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2章 アルバイト開始
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「あまり意地悪しないで、ほらユーゴくんは婚約者ちゃんの元に行きな。君の仕事は私が引き受けるから」
ここまで優しいと、何だか気持ち悪く感じてしまう。失礼だと思うが、この人が優しいときは何か裏がある気がする。
一礼をしてから退出する。扉が閉まるのと同時に、グレアム伯の執務室へ向かう。
アンが王宮で用事がある人物は、グレアム伯かケイしかいない。ケイは大体、クリスの執務室か軍にいるから、そんな処にアンが向かうわけはない。軍なんて、知らない男ばかりがいる場所にアンが出入りすることをケイが許しはしないだろうから。
グレアム伯の執務室に辿り着けば、何故か人だかりが出来ていた。何が起きたのだと思えば、グレアム伯とグレンさんが言い合いをしていた。
何故、このふたりは言い合いをしているのかと呆れそうになりながらもグレアム伯の腕の中にいる人物に目を向ければ探していた人物に出会えた。藻掻き逃げようとした彼女の腕を引き寄せ閉じ込め名前を呼べば「ユーゴなの?」と、久しぶりに聞けた愛しい人の声。
その声は、甘い砂糖菓子を食べたときのような甘さを感じた。
「声を忘れてしいましたか?」
嬉しさのあまり鼓動がはやくなり落ち着かなくては、自身に言い聞かせる。
彼女が会いに来たのはグレアム伯だということに嫉妬を覚えながらも「僕に会いに来てくれもいいのですよ」と、今後の希望を伝える。
この宮中で癒しの存在が欲しいと常に思っていた。アンを危険に晒すようなことはしたくはないが、同時にずっとそばに置いて可愛がりたいと思っている。
久しぶりのアンを堪能していると、ごちゃごちゃと煩い言葉が聞こえてくる。
「淫らに触れ合わないで欲しい」と言うが、こんなにも清い関係に何を言っているのだろう。口付ですらしたことがないというのに、この方の基準は何処からが淫らなのかわからない。
「淫ら…ですか。これは、あくまで必要な触れ合いだと思っていますよ。あなたも昔は奥方と、これくらいなされたでしょう」
呆れてしまい言い方が冷たくなったとは思うが、いまこの瞬間を誰かに邪魔されるのは勘弁してほしい。ぎゅっと、アンを抱きしめる力を強めれば「離して、潰れちゃうの」と腕の中にいる天使が暴れる。どうしたものかと思い、力を緩めると顔近くに紙袋を突き出され困惑する。
「グラッチェで買ってきた昼食。お父様と食べようと思ったけれど、ユーゴがこんなに潰したのだから、責任取って一緒に食べてよ」
拗ねてアヒル口みたいになっているアンが可愛くて、また閉じ込めたい衝動に駆られるが、食物を粗末にすることを嫌う彼女の前では、紳士的に対応しなくては。
「ええ、アンと一緒なら喜んで」
そう伝えれば、嬉しそうに笑うので此方のまで嬉しくなり心が温まる。
グレアム伯が慌てたように引き留めるが、アンが「お父様はいつも通り食べればよろしいのでは?私、ユーゴといま昼食を取る約束をしましたので」と、僕と先程したばかりの約束を優先してくれた。
腰を引き寄せ休憩室に向かおうとすれば、グレンさんがいきなり引き留めてくる。
先程、アンに手を貸していたことを思い出すと苛立ってしまう。うまく隠そうとすればするほど、感情が高ぶってしまう。
「あなたには関係のないことです。私が婚約者を何処に連れ出そうが。それに、ここに来るのにあなたはアンジュに触れたでしょう」
解散し始めていた野次馬たちが、此方にまた注目し始めた。ひとりの令嬢をジェード殿下の側近が取り合っているとでも思っているのだろう。次の夜会で話題にあがるかもしれない。
アンが必死に窘めようとしてくれるが、それが返って僕を苛立たせる。
また、目の前で何もないといった表情で此方を見ているグレンさんも気に入らない。
「僕の婚約者は、僕だけのものです」
冷静さをどうやら取り戻せそうにもない。
アンが不安そうな瞳で見つめてくるが、それさえも今の僕には毒だ。
ここまで優しいと、何だか気持ち悪く感じてしまう。失礼だと思うが、この人が優しいときは何か裏がある気がする。
一礼をしてから退出する。扉が閉まるのと同時に、グレアム伯の執務室へ向かう。
アンが王宮で用事がある人物は、グレアム伯かケイしかいない。ケイは大体、クリスの執務室か軍にいるから、そんな処にアンが向かうわけはない。軍なんて、知らない男ばかりがいる場所にアンが出入りすることをケイが許しはしないだろうから。
グレアム伯の執務室に辿り着けば、何故か人だかりが出来ていた。何が起きたのだと思えば、グレアム伯とグレンさんが言い合いをしていた。
何故、このふたりは言い合いをしているのかと呆れそうになりながらもグレアム伯の腕の中にいる人物に目を向ければ探していた人物に出会えた。藻掻き逃げようとした彼女の腕を引き寄せ閉じ込め名前を呼べば「ユーゴなの?」と、久しぶりに聞けた愛しい人の声。
その声は、甘い砂糖菓子を食べたときのような甘さを感じた。
「声を忘れてしいましたか?」
嬉しさのあまり鼓動がはやくなり落ち着かなくては、自身に言い聞かせる。
彼女が会いに来たのはグレアム伯だということに嫉妬を覚えながらも「僕に会いに来てくれもいいのですよ」と、今後の希望を伝える。
この宮中で癒しの存在が欲しいと常に思っていた。アンを危険に晒すようなことはしたくはないが、同時にずっとそばに置いて可愛がりたいと思っている。
久しぶりのアンを堪能していると、ごちゃごちゃと煩い言葉が聞こえてくる。
「淫らに触れ合わないで欲しい」と言うが、こんなにも清い関係に何を言っているのだろう。口付ですらしたことがないというのに、この方の基準は何処からが淫らなのかわからない。
「淫ら…ですか。これは、あくまで必要な触れ合いだと思っていますよ。あなたも昔は奥方と、これくらいなされたでしょう」
呆れてしまい言い方が冷たくなったとは思うが、いまこの瞬間を誰かに邪魔されるのは勘弁してほしい。ぎゅっと、アンを抱きしめる力を強めれば「離して、潰れちゃうの」と腕の中にいる天使が暴れる。どうしたものかと思い、力を緩めると顔近くに紙袋を突き出され困惑する。
「グラッチェで買ってきた昼食。お父様と食べようと思ったけれど、ユーゴがこんなに潰したのだから、責任取って一緒に食べてよ」
拗ねてアヒル口みたいになっているアンが可愛くて、また閉じ込めたい衝動に駆られるが、食物を粗末にすることを嫌う彼女の前では、紳士的に対応しなくては。
「ええ、アンと一緒なら喜んで」
そう伝えれば、嬉しそうに笑うので此方のまで嬉しくなり心が温まる。
グレアム伯が慌てたように引き留めるが、アンが「お父様はいつも通り食べればよろしいのでは?私、ユーゴといま昼食を取る約束をしましたので」と、僕と先程したばかりの約束を優先してくれた。
腰を引き寄せ休憩室に向かおうとすれば、グレンさんがいきなり引き留めてくる。
先程、アンに手を貸していたことを思い出すと苛立ってしまう。うまく隠そうとすればするほど、感情が高ぶってしまう。
「あなたには関係のないことです。私が婚約者を何処に連れ出そうが。それに、ここに来るのにあなたはアンジュに触れたでしょう」
解散し始めていた野次馬たちが、此方にまた注目し始めた。ひとりの令嬢をジェード殿下の側近が取り合っているとでも思っているのだろう。次の夜会で話題にあがるかもしれない。
アンが必死に窘めようとしてくれるが、それが返って僕を苛立たせる。
また、目の前で何もないといった表情で此方を見ているグレンさんも気に入らない。
「僕の婚約者は、僕だけのものです」
冷静さをどうやら取り戻せそうにもない。
アンが不安そうな瞳で見つめてくるが、それさえも今の僕には毒だ。
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