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第四章 不死身の魔獣と太陽の弓使い
冬という名の牢獄
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わたしは魔獣さんの背中に乗って、冬に呪われた白い世界を駆け抜けます。
……こう表現すると、まるで、わたしが行き先を指示しているみたいですが、実際は全てを魔獣さんに委ねていました。
魔獣さんの鬣をしっかりと掴んで、背中にしがみ付いて、その温もりを感じながら。
全ての景色を置き去りにして、外の世界を目指す魔獣さん。
その背中が、とても大きく感じられます。
魔獣さんの提案は驚くべきものでした。
ディオン司祭を助けに行く――それは本来、魔獣さんにとって何一つメリットのない話です。
たとえ人間の世界で何が起ころうと、この冬に閉ざされた秘境に住んでいる魔獣さんには関係がないのですから。
それなのに魔獣さんは、あの黒い騎士にその身を灼かれてなお、わたしのために戦ってくれると言うのです。
「魔獣さんはなぜ、わたしなんかのために、ここまでしてくださるのですか?」
そう尋ねると、魔獣さんは答えました。
「そうだな、強いて言えば……ソフィアには心の底から笑っていてほしいから、だろうか」
それは、予想もしていなかった理由でした。
わたしに笑っていてほしいから。
本当にそんな理由で、魔獣さんは命を賭けてくださるのでしょうか?
わたしは知っています。魔獣さんが限りなく不死に近い存在であることを。
そんな彼を唯一殺せるかもしれない、黒い騎士の呪われた炎。
わたしが思い出したのは、あの日の魔獣さんの痛々しい姿でした。
黒い炎に灼かれて炭化した、再生しない傷口。
――メアリス教国と事を構える。ということは必然的に、再びあの黒騎士と相見えることになるでしょう。
魔獣さんは、死を恐れていないのでしょうか?
たとえ永遠を捨てることになったとしても、魔獣さんにとっては、そこに命を賭ける価値があるのでしょうか?
魔獣さんの言葉を信じるならば――。
(全部、わたしのために……?)
そう思うと、なぜか頬が熱くなって、わたしは魔獣さんの背中をぎゅっと抱きしめました。
魔獣さんは他にも理由を語ってくれました。
ですが……それらも、わたしの作ったパイが美味しかったからだとか、わたしのブラッシングが心地よかったからだとか、全てが全て他愛のないものばかり。
どれも見返りを求めるなんてできないような、ありふれた小さな日常。
ああ、これは――自惚れてしまっても仕方がないと思います。
だって、それが本当なら……魔獣さんは、わたしと過ごしたひと月にも満たない時間に、永遠の命を賭けるほどの価値を見出してくれたということになるのですから。
わたしは自分がこれほどまで魔獣さんに大切に想われているなんて、考えたことすらありませんでした。
その想いにわたしは、どうやって報いればよろしいのでしょうか?
わたしのために戦ってくれる魔獣さん。その背中がとても頼もしく感じられて、同時に結局魔獣さんに頼る破目となった自分が情けなくなります。
思い返せばいつだって、魔獣さんは必要以上に優しくしてくださいました。
特に日が暮れてからは、わたしが淋しくないように、できる限りわたしの傍に居てくれます。
そんな魔獣さんにお話をせがむのが毎日の日課で、彼はいろんなお話を聞かせてくれました。
聞いたこともない、いくつもの物語。
この広い世界で、きっと魔獣さんだけが知っている秘密のおとぎ話。
楽しかったり、悲しかったり、恐ろしかったり。そして、美しかったり、優しかったり……そんな素敵な、形のない宝物。
魔獣さんは毎晩、それらを惜しみなく語ってくれました。
そのおかげで、わたしは冬のお城でも淋しさを忘れることができたのです。
すでに魔獣さんの存在は、わたしにとっても掛け替えのないものとなっています。
もし叶うなら……可能な限り魔獣さんと一緒に居たい。
許されるなら、全てが終わったあとも――今のわたしは、そんないけないことすらも考えてしまうほどです。
人間のわたしに、こんな勝手なことを思われるのは、魔獣さんにとってただただ迷惑なだけかもしれません。
それでもわたしは、そんな願いを抱いてしまうほどに、魔獣さんに心惹かれていました。
* * *
雪の降る閑散とした森の中、俺はソフィアを背に乗せて走る。
目指すはメアリス教国の首都にある大聖堂。ソフィアの恩人にして育ての親であるディオン司祭を助け出すためだ。
覚悟を決めた俺の気持ちは昂っていた。
ソフィアのためなら、俺はどこまでも戦える。そんな根拠のない自信が溢れていた。
背中に抱き着くソフィアの体温に火照る肉体。
ソフィアには悪いが、冷たい風が俺にとっては心地好い。
そうして走っているうちに積もっている雪の量が少なくなって、ちらほらと地面の色が見えるようになってくる。
この辺りが冬に呪われた地の境界なのだろう。つまり外の世界が近い証拠だ。
「――魔獣さん、止まってください!」
急にソフィアが制止する。
俺はドリフト気味に急停止した。
「どうした? ソフィア」
「黒騎士の気配が……黒い炎の気配を感じます」
ソフィアの言葉に俺は警戒して周囲を見回したが、黒騎士はおろか、俺たち以外の生き物の気配すらない。
俺はソフィアに続きを促した。
「すみません、もっとよく“視て”みます」
ソフィアは目を閉じる。額の宝石で周囲の魔力を探っているようだ。
「これは……残滓でしょうか?」
「ざんし? 残りカスってことか?」
「はい。あの黒騎士がここで黒い炎を使ったようです……残滓とは思えないほどの禍々しい魔力が残っていますが……もう、一週間も前なのに」
俺にはどうもわからないが、どうやらバフォメット族の特徴である額の宝石には周囲の空間がズタズタに焼き切られているように見えているらしい。
「だが、いったいなんのために……?」
俺の疑問にソフィアが答える。
「おそらく、この地に入って来るためでしょう。冬に呪われた地の境界を焼いて、無理やり穴をあけたのかと」
ソフィアは彼女の推測を答えた。
……おい、ちょっと待て。
それってつまり、境界を超えるために、穴をあける必要があるってことだよな?
数歩前に進んでみれば、確かにそこには見えない壁のような抵抗があった。
全速力でぶつかっても、その勢いが殺されるような……弾力ともまた違う、力や運動エネルギーが強制的にゼロに変換されるような、クッションみたいな感触。
「まさか、こんなものがあるとは……どうすればいいんだ」
俺は壁に触れながら途方に暮れた。
どうしよう。いきなりディオン司祭の救出作戦が頓挫してしまったぞ。
「この壁は非常に強固ですが、基本は結界魔術と同じです。小さい穴ならわたしでも開けることができます。少し時間をいただければ……あれ? 魔獣さん? それを知っていて、わたしを連れて来たのでは……?」
ソフィアは可愛らしく首をかしげた。
「いや、すまない……それは知らなかった」
俺は知ったかぶりをせず、素直に謝った。
彼女を連れてきたのは、強いて言えば魔女が留守にしがちな現状で城に残していくのは不安だったのと、拷問されているディオン司祭の治療のためだ。
こんな障害があることは想定外だった。
「ま、まあ、つまりソフィアがいれば問題ないな! では、頼むぞ!!」
俺は勢いで誤魔化す。
ソフィアは困ったように苦笑しながらも、見えない壁と向き合った。
「では、わたしたちが通れる程度の穴を……」
「無駄じゃよ」
背後から幼い少女の声が水を差した。
振り返ると、そこにはさっきまで居なかったはずの魔女が佇んでいた。
突然姿を現した放浪の魔女。
急に表れたのは転移魔法で飛んで来たからだろう。
「なんだ、戻ってきたのか……それで、無駄とはどういうことだ?」
「そのままの意味じゃ。たとえ境界に穴をあけても、お主はここから出られんということよ」
魔女が樫の杖の先で地面を打つと、見えない壁の向こうに別の景色が広がった。
明らかに冬に呪われた地の森とは違う、一切の雪が無い普通の森だ。
「あっ。ここは、いつもの……!」
ソフィアが一歩踏み出し、見えない壁の向こうに立つ。
どうやら冬に呪われた地の外に出られたらしい。
続いて俺も脚を踏み出そうとする――しかし、俺だけは見えない壁に阻まれた。
そんな俺を見て、ソフィアが不思議そうな顔をする。
「……ソフィーや、穴を閉じるから戻ってきなさい。お主も、出られないことは確認したのじゃし、もう閉じてよいじゃろ?」
俺はただ、頷くことしかできなかった。
……さて、結局俺たちは、なんの成果も得られないまま冬の城に戻ってきた。
帰りは魔女の転移魔法で一瞬だった。
俺たちは冬の城のエントランスに放り出される。
戻ってきた俺たちを仮面ゴーレムたちが出迎えた。彼らは用意したお湯で、泥に塗れた俺の足を拭ってくれる。
なんとも準備の良いことだ。
だが、汚れた足の洗浄まで他人任せなのは抵抗がある。
世話を焼いてくる仮面ゴーレムたちに対して、自分でするからと俺は抗議してみた。しかし彼らは頑なにその役目を譲らなかった。
「そうじゃ、ソフィーや。伝えておくことがある」
魔女がソフィアに声をかけた。
「ディオン司祭のことは心配するでない、近いうちに解放されるじゃろ。今日はちょうど、その目処が立ったところじゃ」
「ド、ドロシー様、それは、本当ですか……?」
その朗報に、ソフィアは期待と喜びに満ちた声を上げる。
本当に嬉しそうな声だ。ソフィアの心も不安から解放されたのだろう。
「よかったじゃないか、ソフィア!」
俺も彼女を祝福した。
――でもなぜか、俺の心には悔しさにも似た、忸怩たる思いが残った。
「お主の恩人は儂がなんとかすると言ったじゃろ。そのためにあちこち飛びまわっとるわけじゃしの」
魔女はソフィアに優しい笑顔を見せる。
「ああ、本当にありがとうございます」
「うむ、うむ。さて、体も冷えとることじゃろう。風呂にでも行って体を温めてきなさい――儂はこの魔獣と、ちょっと話がある」
今度は俺を指して、魔女は言った。
ソフィアは再びお礼を言うと、仮面ゴーレムに連れられてエントランスを離れて行った。
ソフィアがいなくなると、先ほどまでの優しげな態度とは打って変わって、魔女の説教が始まる。
俺に優しくしてくれるつもりは、どうやらないらしい。
「……まったく、こんなときばかり無駄に行動が早いんじゃから……まずは儂に一言相談せんか!」
魔女はプリプリと怒った様子で言う……とは言っても、その口ぶりから察するに、本気で怒っているわけではなさそうだ。
どちらかと言うと、一切の相談がなかったことに対して拗ねているように見えた。
「今後はちゃんと儂に教えるんじゃぞ、よいな?」
「いや、そんなこと言われてもな……」
相談しようにも、そもそも城に居なかったのは魔女のほうだ。
彼女には彼女の事情があるのだろうが、その説教は少々理不尽に思える。
それを指摘すると、今度はさらに理不尽なデコピンが俺の鼻先を襲った。
「……痛い、暴力反対!」
「嘘を吐くでない、そんなに痛くないじゃろうが」
「まあ、そうだけどさ……そんなことより、教えてくれよ。どうして俺は、外に出られないんだ?」
俺は先ほどの現象について質問した。
俺に尋ねられると、魔女は少しためらうように目を伏せる。
「さて、どこから話したものか……」
魔女は言葉を選ぶように、考えながらゆっくりと口を開いた。
「……実はの、お主の魂は冬に囚われておるのじゃ。今のお主は冬以外の季節を――暖かい季節を生きることは許されん、そういった存在なのじゃよ」
「なんだよ、その後付け設定みたいな制約は……」
初耳である。この世界に来てから、すでに二か月近く。俺は今さらになって自分がこの冬に呪われた地に囚われていた事実を知った。
「後付けではない! 今までお主が外の世界に興味がなかったがゆえ、気が付かなかっただけじゃろが!」
魔女はピシャリと言った。
魔女は俺にかけられた魔法の代償について、さらに詳しく語った。
「お主を魔獣に変えた魔法は、同時に三つの代償をお主に与えておる。冬に呪われた地から出られんのも、そのうちの一つじゃな」
また初耳だ。衝撃の真実が怒涛のように明かされる。
「三つ? じゃあ、もう一つはなんだ?」
一つ目は不死であることのはずだ。
二つ目は、俺が冬に呪われた地から出られないことだと今知った。
しかし、三つ目の代償には心当たりがない。
また情報の出し惜しみをするかとも思ったが、今日の魔女は意外と素直に答えてくれた。
「三つ目は……そうじゃな、お主が地球に帰れないことじゃよ――お主が人間に戻らん限り、故郷の地を踏むことは絶対にできないのじゃ」
「ああ、そう言えば、前にそんなことも言っていたな。なるほど……」
……ん? 冷静に考えたら、二つ目と三つ目の制約がかぶっているよな?
それとも異世界同士は別扱いなのか? 地球でもここでもない別の異世界なら、俺は自由に行動できる?
まあ、それは考えたところで、異世界転移の魔法が使えない俺にとっては意味のない仮定だった。
聞いたところ、一つ目と三つ目は大した代償ではない印象だ。
問題は二つ目の、“冬に呪われた地から出られない”という制約である。
この制約が重過ぎる。
こいつのせいで俺は、レヴィオール王国奪還のために働きかけることはおろか、ディオン司祭を救出に行くことすらできない。
せっかくの不死が、宝の持ち腐れだ。
冬に呪われた地に引きこもって、何もできないなんて――それって本当に、ただ死んでいないだけじゃないか。
俺がソフィアのためにできることは、本当に何もないのか……?
「戦うことばかりが、ソフィーを救う方法ではないぞ? お主にはお主にしかできんことがある」
衝撃の事実に戸惑う俺を慰めるように、魔女が優しい声音で言った。
「例えば、それはなんだ?」
「……とりあえず、あの娘の傍に居てやることじゃ。お主はソフィーの、心の支えになってやるべきなんじゃよ」
魔女は俺の鬣を撫でながら答えた。
しかし、俺は魔女のその言葉に納得はできなかった。
「何もできない俺が……どうやってソフィアの心の支えになるんだよ?」
俺のやり場のない問いかけは、空虚なエントランスの中に消えて行った。
* * *
風呂から上がったソフィアが俺たちの前に現れたのは、それから約一時間後のことだった。
暖炉のある部屋に入ってきたソフィアは、いつもの修道服に着替えていた。
「あ、魔獣さん。ここにいらしたのですね? お夕飯の準備、できているそうですよ?」
「ああ……」
ソフィアに呼びかけられたものの、考え事をしていた俺は生返事を返してしまった。
「しかし、ソフィアの手料理も久々じゃのう……楽しみじゃ」
今日は珍しく魔女が城に残っていた。彼女も夕食の席に同席するつもりようだ。
「いいえ、今日はわたし、あまり手を出していませんよ。ゴーレムさんたちが頑張ってくださったので」
その事実を知った魔女は、ショックを受けた顔でソフィアに振り替える。
まあ、仕方ない。残念ながら当然の反応だろう。あの失敗料理について、記憶はまだ新しい。
「……また、生焼けの料理じゃないよな?」
俺が警戒混じりに尋ねると、ソフィアはクスクスと笑った。
「心配はご無用です。最近はあの子たちも、料理の腕が上達していますから」
「ううむ、これほど不安な気持ちで晩餐に挑むのは初めてじゃ……」
魔女は悩ましげな表情で先に部屋を出た。
俺も魔女について部屋を出ようとすると、背後からそっとソフィアが引き止めた。
「ん、どうした?」
「……魔獣さん。今日は、ありがとうございます」
背後からソフィアの囁くようなお礼が聞こえた。
しかし、その優しい言葉は逆に俺を悲しい気分にさせた。なぜなら、結局俺には何もできなかったからである。
俺が振り返ると、ソフィアは微笑んでいた。
「……実はわたし、少しだけ嬉しく思いました。魔獣さんが外に出られないって聞いて……ああ、これで、わたしのせいで魔獣さんが傷付くことはないんだって」
「ソフィア……」
あの黒い炎に灼かれた痕を治療してくれたのは彼女だ。そう考えるのは自然なのかもしれない。
だが、俺自身がそれで納得できるかはまた別だ。
「……余計な心配だったでしょうか? でもわたし、ディオン司祭と同じくらい、魔獣さんにも傷付いてほしくないと思っているんですよ?」
不意にソフィアは俺の頭を抱き寄せ、額に触れるようなキスをした。
――額とはいえ、女の子からキスをされたのは、当然初めての経験だった。
やわらかい唇の感触が離れると、ソフィアは言った。
「だから、ありがとうございます、魔獣さん。わたし、本当に嬉しかったです。でも、やっぱり、わたしたちの戦いは、わたしたちで終わらせますから……お気持ちだけで、十分です」
ソフィアの感謝の言葉には、純粋な気持ちと決意が込められていることが分かった。
――しかしその言葉は俺にとって、突き放すような戦力外通告に聞こえた。
さっきの口づけすらも、今の俺には別れの挨拶のように思えてしまった。
「さあ、魔獣さん。わたしたちも、行きましょう?」
ソフィアは紺色のロングスカートを翻し、食堂へと向かった。
ただ死なないだけの無力な魔獣である俺は、何事も成せないまま、去って行く少女を見送った。
いくら覚悟を決めても、力が無ければ何もできない。
力が無くても上手く立ち回れば、努力すれば何かを成し遂げられるなんて、やっぱりそんなものは幻想だった。
現に、あの黒騎士には破ることができた壁を、俺は越えられなかった。
きっと俺だって、あの黒い炎やそれを超える力を持っていれば、あの壁を焼いて突き進むことができたはずなのだ。
なのに、誰かが勝手に決めた制約を愚直に守り続けるしかない俺は、この冬に呪われた地から出られない。
なけなしの勇気も無駄だった。
力が無ければ何もできないという現実を、ただ証明しただけだった。
俺は彼女の英雄には成れなかった。
いつもの暖炉が燃える部屋に独り取り残された俺は、無力感に打ちひしがれていた。
……こう表現すると、まるで、わたしが行き先を指示しているみたいですが、実際は全てを魔獣さんに委ねていました。
魔獣さんの鬣をしっかりと掴んで、背中にしがみ付いて、その温もりを感じながら。
全ての景色を置き去りにして、外の世界を目指す魔獣さん。
その背中が、とても大きく感じられます。
魔獣さんの提案は驚くべきものでした。
ディオン司祭を助けに行く――それは本来、魔獣さんにとって何一つメリットのない話です。
たとえ人間の世界で何が起ころうと、この冬に閉ざされた秘境に住んでいる魔獣さんには関係がないのですから。
それなのに魔獣さんは、あの黒い騎士にその身を灼かれてなお、わたしのために戦ってくれると言うのです。
「魔獣さんはなぜ、わたしなんかのために、ここまでしてくださるのですか?」
そう尋ねると、魔獣さんは答えました。
「そうだな、強いて言えば……ソフィアには心の底から笑っていてほしいから、だろうか」
それは、予想もしていなかった理由でした。
わたしに笑っていてほしいから。
本当にそんな理由で、魔獣さんは命を賭けてくださるのでしょうか?
わたしは知っています。魔獣さんが限りなく不死に近い存在であることを。
そんな彼を唯一殺せるかもしれない、黒い騎士の呪われた炎。
わたしが思い出したのは、あの日の魔獣さんの痛々しい姿でした。
黒い炎に灼かれて炭化した、再生しない傷口。
――メアリス教国と事を構える。ということは必然的に、再びあの黒騎士と相見えることになるでしょう。
魔獣さんは、死を恐れていないのでしょうか?
たとえ永遠を捨てることになったとしても、魔獣さんにとっては、そこに命を賭ける価値があるのでしょうか?
魔獣さんの言葉を信じるならば――。
(全部、わたしのために……?)
そう思うと、なぜか頬が熱くなって、わたしは魔獣さんの背中をぎゅっと抱きしめました。
魔獣さんは他にも理由を語ってくれました。
ですが……それらも、わたしの作ったパイが美味しかったからだとか、わたしのブラッシングが心地よかったからだとか、全てが全て他愛のないものばかり。
どれも見返りを求めるなんてできないような、ありふれた小さな日常。
ああ、これは――自惚れてしまっても仕方がないと思います。
だって、それが本当なら……魔獣さんは、わたしと過ごしたひと月にも満たない時間に、永遠の命を賭けるほどの価値を見出してくれたということになるのですから。
わたしは自分がこれほどまで魔獣さんに大切に想われているなんて、考えたことすらありませんでした。
その想いにわたしは、どうやって報いればよろしいのでしょうか?
わたしのために戦ってくれる魔獣さん。その背中がとても頼もしく感じられて、同時に結局魔獣さんに頼る破目となった自分が情けなくなります。
思い返せばいつだって、魔獣さんは必要以上に優しくしてくださいました。
特に日が暮れてからは、わたしが淋しくないように、できる限りわたしの傍に居てくれます。
そんな魔獣さんにお話をせがむのが毎日の日課で、彼はいろんなお話を聞かせてくれました。
聞いたこともない、いくつもの物語。
この広い世界で、きっと魔獣さんだけが知っている秘密のおとぎ話。
楽しかったり、悲しかったり、恐ろしかったり。そして、美しかったり、優しかったり……そんな素敵な、形のない宝物。
魔獣さんは毎晩、それらを惜しみなく語ってくれました。
そのおかげで、わたしは冬のお城でも淋しさを忘れることができたのです。
すでに魔獣さんの存在は、わたしにとっても掛け替えのないものとなっています。
もし叶うなら……可能な限り魔獣さんと一緒に居たい。
許されるなら、全てが終わったあとも――今のわたしは、そんないけないことすらも考えてしまうほどです。
人間のわたしに、こんな勝手なことを思われるのは、魔獣さんにとってただただ迷惑なだけかもしれません。
それでもわたしは、そんな願いを抱いてしまうほどに、魔獣さんに心惹かれていました。
* * *
雪の降る閑散とした森の中、俺はソフィアを背に乗せて走る。
目指すはメアリス教国の首都にある大聖堂。ソフィアの恩人にして育ての親であるディオン司祭を助け出すためだ。
覚悟を決めた俺の気持ちは昂っていた。
ソフィアのためなら、俺はどこまでも戦える。そんな根拠のない自信が溢れていた。
背中に抱き着くソフィアの体温に火照る肉体。
ソフィアには悪いが、冷たい風が俺にとっては心地好い。
そうして走っているうちに積もっている雪の量が少なくなって、ちらほらと地面の色が見えるようになってくる。
この辺りが冬に呪われた地の境界なのだろう。つまり外の世界が近い証拠だ。
「――魔獣さん、止まってください!」
急にソフィアが制止する。
俺はドリフト気味に急停止した。
「どうした? ソフィア」
「黒騎士の気配が……黒い炎の気配を感じます」
ソフィアの言葉に俺は警戒して周囲を見回したが、黒騎士はおろか、俺たち以外の生き物の気配すらない。
俺はソフィアに続きを促した。
「すみません、もっとよく“視て”みます」
ソフィアは目を閉じる。額の宝石で周囲の魔力を探っているようだ。
「これは……残滓でしょうか?」
「ざんし? 残りカスってことか?」
「はい。あの黒騎士がここで黒い炎を使ったようです……残滓とは思えないほどの禍々しい魔力が残っていますが……もう、一週間も前なのに」
俺にはどうもわからないが、どうやらバフォメット族の特徴である額の宝石には周囲の空間がズタズタに焼き切られているように見えているらしい。
「だが、いったいなんのために……?」
俺の疑問にソフィアが答える。
「おそらく、この地に入って来るためでしょう。冬に呪われた地の境界を焼いて、無理やり穴をあけたのかと」
ソフィアは彼女の推測を答えた。
……おい、ちょっと待て。
それってつまり、境界を超えるために、穴をあける必要があるってことだよな?
数歩前に進んでみれば、確かにそこには見えない壁のような抵抗があった。
全速力でぶつかっても、その勢いが殺されるような……弾力ともまた違う、力や運動エネルギーが強制的にゼロに変換されるような、クッションみたいな感触。
「まさか、こんなものがあるとは……どうすればいいんだ」
俺は壁に触れながら途方に暮れた。
どうしよう。いきなりディオン司祭の救出作戦が頓挫してしまったぞ。
「この壁は非常に強固ですが、基本は結界魔術と同じです。小さい穴ならわたしでも開けることができます。少し時間をいただければ……あれ? 魔獣さん? それを知っていて、わたしを連れて来たのでは……?」
ソフィアは可愛らしく首をかしげた。
「いや、すまない……それは知らなかった」
俺は知ったかぶりをせず、素直に謝った。
彼女を連れてきたのは、強いて言えば魔女が留守にしがちな現状で城に残していくのは不安だったのと、拷問されているディオン司祭の治療のためだ。
こんな障害があることは想定外だった。
「ま、まあ、つまりソフィアがいれば問題ないな! では、頼むぞ!!」
俺は勢いで誤魔化す。
ソフィアは困ったように苦笑しながらも、見えない壁と向き合った。
「では、わたしたちが通れる程度の穴を……」
「無駄じゃよ」
背後から幼い少女の声が水を差した。
振り返ると、そこにはさっきまで居なかったはずの魔女が佇んでいた。
突然姿を現した放浪の魔女。
急に表れたのは転移魔法で飛んで来たからだろう。
「なんだ、戻ってきたのか……それで、無駄とはどういうことだ?」
「そのままの意味じゃ。たとえ境界に穴をあけても、お主はここから出られんということよ」
魔女が樫の杖の先で地面を打つと、見えない壁の向こうに別の景色が広がった。
明らかに冬に呪われた地の森とは違う、一切の雪が無い普通の森だ。
「あっ。ここは、いつもの……!」
ソフィアが一歩踏み出し、見えない壁の向こうに立つ。
どうやら冬に呪われた地の外に出られたらしい。
続いて俺も脚を踏み出そうとする――しかし、俺だけは見えない壁に阻まれた。
そんな俺を見て、ソフィアが不思議そうな顔をする。
「……ソフィーや、穴を閉じるから戻ってきなさい。お主も、出られないことは確認したのじゃし、もう閉じてよいじゃろ?」
俺はただ、頷くことしかできなかった。
……さて、結局俺たちは、なんの成果も得られないまま冬の城に戻ってきた。
帰りは魔女の転移魔法で一瞬だった。
俺たちは冬の城のエントランスに放り出される。
戻ってきた俺たちを仮面ゴーレムたちが出迎えた。彼らは用意したお湯で、泥に塗れた俺の足を拭ってくれる。
なんとも準備の良いことだ。
だが、汚れた足の洗浄まで他人任せなのは抵抗がある。
世話を焼いてくる仮面ゴーレムたちに対して、自分でするからと俺は抗議してみた。しかし彼らは頑なにその役目を譲らなかった。
「そうじゃ、ソフィーや。伝えておくことがある」
魔女がソフィアに声をかけた。
「ディオン司祭のことは心配するでない、近いうちに解放されるじゃろ。今日はちょうど、その目処が立ったところじゃ」
「ド、ドロシー様、それは、本当ですか……?」
その朗報に、ソフィアは期待と喜びに満ちた声を上げる。
本当に嬉しそうな声だ。ソフィアの心も不安から解放されたのだろう。
「よかったじゃないか、ソフィア!」
俺も彼女を祝福した。
――でもなぜか、俺の心には悔しさにも似た、忸怩たる思いが残った。
「お主の恩人は儂がなんとかすると言ったじゃろ。そのためにあちこち飛びまわっとるわけじゃしの」
魔女はソフィアに優しい笑顔を見せる。
「ああ、本当にありがとうございます」
「うむ、うむ。さて、体も冷えとることじゃろう。風呂にでも行って体を温めてきなさい――儂はこの魔獣と、ちょっと話がある」
今度は俺を指して、魔女は言った。
ソフィアは再びお礼を言うと、仮面ゴーレムに連れられてエントランスを離れて行った。
ソフィアがいなくなると、先ほどまでの優しげな態度とは打って変わって、魔女の説教が始まる。
俺に優しくしてくれるつもりは、どうやらないらしい。
「……まったく、こんなときばかり無駄に行動が早いんじゃから……まずは儂に一言相談せんか!」
魔女はプリプリと怒った様子で言う……とは言っても、その口ぶりから察するに、本気で怒っているわけではなさそうだ。
どちらかと言うと、一切の相談がなかったことに対して拗ねているように見えた。
「今後はちゃんと儂に教えるんじゃぞ、よいな?」
「いや、そんなこと言われてもな……」
相談しようにも、そもそも城に居なかったのは魔女のほうだ。
彼女には彼女の事情があるのだろうが、その説教は少々理不尽に思える。
それを指摘すると、今度はさらに理不尽なデコピンが俺の鼻先を襲った。
「……痛い、暴力反対!」
「嘘を吐くでない、そんなに痛くないじゃろうが」
「まあ、そうだけどさ……そんなことより、教えてくれよ。どうして俺は、外に出られないんだ?」
俺は先ほどの現象について質問した。
俺に尋ねられると、魔女は少しためらうように目を伏せる。
「さて、どこから話したものか……」
魔女は言葉を選ぶように、考えながらゆっくりと口を開いた。
「……実はの、お主の魂は冬に囚われておるのじゃ。今のお主は冬以外の季節を――暖かい季節を生きることは許されん、そういった存在なのじゃよ」
「なんだよ、その後付け設定みたいな制約は……」
初耳である。この世界に来てから、すでに二か月近く。俺は今さらになって自分がこの冬に呪われた地に囚われていた事実を知った。
「後付けではない! 今までお主が外の世界に興味がなかったがゆえ、気が付かなかっただけじゃろが!」
魔女はピシャリと言った。
魔女は俺にかけられた魔法の代償について、さらに詳しく語った。
「お主を魔獣に変えた魔法は、同時に三つの代償をお主に与えておる。冬に呪われた地から出られんのも、そのうちの一つじゃな」
また初耳だ。衝撃の真実が怒涛のように明かされる。
「三つ? じゃあ、もう一つはなんだ?」
一つ目は不死であることのはずだ。
二つ目は、俺が冬に呪われた地から出られないことだと今知った。
しかし、三つ目の代償には心当たりがない。
また情報の出し惜しみをするかとも思ったが、今日の魔女は意外と素直に答えてくれた。
「三つ目は……そうじゃな、お主が地球に帰れないことじゃよ――お主が人間に戻らん限り、故郷の地を踏むことは絶対にできないのじゃ」
「ああ、そう言えば、前にそんなことも言っていたな。なるほど……」
……ん? 冷静に考えたら、二つ目と三つ目の制約がかぶっているよな?
それとも異世界同士は別扱いなのか? 地球でもここでもない別の異世界なら、俺は自由に行動できる?
まあ、それは考えたところで、異世界転移の魔法が使えない俺にとっては意味のない仮定だった。
聞いたところ、一つ目と三つ目は大した代償ではない印象だ。
問題は二つ目の、“冬に呪われた地から出られない”という制約である。
この制約が重過ぎる。
こいつのせいで俺は、レヴィオール王国奪還のために働きかけることはおろか、ディオン司祭を救出に行くことすらできない。
せっかくの不死が、宝の持ち腐れだ。
冬に呪われた地に引きこもって、何もできないなんて――それって本当に、ただ死んでいないだけじゃないか。
俺がソフィアのためにできることは、本当に何もないのか……?
「戦うことばかりが、ソフィーを救う方法ではないぞ? お主にはお主にしかできんことがある」
衝撃の事実に戸惑う俺を慰めるように、魔女が優しい声音で言った。
「例えば、それはなんだ?」
「……とりあえず、あの娘の傍に居てやることじゃ。お主はソフィーの、心の支えになってやるべきなんじゃよ」
魔女は俺の鬣を撫でながら答えた。
しかし、俺は魔女のその言葉に納得はできなかった。
「何もできない俺が……どうやってソフィアの心の支えになるんだよ?」
俺のやり場のない問いかけは、空虚なエントランスの中に消えて行った。
* * *
風呂から上がったソフィアが俺たちの前に現れたのは、それから約一時間後のことだった。
暖炉のある部屋に入ってきたソフィアは、いつもの修道服に着替えていた。
「あ、魔獣さん。ここにいらしたのですね? お夕飯の準備、できているそうですよ?」
「ああ……」
ソフィアに呼びかけられたものの、考え事をしていた俺は生返事を返してしまった。
「しかし、ソフィアの手料理も久々じゃのう……楽しみじゃ」
今日は珍しく魔女が城に残っていた。彼女も夕食の席に同席するつもりようだ。
「いいえ、今日はわたし、あまり手を出していませんよ。ゴーレムさんたちが頑張ってくださったので」
その事実を知った魔女は、ショックを受けた顔でソフィアに振り替える。
まあ、仕方ない。残念ながら当然の反応だろう。あの失敗料理について、記憶はまだ新しい。
「……また、生焼けの料理じゃないよな?」
俺が警戒混じりに尋ねると、ソフィアはクスクスと笑った。
「心配はご無用です。最近はあの子たちも、料理の腕が上達していますから」
「ううむ、これほど不安な気持ちで晩餐に挑むのは初めてじゃ……」
魔女は悩ましげな表情で先に部屋を出た。
俺も魔女について部屋を出ようとすると、背後からそっとソフィアが引き止めた。
「ん、どうした?」
「……魔獣さん。今日は、ありがとうございます」
背後からソフィアの囁くようなお礼が聞こえた。
しかし、その優しい言葉は逆に俺を悲しい気分にさせた。なぜなら、結局俺には何もできなかったからである。
俺が振り返ると、ソフィアは微笑んでいた。
「……実はわたし、少しだけ嬉しく思いました。魔獣さんが外に出られないって聞いて……ああ、これで、わたしのせいで魔獣さんが傷付くことはないんだって」
「ソフィア……」
あの黒い炎に灼かれた痕を治療してくれたのは彼女だ。そう考えるのは自然なのかもしれない。
だが、俺自身がそれで納得できるかはまた別だ。
「……余計な心配だったでしょうか? でもわたし、ディオン司祭と同じくらい、魔獣さんにも傷付いてほしくないと思っているんですよ?」
不意にソフィアは俺の頭を抱き寄せ、額に触れるようなキスをした。
――額とはいえ、女の子からキスをされたのは、当然初めての経験だった。
やわらかい唇の感触が離れると、ソフィアは言った。
「だから、ありがとうございます、魔獣さん。わたし、本当に嬉しかったです。でも、やっぱり、わたしたちの戦いは、わたしたちで終わらせますから……お気持ちだけで、十分です」
ソフィアの感謝の言葉には、純粋な気持ちと決意が込められていることが分かった。
――しかしその言葉は俺にとって、突き放すような戦力外通告に聞こえた。
さっきの口づけすらも、今の俺には別れの挨拶のように思えてしまった。
「さあ、魔獣さん。わたしたちも、行きましょう?」
ソフィアは紺色のロングスカートを翻し、食堂へと向かった。
ただ死なないだけの無力な魔獣である俺は、何事も成せないまま、去って行く少女を見送った。
いくら覚悟を決めても、力が無ければ何もできない。
力が無くても上手く立ち回れば、努力すれば何かを成し遂げられるなんて、やっぱりそんなものは幻想だった。
現に、あの黒騎士には破ることができた壁を、俺は越えられなかった。
きっと俺だって、あの黒い炎やそれを超える力を持っていれば、あの壁を焼いて突き進むことができたはずなのだ。
なのに、誰かが勝手に決めた制約を愚直に守り続けるしかない俺は、この冬に呪われた地から出られない。
なけなしの勇気も無駄だった。
力が無ければ何もできないという現実を、ただ証明しただけだった。
俺は彼女の英雄には成れなかった。
いつもの暖炉が燃える部屋に独り取り残された俺は、無力感に打ちひしがれていた。
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