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第一章 黒の魔獣と花嫁候補
成果と報酬
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「ふぃー、やっぱり広い風呂はよいのう……」
魔女は一番広い浴槽の中で、恥ずかしげもなく全身を伸ばした。
彼女は温泉を完璧に私物化して、全力で楽しんでいるようだ。
すべすべした白い大理石の感触。湧き出した温泉が流れ込む音。それら環境も心地よさの演出に一役買っていた。
あまりの心地よさに魔女の表情はだらしないほど蕩けきっている。
「一昔前なら伊豆や箱根も悪くはなかったのじゃが、近頃は海外からも観光客が増えててなぁ。寂れるよりはよいのかもしれんが、それがまた煩うて煩うて……流行り過ぎるのも考え物じゃな。温泉ではやはり、ゆっくりしたいからのう」
彼女の透き通るような肌にはシミ一つなく、まるで白磁器で作られた人形のようであった。
唯一残念な点を挙げるとするならば、その見た目が十歳にも満たない完全な幼女であることぐらいだろうか。
その凹凸のない胴体は、お世辞にもスタイル抜群とは言い難かった。
「こんなによい気分は久々じゃ。これは意外な穴場じゃったな」
「魔女様は、世界中を旅なさっているのですね」
その傍らではもう一人の少女が、湯船の中で雪に冷え切った体を温めていた。
修道服を脱いだ彼女は他人に素肌を見せるのが恥ずかしいのか、膝を折った控えめな姿勢で湯に浸かっている。
「イズ、ハコネ……聞いたことのない地名です。いったい、どのあたりにあるのでしょうか?」
「ふむ、そうじゃのう……ずっとずうっと遠い世界の、極東――東の果ての島国じゃ」
魔女は少し考えるそぶりを見せた後、差し障りのない回答を口にした。
「東の果て……島国ということは、海を越えた先にあるのですね。ちょっと遠すぎて、想像もつきません」
「ああ、そうだろうともさ。儂だって、偶然流れ着くまでは、あんな世界があるなんて思いもよらんかった」
湯船の中で足を伸ばしながら魔女が言うと、少女は意外そうな表情で尋ねる。
「魔女様でも、知らないことってあるのですか?」
「そりゃそうさね。儂だって世の全部が全部を見たわけじゃないしの。世界ってやつは、儂らが思っているよりずっと広いのじゃ」
快活に笑って魔女は答えた。
「それに、儂は全知全能を名乗った覚えない。様付けで呼ばれるほど立派な存在じゃないよ。
お主も儂のことは、気軽に“ドロシーちゃん”とでも呼んでおくれ。お主のことは……そうさな、“ソフィー”と呼べばよいかの?」
少女の目が驚愕に見開かれる。魔女の口から発せられたその名前は、少女にとって聞きなれた自分の愛称だったからだ。
「……やっぱり、お気付きでしたか。魔女様……ドロシー様に隠し事はできませんね」
「偶々じゃよ。儂とお主の間には、ちょっとした縁があるのじゃ」
正体を見破られた少女は、そのアッシュグレーの瞳を伏せた。
「しかしまあ、また、なんとも難儀な娘が導かれたものよのう……あやつが仕込みでもしたのか。それとも、これもまた運命ってやつなのかねぇ」
魔女は湯船に揺られながら、しみじみとした様子で言った。
「……おっと、いかんいかん。これ以上は余計なことまで喋ってしまいそうじゃ。儂は一足先に上がるとするかの。お主はこれからどうするか、体を温めながらゆっくり考えをまとめるとよいのじゃ」
そう言うと魔女は立ち上がり、大浴場を後にした。
そして残されたのは、一人の少女。
彼女は温かい湯船に浸かりながら、魔女の言ったとおりに今後のことを考えていた。
――入浴のために丸く束ねていた黄金の髪を解きながら、魔女は廊下を歩いていく。
その幼い肢体は一糸まとわぬ生まれたままの姿で。
幼く未熟ながらも不自然なまでに美しく、その一挙一動から醸し出す妖艶さは、まさに人を惑わす魔女と呼ばれるに相応しい。
しかしその深いスミレ色の瞳はどこか愁いを帯びており、その思案に耽る表情は救いの手を差し伸べる聖母のようでもあった。
「さぁて……この縁が、あの魔獣の心に何を齎してくれるか、それが問題じゃな」
魔女は歩みながら小さく指を振る。
すると何処からともなく衣服が現れ、全裸の彼女を着飾った。
萌木色のドレスに厚手のローブ。
媒介の宝玉が輝く、身の丈よりも長い樫の杖。
翡翠のリボンで髪をサイドテールに括り、いつも見慣れた魔女の姿となる。
「真実の愛を手に入れて、まっとうな人の道を歩むか。憎悪に染まり切って、道を外れ、闇の世界に沈んでいくのか……自ら冷たき獣に堕ちようとなど、そんな愚かで淋しい考えは、改めてくれればいいんじゃがのう」
そんな独り言を漏らしながら、魔女は魔獣の元へと向かった。
* * *
事切れた蒼シカと適当に選んだ枯れ木を背負って、俺は城に戻ってきた。
さすがは不死身の魔獣ボディ。肉体的には一切の疲れがない。
しかし精神的にはどうにも疲弊していた。
満足な報酬の得られない労働というのは、実際の内容より精神にクるのだ。
城の入り口まで戻ると、小さな人影が扉から出てきて俺を迎えた。
扉を開いたのは、心なしか黄金の髪がしっとり濡れている魔女だった。
「おお、もう戻ってきたか。ずいぶんと早いのう。さてはお主、早々に諦めおったな?」
魔女がにやにや笑いながら言った。
どうやらこの小さな魔女は、俺が何も獲れずおめおめ帰ってきたと思ったようである。
だが見くびってもらっちゃあ、困るぜ。
俺はこう見えて、任せられた仕事はきちんとこなす男なのだ。
勤めていたのがブラック企業だったから無意味だったがな。うん、泣きたくなってきた。
俺は背負っていた蒼シカと枯れ木を魔女の前に降ろす。
「どうだ? これなら文句ないだろ」
俺は自慢気に言い返した。
これだけの大物、我ながら苦労したものだ。少しぐらい誇っていもいいだろう。
そして期待通り、蒼シカの死骸を見た魔女は驚いた表情となった。
「……これは驚きじゃ。まさか本当に獲物を狩ってくるとは思わなかった」
魔女に一泡吹かせることができて、思わず笑みがこぼれる。
「ふふ、なに、今の俺ならそう難しいことでもないさ」
「じゃがそれでも、お主は狩りなんてするの初めてじゃろう? それなのに成果を上げてくるとは、正直意外じゃった」
……何か引っかかる言い方だな。
まるで俺が何かを獲ってくること自体が予想外だったような言い草だ。
「おいおい、意外って……まさか失敗する前提だったのか?」
確かにウサギですらなかなかの強敵であった。十分にありえた話だ。だが、もし本当に何も獲れなかったらどうするつもりだったんだ?
その疑問に対し、魔女はあっけらかんと答えた。
「まあの、期待はしとらんかったな。あれは半ば、お主を追いやるための口実だったからの」
帰ってきたその答えは、さっきまでの俺を何もかもをぶち壊しにするものだった。
「…………は?」
俺は一瞬、魔女が何を言ったか理解できなかった。
その言葉は俺にとって、到底看破できるものではない。
期待はしていなかった? 追い払うための口実?
おいおい。何言ってんだ、こいつ?
これじゃあまるで、真面目に雪の中を駆けずり回った俺が、馬鹿みたいじゃないか。
「お主の頑張りを無駄にするつもりはなかったんじゃがな、これは予定が狂ったのう……」
魔女が何か言ったが、俺の耳には入ってこない。
なんでだ? そういうことはもっと早く言えよ。なんで今さら言うんだ? 俺はもう、ちゃんと仕事を果たしたぞ?
しかも必要ないのに獲ってきた蒼シカを自慢気に見せびらかせて、これじゃ完全に道化だ。
「……いったいなんのために、俺は頑張ったんだ?」
ひたすらに不快な感情が、俺の胸の内を満たした。
それは怒りすら湧かず、悲しみもなく、ただ暗い泥の中で諦めるような感情。
俺はその感情を、とても良く知っていた。
「ああ、そうか……」
今更だ。さっき気が付いたじゃないか。
仮に魔女の依頼を達成したところで、初めから俺が得られるものなんか何もないのだと。
しょせん、異世界に来たって、俺の扱いはこんなものなのだ。
謎が解けた。
俺がどう変わるべきなのか、完全に理解した。
拒絶だ。
不死となった俺はもう、他人を必要としない。
だから、初めから全てを拒絶するべきだったのだ。
思い返せば、いつもこうだった。
いい加減に俺も学習しろよな。俺はもう、この世の仕組みを知っているのだから。
そうだ。どいつもこいつも俺をぞんざいに扱いやがる。
馬鹿にしやがって。
頼まれた。だからきちんと結果を出した。
それに対して当たり前の報いが欲しい……それだけなのに、そんな当たり前の期待すら裏切られる。
いつだって俺たちは、特別に贅沢な報酬を望んでいるわけではない。俺たちが欲しいのは人並みの人生だったはずだ。
だがこの世界でも、そんな些細な願いすら叶わない。
能力に恵まれなくても、真面目に頑張れば報われる――それがただの幻想だったことを、俺は知っている。
責任を背負い、義務を果たし、それでいて得られるのは辛うじて生きていく権利だけ。
不健康で、奴隷のような、最低限度の人生。
これでは人間だった頃と――いくら働いても最底辺にしかなれなかった人間時代と、何も変わっていない。
……だが、逆に言えば、それだけなのだ。
魔女の仕打ちは不快には思ったが、別にどうこうする気にはならなかった。
なぜなら、これは知っていたはずの現実を再確認しただけ。
強いて問題があったとすれば、俺に学習能力がなかったことだけである。
事実、今回も俺が勝手に無駄な頑張りをしただけであり、魔女を咎められる力も立場もない。
とどのつまり――いつものことだった。
悲しいことに、使い潰されることには慣れていた。
「……分かったよ、もういい……頼まれたことは、ちゃんと終わらせたからな。後はあんたで勝手にやってくれ!!」
失意の中で俺は魔女に背を向け、いつもの寝床に帰ろうとした。
せめて、何もかもを忘れて眠り続けたい気分だった。
ああ、何もかもが馬鹿らしい。
結局のところ、自分以外は他人。必要以上に信用してはいけない。
誠意に誠意が帰ってくるとは限らない。善意に善意が帰ってくるとは限らない。
ありきたりな言葉だが、他人を信頼してはいけないのだ。
もちろん俺にとってだってそうだ……俺にとって他人はもう、信頼する必要なんてない、どうでもいい存在のはず。
なぜなら今の俺は不死の魔獣。
個で存在の確立した、完全なる存在。
つまり俺はもう、他人を必要としない。もはや誰とも関わる必要はないのだ――。
「これこれ、待つのじゃ。ちょっとした言葉の綾じゃ、そう大げさに嘆くでない」
魔女が俺に呼びかける。
こんなときは無視すればいいものを、律儀に耳を傾けてしまうのは俺の悪い癖だ。
「なんだよ、うるせえな……!」
チィッ!! 俺は魔女に聞こえるよう舌打ちをする。
「だ・か・ら、そうすぐにカッカするでない! お主も気が短いのう……」
今さらなんだ? 俺は初めから要らなかったんだろ? ならばもう、俺を巻き込まないでくれ。
俺はただ、これからは自分のために生きたい、それだけなのだ。
しかし魔女はそんな俺の態度を無視する。
そして死んだ蒼シカの毛皮を撫でながらそっと問いかけた。
「慣れた獲物が相手ならともかく、今日初めて相対した魔獣。この骸が保有する魔素も決して少なくない」
後付けで褒められた程度で騙される俺じゃない。もはや貴様の本心は見えた。覆水盆に返らず――吐いた言葉は、取り返しがつかないのだよ!
「にもかかわらず、これほどの大物を仕留めるとは……お主、このたった数時間でどれだけ傷付いた? それとも、何回死んだ?」
魔女の咎めるような物言いに対し、俺はできるだけぶっきらぼうに答えた。
「……さあな。そんなの数えてねえよ」
「なるほどのう。つまり、少なくとも一度や二度ではないということじゃな」
だから知らねえっての。
実際のところ致命傷こそは負わなかったが、もしかしたら失血死するくらいの血は流していたかもしれない。
しかし今の俺は不死なのだ。無限の命をどう使おうと、何も問題もないだろ?
「さっきは言い方が悪かったの。すまなかった」
そう思っていると突然、魔女が頭を下げた。
「じゃが、儂はお主が己を犠牲にしてまで事を成し遂げることを望んでいたわけではないのじゃ。それだけは理解していてほしい」
俺に頭を下げながら、魔女は言葉を続ける――それは俺にとって、予想外の行動だった。
「ああ、はっきり言って見事じゃよ。右も左も分からんかったはずなのに、自ら解決策を見つけ出し、こうしてやるべきことをやりとげたのは」
その内容は俺の成果を褒めているにもかかわらず、語りかける彼女の声音は悲しげだ。
「じゃがその結果、お主が幸せにならんと、なんの意味もないじゃろ? これは、どんな仕事をしても一緒じゃ」
その魔女の声音は幼い子供を諭すようだった。
……なんだよ、それ。
なぜ赤の他人であるあんたが、俺の幸福について心配するんだ?
止めてくれ。
今さらそんなに優しくされても、それはそれで、その……逆に困る。
その優しさに何を返せばいいのか、俺は知らなかった。
「ま、今回は褒めてやるのじゃ。次からは、自分自身も大切にするのじゃぞ。たとえ肉体が不死であろうとも、精神には相当の負担がかかるはずじゃからの」
そう言って、魔女は俺に微笑みかけた。
――ああ、なんと言えばいいのだろう。
誰かに感謝されるなんて、いつ振りだろうか。
誰かに身を案じられるなんて、いつ以来だろうか。
毒気を抜かれるとはこういう気分を指すのだろう。
…………そうだな。冷静になってみると、俺もいい歳して、少し大人げなかったかもしれない。
さっきは偉そうなことを思ったが、魔獣の身体能力と不死の力さえ使えれば、達成できる見込みが初めからあった。
だから実行して、結果を得られた。
つまり、できて当たり前のことをやっただけに過ぎないのである。
自ら解決策を探す。
これも社会人なら……少なくともIT土方なら当たり前だ。
一見理不尽だが、プログラムのことはプログラマ同士でしかわからないのだ。人件費削減の結果仲間が居なければ……当然、自分でやるしかない。
加えて、ここにはネット以上に便利な魔法の鏡が存在する。何も特別すごいことではない。
少なくとも、俺が人間として働いていた頃よりは、苦痛ではなかった。
それに考えてみれば、もとから報酬を期待していた仕事ってわけでもないしな。
社畜だった頃とは、そもそもの前提条件が違うのだ。
だから、そう。
今回は……その言葉だけで十分だった。
……それはそれとして、サービス残業は勘弁してほしいがな。
何かを得られたわけではなかったが、俺の胸の中で荒れ狂っていた黒い感情が、潮のように引いていくのを感じた。
「いや~しかし本当によくやったの。これほどの魔獣、並の狩人なら返り討ちに遭うところじゃ。ツノは立派、毛皮の状態も素晴らしい、こりゃ町に持っていけばそうとう高値が付くのう」
いつの間にか魔女は蒼シカの品評に戻っていた。その声音はわざとらしいほどに明るかった。
妙にこそばゆいような居心地を覚えたが、決して悪い気分じゃなかった。
「ふむ、もしかして首の骨を折って仕留めたのか? ここまで状態が良いのなら、内臓や血も捨てる必要なかったのに。ますます惜しいのう……」
「血?」
「お主には馴染みないじゃろうな。鹿の血は甘くて、ソースや腸詰めにすると美味いんじゃよ」
血の腸詰め……つまりブラッドソーセージってやつのことだな。
「すぐに悪くなるがゆえ滅多に口にはできん御馳走じゃ。ついでに魔獣の血なら、魔術の触媒としても期待できるしの」
「そうなのか。なら、捨てるのは勿体なかったな。次はそのまま持ってくるか」
「おお、それはよい! 楽しみにしておるからな!」
魔女は目に見えてウキウキとした様子だった。きっと好物なのだろう。いや、普通に魔術触媒として欲しがっているだけかもしれないが。
……って、なぜまた俺が狩りに出る前提で話が進んでいるんだ!
いや、まあ、いいけどさ。
さすがにここまで嬉しそうにされると、断ることなんて俺にはできなかった。
* * *
魔女に連れられ食堂に向かうと、すでに食事の準備が進んでいた。
無駄に長いテーブルとか、壁の無駄に凝った装飾とか、典型的な貴族の食事風景をイメージさせる豪華な部屋だ。
いつの間に掃除したのやら。そう思っていると目の前を奇妙なものが通り過ぎる。
「なんだこりゃ?」
「見りゃわかるじゃろ。ゴーレムじゃ。お主の世界にも似たようなのはあったはずじゃぞ? こやつらには掃除と食事の用意をさせておる」
魔女がなんでもないことのように説明した。
ゴーレムと紹介された、辛うじて人型をしている不気味な白磁の人形たち。仮面のようなものを付けた彼らは、せっせと食器を並べてディナーの準備をしている。
「今後ソフィーの世話はこやつらに任せるつもりじゃ」
「そ、そうか……」
メイドの代わりをさせるのか。ならもう少し、見た目にも拘ればいいのに――こんなやつらに世話されるなんて、軽くホラーじゃないか。
「……言っておくが、儂の趣味じゃないぞ? こやつらを作ったのは、“仮面の魔女”じゃよ」
「いや、そんなこと言われても知らねえし、不気味なのには変わりねえよ」
俺は魔女の言い訳に呆れながら返した。
「ところで、ソフィーってのは、あの修道女みたいな服を着ていた女のことか?」
「ああ。そうじゃよ」
二人はいつの間にか、愛称で呼び合う仲になっていたらしい。
「そうか。これはまた、ずいぶんと仲良くなったようで」
「まあの……実はあの娘、知り合いの……まあ、その、身内みたいなものじゃて……」
魔女は難しい顔をして言った。
よく分からないが、きっと彼女たちの間には複雑な事情があるのだろう。
「なるほどね、世間ってのは狭いな。道理であんたが過保護になるわけだ」
専属の使用人ゴーレムまでつけるぐらいだしな。彼女を大切に扱っているのは俺にも理解できる。
「あれは若いのに、なかなか苦労しとる娘じゃ。国を失ったとはいえ紛れもない王族じゃし、あまりにみすぼらしいのは可哀そうじゃ。お主もそう思うじゃろ?」
「まあ、そりゃ確かになー……」
やれやれ、といった感じで、魔女は小さなため息をついた。
「…………おい、ちょと待って? おうぞく?」
このロリババア、今さらっとなんて言いやがった?
問い質そうとするも、ちょうど背後のドアから聞こえてきたノックの音に遮られる。
「うむ。入ってよいぞ」
俺の意見を待たずに、魔女がノックに応えた。
許可されて最初に扉を開いたのは、例の使用人ゴーレムだった。
その使用人ゴーレムにうながされ、続いて白いドレスを身に纏った少女が扉をくぐり入ってきた。
魔女は一番広い浴槽の中で、恥ずかしげもなく全身を伸ばした。
彼女は温泉を完璧に私物化して、全力で楽しんでいるようだ。
すべすべした白い大理石の感触。湧き出した温泉が流れ込む音。それら環境も心地よさの演出に一役買っていた。
あまりの心地よさに魔女の表情はだらしないほど蕩けきっている。
「一昔前なら伊豆や箱根も悪くはなかったのじゃが、近頃は海外からも観光客が増えててなぁ。寂れるよりはよいのかもしれんが、それがまた煩うて煩うて……流行り過ぎるのも考え物じゃな。温泉ではやはり、ゆっくりしたいからのう」
彼女の透き通るような肌にはシミ一つなく、まるで白磁器で作られた人形のようであった。
唯一残念な点を挙げるとするならば、その見た目が十歳にも満たない完全な幼女であることぐらいだろうか。
その凹凸のない胴体は、お世辞にもスタイル抜群とは言い難かった。
「こんなによい気分は久々じゃ。これは意外な穴場じゃったな」
「魔女様は、世界中を旅なさっているのですね」
その傍らではもう一人の少女が、湯船の中で雪に冷え切った体を温めていた。
修道服を脱いだ彼女は他人に素肌を見せるのが恥ずかしいのか、膝を折った控えめな姿勢で湯に浸かっている。
「イズ、ハコネ……聞いたことのない地名です。いったい、どのあたりにあるのでしょうか?」
「ふむ、そうじゃのう……ずっとずうっと遠い世界の、極東――東の果ての島国じゃ」
魔女は少し考えるそぶりを見せた後、差し障りのない回答を口にした。
「東の果て……島国ということは、海を越えた先にあるのですね。ちょっと遠すぎて、想像もつきません」
「ああ、そうだろうともさ。儂だって、偶然流れ着くまでは、あんな世界があるなんて思いもよらんかった」
湯船の中で足を伸ばしながら魔女が言うと、少女は意外そうな表情で尋ねる。
「魔女様でも、知らないことってあるのですか?」
「そりゃそうさね。儂だって世の全部が全部を見たわけじゃないしの。世界ってやつは、儂らが思っているよりずっと広いのじゃ」
快活に笑って魔女は答えた。
「それに、儂は全知全能を名乗った覚えない。様付けで呼ばれるほど立派な存在じゃないよ。
お主も儂のことは、気軽に“ドロシーちゃん”とでも呼んでおくれ。お主のことは……そうさな、“ソフィー”と呼べばよいかの?」
少女の目が驚愕に見開かれる。魔女の口から発せられたその名前は、少女にとって聞きなれた自分の愛称だったからだ。
「……やっぱり、お気付きでしたか。魔女様……ドロシー様に隠し事はできませんね」
「偶々じゃよ。儂とお主の間には、ちょっとした縁があるのじゃ」
正体を見破られた少女は、そのアッシュグレーの瞳を伏せた。
「しかしまあ、また、なんとも難儀な娘が導かれたものよのう……あやつが仕込みでもしたのか。それとも、これもまた運命ってやつなのかねぇ」
魔女は湯船に揺られながら、しみじみとした様子で言った。
「……おっと、いかんいかん。これ以上は余計なことまで喋ってしまいそうじゃ。儂は一足先に上がるとするかの。お主はこれからどうするか、体を温めながらゆっくり考えをまとめるとよいのじゃ」
そう言うと魔女は立ち上がり、大浴場を後にした。
そして残されたのは、一人の少女。
彼女は温かい湯船に浸かりながら、魔女の言ったとおりに今後のことを考えていた。
――入浴のために丸く束ねていた黄金の髪を解きながら、魔女は廊下を歩いていく。
その幼い肢体は一糸まとわぬ生まれたままの姿で。
幼く未熟ながらも不自然なまでに美しく、その一挙一動から醸し出す妖艶さは、まさに人を惑わす魔女と呼ばれるに相応しい。
しかしその深いスミレ色の瞳はどこか愁いを帯びており、その思案に耽る表情は救いの手を差し伸べる聖母のようでもあった。
「さぁて……この縁が、あの魔獣の心に何を齎してくれるか、それが問題じゃな」
魔女は歩みながら小さく指を振る。
すると何処からともなく衣服が現れ、全裸の彼女を着飾った。
萌木色のドレスに厚手のローブ。
媒介の宝玉が輝く、身の丈よりも長い樫の杖。
翡翠のリボンで髪をサイドテールに括り、いつも見慣れた魔女の姿となる。
「真実の愛を手に入れて、まっとうな人の道を歩むか。憎悪に染まり切って、道を外れ、闇の世界に沈んでいくのか……自ら冷たき獣に堕ちようとなど、そんな愚かで淋しい考えは、改めてくれればいいんじゃがのう」
そんな独り言を漏らしながら、魔女は魔獣の元へと向かった。
* * *
事切れた蒼シカと適当に選んだ枯れ木を背負って、俺は城に戻ってきた。
さすがは不死身の魔獣ボディ。肉体的には一切の疲れがない。
しかし精神的にはどうにも疲弊していた。
満足な報酬の得られない労働というのは、実際の内容より精神にクるのだ。
城の入り口まで戻ると、小さな人影が扉から出てきて俺を迎えた。
扉を開いたのは、心なしか黄金の髪がしっとり濡れている魔女だった。
「おお、もう戻ってきたか。ずいぶんと早いのう。さてはお主、早々に諦めおったな?」
魔女がにやにや笑いながら言った。
どうやらこの小さな魔女は、俺が何も獲れずおめおめ帰ってきたと思ったようである。
だが見くびってもらっちゃあ、困るぜ。
俺はこう見えて、任せられた仕事はきちんとこなす男なのだ。
勤めていたのがブラック企業だったから無意味だったがな。うん、泣きたくなってきた。
俺は背負っていた蒼シカと枯れ木を魔女の前に降ろす。
「どうだ? これなら文句ないだろ」
俺は自慢気に言い返した。
これだけの大物、我ながら苦労したものだ。少しぐらい誇っていもいいだろう。
そして期待通り、蒼シカの死骸を見た魔女は驚いた表情となった。
「……これは驚きじゃ。まさか本当に獲物を狩ってくるとは思わなかった」
魔女に一泡吹かせることができて、思わず笑みがこぼれる。
「ふふ、なに、今の俺ならそう難しいことでもないさ」
「じゃがそれでも、お主は狩りなんてするの初めてじゃろう? それなのに成果を上げてくるとは、正直意外じゃった」
……何か引っかかる言い方だな。
まるで俺が何かを獲ってくること自体が予想外だったような言い草だ。
「おいおい、意外って……まさか失敗する前提だったのか?」
確かにウサギですらなかなかの強敵であった。十分にありえた話だ。だが、もし本当に何も獲れなかったらどうするつもりだったんだ?
その疑問に対し、魔女はあっけらかんと答えた。
「まあの、期待はしとらんかったな。あれは半ば、お主を追いやるための口実だったからの」
帰ってきたその答えは、さっきまでの俺を何もかもをぶち壊しにするものだった。
「…………は?」
俺は一瞬、魔女が何を言ったか理解できなかった。
その言葉は俺にとって、到底看破できるものではない。
期待はしていなかった? 追い払うための口実?
おいおい。何言ってんだ、こいつ?
これじゃあまるで、真面目に雪の中を駆けずり回った俺が、馬鹿みたいじゃないか。
「お主の頑張りを無駄にするつもりはなかったんじゃがな、これは予定が狂ったのう……」
魔女が何か言ったが、俺の耳には入ってこない。
なんでだ? そういうことはもっと早く言えよ。なんで今さら言うんだ? 俺はもう、ちゃんと仕事を果たしたぞ?
しかも必要ないのに獲ってきた蒼シカを自慢気に見せびらかせて、これじゃ完全に道化だ。
「……いったいなんのために、俺は頑張ったんだ?」
ひたすらに不快な感情が、俺の胸の内を満たした。
それは怒りすら湧かず、悲しみもなく、ただ暗い泥の中で諦めるような感情。
俺はその感情を、とても良く知っていた。
「ああ、そうか……」
今更だ。さっき気が付いたじゃないか。
仮に魔女の依頼を達成したところで、初めから俺が得られるものなんか何もないのだと。
しょせん、異世界に来たって、俺の扱いはこんなものなのだ。
謎が解けた。
俺がどう変わるべきなのか、完全に理解した。
拒絶だ。
不死となった俺はもう、他人を必要としない。
だから、初めから全てを拒絶するべきだったのだ。
思い返せば、いつもこうだった。
いい加減に俺も学習しろよな。俺はもう、この世の仕組みを知っているのだから。
そうだ。どいつもこいつも俺をぞんざいに扱いやがる。
馬鹿にしやがって。
頼まれた。だからきちんと結果を出した。
それに対して当たり前の報いが欲しい……それだけなのに、そんな当たり前の期待すら裏切られる。
いつだって俺たちは、特別に贅沢な報酬を望んでいるわけではない。俺たちが欲しいのは人並みの人生だったはずだ。
だがこの世界でも、そんな些細な願いすら叶わない。
能力に恵まれなくても、真面目に頑張れば報われる――それがただの幻想だったことを、俺は知っている。
責任を背負い、義務を果たし、それでいて得られるのは辛うじて生きていく権利だけ。
不健康で、奴隷のような、最低限度の人生。
これでは人間だった頃と――いくら働いても最底辺にしかなれなかった人間時代と、何も変わっていない。
……だが、逆に言えば、それだけなのだ。
魔女の仕打ちは不快には思ったが、別にどうこうする気にはならなかった。
なぜなら、これは知っていたはずの現実を再確認しただけ。
強いて問題があったとすれば、俺に学習能力がなかったことだけである。
事実、今回も俺が勝手に無駄な頑張りをしただけであり、魔女を咎められる力も立場もない。
とどのつまり――いつものことだった。
悲しいことに、使い潰されることには慣れていた。
「……分かったよ、もういい……頼まれたことは、ちゃんと終わらせたからな。後はあんたで勝手にやってくれ!!」
失意の中で俺は魔女に背を向け、いつもの寝床に帰ろうとした。
せめて、何もかもを忘れて眠り続けたい気分だった。
ああ、何もかもが馬鹿らしい。
結局のところ、自分以外は他人。必要以上に信用してはいけない。
誠意に誠意が帰ってくるとは限らない。善意に善意が帰ってくるとは限らない。
ありきたりな言葉だが、他人を信頼してはいけないのだ。
もちろん俺にとってだってそうだ……俺にとって他人はもう、信頼する必要なんてない、どうでもいい存在のはず。
なぜなら今の俺は不死の魔獣。
個で存在の確立した、完全なる存在。
つまり俺はもう、他人を必要としない。もはや誰とも関わる必要はないのだ――。
「これこれ、待つのじゃ。ちょっとした言葉の綾じゃ、そう大げさに嘆くでない」
魔女が俺に呼びかける。
こんなときは無視すればいいものを、律儀に耳を傾けてしまうのは俺の悪い癖だ。
「なんだよ、うるせえな……!」
チィッ!! 俺は魔女に聞こえるよう舌打ちをする。
「だ・か・ら、そうすぐにカッカするでない! お主も気が短いのう……」
今さらなんだ? 俺は初めから要らなかったんだろ? ならばもう、俺を巻き込まないでくれ。
俺はただ、これからは自分のために生きたい、それだけなのだ。
しかし魔女はそんな俺の態度を無視する。
そして死んだ蒼シカの毛皮を撫でながらそっと問いかけた。
「慣れた獲物が相手ならともかく、今日初めて相対した魔獣。この骸が保有する魔素も決して少なくない」
後付けで褒められた程度で騙される俺じゃない。もはや貴様の本心は見えた。覆水盆に返らず――吐いた言葉は、取り返しがつかないのだよ!
「にもかかわらず、これほどの大物を仕留めるとは……お主、このたった数時間でどれだけ傷付いた? それとも、何回死んだ?」
魔女の咎めるような物言いに対し、俺はできるだけぶっきらぼうに答えた。
「……さあな。そんなの数えてねえよ」
「なるほどのう。つまり、少なくとも一度や二度ではないということじゃな」
だから知らねえっての。
実際のところ致命傷こそは負わなかったが、もしかしたら失血死するくらいの血は流していたかもしれない。
しかし今の俺は不死なのだ。無限の命をどう使おうと、何も問題もないだろ?
「さっきは言い方が悪かったの。すまなかった」
そう思っていると突然、魔女が頭を下げた。
「じゃが、儂はお主が己を犠牲にしてまで事を成し遂げることを望んでいたわけではないのじゃ。それだけは理解していてほしい」
俺に頭を下げながら、魔女は言葉を続ける――それは俺にとって、予想外の行動だった。
「ああ、はっきり言って見事じゃよ。右も左も分からんかったはずなのに、自ら解決策を見つけ出し、こうしてやるべきことをやりとげたのは」
その内容は俺の成果を褒めているにもかかわらず、語りかける彼女の声音は悲しげだ。
「じゃがその結果、お主が幸せにならんと、なんの意味もないじゃろ? これは、どんな仕事をしても一緒じゃ」
その魔女の声音は幼い子供を諭すようだった。
……なんだよ、それ。
なぜ赤の他人であるあんたが、俺の幸福について心配するんだ?
止めてくれ。
今さらそんなに優しくされても、それはそれで、その……逆に困る。
その優しさに何を返せばいいのか、俺は知らなかった。
「ま、今回は褒めてやるのじゃ。次からは、自分自身も大切にするのじゃぞ。たとえ肉体が不死であろうとも、精神には相当の負担がかかるはずじゃからの」
そう言って、魔女は俺に微笑みかけた。
――ああ、なんと言えばいいのだろう。
誰かに感謝されるなんて、いつ振りだろうか。
誰かに身を案じられるなんて、いつ以来だろうか。
毒気を抜かれるとはこういう気分を指すのだろう。
…………そうだな。冷静になってみると、俺もいい歳して、少し大人げなかったかもしれない。
さっきは偉そうなことを思ったが、魔獣の身体能力と不死の力さえ使えれば、達成できる見込みが初めからあった。
だから実行して、結果を得られた。
つまり、できて当たり前のことをやっただけに過ぎないのである。
自ら解決策を探す。
これも社会人なら……少なくともIT土方なら当たり前だ。
一見理不尽だが、プログラムのことはプログラマ同士でしかわからないのだ。人件費削減の結果仲間が居なければ……当然、自分でやるしかない。
加えて、ここにはネット以上に便利な魔法の鏡が存在する。何も特別すごいことではない。
少なくとも、俺が人間として働いていた頃よりは、苦痛ではなかった。
それに考えてみれば、もとから報酬を期待していた仕事ってわけでもないしな。
社畜だった頃とは、そもそもの前提条件が違うのだ。
だから、そう。
今回は……その言葉だけで十分だった。
……それはそれとして、サービス残業は勘弁してほしいがな。
何かを得られたわけではなかったが、俺の胸の中で荒れ狂っていた黒い感情が、潮のように引いていくのを感じた。
「いや~しかし本当によくやったの。これほどの魔獣、並の狩人なら返り討ちに遭うところじゃ。ツノは立派、毛皮の状態も素晴らしい、こりゃ町に持っていけばそうとう高値が付くのう」
いつの間にか魔女は蒼シカの品評に戻っていた。その声音はわざとらしいほどに明るかった。
妙にこそばゆいような居心地を覚えたが、決して悪い気分じゃなかった。
「ふむ、もしかして首の骨を折って仕留めたのか? ここまで状態が良いのなら、内臓や血も捨てる必要なかったのに。ますます惜しいのう……」
「血?」
「お主には馴染みないじゃろうな。鹿の血は甘くて、ソースや腸詰めにすると美味いんじゃよ」
血の腸詰め……つまりブラッドソーセージってやつのことだな。
「すぐに悪くなるがゆえ滅多に口にはできん御馳走じゃ。ついでに魔獣の血なら、魔術の触媒としても期待できるしの」
「そうなのか。なら、捨てるのは勿体なかったな。次はそのまま持ってくるか」
「おお、それはよい! 楽しみにしておるからな!」
魔女は目に見えてウキウキとした様子だった。きっと好物なのだろう。いや、普通に魔術触媒として欲しがっているだけかもしれないが。
……って、なぜまた俺が狩りに出る前提で話が進んでいるんだ!
いや、まあ、いいけどさ。
さすがにここまで嬉しそうにされると、断ることなんて俺にはできなかった。
* * *
魔女に連れられ食堂に向かうと、すでに食事の準備が進んでいた。
無駄に長いテーブルとか、壁の無駄に凝った装飾とか、典型的な貴族の食事風景をイメージさせる豪華な部屋だ。
いつの間に掃除したのやら。そう思っていると目の前を奇妙なものが通り過ぎる。
「なんだこりゃ?」
「見りゃわかるじゃろ。ゴーレムじゃ。お主の世界にも似たようなのはあったはずじゃぞ? こやつらには掃除と食事の用意をさせておる」
魔女がなんでもないことのように説明した。
ゴーレムと紹介された、辛うじて人型をしている不気味な白磁の人形たち。仮面のようなものを付けた彼らは、せっせと食器を並べてディナーの準備をしている。
「今後ソフィーの世話はこやつらに任せるつもりじゃ」
「そ、そうか……」
メイドの代わりをさせるのか。ならもう少し、見た目にも拘ればいいのに――こんなやつらに世話されるなんて、軽くホラーじゃないか。
「……言っておくが、儂の趣味じゃないぞ? こやつらを作ったのは、“仮面の魔女”じゃよ」
「いや、そんなこと言われても知らねえし、不気味なのには変わりねえよ」
俺は魔女の言い訳に呆れながら返した。
「ところで、ソフィーってのは、あの修道女みたいな服を着ていた女のことか?」
「ああ。そうじゃよ」
二人はいつの間にか、愛称で呼び合う仲になっていたらしい。
「そうか。これはまた、ずいぶんと仲良くなったようで」
「まあの……実はあの娘、知り合いの……まあ、その、身内みたいなものじゃて……」
魔女は難しい顔をして言った。
よく分からないが、きっと彼女たちの間には複雑な事情があるのだろう。
「なるほどね、世間ってのは狭いな。道理であんたが過保護になるわけだ」
専属の使用人ゴーレムまでつけるぐらいだしな。彼女を大切に扱っているのは俺にも理解できる。
「あれは若いのに、なかなか苦労しとる娘じゃ。国を失ったとはいえ紛れもない王族じゃし、あまりにみすぼらしいのは可哀そうじゃ。お主もそう思うじゃろ?」
「まあ、そりゃ確かになー……」
やれやれ、といった感じで、魔女は小さなため息をついた。
「…………おい、ちょと待って? おうぞく?」
このロリババア、今さらっとなんて言いやがった?
問い質そうとするも、ちょうど背後のドアから聞こえてきたノックの音に遮られる。
「うむ。入ってよいぞ」
俺の意見を待たずに、魔女がノックに応えた。
許可されて最初に扉を開いたのは、例の使用人ゴーレムだった。
その使用人ゴーレムにうながされ、続いて白いドレスを身に纏った少女が扉をくぐり入ってきた。
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