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2章 アルバイト開始

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あまりにも見すぎていたのか、突如やわらかい布のような物で視界がを覆われてしまった。
突然のことで「えっ、何?アイリーン様?」と、大きな声を出してしまった。
「ふふふふ、余所見しちゃダメだよ。彼が素敵だからって恋しちゃダメ。アンちゃんには素敵な婚約者がいるんでしょ」
語りかけるように言うアイリーン様は、彼が私の婚約者であるということを知らないようだ。
視界を塞いでいたのは、アイリーン様の持っていたハンカチのようだ。手で覆われている物を少しだけずらす。触り心地が少しスベスベしているからハンカチだと思われる。
それにしても、気になる。
何故、アイリーン様がそのようなことを言うのだろう。
「あのお客様って…」
「よく来るわよ。色々な女性といるのを見るかな。火遊びにしても数が多すぎるから、あの人と結婚する人は大変だと思うわ」
女の敵よね!と最後に聞こえた気がするが私の幻聴であって欲しい。
やはり、ミーシャやカロリーナが言ってたことは本当のようだ。疑っていたわけではないが、半信半疑だった。
私が見たのは、ジェーン様と一緒に居たところだけ。それも、たった一回だけ。
上擦りながら「そ、そうなんですね」と、だけ返事をする。
その火遊びしているような男が私の婚約者です。なんて、言えない。
それにしても、アイリーン様はユーゴに夜会やお茶会で会ったことがないのだろうか。
「でも、あの人ってどこがで見たことがあるのよね」
「どこで見掛けたのですか?」
「んー、どこだったかしら。思い出せないわ。でも、あのテーブルいいな。あんな男前にエスコートされて、美男子が来るってどういうことなのかしら!!!もしかして、三角関係!?」
キャキャしているアイリーン様の声が耳元で聞こえるから、頭がくらくらしそうだ。
三角関係の中に兄が含まれているのは複雑だが。
アイリーン様がキャキャしていると、何処からひとり来て「アンちゃんは、どちらが好み?」と話し掛けられた。
えっ、急にどうした。戸惑っていると「リリベル、アンちゃんは、もう売却済みよ」と助け出されたのか?
「やっぱら、グレン様の遠縁なだけあって早いな。まあ、私の好みは先にエスコートして入ってきた人かな」
「だよね!!!あんな、カッコいい人にエスコートされたい!!抱き締められたい!!」
「わかる」
興奮しているのか、ハンカチから手が離れヒラヒラと床に落ちる。
後ろを振り向けば、手を合わせて、はしゃいでいる。
それにしても、兄がここでも人気があるとは。
あれが兄ですとは、絶対に伝えたくない。
「2人とも店内に人があまりいないから目立っているよ。ほら、あのカッコいいって言ってる人に睨まれているよ」
注意しに来たテイラー様に言われるが、あれは睨んでいるのではなくて、通常の兄です。
「それにしても、いつも一緒にいら男の人とは違うのね。あの人も美人だけれど。それに、いつもの軍服じゃない」
えっ、テイラー様。もしかして、あなたも兄のことを…と思っていると「そうね。でも、いつもの軍服も素敵だけれど、私服も素敵」と、うっとりしているリリベル様がいた。
苦笑いをしているから、違うのだろう。
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