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3章

待人来たり!

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 まあ、と声を出しそうになるが、先程まで言い合いっぽいことをしてて、喉に多少ダメージがかかっているためか、しわがれたお婆さんのような声になってしまう。
 こほんと、咳払いをして喉の調子を整えてから、優雅に手を振る。
 優雅に手を振っているはずなのに、淑女はそんなことしませんと、いう視線が後ろからガンガンに伝わってくるが無視させて欲しい。
 ユーゴも手を振り替えしてくれるので、嬉しくて笑顔になれる。
    それにしても、グラッチェと着替えた部屋がこんなにも近いとは思わなかった。仕事が終わったと思ったら、すぐに迎えに来てくれ、そのまま引きずられるまま部屋に入ったので道のりなど覚えていない。
 徐々に近付いてくるユーゴの顔は、花が咲いたような笑顔をしている。
「アン、そのドレス身につけてくれたんだね」
「えっ、これが用意されていたから着たのよ。ミーナがこれ着てくださいって、着替えさせてくれたの」
「…似合っているよ」
 一瞬だけどユーゴが固まった気がする。何事もなかったかのように、笑みを浮かべているから気のせいかな?
 そのまま、香水のことを伝えようとしたら「いい忘れていましたが、お嬢様がいまお召しになっているものや、香水はハミルトン様からの贈り物です」と告白される。
 後ろから聞こえたミーナの声は、小声で打ち明けるようなものではなく、普通の話し声で伝えてくるものだから、身体が徐々に暑くなる。
 えっ!ミーナなんで、そんな大事なことをいま言うの!!!
 と、慌てながら後ろを振り向くがにんまりとした顔の侍女がいた。
 ユーゴからの贈り物ということも知らずに、私こんなドレス持っていたんだ?みたいな感じでいたから恥ずかしいが、貰った物のお礼を言わなくては。
「ゆ、ユーゴごめんなさい。贈ってくれたことを知らずに。このドレスとても素敵よね。みて、回ると裾が色々な方向に揺れて可愛いでしょ」
 熱を冷まそうとして、くるりと一回りしてみる。
 もう、恥ずかしさから消えてしまいたい。
「やはり、アンのためのドレスですね。オーダーしてよかった」
 ん?どういうこと?
 ユーゴが私のためだけに、このドレスをオーダーって。
 そもそも、ユーゴが私の寸法を知っているはずが…って、まさか、あの屋敷での採寸したときに、他の者から伝わったのか。
 それとも、母が贔屓にしている仕立屋だったから、母の命によってユーゴの元に私の寸法が行き渡ったのか。
 娘の寸法だからと、勝手に他の人に伝えないで欲しい。
 もしかしたら、私が他の令嬢に比べて、ややふくよかだったらどうするの!恥ずかしいじゃない!!
 そう思うと、恥ずかしくなり下を俯いてしまう。
 何故か「可愛いです。私だけの花の妖精」と、腰に手を回して、そっと引き寄せられた。
 知らないうちにユーゴに捕まっている。
 慌てて、ユーゴを見上げれば、「それに、この香りがアンをより引き立てていますね」と、額にキスを落とされる。それも、一度ではなく二度も落とされれば、どうすればいいのかわからなくなってしまう。
 驚きよりも羞恥しかない。
「あのユーゴ…?」
 羞恥でうっすらと涙が浮かんできた瞳で見上げる。
「いえ、少し抑えられなくて申し訳ありません」
 涼しそうな顔をしているが、直ぐに目線を反らせられてしまう。
 それに、敬語だと寂しいと感じる。
「あと、普通に話してくれていいよ?」
「いえ、抑えられなくなると困るので、今日はこのままで」
 抑えられなくなるって何だろう。
 そして、後ろから我家の有能侍女であるミーナが「人目がありますので、婚約者同士でも節度を持ってください。伯爵にご報告しますよ」と、脅し文句を言ってくる。
 その脅しに屈してしまう私は「そんなことで、ユーゴと婚約解消でもされたら、困るわ」と慌てて離れようとするが、ユーゴの腰を引き寄せる力はいつもより強い。その強さに、また顔に熱が籠りはじめる。
 反らされた視線は戻ることがなかったが、そのままハミルトン家が用意した馬車にエスコートされる。
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