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昔話いち
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むかしむかしのそのむかし。
あるところに世界で一番の魔女がいました。
魔女はやる気を出せば黄金のやまをうみだすこともできました。
魔女はやる気を出せば国をひとつ滅ぼすこともできました。
魔女はやる気を出せば何百何千年も生きることができました。
魔女はやる気を出せば絶世の美女になることもできました。
しかし、魔女は魔女らしく、白髪の腰の曲がった老女の姿で黒いローブを羽織って生きていました。
ある日魔女はいいました。
「弟子をとる。私のすべてを託せる弟子を。」
それを聞いたものはみな、われが、われこそが魔女の弟子にと名乗りをあげました。
ある国からは高名な宗教家が。
ある国からは英雄とよばれるほどの騎士が。
ある国からは聖女とよばれるほどのお姫様が。
われがわれこそはと何百何千ものひとが、魔女の元に集まりました。
されどなかなか見つからず、日々は何百何千と過ぎて行きました。
みながわれが、われこそはと名乗りをあげたひとでした。
魔女に断られたあるものは、魔女に罵声を浴びせました。
魔女に断られたあるものは、魔女に怒り狂いました。
魔女に断られたあるものは、魔女の前で何日間も泣き続けました。
それでも魔女の弟子は見つからず、日々は過ぎて行きました。
それでもわれが、われこそが魔女の弟子にというひとは尽きません。
今日も今日とて世界で一番の魔女のもとに、客は絶えないのでありました。
「あんたはどんな魔法が使いたいんだい?」
魔女は何百何千、何万回口にしたかもわからない問いを今日の客に問いました。
「いいえ、特にありません。」
今日の客は変わっています。
いつもの客とは違う答えを口にしました。
「魔法を使いたくない?
じゃあなぜここにきた?
私になにかしてほしいのか?
不治の病を治して欲しいのか?
恋い焦がれても成就しない恋を実らせて欲しいのか?
目障りな国を滅ぼして欲しいのか?
富や名声が欲しいのか?」
魔女の元にくる客は、弟子になりたいもの以外には、魔女の力を望むものでした。
「いえ、特に。
不治の病は寿命でしょう。
悲しいことは泣くしかありません。
恋い焦がれても成就しないのは失恋です。
悲しいことは泣くしかありません。
国を滅ぼして、はたして得はあるのでしょうか。
たくさんのひとが泣くのでしょう。
きっと私も泣くのでしょう。
富や名声は、その分責務が重そうです。
きっとたくさん泣くほど重そうです。
きっと私は泣くのでしょう。
私がほしいものはそうですね。
そこそこ丈夫な身体と、
そこそこ稼げる仕事。
そこそこおいしい食事と、
たまにすごくおいしい食事。
そこそこ楽しく遊べる友人と、
そこそこ快適に過ごせる家ですね。
いまの暮らしがまさにそこそこです。」
今日の客は変わっています。
いつもの客とは違います。
「じゃあなぜここにきた?
私が探しているのは世界で一番の魔女の弟子だ。
私のすべてを託せる弟子だ。
託すにふさわしい弟子を探しているのだ。」
魔女はおかしな客に問いました。
なぜおかしな客がここに来たのか問いました。
「あなたが弟子を探していると聞きました。
なかなか見つからないと聞きました。
みながわれが、われこそがあなたの弟子にと名乗りをあげたのに。
それでも弟子は見つからないと聞きました。」
今日の客は変わっています。
いつもの客とは違います。
「ここに来たのは聞きたいことがあったから。
あなたは世界で一番の魔女なのに。
やる気を出せば黄金のやまをうみだすこともできるのに。
やる気を出せば国をひとつ滅ぼすこともできるのに。
やる気を出せば絶世の美女にもなれるのに。
なぜ世界で一番の魔女の弟子になれるものを作らないのか?」
今日の客は変わっています。
いつもの客とは違います。
今日の客は魔女に問いを問う客です。
「あなたほどの魔女ならば。
世界で一番の魔女ならば。
世界で一番の魔女の弟子にふさわしいものをきっと魔法で作れるでしょう。
弟子が見つからないならば、魔法であなたの弟子を作ればいいのに。
世界で一番の魔女ならば、きっときっと作れるでしょう。」
今日の魔女は変わっています。
いつもの魔女とは違います。
今日の魔女は客をじっと見つめています。
あるところに世界で一番の魔女がいました。
魔女はやる気を出せば黄金のやまをうみだすこともできました。
魔女はやる気を出せば国をひとつ滅ぼすこともできました。
魔女はやる気を出せば何百何千年も生きることができました。
魔女はやる気を出せば絶世の美女になることもできました。
しかし、魔女は魔女らしく、白髪の腰の曲がった老女の姿で黒いローブを羽織って生きていました。
ある日魔女はいいました。
「弟子をとる。私のすべてを託せる弟子を。」
それを聞いたものはみな、われが、われこそが魔女の弟子にと名乗りをあげました。
ある国からは高名な宗教家が。
ある国からは英雄とよばれるほどの騎士が。
ある国からは聖女とよばれるほどのお姫様が。
われがわれこそはと何百何千ものひとが、魔女の元に集まりました。
されどなかなか見つからず、日々は何百何千と過ぎて行きました。
みながわれが、われこそはと名乗りをあげたひとでした。
魔女に断られたあるものは、魔女に罵声を浴びせました。
魔女に断られたあるものは、魔女に怒り狂いました。
魔女に断られたあるものは、魔女の前で何日間も泣き続けました。
それでも魔女の弟子は見つからず、日々は過ぎて行きました。
それでもわれが、われこそが魔女の弟子にというひとは尽きません。
今日も今日とて世界で一番の魔女のもとに、客は絶えないのでありました。
「あんたはどんな魔法が使いたいんだい?」
魔女は何百何千、何万回口にしたかもわからない問いを今日の客に問いました。
「いいえ、特にありません。」
今日の客は変わっています。
いつもの客とは違う答えを口にしました。
「魔法を使いたくない?
じゃあなぜここにきた?
私になにかしてほしいのか?
不治の病を治して欲しいのか?
恋い焦がれても成就しない恋を実らせて欲しいのか?
目障りな国を滅ぼして欲しいのか?
富や名声が欲しいのか?」
魔女の元にくる客は、弟子になりたいもの以外には、魔女の力を望むものでした。
「いえ、特に。
不治の病は寿命でしょう。
悲しいことは泣くしかありません。
恋い焦がれても成就しないのは失恋です。
悲しいことは泣くしかありません。
国を滅ぼして、はたして得はあるのでしょうか。
たくさんのひとが泣くのでしょう。
きっと私も泣くのでしょう。
富や名声は、その分責務が重そうです。
きっとたくさん泣くほど重そうです。
きっと私は泣くのでしょう。
私がほしいものはそうですね。
そこそこ丈夫な身体と、
そこそこ稼げる仕事。
そこそこおいしい食事と、
たまにすごくおいしい食事。
そこそこ楽しく遊べる友人と、
そこそこ快適に過ごせる家ですね。
いまの暮らしがまさにそこそこです。」
今日の客は変わっています。
いつもの客とは違います。
「じゃあなぜここにきた?
私が探しているのは世界で一番の魔女の弟子だ。
私のすべてを託せる弟子だ。
託すにふさわしい弟子を探しているのだ。」
魔女はおかしな客に問いました。
なぜおかしな客がここに来たのか問いました。
「あなたが弟子を探していると聞きました。
なかなか見つからないと聞きました。
みながわれが、われこそがあなたの弟子にと名乗りをあげたのに。
それでも弟子は見つからないと聞きました。」
今日の客は変わっています。
いつもの客とは違います。
「ここに来たのは聞きたいことがあったから。
あなたは世界で一番の魔女なのに。
やる気を出せば黄金のやまをうみだすこともできるのに。
やる気を出せば国をひとつ滅ぼすこともできるのに。
やる気を出せば絶世の美女にもなれるのに。
なぜ世界で一番の魔女の弟子になれるものを作らないのか?」
今日の客は変わっています。
いつもの客とは違います。
今日の客は魔女に問いを問う客です。
「あなたほどの魔女ならば。
世界で一番の魔女ならば。
世界で一番の魔女の弟子にふさわしいものをきっと魔法で作れるでしょう。
弟子が見つからないならば、魔法であなたの弟子を作ればいいのに。
世界で一番の魔女ならば、きっときっと作れるでしょう。」
今日の魔女は変わっています。
いつもの魔女とは違います。
今日の魔女は客をじっと見つめています。
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