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3章

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「ユーゴには、わからないかもしれないけれど、これからデビュタントを迎えるアンジュ様には、味方が多いに越したことはないはずよ。ミーシャ様にカロリーナ様。あのお二方以外にも女性での知り合いを作られた方がいいと思うのよ」
「それは、どういうことですか。私だけでは彼女を守りきれないとでも」
 立ち去ろうとしていたがジェーン様のひとこで、その場を動かなくなり、腰に回されている腕の力が強くなり痛いほど引き寄せられる。
「ええ、そうよ。殿方が女の争いに口を出せば出すほど酷いものになるわ。それに、貴方には侯爵家の跡取りとしての社交があるでしょ?」
 うっとりと満足げな笑みを浮かべていたはずの人が、諭すような顔をしていたのでどうしたらいいのか、困惑してしまう。
 兄に関しても、驚きすぎて仮面が剥がれ始めている。もともと、そんなにいい仮面なんてつけていなかったが。
「貴方、自身がどれだか令嬢の的になっているか気付いていないのかしら?」
 細目ながら此方を見つめるジェーン様は、無知では痛い目をみると語っている。
「ジェーン嬢、それ以上は」
「ケイ様はお優しすぎますわ!!ご自身の妹君であるアンジュ様が次の夜会において何れだけ注目されているか、知らないはずがないでしょ!!」
 私の耳に入っていないだけで、次の夜会で正式にデビューすることになっているらしい。
 しかも、家族でもないジェーン様がそれを知っているということは、いまこの場にいる人たちの大半が知っているのだろう。
 睨み付けるのは、私の印象がよくなくなるから、じーっと見つめることにした。
 何かを訴えるときには、見続けることに効果があると母は言っていた。
、私そのお話きいてませんが」
「アン、それはだな」
 見続けたためか、知られては不味いものを知られたからかは、わからないが兄は冷静ではない。
 そして、普段はと呼ばれていないため、「お」を強調されたためか。
「ミーナも言ってたけれど、何故私以外の者が知っていて、私は知らないのですか?」
「それは、父さんがだな」
 抑揚ある声ではなく、もう一定の声域でしか出てこないためか、兄が狼狽えている。ここは、いつも冷静な兄でいて欲しかったが無理だろう。隠し事が下手すぎる。
 内心イライラしそうになっていると、頭上から「アンは僕にエスコートされて夜会に出席にするのは嫌い?」と、ボッソっと呟くような声が聞こえる。
 取り繕わないユーゴの本音だ。
 ユーゴにエスコートされることに、不満などないが、勝手にデビューを決められたことに不満がある。
「ユーゴにエスコートされることは好きよ。だから、勘違いしないで。ただ、お兄様に隠し事をされたことが悲しいの」
 悲しいなんてものじゃない。むしろ、デビューのために色々考えることが楽しいというのに、それを全て屋敷の者たちに捕られたのだ。
「そうなら、よかった。それと、ジェーンとは仲良くしていて損はないと思うよ。彼女、噂通りの人間ではないから」
 安心したのか、照れながら優しい笑みを浮かべていた。
 でも、引っ掛かるのはジェーン様を呼び捨てにしていることだ。
「婚約者様のお許しも出たことだから、貴女とは長く付き合いたいわ。アンジュ様」
 兄から離れ此方にやって来たジェーン様に両手を包み込まれた。
 そして、可愛らしい笑みをしているので私の方が恥ずかしくなり、もじもじとしてしまう。
「ジェーン様、その色々とよろしくお願いします」
 小さな声で伝えてみると、「食べたくなるほど、可愛い」と、言われたので目を大きく見開いてしまった。
  そして、何故かユーゴが「アンを食べていいのは、私だけです!」と宣言しているので、勝手に私は食べ物にされているらしい。
  ハムか何かと間違えるのだけは、やめて欲しい。最近、ちょっぴりお腹のお肉が気になっている情報を何処で知り得たのかは、知らないが。
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