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3章

逃げ去るように帰宅!

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 あのあと、ユーゴが帰宅するのを待たずして屋敷に戻った。
 屋敷に帰れば、皆の雰囲気が落ち着いていない。
 どうしたのだろう?
 誰かに声を掛けたいが、部屋に誘導される運びになっているみたいだ。
 仕方がないから、ミーナと数人を引き連れて、大人しく部屋に向かう。
 プレゼントされたドレスを脱ぎ捨てて、部屋着に着替えたい。ベッドに倒れ込みたい。という、欲求を我慢しながら椅子に座る。
「ゆっくり、お休みください。明日はグラッチェですからね」
「そうね。ごろごろしながら、本でも読もうかな」
 クスクスと笑い声が漏れる。
 あっ、言葉選びを間違えてしまった。
 ジロリとミーナに睨まれ笑っていた者が、一瞬で真顔に戻る。
 私付の侍女というよりも、この屋敷の者たちは基本的に友好的だと思う。
 父のというよりも、屋敷の方針として、働きやすく住みやすいを方針にしているから、なかなか仲がいいはずだ。
 疲れたから、ゆっくり休みたいと伝えればミーナも煩く言わないだろう。
 でも、先程の落ち着かない雰囲気について聞きたいな。
「ねぇ、ミーナ。カモミールが飲みたいな」
「わかりました」
 ミーナが準備に取り掛かってくれている間に他の者たちに、動きやすい服に着替えを頼んだ。
「ねぇ、何で今日は皆そんなに落ち着きがないの?」
 着替えを手伝っていた者が、固まってしまったか、どうしたのだろう。
 何か聞いてはいけないことを聞いてしまっているのだろうか。
「あの…」
 また、別の者が言いにくそうに「ここだけの話なのですが…お嬢様が夕べ帰宅なさらなかったことで、奥様はご存知だったのですが…、その旦那様とケイ様は存じていなかったようで」と恥ずかしがるように顔を真っ赤にしている彼女は、私と年も近い者だ。
 彼女が口ごもれば固まっていた者が「お嬢様に限って、その純潔を捧げるなどしていないですよね」と、声を荒げたものだから、驚きすぎて「はい?」と、間抜けすぎる声が漏れた。
 純潔とは、その…あれだ!初夜に行うことだ。それなに、まだ婚姻も結んでいない私が何故そのようなことをしなくてはいけないのか。
 聞いてしまった自身も恥ずかしくなり、ミーナが来るまでが長く感じられた。





 カモミールを口に含めば、先程までの気持ちが落ち着いた。
 緊張感が屋敷に戻ってからなくなったために、だんだんと眠くなってきた。
 幸い動きやすい服のために、すぐに寝ることが出来る。
 一杯飲んでから、ミーナたちを下がらせベットに転がり込むようにして眠りにつく。
 夕食ごろになったら、誰かが呼びに来るだろう。
 そんな気持ちで眠りにつく。




 後ろから優しく抱き締められ私の髪を優しく撫でてくれる。
 それが、くすぐったくて身を捩る。そんな私の旋毛にキスを落としていく。
 恥ずかしくって下を向けば、首筋に吸い付くように舌を這わせられる。
 その感覚にゾクゾクしながらも、好きだと言う気持ちが溢れる。
 次の瞬間に「可愛い花嫁」と言われて目が覚めた。
 その声の主がユーゴだったのかは、わからない。
 でも、こんな恥ずかしい夢を見るなんて、どうしたらいいのだろう。
 恥ずかしくなりすぎて、夕食だと呼びに来た者に体調が悪いから欠席すると伝えてもらった。
 先程の夢にドキドキしすぎて、落ち着けない。
 また、カモミールが必要かもしれない。
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