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第7章 ふたたびの王都
第165話 リン
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リンは子供の頃旅芸人の一座にいた。
リンの母親が一座で歌姫をしており、
リンは一座で雑用をしながら母親と一緒に旅をして暮らしていた。
リンの父親も芸人だったそうだが、
リンが産まれてすぐに事故で亡くなっていた。
リンは幼い頃からおとなしく人見知りが激しく、
人前で芸事ができず、
一座ではあまりうまくいっていなかった。
リンが10才の冬、
リンのいた一座がテオドアール領に来た。
一座は冬の間テオドアール領に滞在して小屋を立てて芸を見せ、
春になったら次の土地に旅立ってしまった。
リンとリンの母親を置き去りにして。
リンの母親は当時重い病にかかっており、
歌も歌えず、足手まといにしかならないので、
一座の者はリンとリンの母親を見捨てたのだ。
置き去りにされた親子に困った町長は当時若くして領主になっていたウィルに相談した。
ウィルはまだ子供だったリンと今後について話し合った。
ウィルは不思議と人を見る目があり、
リンと話すうちに、リンが幼いながらもしっかり自分の意思を持っている子供だと思った。
「ふむ。
色々話したけど、僕が君に施しを与えるのは簡単だ。
だけど、僕には世の中のすべての恵まれない子に施しを与えるほどの私財はないし、
僕は施しは嫌いなんだ。
だけど、僕は君が僕の家で住み込みで7、8年働いて、贅沢をしなければ返せるくらいの金額を君に貸すことはできる。
そのくらいの金があれば、
君のお母さんを医者にみせて薬を買うくらいはできるだろう。
だけどうちの家令と侍女頭は厳しくてね。
決して楽な仕事じゃないよ。
君が望めば君たちがいた一座を探させて、
君たちを一座に連れていってあげることもできるし、
君たちみたいに困っている人達を助けてくれる王都にある救護院に連れていってあげることもできる。
君はまだ幼いけど、こうなったからには、君はお母さんの人生を背負って、
今後は自分ですべて選択していかなくてはいけないんだ。
嘆いても恨んでも悲しくてもそれが現実だ。
君はどうする?」
ウィルにそう言われたリンは迷いなく
「もう一座には戻りたくありません。
施しを受けるのも嫌です。
私は身体は丈夫です。
一生懸命働きます。
働かせてください。
お金は必ず、私の命に変えてもお返しします。
私にお金を貸してください。」
と泣きながら答えて頭を下げた。
当時ヨハンとサーヤが使用人の指導に当たっており、
指導が厳しすぎると言って中々使用人が続かなかったので、
テオドアール家は人手不足だった。
リンはすぐに病気の母親と一緒にテオドアール家に移った。
サーヤは当初旅芸人の親子と聞いていい顔をしなかったが、
リンはウィルに借りたお金で病気の母親を医者に診せ薬を買い、
母親の看病をしながら陰日向なく働いた。
次第にサーヤもリンを信頼しはじめ、
一年後リンの懸命な看病の甲斐なく母親が亡くなったときは、
テオドアール家の全員が泣き、
全員がリンを慰めた。
リンは母親が亡くなったあとも懸命に働き、
給金の中からウィルに返済をし続けて、
リンが17の時には返済は終わり、
「よくやったね。
信頼はお金には変えられない財産だよ。
僕もテオドアール家の全員がリンを信頼しているよ。
僕が親代わりになるからどこに嫁にいってもいいよ。
テオドアール家の信頼なんて、
世界的にも価値のある嫁入り道具だよ!」
だから自信を持って好きなところに嫁に行けとウィルに言われたが、
リンはかたくなにテオドアール家で働き続けた。
リンはウィルが無利子で自分にお金を貸してくれていたことも、
テオドアール家の関係者だから医者も母親を診てくれたことも分かっていた。
「旦那様に雇っていただけていなかったら、
お医者様に母を診ていただいて、
最期にきれいなベッドの上で穏やかに過ごさせてあげることもできませんでした。」
リンはことあるごとにエレンにそう言って感謝を伝えていた。
リンの母親が一座で歌姫をしており、
リンは一座で雑用をしながら母親と一緒に旅をして暮らしていた。
リンの父親も芸人だったそうだが、
リンが産まれてすぐに事故で亡くなっていた。
リンは幼い頃からおとなしく人見知りが激しく、
人前で芸事ができず、
一座ではあまりうまくいっていなかった。
リンが10才の冬、
リンのいた一座がテオドアール領に来た。
一座は冬の間テオドアール領に滞在して小屋を立てて芸を見せ、
春になったら次の土地に旅立ってしまった。
リンとリンの母親を置き去りにして。
リンの母親は当時重い病にかかっており、
歌も歌えず、足手まといにしかならないので、
一座の者はリンとリンの母親を見捨てたのだ。
置き去りにされた親子に困った町長は当時若くして領主になっていたウィルに相談した。
ウィルはまだ子供だったリンと今後について話し合った。
ウィルは不思議と人を見る目があり、
リンと話すうちに、リンが幼いながらもしっかり自分の意思を持っている子供だと思った。
「ふむ。
色々話したけど、僕が君に施しを与えるのは簡単だ。
だけど、僕には世の中のすべての恵まれない子に施しを与えるほどの私財はないし、
僕は施しは嫌いなんだ。
だけど、僕は君が僕の家で住み込みで7、8年働いて、贅沢をしなければ返せるくらいの金額を君に貸すことはできる。
そのくらいの金があれば、
君のお母さんを医者にみせて薬を買うくらいはできるだろう。
だけどうちの家令と侍女頭は厳しくてね。
決して楽な仕事じゃないよ。
君が望めば君たちがいた一座を探させて、
君たちを一座に連れていってあげることもできるし、
君たちみたいに困っている人達を助けてくれる王都にある救護院に連れていってあげることもできる。
君はまだ幼いけど、こうなったからには、君はお母さんの人生を背負って、
今後は自分ですべて選択していかなくてはいけないんだ。
嘆いても恨んでも悲しくてもそれが現実だ。
君はどうする?」
ウィルにそう言われたリンは迷いなく
「もう一座には戻りたくありません。
施しを受けるのも嫌です。
私は身体は丈夫です。
一生懸命働きます。
働かせてください。
お金は必ず、私の命に変えてもお返しします。
私にお金を貸してください。」
と泣きながら答えて頭を下げた。
当時ヨハンとサーヤが使用人の指導に当たっており、
指導が厳しすぎると言って中々使用人が続かなかったので、
テオドアール家は人手不足だった。
リンはすぐに病気の母親と一緒にテオドアール家に移った。
サーヤは当初旅芸人の親子と聞いていい顔をしなかったが、
リンはウィルに借りたお金で病気の母親を医者に診せ薬を買い、
母親の看病をしながら陰日向なく働いた。
次第にサーヤもリンを信頼しはじめ、
一年後リンの懸命な看病の甲斐なく母親が亡くなったときは、
テオドアール家の全員が泣き、
全員がリンを慰めた。
リンは母親が亡くなったあとも懸命に働き、
給金の中からウィルに返済をし続けて、
リンが17の時には返済は終わり、
「よくやったね。
信頼はお金には変えられない財産だよ。
僕もテオドアール家の全員がリンを信頼しているよ。
僕が親代わりになるからどこに嫁にいってもいいよ。
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だから自信を持って好きなところに嫁に行けとウィルに言われたが、
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