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最終章 北風と太陽の英雄譚
騎士の誓いは(下)
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嘗て守りたかった少女。
異世界の戦いに巻き込まれただけの、不幸な少女。
それでも、この世界の人々のために戦う道を選んでくれた、勇敢で心優しい少女。
それが今や、完全に人類の敵となっていて……。
情欲に魘されて、上気した頬に、潤んだ瞳。
穢れを知らなかったはずの少女は、その面影を残しつつも淫婦のように騎士を求めます。
周囲には、その背徳的な洗礼の儀式を見守る邪神の信徒たち。
特に若い男の中には、あろうことかその場景に興奮している者すら存在しました。
騎士は怒りと悔しさに涙を滲ませます。
はたしてこれが、この戦いの結末だなんて……そんなの、認められるはずがありません。
勇敢な少年が死にました。
優しい少女が死にました。
正しい大人が死にました。
それでも戦い続けたのは、その先に救いがあると――誰も泣かない世界があると、信じてきたからです。
それなのに、それなのに……。
生き残ったのは、己の欲望のために世界を食い物にする……それどころか、邪神に世界を売り渡す裏切り者たち。
こんな奴らのために、自分たちは戦ってきたのでしょうか?
こんな結末のために、子供たちは死んだのでしょうか?
そのうち一人の少女は今、別人の表情で、年齢の割に幼い肢体を晒します。セーラー服の裾からは、純白の下着が覗きます。
しかし、少女が守り通した純潔も、臆病な恋心も、全てはこの邪神の玩具にすぎません。
東雲アリスは死してなお、恥辱の限りに穢され続けます。
「ニブルバーグさん」
甘い少女の声で、邪神が呼びかけました。
「貴方も、本当は嬉しいでしょう? こんなに可愛いアリスちゃんと、キモチイイことができるんだから」
意思に反して体が反応しました。いや、これこそが本当の欲望なのか……騎士にはもう分かりませんでした。
「だから、無意味な意地を張らないで、素直になっちゃおうよ。いっぱいいっぱい、アリスの体を楽しんでね」
唯一はっきりと言えることがあるとすれば――。
「その姿で……」
「なに? ニブルバーグさん?」
――これは、彼が望む結末ではないということです。
「彼女の声で、囀るな、邪神めが――!!」
異世界から来た子供たちが、縁もゆかりもないこの世界のために戦ってくれた。
そして、あれだけ多くが死んだのです。
彼らの死に報いるためにも、こんな結末では終焉れない!
魔力の炎に命を焼べて、最後の騎士は邪神に立ち向かいます。
いっそ思考を放棄して、快楽に身を任せていれば、騎士は幸せになれたのでしょうか?
ただ、騎士はそう考えることができない人間だったからこそ――邪神が蔓延るこの時代に、彼は騎士となったのです。
文字通りに命を燃やしながら、彼は抗います。
その憤怒に燃える炎は憎悪に染まり、絶望を体現するような暗黒の色で騎士の全身に燃え広がりました。
願うは、邪神の死。そして少女の安らかな眠り。それを叶えるための力。
対価は自身の命。及び、それを含む全て。
――この覚悟によって、今ここに、誓約が成立しました。
全身から噴き出した黒い炎は、騎士の拘束を焼き払います。
絡みついていた触手がキチキチと、悶え苦しむ蟲のような啼き声を上げました。
我が身を焦がした炎に驚いて、邪神アリスは距離を取ります。
ただの炎が彼女に火傷を負わせるなんて、とても有り得ないことだったからです。
本当に驚いたのでしょう、その際に彼女の擬態が解け、真の姿が露わになりました。
――背中から生える一対の白い翼。
それは鳥のようで、蝶のようにも見える、美しい羽根。
「おお、女神様。なんとお美しい……」
信徒たちがその姿を見て、我も忘れ口々に感嘆の声を上げます。
ばら撒かれる鱗粉のせいか、騎士も一瞬だけ惑わされました。しかし、強い意志を以って、彼は真実を見破ります。
それは鳥の翼ではありません。よく見れば、それは羽毛の代わりに無数の不快な蝿の羽で構成されています。
もっと言えば、翼自体が蝿に似た……それに似た、もっと不気味な生物の集合体でした。
さらに腰のあたりから、ナマコのようにでっぷりとブヨブヨした蜂の腹部が生えており、その先端の淫媚な穴から生臭い粘液が滴っています。
そして頭部からは、不均一に生えた五本の角が。
脈動しながらうねるその正体は、不快な縞模様をしているナメクジ類の触角でした。
邪神アリスの全体像は、太った女郎蜘蛛と、翼のある人間が融合したかのような姿です。
あるいは、背後から下劣で不気味な寄生蜂に犯されている少女のような姿でもありました。
「そんな……ひどいよ、ニブルバーグさん」
少女の顔が悲しそうに曇ります。
その姿を見て、騎士は何故か美しいと思いました――先ほど口から流し込まれた呪詛が、脳の一部を喰い潰していたせいです。
無条件で邪神アリスへ好意を持つように、すでに騎士は狂わされていたのです。
もちろん、心の強い騎士は惑わされません。
でも、他の者はそうじゃありませんでした。
愛すべき女神を泣かせた騎士を殺そうと、神官も魔術師も、怒りに我を忘れて襲い掛かります。
その有様は、まさに狂信者であると称しても、差し支えは無いでしょう。
騎士は邪魔する障害物たちを焼き払います。
そして真っ直ぐに、邪神アリスの下へと向かいました。
その様子を、邪神アリスは見つめます……少女の顔は悲しそうに歪んだままですが、触角の先端にある複眼は無機質に騎士を観察していました。
「精霊さん、助けて!」
少女は助けを求めます。
すると少女の周囲が光り輝き、今度は精霊たちが姿を現しました。
東雲アリスは精霊と対話する少女。
少女が人間だったころから、精霊たちは彼女の味方でした。
たとえ別の何かが混じったとしても、自我を持たない精霊たちにとって、未だ彼女は東雲アリスで……皮肉なことに、彼らは身を挺して彼女を守る盾となります。
騎士の行く手を阻む精霊たち。
世界の敵である邪神を守護する世界そのもの。
それはある意味、人質を盾に取ったようなものです。
この世界の住人である騎士には、精霊たちを殺せやしない――邪神アリスはそう思っていました。
――ところが、光の壁をあっさりと突き破ったのは、燃える腕と巨大な黒い剣。
黒い炎は躊躇うことなく、精霊すらも殺したのです。
不意の激痛が、邪神アリスを襲います。
キ ィ ア ァ ア ァ ア ァ ア ァ ァ ァ !!
少女の口から発せられた悲鳴は、巨大な昆虫が発する金切り音そのものでした。
その悲鳴に呼応して、精霊たちが騒ぎます。
なぜならその悲鳴は間違いなく、東雲アリスの叫び声でもあるからです。
精霊たちは少女を助けるため、周囲の者に敵意を向けます。
その敵意は光弾となって、無差別に降り注ぎました。
「女神様!?」
なんとか光弾を凌いだ狂信者たち。
巻き上がる砂埃の向こうに彼らが見た女神の姿は――さっきまでの完全な姿ではなく、片方の翼が焼き切られた冒涜的な姿でした。
騎士は再び剣を振り上げます。
しかし、邪神を斬った代償は重く、すでにその命は燃え尽きようとしていました。
「アア…………命ガ……足リナイ…………」
「貴っ様ぁ! よくも女神様を!!」
悔しそうに呻く騎士に、狂信者の一人が殴りかかります。
そして、その手が触れた瞬間、黒い炎は彼へと燃え移りました。
「うわああっ!?」
悲鳴を上げて転がりまわる狂信者。さらに他の者へと燃え広がる黒い炎。
それは狂信者たちの命をも喰らって、より大きく燃え上がります。
「マダ、終焉レナイ……殺ス……女神ヲ、殺ス………!」
――そう呻くように言った直後、騎士はこと切れたかのようにその場に倒れました。
「……本当に、バカね。人間が邪神に敵うわけがないのに」
邪神アリスが冷たく言い放ちました。
騎士の骸に歩み寄る彼女の表情は、失恋した少女のものには見えません。
むしろ……見下していた下等生物が懐いてくれなかったことに拗ねた子供のような顔でした。
悲しいことに、勝敗は最初から決していました。
決め手は、騎士が口移しで呑みこまされた大量の呪詛。
あれが内側から彼の自我を刈り取ったのです。
その証拠と言うべきか、騎士の骸の表面では、呪詛が毒蟲のように這い回っていました。
いくら邪神すら焼き払える黒い炎であろうとも、灯らなければ意味がありません。
喩えるなら、ガスコンロのスイッチを切られたようなもの。
この瞬間、完全に騎士は邪神アリスの手に堕ちたのでした。
「この死体の後始末は、是非我らにお任せを」
年老いた神官が言います。
「どうするつもり?」
邪神アリスが尋ねました。
「もちろん、女神様に逆らった愚か者として晒し首に――」
突然、神官の片目が弾け飛びました。
「ごめん、今はちょっと、優しくしてあげる気分じゃないの」
邪神アリスは不機嫌に言いました。
「おおおお、申し訳ありません。悪いのは、女神様の意図を汲み取れなかった私めにございます……」
眼球を潰されたというのに、その神官は恍惚とした表情で謝罪しました。
「女神様、気に病む必要はありません。あんな愚か者、死んで当然――」
ここぞとばかりに覚えを良くしてもらおうと、劣情を抱いた若い神官が言いました。
その瞬間、彼の首から上が弾け飛びました。
首の傷口からはドプドプと、ポンプのように血が溢れます。そして血管からウゾウゾと、毒蟲のように呪詛が這い出てきます。
「あっ! いけない。ついカッとなっちゃった」
邪神アリスがそう言うと、傷口から湧き出た毒蟲たちが集まって、若い神官の頭を形作ります。
そして、蟲たちが人間の皮膚に擬態をすることで、元の頭がほぼ完成しました。
「そこ、ちょっと顔が変わっているよ?」
邪神アリスが指摘すると、擬態していた虫たちが数匹身を捩り、正しい形へと修正しました。
若い神官には死んだ自覚すらありません。
顔も、記憶も、感情までもが、何もかもが元通りです――ただし、構成する材料以外は。
「おお……!?」
「奇跡じゃ、奇跡じゃ!」
「女神様はなんと慈悲深い……」
周囲の狂信者たちがざわめきます。ついでに、最初に目を潰された神官も、同じように修復されていました。
「みんな、勝手なことを言わないで。それに、ニブルバーグさんは生きています。その意志は黒い炎となって……新たな後継者が現れれば、彼の意志は燃え移るでしょう」
邪神アリスが改まって言いました。
「だから、この人のために封印鉄で棺を作ってください。そうすれば、黒い炎は貴方たちの力になるはずです」
狂信者たちは驚きました。
なぜなら、わざわざ特注で棺を作るなんて、それはまるで殉職した聖人を葬るかのようだからです。
つまり女神様の発言は――裏切り者の騎士が犯した罪を赦すと言っているに等しいのですから。
「しかし、女神様! 貴女様はこの騎士を赦すおつもりで!?」
「当然でしょう? だって、アリスはニブルバーグさんが大好きだからね!」
邪神アリスは朗らかに笑いました。
「それに呪詛たちが居る限り、黒い炎は逆らえない――面白いでしょ? 彼の炎を引き継ぐ者が、今度はアリスを守る騎士になるの! これでずっと一緒なの!」
狂信者たちはそのアイデアを大絶賛しました。
「でも、燃え尽きる瞬間だけには気を付けておいてね。ちゃんと呪詛で繋いでおかないと、きっとニブルバーグさんは、また暴走しちゃうから」
しかも、ちゃんと注意喚起してくれる女神様の心遣い。狂信者たちは感涙に咽びました。
「……じゃあ、アリスはそろそろ眠るね。おやすみなさーい」
唐突に邪神アリスが言い出します。
突然の御隠れ宣言に、狂信者たちはざわめきました。
「ど、どういうことです?」
「我々を、お見捨てになるのですか!?」
「え? だって、羽を焼かれちゃったから。世界の封印があるせいで、ちゃんと休まないと治せないんだ」
さも当然のように邪神アリスが言うと、彼女は小さな欠伸を一つしました。
「な、なんと!? では、どれほど御隠れに?」
「うーん、封印されたままなら、だいたい千年ぐらいかなぁ?」
「その間、我々はどうすれば……」
「好きにしていいよ。あっ、でも、アリスも夢は見てるから、時々口は出すかも?」
「おお、つまりは神託をくださるということですね!?」
一番偉い神官が、神託を受けるのは自分だろうと期待した目で言いました。
「大げさだなあ……」
邪神アリスは呆れたように言いました。
「でも……そうだ。せっかくだから、皆には世界征服してもらおうかな」
あどけない少女の顔で、邪神アリスは考えます。
「たぶんね、肉体を手に入れたのはアリスだけじゃないと思うの。それなのに、アリスだけ千年間もお休みじゃ、つまらないからね」
「もちろん! 女神さまが御望みになるなら、仰せの通りに!」
世界征服ならば、むしろ当初の予定通り。少しでも女神様に気に入られたい神官たちが揃って声を上げました。
「みんなが頑張ってくれれば、退屈しのぎにはなるかな……じゃあ、制限時間はアリスが目覚めるまで。それまでに、できるだけたくさん人間を用意しておいてね?」
「人間を、たくさん……ですか?」
どういうことでしょう?
女神様に奉仕するのは、名も無き奴隷ではなく、選ばれた自分たちの役目なのに……狂信者たちは女神様が人間を必要とする理由に首をかしげました。
「そう! それでアリスが目覚めたら、本格的に眷属を作るの。女の子たち皆にも協力してもらってね。男の人にも餌になってもらえば、地上はあっという間にアリスの子供たちで満たされるよ! すごいでしょ?」
その夢のような楽園を思い浮かべ、狂信者たちは目を輝かせます。
もはや彼らの目的がすり替わっていることなど、誰にも気づけません。
「そうなったら、他のみんなの封印が解ける日が楽しみだなあ。アリスの眷属だらけで、きっとみんなビックリするよ!」
邪神アリスは心底楽しそうに笑いました。
狂信者たちも、喜びの歓声を上げました。この狂気を指摘できるものは、この場に誰も居ないのです。
この日から静かに、神聖メアリス教国の――その一部の狂信者たちによる野望が始まりました。
「じゃあ、ニブルバーグさん。千年後に逢いましょうね!」
最後に騎士の死体に向かってそう言い残すと、片翼の女神は眠りにつきました。
こうして、騎士の遺体は大聖堂の地下深く、封印鉄で棺に収められることになったのです。
そして時は流れ、偽りの物語が真実を覆い隠します。
人間だった東雲アリスの名前は忘却の彼方に。
いつしか彼女は、片翼の女神メアリスと呼ばれるようになっていました。
信仰も歪められ、精霊と英雄を信仰していたはずの教会は、いつしか片翼の女神を信仰するようになっていました。
騎士の炎は、ありもしない罪の贖罪のため、延々と巡り続けます。
その黒い炎を引き継いだ者が、裏切りの黒騎士の末裔として、ニブルバーグの忌み名を背負うのです。
ある時代では、秩序の守護者として、国を一つ焼きました。
ある時代では、異教徒の抹殺者として、獣人の里を焼きました。
ある時代では、亜人の屠殺人として、エルフの森を焼きました。
終焉ることは許されません。
たとえ後継者の命が絶たれたとしても、次の生贄が選ばれます。
保持者の身を狂気と狂信で焦がしながら、騎士の亡霊はその使命を全うするのです。
この物語の真実を知るのは、ほんの一部の者だけ。
裏切りの騎士が何に怒りを覚えたのか、誰も理解しようとしません。
悲しい時代がありました。
その時代では、この騎士以外にも、多くが犠牲となりました。
大義のために己を捨て、未来のための礎となった名も無き人々。
あるいは、大を生かすための小さな犠牲だったり、何かを成し遂げるための生贄だったり。
しかし彼らのことなんて、大抵の人間は覚えていないでしょう。
酷い場合は彼らの無駄死にを嘲笑いすらして、彼らが残した世界を貪り尽くす――犠牲の恩恵を受けるのは、いつだって戦わなかった者たちです。
そんな不条理を、理不尽な世界を、憎む者たちが居ました。
そんな世界で生きる弱い自分を憎む者たちが居ました。
でも、そんな世界を変えるために、一歩を踏み出した者たちだって居たのです。
――とある星詠みの少女も、その一人でした。
彼女は紙束に記された予言に従って、訪れる未来に備えます。
その予言には、騎士の物語の続きが記されていました。
――冬を纏う獣が、白亜の牢獄を抜け出す。
可憐な薔薇に背を向けて、咆哮を上げる時、空白の玉座が遂に埋まるだろう。
そして太陽を背に北風は、凍る世界を駆け抜ける。
聖女が祈祷る傍らで、吹雪は永久を祝福し、その代償として――。
―― 神 殺 し の 宿 命 を 得 る ――。
* * *
……光の柱が消えて、冬の世界に静寂が訪れる。
凍てついた闘技場には二つの影。
騎士と獣が向かい合う。
「……悪いな」
静まり返った世界の中、魔獣がどこか気まずそうに口を開いた。
「どうやら、お前の炎では……もう、俺を殺せないらしい」
揺らめくは蒼炎の毛皮。
冷たき神殺しの炎を纏う不死身の魔獣が、静かな口調でそう言った。
此れは、心の冷たい魔獣が、真実の愛を知る……それだけの物語ではない。
嘗ての英雄たちが残した希望。
それを引き継ぐ者たちによる、次代の英雄譚。
この物語は、その序章にすぎなかったのである。
異世界の戦いに巻き込まれただけの、不幸な少女。
それでも、この世界の人々のために戦う道を選んでくれた、勇敢で心優しい少女。
それが今や、完全に人類の敵となっていて……。
情欲に魘されて、上気した頬に、潤んだ瞳。
穢れを知らなかったはずの少女は、その面影を残しつつも淫婦のように騎士を求めます。
周囲には、その背徳的な洗礼の儀式を見守る邪神の信徒たち。
特に若い男の中には、あろうことかその場景に興奮している者すら存在しました。
騎士は怒りと悔しさに涙を滲ませます。
はたしてこれが、この戦いの結末だなんて……そんなの、認められるはずがありません。
勇敢な少年が死にました。
優しい少女が死にました。
正しい大人が死にました。
それでも戦い続けたのは、その先に救いがあると――誰も泣かない世界があると、信じてきたからです。
それなのに、それなのに……。
生き残ったのは、己の欲望のために世界を食い物にする……それどころか、邪神に世界を売り渡す裏切り者たち。
こんな奴らのために、自分たちは戦ってきたのでしょうか?
こんな結末のために、子供たちは死んだのでしょうか?
そのうち一人の少女は今、別人の表情で、年齢の割に幼い肢体を晒します。セーラー服の裾からは、純白の下着が覗きます。
しかし、少女が守り通した純潔も、臆病な恋心も、全てはこの邪神の玩具にすぎません。
東雲アリスは死してなお、恥辱の限りに穢され続けます。
「ニブルバーグさん」
甘い少女の声で、邪神が呼びかけました。
「貴方も、本当は嬉しいでしょう? こんなに可愛いアリスちゃんと、キモチイイことができるんだから」
意思に反して体が反応しました。いや、これこそが本当の欲望なのか……騎士にはもう分かりませんでした。
「だから、無意味な意地を張らないで、素直になっちゃおうよ。いっぱいいっぱい、アリスの体を楽しんでね」
唯一はっきりと言えることがあるとすれば――。
「その姿で……」
「なに? ニブルバーグさん?」
――これは、彼が望む結末ではないということです。
「彼女の声で、囀るな、邪神めが――!!」
異世界から来た子供たちが、縁もゆかりもないこの世界のために戦ってくれた。
そして、あれだけ多くが死んだのです。
彼らの死に報いるためにも、こんな結末では終焉れない!
魔力の炎に命を焼べて、最後の騎士は邪神に立ち向かいます。
いっそ思考を放棄して、快楽に身を任せていれば、騎士は幸せになれたのでしょうか?
ただ、騎士はそう考えることができない人間だったからこそ――邪神が蔓延るこの時代に、彼は騎士となったのです。
文字通りに命を燃やしながら、彼は抗います。
その憤怒に燃える炎は憎悪に染まり、絶望を体現するような暗黒の色で騎士の全身に燃え広がりました。
願うは、邪神の死。そして少女の安らかな眠り。それを叶えるための力。
対価は自身の命。及び、それを含む全て。
――この覚悟によって、今ここに、誓約が成立しました。
全身から噴き出した黒い炎は、騎士の拘束を焼き払います。
絡みついていた触手がキチキチと、悶え苦しむ蟲のような啼き声を上げました。
我が身を焦がした炎に驚いて、邪神アリスは距離を取ります。
ただの炎が彼女に火傷を負わせるなんて、とても有り得ないことだったからです。
本当に驚いたのでしょう、その際に彼女の擬態が解け、真の姿が露わになりました。
――背中から生える一対の白い翼。
それは鳥のようで、蝶のようにも見える、美しい羽根。
「おお、女神様。なんとお美しい……」
信徒たちがその姿を見て、我も忘れ口々に感嘆の声を上げます。
ばら撒かれる鱗粉のせいか、騎士も一瞬だけ惑わされました。しかし、強い意志を以って、彼は真実を見破ります。
それは鳥の翼ではありません。よく見れば、それは羽毛の代わりに無数の不快な蝿の羽で構成されています。
もっと言えば、翼自体が蝿に似た……それに似た、もっと不気味な生物の集合体でした。
さらに腰のあたりから、ナマコのようにでっぷりとブヨブヨした蜂の腹部が生えており、その先端の淫媚な穴から生臭い粘液が滴っています。
そして頭部からは、不均一に生えた五本の角が。
脈動しながらうねるその正体は、不快な縞模様をしているナメクジ類の触角でした。
邪神アリスの全体像は、太った女郎蜘蛛と、翼のある人間が融合したかのような姿です。
あるいは、背後から下劣で不気味な寄生蜂に犯されている少女のような姿でもありました。
「そんな……ひどいよ、ニブルバーグさん」
少女の顔が悲しそうに曇ります。
その姿を見て、騎士は何故か美しいと思いました――先ほど口から流し込まれた呪詛が、脳の一部を喰い潰していたせいです。
無条件で邪神アリスへ好意を持つように、すでに騎士は狂わされていたのです。
もちろん、心の強い騎士は惑わされません。
でも、他の者はそうじゃありませんでした。
愛すべき女神を泣かせた騎士を殺そうと、神官も魔術師も、怒りに我を忘れて襲い掛かります。
その有様は、まさに狂信者であると称しても、差し支えは無いでしょう。
騎士は邪魔する障害物たちを焼き払います。
そして真っ直ぐに、邪神アリスの下へと向かいました。
その様子を、邪神アリスは見つめます……少女の顔は悲しそうに歪んだままですが、触角の先端にある複眼は無機質に騎士を観察していました。
「精霊さん、助けて!」
少女は助けを求めます。
すると少女の周囲が光り輝き、今度は精霊たちが姿を現しました。
東雲アリスは精霊と対話する少女。
少女が人間だったころから、精霊たちは彼女の味方でした。
たとえ別の何かが混じったとしても、自我を持たない精霊たちにとって、未だ彼女は東雲アリスで……皮肉なことに、彼らは身を挺して彼女を守る盾となります。
騎士の行く手を阻む精霊たち。
世界の敵である邪神を守護する世界そのもの。
それはある意味、人質を盾に取ったようなものです。
この世界の住人である騎士には、精霊たちを殺せやしない――邪神アリスはそう思っていました。
――ところが、光の壁をあっさりと突き破ったのは、燃える腕と巨大な黒い剣。
黒い炎は躊躇うことなく、精霊すらも殺したのです。
不意の激痛が、邪神アリスを襲います。
キ ィ ア ァ ア ァ ア ァ ア ァ ァ ァ !!
少女の口から発せられた悲鳴は、巨大な昆虫が発する金切り音そのものでした。
その悲鳴に呼応して、精霊たちが騒ぎます。
なぜならその悲鳴は間違いなく、東雲アリスの叫び声でもあるからです。
精霊たちは少女を助けるため、周囲の者に敵意を向けます。
その敵意は光弾となって、無差別に降り注ぎました。
「女神様!?」
なんとか光弾を凌いだ狂信者たち。
巻き上がる砂埃の向こうに彼らが見た女神の姿は――さっきまでの完全な姿ではなく、片方の翼が焼き切られた冒涜的な姿でした。
騎士は再び剣を振り上げます。
しかし、邪神を斬った代償は重く、すでにその命は燃え尽きようとしていました。
「アア…………命ガ……足リナイ…………」
「貴っ様ぁ! よくも女神様を!!」
悔しそうに呻く騎士に、狂信者の一人が殴りかかります。
そして、その手が触れた瞬間、黒い炎は彼へと燃え移りました。
「うわああっ!?」
悲鳴を上げて転がりまわる狂信者。さらに他の者へと燃え広がる黒い炎。
それは狂信者たちの命をも喰らって、より大きく燃え上がります。
「マダ、終焉レナイ……殺ス……女神ヲ、殺ス………!」
――そう呻くように言った直後、騎士はこと切れたかのようにその場に倒れました。
「……本当に、バカね。人間が邪神に敵うわけがないのに」
邪神アリスが冷たく言い放ちました。
騎士の骸に歩み寄る彼女の表情は、失恋した少女のものには見えません。
むしろ……見下していた下等生物が懐いてくれなかったことに拗ねた子供のような顔でした。
悲しいことに、勝敗は最初から決していました。
決め手は、騎士が口移しで呑みこまされた大量の呪詛。
あれが内側から彼の自我を刈り取ったのです。
その証拠と言うべきか、騎士の骸の表面では、呪詛が毒蟲のように這い回っていました。
いくら邪神すら焼き払える黒い炎であろうとも、灯らなければ意味がありません。
喩えるなら、ガスコンロのスイッチを切られたようなもの。
この瞬間、完全に騎士は邪神アリスの手に堕ちたのでした。
「この死体の後始末は、是非我らにお任せを」
年老いた神官が言います。
「どうするつもり?」
邪神アリスが尋ねました。
「もちろん、女神様に逆らった愚か者として晒し首に――」
突然、神官の片目が弾け飛びました。
「ごめん、今はちょっと、優しくしてあげる気分じゃないの」
邪神アリスは不機嫌に言いました。
「おおおお、申し訳ありません。悪いのは、女神様の意図を汲み取れなかった私めにございます……」
眼球を潰されたというのに、その神官は恍惚とした表情で謝罪しました。
「女神様、気に病む必要はありません。あんな愚か者、死んで当然――」
ここぞとばかりに覚えを良くしてもらおうと、劣情を抱いた若い神官が言いました。
その瞬間、彼の首から上が弾け飛びました。
首の傷口からはドプドプと、ポンプのように血が溢れます。そして血管からウゾウゾと、毒蟲のように呪詛が這い出てきます。
「あっ! いけない。ついカッとなっちゃった」
邪神アリスがそう言うと、傷口から湧き出た毒蟲たちが集まって、若い神官の頭を形作ります。
そして、蟲たちが人間の皮膚に擬態をすることで、元の頭がほぼ完成しました。
「そこ、ちょっと顔が変わっているよ?」
邪神アリスが指摘すると、擬態していた虫たちが数匹身を捩り、正しい形へと修正しました。
若い神官には死んだ自覚すらありません。
顔も、記憶も、感情までもが、何もかもが元通りです――ただし、構成する材料以外は。
「おお……!?」
「奇跡じゃ、奇跡じゃ!」
「女神様はなんと慈悲深い……」
周囲の狂信者たちがざわめきます。ついでに、最初に目を潰された神官も、同じように修復されていました。
「みんな、勝手なことを言わないで。それに、ニブルバーグさんは生きています。その意志は黒い炎となって……新たな後継者が現れれば、彼の意志は燃え移るでしょう」
邪神アリスが改まって言いました。
「だから、この人のために封印鉄で棺を作ってください。そうすれば、黒い炎は貴方たちの力になるはずです」
狂信者たちは驚きました。
なぜなら、わざわざ特注で棺を作るなんて、それはまるで殉職した聖人を葬るかのようだからです。
つまり女神様の発言は――裏切り者の騎士が犯した罪を赦すと言っているに等しいのですから。
「しかし、女神様! 貴女様はこの騎士を赦すおつもりで!?」
「当然でしょう? だって、アリスはニブルバーグさんが大好きだからね!」
邪神アリスは朗らかに笑いました。
「それに呪詛たちが居る限り、黒い炎は逆らえない――面白いでしょ? 彼の炎を引き継ぐ者が、今度はアリスを守る騎士になるの! これでずっと一緒なの!」
狂信者たちはそのアイデアを大絶賛しました。
「でも、燃え尽きる瞬間だけには気を付けておいてね。ちゃんと呪詛で繋いでおかないと、きっとニブルバーグさんは、また暴走しちゃうから」
しかも、ちゃんと注意喚起してくれる女神様の心遣い。狂信者たちは感涙に咽びました。
「……じゃあ、アリスはそろそろ眠るね。おやすみなさーい」
唐突に邪神アリスが言い出します。
突然の御隠れ宣言に、狂信者たちはざわめきました。
「ど、どういうことです?」
「我々を、お見捨てになるのですか!?」
「え? だって、羽を焼かれちゃったから。世界の封印があるせいで、ちゃんと休まないと治せないんだ」
さも当然のように邪神アリスが言うと、彼女は小さな欠伸を一つしました。
「な、なんと!? では、どれほど御隠れに?」
「うーん、封印されたままなら、だいたい千年ぐらいかなぁ?」
「その間、我々はどうすれば……」
「好きにしていいよ。あっ、でも、アリスも夢は見てるから、時々口は出すかも?」
「おお、つまりは神託をくださるということですね!?」
一番偉い神官が、神託を受けるのは自分だろうと期待した目で言いました。
「大げさだなあ……」
邪神アリスは呆れたように言いました。
「でも……そうだ。せっかくだから、皆には世界征服してもらおうかな」
あどけない少女の顔で、邪神アリスは考えます。
「たぶんね、肉体を手に入れたのはアリスだけじゃないと思うの。それなのに、アリスだけ千年間もお休みじゃ、つまらないからね」
「もちろん! 女神さまが御望みになるなら、仰せの通りに!」
世界征服ならば、むしろ当初の予定通り。少しでも女神様に気に入られたい神官たちが揃って声を上げました。
「みんなが頑張ってくれれば、退屈しのぎにはなるかな……じゃあ、制限時間はアリスが目覚めるまで。それまでに、できるだけたくさん人間を用意しておいてね?」
「人間を、たくさん……ですか?」
どういうことでしょう?
女神様に奉仕するのは、名も無き奴隷ではなく、選ばれた自分たちの役目なのに……狂信者たちは女神様が人間を必要とする理由に首をかしげました。
「そう! それでアリスが目覚めたら、本格的に眷属を作るの。女の子たち皆にも協力してもらってね。男の人にも餌になってもらえば、地上はあっという間にアリスの子供たちで満たされるよ! すごいでしょ?」
その夢のような楽園を思い浮かべ、狂信者たちは目を輝かせます。
もはや彼らの目的がすり替わっていることなど、誰にも気づけません。
「そうなったら、他のみんなの封印が解ける日が楽しみだなあ。アリスの眷属だらけで、きっとみんなビックリするよ!」
邪神アリスは心底楽しそうに笑いました。
狂信者たちも、喜びの歓声を上げました。この狂気を指摘できるものは、この場に誰も居ないのです。
この日から静かに、神聖メアリス教国の――その一部の狂信者たちによる野望が始まりました。
「じゃあ、ニブルバーグさん。千年後に逢いましょうね!」
最後に騎士の死体に向かってそう言い残すと、片翼の女神は眠りにつきました。
こうして、騎士の遺体は大聖堂の地下深く、封印鉄で棺に収められることになったのです。
そして時は流れ、偽りの物語が真実を覆い隠します。
人間だった東雲アリスの名前は忘却の彼方に。
いつしか彼女は、片翼の女神メアリスと呼ばれるようになっていました。
信仰も歪められ、精霊と英雄を信仰していたはずの教会は、いつしか片翼の女神を信仰するようになっていました。
騎士の炎は、ありもしない罪の贖罪のため、延々と巡り続けます。
その黒い炎を引き継いだ者が、裏切りの黒騎士の末裔として、ニブルバーグの忌み名を背負うのです。
ある時代では、秩序の守護者として、国を一つ焼きました。
ある時代では、異教徒の抹殺者として、獣人の里を焼きました。
ある時代では、亜人の屠殺人として、エルフの森を焼きました。
終焉ることは許されません。
たとえ後継者の命が絶たれたとしても、次の生贄が選ばれます。
保持者の身を狂気と狂信で焦がしながら、騎士の亡霊はその使命を全うするのです。
この物語の真実を知るのは、ほんの一部の者だけ。
裏切りの騎士が何に怒りを覚えたのか、誰も理解しようとしません。
悲しい時代がありました。
その時代では、この騎士以外にも、多くが犠牲となりました。
大義のために己を捨て、未来のための礎となった名も無き人々。
あるいは、大を生かすための小さな犠牲だったり、何かを成し遂げるための生贄だったり。
しかし彼らのことなんて、大抵の人間は覚えていないでしょう。
酷い場合は彼らの無駄死にを嘲笑いすらして、彼らが残した世界を貪り尽くす――犠牲の恩恵を受けるのは、いつだって戦わなかった者たちです。
そんな不条理を、理不尽な世界を、憎む者たちが居ました。
そんな世界で生きる弱い自分を憎む者たちが居ました。
でも、そんな世界を変えるために、一歩を踏み出した者たちだって居たのです。
――とある星詠みの少女も、その一人でした。
彼女は紙束に記された予言に従って、訪れる未来に備えます。
その予言には、騎士の物語の続きが記されていました。
――冬を纏う獣が、白亜の牢獄を抜け出す。
可憐な薔薇に背を向けて、咆哮を上げる時、空白の玉座が遂に埋まるだろう。
そして太陽を背に北風は、凍る世界を駆け抜ける。
聖女が祈祷る傍らで、吹雪は永久を祝福し、その代償として――。
―― 神 殺 し の 宿 命 を 得 る ――。
* * *
……光の柱が消えて、冬の世界に静寂が訪れる。
凍てついた闘技場には二つの影。
騎士と獣が向かい合う。
「……悪いな」
静まり返った世界の中、魔獣がどこか気まずそうに口を開いた。
「どうやら、お前の炎では……もう、俺を殺せないらしい」
揺らめくは蒼炎の毛皮。
冷たき神殺しの炎を纏う不死身の魔獣が、静かな口調でそう言った。
此れは、心の冷たい魔獣が、真実の愛を知る……それだけの物語ではない。
嘗ての英雄たちが残した希望。
それを引き継ぐ者たちによる、次代の英雄譚。
この物語は、その序章にすぎなかったのである。
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