していないか監視するためだったのか。
何も知らない。何も聞かされていない。
「てっきり、私。…母上に見捨てられたかと思っていました」
「私がそのようなことするはずがないでしょ。お腹を痛めて産んだ、愛する我が子なのですから」
怒りなのか、悲しみなのかごちゃ混ぜになった感情がわからない。
手を握られるが、握り返すだけの力が私にはない。
母は涙を浮かべながら「あなたは私の大切な宝なのよ。亡きお父上だってそのはずです」と、言いながら握り返せないでいる私をそっと私を抱きしめてくれる。
懐かしく感じる、この感覚、匂い。母の暖かさに私は酔っているのかもしれない。
いつも感じていたベネディクト様が与えてくれる温もりとは違う。柔らかさを持つ女性特有のものでと、柔らかくはないがしっかりとした安心感を与えてくれるのでは違うのは仕方がない。それに、ベネディクト様に抱き締められると、胸が苦しくなる。
だえれど、母の言葉を聞いたあとでは、あの温もりは偽りのように思えてしまう。
「城から出ないあなたが最近、外出したと聞いたときは倒れるかと思いました。でも、あなたの夫君が一緒にいたのでしょ」
「ご心配を掛け、申し訳ございません」
「いいのよ。全てはベネディクト殿下から報告を聞いているから」
母の許可が必要だとは言った。だが、彼は王太子妃に必要はないと、そう断言したのに。それなのに、母に事後報告を行っていたなんて。それさえも、私は知らずに幸せな気分に浸っていたなんて。滑稽すぎる。
だから、私は「籠の鳥」と呼ばれているのだろう。夫にすべて管理されている妻など、籠の鳥で十分ではないか。それなのに、彼は私に外の世界を知れと言い、手を差し伸べてきた。何故なの。
私はどうしたらいいのかわからない。母と故意に引き離されているなど、誰が想像するだろう。
母の前で泣いてはいけないと言い聞かせながらも、涙は勝手に流れだす。
枯れたはずの涙が何故、流れてくる。今日はなんて最悪な日なのだろう。
「母上、私は…もう無理です」
「…どうしたのかしら?あなたは弱音を吐くような子ではないでしょ」
母と離れた数年。母の中での私はベネディクト様と婚姻を結ぶ前で止まっているのだ。
私はあの日以来弱くなった。誰が見てもわかるほどに弱くなった。
それなのに、母には皇女であったときの私しか映っていないのだ。
「母上に会うことが叶わずにいたこの数年間、私のそばにはあの方しかいませんでした。私は、家族が…母上が、ブリアナが、好きなのです」
「…そう。私の可愛いクリスティーナ」
背中を擦られるが、そこには母の愛情を感じることが出来ない。ただ、義務のよう擦られているように感じてしまう。
皇女の時から成長を止めた私しかみていない母に、いままで貯めていた全ての感情をぶつけた。だけれど、それさえも、母にとっては弱音という言葉で片づけてしまうのだろう。
この感情をベネディクト様にぶつけていたら、彼はどう返してくれただろう。きっと、厳しい言葉を述べたとは思うが、その言葉の中には優しさがあったはず。
だけれど、感情を全て彼に向ければ、私は母に見放されたようにベネディクト様にも見放されてしまったらと考えると出来るはずもない。
「あなたの夫は悪い人ね。こんなにもあなたを追い詰めて。きっと愛する人が他にいるのでしょ」
発せられた言葉に、身体がぴくりと反応し母を押し退ける。
私の行動に驚いたのか、目を見開いたかと思えばすぐに優雅な顔つきへと変わる。
私を「何れ、国母となる存在」「妃」と言ってくださったのに愛する人が他にいる?
何を言っているの?あの人が私に嘘を吐いているというのか。
そして、私の口は勝手に紡ぐ。
「私はベネディクト様に見放されるのでしょうか?」
この言葉がなにを意味しているのか自分自身でもわからない。
ただ、母上は「そんなことはないわ。だって、あなたは王太子妃なのだから」と少し上がった口角に、笑っていない目元。
ただ、ここには嘘しかないことがわかった。
この王城で本当に信じられるは誰?
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