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六章 氷竜地竜と侍従長
「踏み躙竜」事件
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「……リシェ殿といると、対応力が鍛えられます」
幸い、軽傷で済んだようだ。皮肉なのか感謝なのか、或いは両方ともか、ラカの竜頭にどかっと座って、治癒魔法中のユルシャールさん。
魔力操作がわずかに遅れて、膝を少し擦り剥いたようだが、竜の国に来た当初なら全身を強打していただろうから、格段の進歩と言えるだろう。まぁ、本人がそれを喜んでいるかは、望んでいるかは別の話ではあるが。
「然し、危険感知能力は、あまり向上しておらんな。魔法方面に特化しているが故の弊害か」
「いえ、通常の人間は、こんな短期間では然う然う能力が跳ね上がったりなどいたしません。対応力については、慣れ、の部分が大きいと思われます」
ラカが翼を馴染ませ始める。
竜頭の真ん中に移動しながら皆を見ると、まだ朝早いので、眠たそうなフラン姉妹。それと、信徒が寝惚けていては百の汚点になると思っているのか、しゃっきりとしたエルタスは、いつも通りに炎竜に侍っている。
予定より出発は早かったが、準備は整えておくよう前日に伝えておいたので、問題はなさそうだ。然てしも有らず、残りの一人なのだが、相変わらず隠し事が苦手、というか、感情の制御が下手というか、顔にでかでかと書いてある英雄王。
ただ、直接尋ねるより、内容如何によっては、地竜を挟んでからのほうが話し易いだろうか。
「ナトラ様。何か懸念でもおありですか?」
僕たちを強制発射させたのは、心に余裕がなかったからーーというのは、ナトラ様の表情からして、半分くらいは間違いないようだ。
「失敗したです。『遠見』に映ってしまったです」
分析が得意で明瞭さを旨とするナトラ様だが、本当に後悔して、胸の痞えとなっているのか、言葉が足りず曖昧模糊としていたので。クリシュテナ様たちが映っていた「窓」の情景を思い起こしてみると、然したる苦労もなく答えに行き着く。
ちらと見ると、自分が係わるよりも僕に任せたほうがいいと判じたのか、アランにもお願いされてしまったので、毎度のことながら、誰かにとっては都合のいいかもしれない嘘を吐くことにする。
「そういえば、『窓』の向こうでは、風竜がでっかい竜の脚に踏まれてましたね」
「びゅー」
「うっ、……です」
「『ふみふみ風竜』ーーいえ、『踏み躙竜』事件としましょうか。事件を目撃したストーフグレフの民は、吃驚したかもしれませんね。あんなことをする竜とは、仲良くできない、とか思ってしまうかもしれません」
「ぴゅー。わえの所為じゃなー」
「…………」
「はは、ラカは言いたいことがあるだろうけど、実は竜になって踏んだのは、とても良い判断でした」
「……どういうこと、です?」
「『窓』で見ていたストーフグレフの民は、あの竜の脚が、誰のものであったか、わからないということです。ここで何もしなければ、あの脚がナトラ様のものであると、守護竜としてアランの近くに在るだろう竜の仕業だと思うことでしょう」
「事実なので、仕方がない……です」
「というわけで、あれは好物であった『竜の落とし物』をラカに食べられてしまって、恨みに思っていたスタイナーベルツ様がやった、ということにしましょう。それで構いませんか、スタイナーベルツ様?」
「ははっ、構わぬよ。我の守護竜が迷惑を掛けたようだが、基本的には我とは関係がない故、幾らでも責めてやってくれ」
嘘、と言うと聞こえが悪いので、欺瞞、とでもしておこうか、僕の創作に乗っかって、笑顔を浮かべるベルさん。
心境の変化だろうか、常にあった陰に、光が差し込んだような、そんな印象を受けた。この流れなら、ベルさんに振ってもーー、
「であれば、主。その旨を伝える為に、一旦王城に戻りようか」
ああ……、たぶん親切心、というか、ただの確認なのかもしれないが、理由はそれぞれにせよ、他の皆のように百も黙っていてくれれば良かったのだけど。アランが大切に想っている、民との軋轢を心配して、心揺れていたナトラ様は、気付かずにいたというのに。
僕の好みからしても、あとから心付く、ということにしたかったのだが、うぐっ、アランのお願いを果たすことが出来なかった。
「ふふりふふり、炎竜なのですから、多くを期待するほうが間違っているのですわ、父様」
「ーーむ?」
「そこの王様は、口頭で伝えたか手紙を残したか、ナトラの為に、スタイナーベルツに確認を取らず、すでに対策を講じていたのですわ」
「ーーぬ?」
まぁ、そういうわけである。
失敗、というほどではないが、出来ればアランの手落ちを隠してあげたかったのだが。些細なことではあるが、何故それが起こってしまったのか、聡明な地竜は気付いてしまうから。
「ごめん、アラン。失敗した」
「ふむ。リシェが失敗したのであれば、致し方ない」
スナがこれらの機微に疎いはずはないので、愛娘が明かすことを選んだのなら、男の立場というか心情が理解できる僕がするのは、話を逸らすことだけである。
「ベルモットスタイナー殿も、何か懸念がおありですか?」
話し難いことなのか、地竜を間に挟んでも、話し始めるまで三拍ほどの時間が必要だった。
決意と、ーー困惑だろうか、相反するものが同居しているように見えるが。
「ーー一族に強要などできないが、我は示したいと思ったのだ。人と係わるべきではないのか、人との距離を縮めるべきではないのか、……我が元凶であったというのに、厚かましいとわかっているが、それでも我は、ーーあれからずっと、我個人というだけでなく族長の立場からも考えていたのだ」
人と、向き合うことを。自身の内の、拭うことを自らが許さなかった、呪い、と言っても過言ではない瞋恚の炎を。アランの手助けがあって、どうにかベルさんに差し出すことができた。
千周期の間、ベルさんを許さなかったのが誰であるのか、誰であったのか、彼に心付いてもらうことが出来た。
「騒乱」では成し得なかった、僕が望んだ結果ーーん?
何だろう、決意さんが困惑さんの後ろに隠れてしまったみたいな、そんな表情で僕を見ているのだが。余程話し難いのか、今度は十拍ほどの時間を掛けてから、族長の役目を果たす為だろうか、困惑さんを押し退けて決意さんが再び前に、屹立するのだった。
「そこで気になったのが、アレのことだ」
「アレさん、がどうかしましたか?」
「率直に聞くが、侍従長はアレを貰ってくれるのか?」
「はい?」
「っ」
「えいっ、です」
機先を制したナトラ様は、スナの背中に飛び乗って、両腕を首に回して、合っ体っ、ではなく密着、いや、捕獲という表現のほうが正しいだろうか。
「ベルモットスタイナー殿とは向きが違いますが、後の面倒を省く為にも、僕もリシェ殿に言っておくことがあるです。ラカールラカ、話が終わるまでは音を超えないように飛ぶです」
「ひゅ~。わかっあ」
「……ラカールラカが素直だなんて、何か悪いものでも食べたです?」
「りえ。なおが苛めう」
「ラカも最近、周囲のことに色々と気付いてきたみたいなので、ナトラ様もラカを褒めてあげてください」
「僕が悪かったです。ラカール、っとと、はいしどうどう。ヴァレイスナ、暴れるなです」
「馬ではないですわっ、父様と同じこと言うなですわっ」
一応言っておくと、僕と違って、ナトラ様は「はいし」を入れているので、熊扱いならぬ竜扱いはしているのだが、まぁ、今のスナには何を言っても無駄か。いやいや、暴れる氷竜に振り回されている地竜で、竜々な光景に和んでいる場合ではなく。
皆は僕の普段の行状に、溜め込んでいたものでもあったのだろうか。聖竜に説教を喰らう邪竜のようで、何だか居た堪れないのだが。
「ベルモットスタイナー殿。続けるです」
一連の流れは、スナにとって都合が悪かったのだろうか、ベルさんよりもナトラ様のほうに反応していたようだが。竜にも角にも、愛娘が大人しくなったので、話の腰を折られて気勢を殺がれたものの、何とか立て直したようで、地竜に促されて話を再開する。
「アレのあれは、軽く見えるかもしれないが、『ハイエルフ』は、人の一生の何倍もの時間を費やして、想いを紡いでゆく種族なのだ。アレは一目惚れだったようだが、『エルフ』の想いとは、千周期を閲しようと揺るぐことのない炎なのだ……」
「ベルモットスタイナー殿。その言い方では、恐らく、リシェ殿には通じないです」
「ーーと仰ると?」
「一族の者を想う気持ちはわかるです。でも、もっと全体を見て、話してみるです」
「ーーーー」
あれ、おかしいな。何だか深刻な空気が漂っているような気がするのですが。
僕の気の所為ならいいのだけど、ラカが知らん振りをしてしまうくらいの空気なので、というか、僕は〝目〟のはずなのに、この先の展開がまったく読めないんですけど。
「仕方があるまい。であれば我が……」
「引っ込んでろですわ、焼け木杭」
「……どんぞ氷が知らぬ、レイドレイクの『豪弓』から言い寄られよった主の過ち、聞きとうないのか?」
「今すぐ直ちに矢庭に可及的速やかに即刻竜刻竜頭竜尾話すですわ」
ぐぉ、炎氷が仲良し(?)だ。同じ竜眼で僕を見てくる。
二竜が協調するのはいいことなのだが、僕を断罪するときにしか発揮されないのはどうしたものか。って、ナトラ様も便乗して、三竜眼で見るのは止めないで……ごふんっごふんっ、止めてください。
「ぴゅー? わえが串焼き食べ放題中のとき、りえはお店の中で二人で仲良くしてあ」
……事情を把握していないらしいラカは、事実っぽい真実を、ミニスさんのことを匂わせる発言をしてしまう。
あ……。逢い引きを御破算にしたことが気に入らなかったのか、今度はギッタが、にまりと笑う。
「昨日、ラカちゃんと髪飾りを買いに行ったら、じじゅーちょーが居て、ティティス姫を愛人にしようと、見た目も愛らしいティティスちゃんの秘密を暴いてた」
「「「「「…………」」」」」
「…………」
次から次へと出てくる疑惑に、炎氷が親友になってしまう前に、僕は洗い浚い白状、ではなく、一連の経緯を邪竜さんも嫌がるくらいに、竜頭竜尾有竜無竜懇切竜寧に説明するのだった。
幸い、軽傷で済んだようだ。皮肉なのか感謝なのか、或いは両方ともか、ラカの竜頭にどかっと座って、治癒魔法中のユルシャールさん。
魔力操作がわずかに遅れて、膝を少し擦り剥いたようだが、竜の国に来た当初なら全身を強打していただろうから、格段の進歩と言えるだろう。まぁ、本人がそれを喜んでいるかは、望んでいるかは別の話ではあるが。
「然し、危険感知能力は、あまり向上しておらんな。魔法方面に特化しているが故の弊害か」
「いえ、通常の人間は、こんな短期間では然う然う能力が跳ね上がったりなどいたしません。対応力については、慣れ、の部分が大きいと思われます」
ラカが翼を馴染ませ始める。
竜頭の真ん中に移動しながら皆を見ると、まだ朝早いので、眠たそうなフラン姉妹。それと、信徒が寝惚けていては百の汚点になると思っているのか、しゃっきりとしたエルタスは、いつも通りに炎竜に侍っている。
予定より出発は早かったが、準備は整えておくよう前日に伝えておいたので、問題はなさそうだ。然てしも有らず、残りの一人なのだが、相変わらず隠し事が苦手、というか、感情の制御が下手というか、顔にでかでかと書いてある英雄王。
ただ、直接尋ねるより、内容如何によっては、地竜を挟んでからのほうが話し易いだろうか。
「ナトラ様。何か懸念でもおありですか?」
僕たちを強制発射させたのは、心に余裕がなかったからーーというのは、ナトラ様の表情からして、半分くらいは間違いないようだ。
「失敗したです。『遠見』に映ってしまったです」
分析が得意で明瞭さを旨とするナトラ様だが、本当に後悔して、胸の痞えとなっているのか、言葉が足りず曖昧模糊としていたので。クリシュテナ様たちが映っていた「窓」の情景を思い起こしてみると、然したる苦労もなく答えに行き着く。
ちらと見ると、自分が係わるよりも僕に任せたほうがいいと判じたのか、アランにもお願いされてしまったので、毎度のことながら、誰かにとっては都合のいいかもしれない嘘を吐くことにする。
「そういえば、『窓』の向こうでは、風竜がでっかい竜の脚に踏まれてましたね」
「びゅー」
「うっ、……です」
「『ふみふみ風竜』ーーいえ、『踏み躙竜』事件としましょうか。事件を目撃したストーフグレフの民は、吃驚したかもしれませんね。あんなことをする竜とは、仲良くできない、とか思ってしまうかもしれません」
「ぴゅー。わえの所為じゃなー」
「…………」
「はは、ラカは言いたいことがあるだろうけど、実は竜になって踏んだのは、とても良い判断でした」
「……どういうこと、です?」
「『窓』で見ていたストーフグレフの民は、あの竜の脚が、誰のものであったか、わからないということです。ここで何もしなければ、あの脚がナトラ様のものであると、守護竜としてアランの近くに在るだろう竜の仕業だと思うことでしょう」
「事実なので、仕方がない……です」
「というわけで、あれは好物であった『竜の落とし物』をラカに食べられてしまって、恨みに思っていたスタイナーベルツ様がやった、ということにしましょう。それで構いませんか、スタイナーベルツ様?」
「ははっ、構わぬよ。我の守護竜が迷惑を掛けたようだが、基本的には我とは関係がない故、幾らでも責めてやってくれ」
嘘、と言うと聞こえが悪いので、欺瞞、とでもしておこうか、僕の創作に乗っかって、笑顔を浮かべるベルさん。
心境の変化だろうか、常にあった陰に、光が差し込んだような、そんな印象を受けた。この流れなら、ベルさんに振ってもーー、
「であれば、主。その旨を伝える為に、一旦王城に戻りようか」
ああ……、たぶん親切心、というか、ただの確認なのかもしれないが、理由はそれぞれにせよ、他の皆のように百も黙っていてくれれば良かったのだけど。アランが大切に想っている、民との軋轢を心配して、心揺れていたナトラ様は、気付かずにいたというのに。
僕の好みからしても、あとから心付く、ということにしたかったのだが、うぐっ、アランのお願いを果たすことが出来なかった。
「ふふりふふり、炎竜なのですから、多くを期待するほうが間違っているのですわ、父様」
「ーーむ?」
「そこの王様は、口頭で伝えたか手紙を残したか、ナトラの為に、スタイナーベルツに確認を取らず、すでに対策を講じていたのですわ」
「ーーぬ?」
まぁ、そういうわけである。
失敗、というほどではないが、出来ればアランの手落ちを隠してあげたかったのだが。些細なことではあるが、何故それが起こってしまったのか、聡明な地竜は気付いてしまうから。
「ごめん、アラン。失敗した」
「ふむ。リシェが失敗したのであれば、致し方ない」
スナがこれらの機微に疎いはずはないので、愛娘が明かすことを選んだのなら、男の立場というか心情が理解できる僕がするのは、話を逸らすことだけである。
「ベルモットスタイナー殿も、何か懸念がおありですか?」
話し難いことなのか、地竜を間に挟んでも、話し始めるまで三拍ほどの時間が必要だった。
決意と、ーー困惑だろうか、相反するものが同居しているように見えるが。
「ーー一族に強要などできないが、我は示したいと思ったのだ。人と係わるべきではないのか、人との距離を縮めるべきではないのか、……我が元凶であったというのに、厚かましいとわかっているが、それでも我は、ーーあれからずっと、我個人というだけでなく族長の立場からも考えていたのだ」
人と、向き合うことを。自身の内の、拭うことを自らが許さなかった、呪い、と言っても過言ではない瞋恚の炎を。アランの手助けがあって、どうにかベルさんに差し出すことができた。
千周期の間、ベルさんを許さなかったのが誰であるのか、誰であったのか、彼に心付いてもらうことが出来た。
「騒乱」では成し得なかった、僕が望んだ結果ーーん?
何だろう、決意さんが困惑さんの後ろに隠れてしまったみたいな、そんな表情で僕を見ているのだが。余程話し難いのか、今度は十拍ほどの時間を掛けてから、族長の役目を果たす為だろうか、困惑さんを押し退けて決意さんが再び前に、屹立するのだった。
「そこで気になったのが、アレのことだ」
「アレさん、がどうかしましたか?」
「率直に聞くが、侍従長はアレを貰ってくれるのか?」
「はい?」
「っ」
「えいっ、です」
機先を制したナトラ様は、スナの背中に飛び乗って、両腕を首に回して、合っ体っ、ではなく密着、いや、捕獲という表現のほうが正しいだろうか。
「ベルモットスタイナー殿とは向きが違いますが、後の面倒を省く為にも、僕もリシェ殿に言っておくことがあるです。ラカールラカ、話が終わるまでは音を超えないように飛ぶです」
「ひゅ~。わかっあ」
「……ラカールラカが素直だなんて、何か悪いものでも食べたです?」
「りえ。なおが苛めう」
「ラカも最近、周囲のことに色々と気付いてきたみたいなので、ナトラ様もラカを褒めてあげてください」
「僕が悪かったです。ラカール、っとと、はいしどうどう。ヴァレイスナ、暴れるなです」
「馬ではないですわっ、父様と同じこと言うなですわっ」
一応言っておくと、僕と違って、ナトラ様は「はいし」を入れているので、熊扱いならぬ竜扱いはしているのだが、まぁ、今のスナには何を言っても無駄か。いやいや、暴れる氷竜に振り回されている地竜で、竜々な光景に和んでいる場合ではなく。
皆は僕の普段の行状に、溜め込んでいたものでもあったのだろうか。聖竜に説教を喰らう邪竜のようで、何だか居た堪れないのだが。
「ベルモットスタイナー殿。続けるです」
一連の流れは、スナにとって都合が悪かったのだろうか、ベルさんよりもナトラ様のほうに反応していたようだが。竜にも角にも、愛娘が大人しくなったので、話の腰を折られて気勢を殺がれたものの、何とか立て直したようで、地竜に促されて話を再開する。
「アレのあれは、軽く見えるかもしれないが、『ハイエルフ』は、人の一生の何倍もの時間を費やして、想いを紡いでゆく種族なのだ。アレは一目惚れだったようだが、『エルフ』の想いとは、千周期を閲しようと揺るぐことのない炎なのだ……」
「ベルモットスタイナー殿。その言い方では、恐らく、リシェ殿には通じないです」
「ーーと仰ると?」
「一族の者を想う気持ちはわかるです。でも、もっと全体を見て、話してみるです」
「ーーーー」
あれ、おかしいな。何だか深刻な空気が漂っているような気がするのですが。
僕の気の所為ならいいのだけど、ラカが知らん振りをしてしまうくらいの空気なので、というか、僕は〝目〟のはずなのに、この先の展開がまったく読めないんですけど。
「仕方があるまい。であれば我が……」
「引っ込んでろですわ、焼け木杭」
「……どんぞ氷が知らぬ、レイドレイクの『豪弓』から言い寄られよった主の過ち、聞きとうないのか?」
「今すぐ直ちに矢庭に可及的速やかに即刻竜刻竜頭竜尾話すですわ」
ぐぉ、炎氷が仲良し(?)だ。同じ竜眼で僕を見てくる。
二竜が協調するのはいいことなのだが、僕を断罪するときにしか発揮されないのはどうしたものか。って、ナトラ様も便乗して、三竜眼で見るのは止めないで……ごふんっごふんっ、止めてください。
「ぴゅー? わえが串焼き食べ放題中のとき、りえはお店の中で二人で仲良くしてあ」
……事情を把握していないらしいラカは、事実っぽい真実を、ミニスさんのことを匂わせる発言をしてしまう。
あ……。逢い引きを御破算にしたことが気に入らなかったのか、今度はギッタが、にまりと笑う。
「昨日、ラカちゃんと髪飾りを買いに行ったら、じじゅーちょーが居て、ティティス姫を愛人にしようと、見た目も愛らしいティティスちゃんの秘密を暴いてた」
「「「「「…………」」」」」
「…………」
次から次へと出てくる疑惑に、炎氷が親友になってしまう前に、僕は洗い浚い白状、ではなく、一連の経緯を邪竜さんも嫌がるくらいに、竜頭竜尾有竜無竜懇切竜寧に説明するのだった。
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