45 / 77
2章 アルバイト開始
6
しおりを挟む
「グレアム嬢は、よく教育されている」のひとことで、幸せな気分が崩れる。
まだ、この部屋にいたのかと思い睨んでみるが、気にもせずにソファーに腰かける。ズカズカと入室してきだけではなく、「ユーゴ、私にも紅茶をくれるか」と命令してきた。
いつも通りの有無を言わせない笑みを浮かべながら言うものだから、睨んでいる此方が馬鹿らしいくらいだ。だが、反抗だけはさせて欲しい。
「いまは、婚約者との大切な時間ですのでお断りします」
席を立ちあがりアンの背後に回る。驚いた顔をしていたが、僕だって言うときは言うのだ。
仕事において殿下は、意見を持たないものを嫌うため、おべっか使いなどは側にいない。
そのため、癖のように出てしまった。
肩を引き寄せ、この空間を壊すなと主張すれば「そうか。なら、明日からの休暇申請はなかったことにするか」と、足を組みくつろぎはじめる。
表情にださないように、抑えているつもりだが眉間に皺が寄りそうだ。
「横暴ですね。これで、あなたが暴君にならなければいいですが」
「民や臣下の前で、そのような振る舞いをするわけがないだろう」
その言葉に、気を許して貰っているため信頼はされているのだろうが、今の状況には納得がいかない。
くつろぎ始めたためこれ以上なにか言ったところでこの部屋からは出て行かないだろう。渋々といった形で、アンから離れ余っていた予備のカップを温め始めた。
いつも淹れているためか、殿下の好みに自然とできてしまう。何と悲しいことなのだろう。
どうせなら、アンの好みで淹れ、彼女を楽しませられたらよかったのに。先程、あんなにも渋い紅茶が出来上がるとは思わなかった。やはり、アンの前では緊張してしまうのだな。
殿下に見られることには、慣れているというのに何故かアンがいると思うと手が震えそうになる。
そして、紅茶を淹れるまで間、やはり視線を感じていた。食い入るように見る作業でもないのに、どうしたのだろう。
夫に紅茶を振舞う方がいるというのは、社交場で何度も耳にしたことがある。先程の「私もユーゴのために淹れてあげる」という言葉が頭の中で何度も再生される。この工程をいま必死に覚えようとしてくれているのだろう。
僕の婚約者は、何でこんにも一生懸命で可愛いのだろう。
考え事をしていると、アンに話し掛けられたが何を言われたのかわからなかったため聞き直せば、首を横に振る。
きちんと聞いていなかったため、機嫌を悪くしてしまったのかと心配になったが、そうではないようで、その後もずっと見つめられていた。
しかし、視界に入り込む殿下は肩を震わせているため、何を堪えているのだと、眉間に皺が寄る。そんなにも、おかしい何かがあったのだろうか。
ガシャリと乱暴に置くことも出来たが、アンにまた注意されてしまうから丁寧にカップを置く。
そして、出来るだけ嫌味のない笑みを浮かべ「淹れましたよ。これを飲んではやく執務室に戻ってください」と言うが、気にすることもせずに香りを楽しみだす。
はやく執務室に戻れ、と念じていると突然
「ああ、そうだな。だが、私にも休息が必要だと思わないか。それに、たまには、執務室にも花が欲しいと思っているのだが…、どう思う?」
と、綺麗な笑みを浮かべるものだから嫌味にしか聞こえない。というよりも、僕に対しての嫌がらせなのだろう。
返答に困っていれば、殿下は追い詰めるかのように「返答に困ることか?」と、吐き出してくる。
女性を立ち入り禁止のようにしている執務室にアンを呼べとは、意味がわからない。だったら、殿下に取り入りたくてウズウズしている令嬢でも連れてくればいいだろう。その分、仕事の効率が落ちるのは仕方がないとして。
沸々と湧き上がる怒りを、どう抑えようかと考えれば、「あの…差し出がましいのは、わかっています。よろしければ、私が花をお持ちしましょうか?」と、心配そうに此方を見ながら手を挙げているアンがいた。
いま、アンのことを殿下と話していたと言うのに、何故わかってくれないんだ。
アンの姿を見るなり、「淑女に言わせてしまい申し訳ない。貴女がそう言ってくれるのなら、是非お願いしよう」と言うこの詐欺師を、はやく追い出したい。
「アン、貴女はこの人の言っていることを解っていない」
彼女にこの状況を理解して欲しいと思う一方で、何も知らないでいて欲しいと思ってしまう自身の矛盾にも嫌になる。
ただ…、「あの殿下は、どのような花が好きなのですか?私、勝手に殿下は薔薇が好きだと思っていました」と、能天気に好きな花を聞いている婚約者に文句を言う気力はない。
むしろ、そこが可愛い部分だと再確認してしまったみたいだ。
まだ、この部屋にいたのかと思い睨んでみるが、気にもせずにソファーに腰かける。ズカズカと入室してきだけではなく、「ユーゴ、私にも紅茶をくれるか」と命令してきた。
いつも通りの有無を言わせない笑みを浮かべながら言うものだから、睨んでいる此方が馬鹿らしいくらいだ。だが、反抗だけはさせて欲しい。
「いまは、婚約者との大切な時間ですのでお断りします」
席を立ちあがりアンの背後に回る。驚いた顔をしていたが、僕だって言うときは言うのだ。
仕事において殿下は、意見を持たないものを嫌うため、おべっか使いなどは側にいない。
そのため、癖のように出てしまった。
肩を引き寄せ、この空間を壊すなと主張すれば「そうか。なら、明日からの休暇申請はなかったことにするか」と、足を組みくつろぎはじめる。
表情にださないように、抑えているつもりだが眉間に皺が寄りそうだ。
「横暴ですね。これで、あなたが暴君にならなければいいですが」
「民や臣下の前で、そのような振る舞いをするわけがないだろう」
その言葉に、気を許して貰っているため信頼はされているのだろうが、今の状況には納得がいかない。
くつろぎ始めたためこれ以上なにか言ったところでこの部屋からは出て行かないだろう。渋々といった形で、アンから離れ余っていた予備のカップを温め始めた。
いつも淹れているためか、殿下の好みに自然とできてしまう。何と悲しいことなのだろう。
どうせなら、アンの好みで淹れ、彼女を楽しませられたらよかったのに。先程、あんなにも渋い紅茶が出来上がるとは思わなかった。やはり、アンの前では緊張してしまうのだな。
殿下に見られることには、慣れているというのに何故かアンがいると思うと手が震えそうになる。
そして、紅茶を淹れるまで間、やはり視線を感じていた。食い入るように見る作業でもないのに、どうしたのだろう。
夫に紅茶を振舞う方がいるというのは、社交場で何度も耳にしたことがある。先程の「私もユーゴのために淹れてあげる」という言葉が頭の中で何度も再生される。この工程をいま必死に覚えようとしてくれているのだろう。
僕の婚約者は、何でこんにも一生懸命で可愛いのだろう。
考え事をしていると、アンに話し掛けられたが何を言われたのかわからなかったため聞き直せば、首を横に振る。
きちんと聞いていなかったため、機嫌を悪くしてしまったのかと心配になったが、そうではないようで、その後もずっと見つめられていた。
しかし、視界に入り込む殿下は肩を震わせているため、何を堪えているのだと、眉間に皺が寄る。そんなにも、おかしい何かがあったのだろうか。
ガシャリと乱暴に置くことも出来たが、アンにまた注意されてしまうから丁寧にカップを置く。
そして、出来るだけ嫌味のない笑みを浮かべ「淹れましたよ。これを飲んではやく執務室に戻ってください」と言うが、気にすることもせずに香りを楽しみだす。
はやく執務室に戻れ、と念じていると突然
「ああ、そうだな。だが、私にも休息が必要だと思わないか。それに、たまには、執務室にも花が欲しいと思っているのだが…、どう思う?」
と、綺麗な笑みを浮かべるものだから嫌味にしか聞こえない。というよりも、僕に対しての嫌がらせなのだろう。
返答に困っていれば、殿下は追い詰めるかのように「返答に困ることか?」と、吐き出してくる。
女性を立ち入り禁止のようにしている執務室にアンを呼べとは、意味がわからない。だったら、殿下に取り入りたくてウズウズしている令嬢でも連れてくればいいだろう。その分、仕事の効率が落ちるのは仕方がないとして。
沸々と湧き上がる怒りを、どう抑えようかと考えれば、「あの…差し出がましいのは、わかっています。よろしければ、私が花をお持ちしましょうか?」と、心配そうに此方を見ながら手を挙げているアンがいた。
いま、アンのことを殿下と話していたと言うのに、何故わかってくれないんだ。
アンの姿を見るなり、「淑女に言わせてしまい申し訳ない。貴女がそう言ってくれるのなら、是非お願いしよう」と言うこの詐欺師を、はやく追い出したい。
「アン、貴女はこの人の言っていることを解っていない」
彼女にこの状況を理解して欲しいと思う一方で、何も知らないでいて欲しいと思ってしまう自身の矛盾にも嫌になる。
ただ…、「あの殿下は、どのような花が好きなのですか?私、勝手に殿下は薔薇が好きだと思っていました」と、能天気に好きな花を聞いている婚約者に文句を言う気力はない。
むしろ、そこが可愛い部分だと再確認してしまったみたいだ。
0
お気に入りに追加
419
あなたにおすすめの小説
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】今夜さよならをします
たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。
あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。
だったら婚約解消いたしましょう。
シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。
よくある婚約解消の話です。
そして新しい恋を見つける話。
なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!!
★すみません。
長編へと変更させていただきます。
書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。
いつも読んでいただきありがとうございます!
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる