竜の国の侍従長

風結

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八章 千竜王と侍従長

真相

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「げぼぉあぁっ」

 ……酷い声だな。と思った。それが自分の声だと気付いて。碌でもないな。と思った。

 ーーどうやら、血を吐き出したようで。無為の余韻を引き摺りながら、のんびりと眺めていたら。

 凍って。砕けて。さらさらと風にーー。

 僕のことよりも。先ず、氷竜のことを思い出したことが、こんなにも嬉しいだなんて。

「ス…ナ……」
「っ!? 父様っ!!」

 取り戻していっている。いや、馴染んでいっている。のほうが正しいだろうか。僕は僕に馴染んで。

 ふんっ、我の言うた通りであろう(訳、ランル。リシェ)、と強がっているような百の顔が、波のように僕の魂を揺らして。

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。と声に出してみても、やっぱり、痛い」

 痛い、を、好き、に変換しようと思ったけど。ほんとに痛くて、ちょっとそんな余裕はないから。体は動かないから、目だけで愛娘に訴える。

「ーー体の、根幹部分だけは、何とか保っていますわ。それ以外は、ずたぼろですわ」

 魔力診断だろうか、スナの言葉で、命だけは拾ったことを知る。

 よくは覚えていないし、どうしてそうなったのかもわからない。「千竜王」の内側に入り込んだのか、「千竜王」にとって、僕が死ぬのは都合が悪いのか。

 まぁ、どんな理由だろうと、皆の居るところに帰ってこられた。

 今は、それだけでいい。

「さっきから『封緘』を使おうとしているんだけど、凄く痛い。スナから魔力を貰えないかと試しているんだけど、もの凄く痛い」

 やめて。にんやりと笑うのはやめて。でも、今は、見たくなかった者に、声を掛ける。

「会いたくない、と思っていた人物に会って、清々しい気分が台無しです」
「それに関しては私も同感です。然し、国を預かる者として、好き嫌いなどしていられません」

 ベレンさんの顔を見るに、止めたけど無駄だった、ということのようだ。レイズルが何をしに来たか、考えるのも億劫だったので、喋るまで待っていると。

「王城を壊した弁済を受け取りに来ました」

 ……そういうことは、一言、感謝の言葉を述べてからにすべきだろう。そうすれば、ギザマルの爪の先くらいは、優しく接しようと努力したかもしれないというのに。

「宝物庫か、居室の机の、二重底でも探してください。宝の地図か何かが、出てくるはずですから」
「…………」

 聖王なら、復興の為の資金を残していったはず。僕の真意を掴めていないのか、仏頂面になっているレイズルに、スナは、ぽいっと抛る。

「持ってけ王様、ですわ。そこの熾火を事後処理に置いていくので、さっさと話を済ませるのですわ」

 革袋を受け取ったレイズルは、紐を解いて、中身が袋一杯の竜の雫だと知ると、さすがに度肝を抜かれたようで、

「っ、……氷竜様の御厚意、感謝いたします」

 声を詰まらせて、氷竜に一礼した。

 まぁ、現実主義のレイズルなら、修繕費よりもだいぶ多い金額は、他国への懐柔へと用いることになるだろう。これで周辺国の連携を崩してやれば、国を立て直す時間は稼げるはず。

 スナに角で、もとい爪で突っつかれたので、さっそく行動に移るレイズル。おくるみの双子を抱き上げて、あに図らんや、少年らしい裏表のない笑みを浮かべる。

「魔力量は多いですが、同じく、魔力量が多い者なら問題ないでしょう。双子の面倒は、弟……」
「弟妃様は駄目ですよ」
「何故ですか」
「はいはい。そんな凄まないでください。双子には、当然、親がいます。親権は、勿論、二親にあります」
「これだけのことをしたのです。親権は措いて、養育権は我が国が保有したとて、邪竜との誹りは受けないでしょう」

 聖王が言っていた通りに、本当に強情な子だ。

 竜の国の侍従長の沽券を守る為に、無様を晒さないよう痛みを堪えているが、好い加減早く飛び立ちたいので、まぁ、ここまで嫌われていれば問題ないか、と遠慮なく弱点を突かせてもらう。

「レイズル様は、双子を弟妃様に預けたいのでしょう。ですが、お優しい弟妃様は、双子の二親が現れれば、当然、お返しになるでしょう。また、哀しい別れを、弟妃様に味わわせるおつもりですか?」
「っ、わかった。乳母の経験のある者に任せるとしよう」

 僕の顔なんて見たくもないのか、すっすっすっと、双子を起こさないように、静かに早足で立ち去ってゆく。

 僕からすると、レイズルは周期が下の少年という感じだが、彼からすると、自分と然して変わらない周期の男で、僕に対抗心でも持っていたのかもしれない。

 竜にも角にも、嫌われていたことに理由を付けてみたけど、まぁ、それだけではないとは思うんだけど。あ、スナが僕の背中の下に、もぞもぞと潜り込んだので。

「百。誰かが残っていないといけないから。『ミースガルタンシェアリ』である百より適任……」
「皆まで言わずとも、わかっておる。主は早う、我が友を起こしに行くが良い」

 僕の体に負担を掛けないように、ふわりと浮き上がったと思ったら、そこはもう氷竜の竜頭の上で。近くなった空を眺めながら、卑近な問題の解決を愛娘にお願いする。

「ごめん、スナ。体が何か、凄く冷たいから、冷気は控えて」

 ぶぶぅ~。と可愛い娘の鼻息。

 娘の魔力を拒むなんて、僕は何て酷い父親なのだろう。などと浸っていないで、回復に努めなければいけないのだが。

「あら、早いですわね。もう、来たですわ」

 横になっていても、寝ていても辛い。昔、老師範が、そんな愚痴を零していたが。同じ姿勢でいると、悪寒だけでなく吐き気まで催してくるので、自分のものじゃないような体を持ち上げて、胡坐を掻く。

 ーー二竜。氷竜と風竜だろうか。同属性でないことに、ちょっと驚いた。

 「人化」した二竜は、スナの竜頭に着頭。僕と同じく胡坐を掻くと、掌を表に、膝に手を置いて、頭を下げた。

 ……全身が、ずくんっずくんっと、僕のことが嫌いな仔炎竜が暴れ回っている感じだが、ぼんやりと眺めているのもここまで、顔を上げて、笑顔を無理やり作る。

「我はタガルハネルタ。こちらは、伴侶であるフィキュナスラインです」
「言葉だけでは足りないと。人種の礼儀にて、感謝と謝罪を、どうかお受け取りを」

 二十歳くらいの容姿となると、古竜でないと概算、ではなく、見当を付けるが。体の状態の所為なのか、能力がなくなったのか、あやふやではっきりとしない。

 聖王が言っていた通り、ゆったりとした白い服を着ていた。話にしか聞いたことはないが、これで強い日差しを遮ることが出来るのだろうか。

 いや、むっとなんてしてませんよ。二竜は、美男美女で。「千竜王」とか内に在るっぽいのに、何で僕は十人並みなんだとか、……はぁ、まだ頭がぽんこつなようなので、一呼吸で、必要な欠片を拾い集める。

 然て置きて、先ずは安堵する。

「ーー良かった。姿が見えなかったから、出産と同時に命を捧げてしまったのかと思っていたけど。二竜とも、無事だったんだね」

 一番の懸念が消えて、一安心。

 二竜は目を瞠ると、同時に頭を下げた。って、いやいや、そんなことしなくてもいいからっ。僕は慌てて二竜の顔を上げさせる。

「えっと、二竜は、魔獣種の大陸の竜だよね。幻想種の大陸の竜より活動的だと聞いていたけど……」
「ふふりふふり。父様、何が言いたいですわ?」

 然ても、まだ頭が鈍いという自覚はあるので、世間話から入ったら、釣れたのは愛娘でした。って、そうではなく、視線で二竜に助けを求める。

「一つには、我々が『欲求』の影響を受けていないからでしょう」

 父娘の遣り取りに、くすりと好意的に笑ったタガルハネルターーガル……ではあれなので、ルタにしよかーールタは、意外なことを言った。

「え? それって、魔獣種の大陸に戻っていたということ?」
「御明察。それでは、今回の私たちの行いを告白する」

 聖王が、魅力的、であると言っていた風竜。あの王様は、豊満な女性が好みなのだろうか。ぽやんぽやんなラカと違って、豪奢、ではなく艶やかだった。

 女性体であるフィキュナスラインは、ナスラは、僕の願いも空しく、さっそく本題に入ってしまった。

「私が身籠もっていることに気付いたのは、五十周期ほど前のこと」
「ということは、もっと前から子を宿していた、ということですわ?」
「はい。ヴァレイスナの言う通り、私たちが多く睦み合っていたのは百五十周期前なので、そのときの公算が大きい」
「正確ではありませんが、竜が竜人を産む際も、同周期身籠もるのだと聞いているので、間違いはないと思われます」
「竜人で、人が身籠もったなら、どうなりますわ?」
「その場合、多くは竜の力に耐え切れず、流産するようです」
「それ故、大陸マースでの竜人の数は少なく、シーソニアの一族だけと見られている」

 僕がまだ本調子でないと察してくれたスナが、代わりに応対してくれる。そうでなくとも、初心な少年には踏み込み難い内容の話なので、黙竜になって大人しく聞いていよう。

「それで、『三つ子』であるとわかったあと、何故、魔竜王マースグリナダに助力を乞わなかったのですわ?」
「私たちの能力の及ばぬところ。子が三竜であることに気付いたのが、出産の三日前。それから、伝手のある竜に相談や助力を願ったが、このままでは対処できないだろう、との結論に至った」
「魔竜王は、温厚であると伝わっているので、協力はしてくれたでしょう。ですが、魔力体の子まで救ってくれるとは思えませんでした」
「そこで、父様に懸けることにしたですわ?」
「はい。タガルハネルタと相談して、一日を切っていたが、ーー一竜でも失うなど、どうしても耐え切れず……」
「そうして飛び立ったのですがーー。我が身重のフィキュナスラインを乗せて飛ぶことになってしまったのです」

 過去を悔いるルタ。上手くいったからといって、後悔が、恐怖が、引き攣れるような焦燥が消えることはない。

 彼を責めることなど出来ない。それだけ切羽詰まっていたのだろう。

 恐らく、飛び立ってからーー後戻りできないところで気付いた。間に合わないことに。風竜であるナスラなら間に合った。でも、彼女は出産間近で、まともに飛ぶことが出来なかったのだろう。そのときの絶望は如何許りだったか。

大陸リグレッテシェルナに到達したあと、迷いました。初めて訪れた大陸で、不案内だったので……」
「え? あ、ちょっと待ってください。ルタとナスラは、幻想種の大陸に来たのは初めてなの?」
「ルタ?」
「ナスラ?」
「あ、あ~、ごめん、勝手に愛称を付けちゃったんだけど……」
「いえっ、その愛称、頂きました!」
「ナスラ! ああ、ナスラ! 悪くない!」

 どうやら、魔獣種の竜も、愛称を付けると喜んでくれるらしい。って、話が逸れてしまったが、それどころではない。

 ここは重要、非情ではなく非常に重要なので、確実に明白に竜も頷くくらい開けっ広げにしないといけない。いやいや、だから落ち着け、僕。内心がこれ以上おかしくなる前に、ずずずいぃぃ~~と尋ねてしまおう。

「初めて、ってことは、もしかして、〝サイカ〟の里長とは関係ないの?」
「里長、とは誰のことでしょうか?」
「私たちが利用することになってしまったのは、フフスルラニードという国の王だけのはず」

 ぶっっはああぁぁぁぁ~~っ。と内心で、どでっかい安堵の溜め息を吐く。

 いやはやまったく、全竜を集めて、一竜ずつ抱き締めていきたい気分だ。って、いや待て、早まるな、僕!

 里長が関係ないにしても、まだ謎は残っている。それを解き明かすまでは、油断してはならない。後回しにしても意味はないので、直球で質してみよう。

「そもそも二竜は、どうしてフフスルラニード国に、聖王を選んだ、というより、すぐることが出来たのかな?」

 断言はできないが、東域で二竜を助けるに適う人物となると、聖王ただ一人だろう。竜の国まで辿り着ければ、コウさんが何とかしただろうが、それが出来ないとなれば、彼らは唯一の正解を引き当てたということになる。

「それが、わからないのです。間に合わないとわかっていましたが、それでも『千竜王』を目指して飛んでいたところ、この東の地域の真ん中辺りで、なにがしかの力を受けたのです」
「そうして、落ちた先がフフスルラニード国。はぐれたルタが戻ってくるまでの間に、私の前に現れた、この国の王は、驚嘆すべき能力を備えており、すべてを整えてくれた。『千竜王』や魔法王を利用すると聞いて、迷いはしたものの、この子には代えられないと、決断した」
「我は表に出ないほうが良いと思い、周囲の環境を整え、『結界』の補助をすることにしました。媒介となる人種を用いても、魔力体の子を留めるのは、至難の業でした」
「『千竜王』が仰った通り、命を捧げる覚悟だった。だが、何とか命を拾い、『竜の残り香』で回復を図ろうと、ルタは私を連れて、塒まで戻った」
「申し訳ございません。本来なら、我らも協力するところ。辿り着いたときには、事が済んだあとでした」

 聖王は、実態は、あんなだったわけだけど、確実に僕より上であることはわかった。彼と同じ立場になったなら、右往左往するだけで僕には何もできなかっただろう。

 ただ、今は、そんなことよりも何よりもーー。

「ーー暗竜エタルキア」
「「?」」
「あなたたちの子を守った、竜の名前です」
「「っ!」」

 奈落で感じた、あの心地は間違いではなかった。

 優しい竜であると、直感した、暗竜の気配。四十万の、人間の魂を守る為に動いた暗竜なら、きっと、苦難の同胞に手を差し伸べた、はず。

 然し、そうなると、本当に、エタルキアはどうなってしまっているのか。暗竜の能力なのか、特殊な状況なのか、ただ、東域の三竜の頂点の竜だとしてもーー。

「ひゃふ。何ですわ、父様。エタルキアが私より上だとか、そんなことを考えていますわ?」
「はは、スナには隠し事ができないね。エタルキアの、古竜の固有の能力だと思うけど。ーーいずれ、エタルキアにも逢ってみたいと、そう思っただけだよ」
「答えになってないですわ。父様は、好い加減、娘だけで満足しているが良いのですわ」

 ぷんぷんの愛娘には悪いんだけど。フフスルラニード国から竜の国に戻る際に協力してくれた竜たちもグリングロウ国に遣って来るから、更に竜々な日々になること請け合いなんだけど。

「ーーふぅ」

 兄さんとエタルキア。不思議と、どこか似ている気がしたのだ。エタルキアのことは、兄さんに委ねることにしたが、今も考えは、対応は変わらない。四十万の魂を解放するには、コウさんの魔法が必須なので、竜の国で静観、兄さんの要請待ちということになる。

「そういうわけで、『千竜王』に我が子を託したく思います」
「…………」

 ……何か、とんでもないことを言い出した。って、そういうわけって、どういうわけなのか。

 見ると、ルタだけでなく、ナスラまで、決定事項(訳、ランル・リシェ)、という覚悟と、寂しさが混じった表情で、一心に、竜心に見詰めてくる。

 どうしよう、僕は竜の頼みを断れない感じなので、二つ返事で引き受けてしまいたい気が、ずくずくと湧いてきてるんだけど。でも、ちょこっとだけ我慢して、彼らが決断に至った経緯を、事情を聞いてみよう。

「私は、フフスルラニードに落ちるとわかった瞬間、『人化』した。これは、賭けだった。竜の姿で産んでしまえば、世界ミースガルタンシェアリ自体が危うくなると直感していた。また、竜の力が、やはり妨げになると思ったので、魂を尽くして、竜の能力を制限するような処置を施した」
「…………」

 ……いや、「三つ子」が竜である可能性を知ってから、そういう事態もあるとは思っていたけど。

 今回もまた、世界は色々と滅亡の危機に瀕していたらしい。まぁ、それ故に、里長が裏で動いているのではないかと邪推してしまったわけだが、いやさ、どうだろう、コウさんなら世界を救うことは出来たかもしれないが。

 ただ、そのときには、魔力体の子は助からなかっただろう。本当に細い、今にも切れそうな糸を手繰り寄せて、あの子は可能性を繋いだのだ。あとは、コウさんが、どうにかしてくれる……はずだが、本人に尋ねたわけではないので、一抹の不安は残る。

「今、我らの子に問題はないようですが、人種の姿となった、竜として不自然な状態から、何があるかわかりません。恐らく、何かが起これば、我らでは対処は敵いません。どうか、『千竜王』。御身と魔法王、ヴァレイスナを始めとした竜が在る地である、竜の国で我が子を育てて頂きたい」
「わかりました。あとで、もう一度フフスルラニード国に行って、レイズル様から受け取ってきましょう。ーーただ、それには一つ、条件があります」
「「っ」」

 あ、失敗した。言い方が悪かっただろうか。二竜から、真剣過ぎる眼差しを向けられてしまう。これは、さっさと誤解を解いてしまわないと。

「一周期に一度、必ず竜の国に遣って来て、三竜の子を抱いてやってください」
「っ! いえっ、お許しいただけるのなら、一星巡り、一巡り、いいえっ、毎日でも!!」
「それではさっそく、竜の国に移住を……」
「スナ。『氷絶』をお願い」

 きぃぃぃぃんっ。

 間違えた。ルタは氷竜なのだから、「氷絶」じゃなくて「炎輪」か何かをお願いすれば良かった。というか、何だろう、魔法は僕に効かないはずなのに、何だか寒いんだけど。

 凍死していないから、それなりに防げてはいるようだけど、やっぱり僕の体に異変が生じているのだろうか。

「一周期に一度にしたのは、罰です、『おしおき』です。致し方なかったと、わかってはいますが、方々ほうぼうに迷惑を掛けたのも事実。大陸マースに帰って、必要なら、魔竜王にも此度の一件を伝えてください」
「ーー父様。マースグリナダにまで、手を出すつもりですわ?」
「えっと、手を出す、とかそんなことじゃなくて、今、世界規模で、異変が起こっているようだから、いずれ力を貸してもらうときが来るかもしれないから、伝手は作っておこうかと思って」

 後ろ暗いところなど、仔炎竜の炎ほどもないというのに、何故か言い訳めいた言葉を連ねてしまう。

 ぶーぶー、と鼻息な娘の、趣意を看取したのか、ルタとナスラが立ち上がる。

「二竜の時間を邪魔してしまい、申し訳ございませんでした」
「『千竜王』と諸竜に感謝する。次は、『千竜王』の子が見られることを期待している」

 爆弾なのかどうなのか、余計な一言を残して、気を利かせた二竜が大陸マースに向かって飛び立ってゆく。

 お望み通りに、僕と二人切りになった氷竜だが、竜にも角にも、座っているのも辛くなったので、ゆっくりと横になる。

「言いたいことはたんまり、山ほど、竜ほどありますが、今は眠って、体の復調に努めるのですわ」
「うん、そうする。あと、冷気は、ちょっと骨身に沁みるので、控えてもらえると……」
「今の父様の状態からすれば、私の魔力、冷気など、仔炎竜の炎ほども損傷を与えられないのですわ。眠ったら、じょばじょばと凍気あいじょうを詰め込んでやるので、とっととさっさとつっつと、ひゃっこいで眠るのですわ」

 心が通じ合った父親と娘。なので、仔炎竜を心象。体の中心辺りで、ほやほや昼寝でもしていてもらえば、きっと大丈夫だろう。

 すぐに眠れるかな、なんて思った瞬間に。みーにとってのコウさん、ラカにとっての僕、最良の寝床なのか安心できる居場所なのか、ころりと、机から落ちた竜玉のように、気を失うように眠りに就いたのだった。
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