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4話 結婚相手を見つける姫
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「縦列!」
奈落にあたしの命令が飛ぶ。
チャは土や地の属性、とかクロが言ってやがったが、この場所ーー「奈落」はとんでもねぇ。半日掛けて地下に潜ってみれば、竜が飛び回れるほどの巨大な空間。
チャの趣味で、「冥府」とかじゃなくて「奈落」って呼んでるみてぇだな。って、そんなこと考えてる場合じゃなかった!
あたしなんか塵に思えるくれぇの圧倒的な、空間すべてを光で薙ぎ払う、茶色の閃光が視界を埋め尽くす!
茶竜の息吹!!
はっは! もう何がなんだか、凄すぎてわけがわからねぇ!
轟音と衝撃で、クロの竜頭に立ってるあたしまで吹き飛ばされそうになる。
アカに匹敵する強さってのは本当らしいな! 縦列の先頭のアカと、真ん中のシロが防御に徹したってのに、この威力だ!
「横列!」
アカとシロが左右に散って、直後にクロの息吹。
大して効かねぇが、牽制だから問題なし! 本命はこっちだ!
「続けて放てっ、アカ! シロ!」
二竜の息吹が追撃!
だがよ、チャは攻撃に特化してるってのに、防御がやたら堅ぇ。
ーー本来後衛であるべきなのに、前衛で止まらず、そのまま敵に突っ込んでいってしまうのがチャエンです。
なんてクロが言ってたが、それでここまでの攻撃力を身につけたってんだから、いっそ天晴れだ!
それでも三竜が相手だ、確実に損傷は積み重なっていってる。だが、そこそこ深ぇ傷もあるってのに、怯みやしねぇ。逆に闘争心を増してやがる。
「がははっ! やっじゃねぇかっ、嬢ちゃんよ!!」
雄叫び、いや、歓喜の声が奈落に木霊する。
ほんと、戦いが楽しくて仕方がねぇってのが、こっちまで伝わってきやがる。
「チャこそだ! ここまでやるとは思ってなかったぜ!!」
油断してたわけじゃなかったが、一拍、遅れちまった。
あたしがチャに応えてる間に、茶竜はもう飛び上がってた。
「寸胴!」
「おおっ!?」
あたしの指示に三竜が呼応する。
見えない円筒の壁をなぞるように三竜が舞い、アカがチャーーどうもしっくりこねぇな、オウにすっかーーオウと、魔力と爪を削ってる間に、二竜が上にーー、
「からの~、漏斗!」
クロとシロの、頂点から拡がってくような挟撃。オウが気を取られてる隙に、アカが後方に回って逃げ道を塞ぐ。
「ごがぁっ!!」
「っ! 直列!!」
予感めいた閃きに、あたしは無我夢中で叫んだ。
オウに向けて縦列となった刹那ーー地面に落ちていった茶竜は、反撃の息吹を放つ!
「っ!!」
息吹を放った格好のまま、オウは地面に落っこちる。
くはっ! ほんと、見上げたもんだ! そんな状況でも攻撃を選ぶなんてな!
だがなっ、それが命取りだ! この好機っ、逃すわけにはいかねぇ!
「かっ! よく頑張ったが、ここまでだ! 止めを刺させてもらうぜ!!」
「はっ! 冗談言ってくれんなっ、嬢ちゃん! 面白ぇのはこっからだろうがよ!!」
オウは即座に立ち上がるが、さすがに攻撃は続かず、奈落の真ん中で戦況を窺う。
じゃあよ、取って置きって奴を見せてやんか! とくと味わいやがれ!!
「至純なるは天の牢獄! 遥けき賓よっ、努努怠ること勿れ! 言葉が在る末のっ、世界の理を! 魂に懸けてっ、生命の丘にて詳らかにせよ!!」
掲げた手のひらに、光よりも透明な世界が構成される。物質の軛より解き放たれた、「循環する幻灯」が極限にまで純化される。
須臾、世界を揺るがすように、あたしは叫ぶ。
「天輪っっっ!!!」
紙を焼くような音とともに、極光が解けて、巨大な光の輪を形成する。
「おいおいっ、嬢ちゃん! そりゃあ『至神』にしか使えねぇっつぅ、最上位神聖術じゃねぇか! なんで嬢ちゃんが使えんだ!?」
驚いてる割に、その顔には野太い笑みが浮かんでる。本当の馬鹿ってのは、煮ても焼いても食えねぇってか?
ーー認めた相手に対してしか「結界」を張りません。
クロの言ってた通り、攻撃を捨てて、防御に全振り。なら、あたしも奥の手を使うのに、躊躇いはねぇってもんだ!
「この程度で驚いてもらっちゃあ困る! あたしの本気って奴をっ、魂尽き果てるまで刻みつけやがれ!!」
掲げた手のひらを、胸の前に。享けとめるように両手を重ねる。
降ってくる。
最も遠くて、最も近い場所から、それは昇ってきて。
「ふるりふるり、こなたはべれり、ゆらりゆらり、つのりつのらし、としにとしつき、ころりころり、かくよあれかし、いまになれかし」
古き言葉は、失われた時代。捧げた言葉は、つながれた記憶。
「天輪」の中心で、それは結実する。
「原初の夢」
夢見るように紡いだ欠片は、光の湖面に、幻を濾して創ったような正四角錐を現出させる。
かたんっ。
小さな音を立てて、天頂から、ふわりと正三角形が湖面に触れて。
かたんっかたんっかたんっーー。
本のページを捲るように、正三角形が開かれて。速度を増して、湖面を埋め尽くすと、反り上がって神々を祝福する杯が醸成される。
クロが杯の上に移動して、あたしは手のひらの光を注ぎ込む。
反転した杯が「天輪」とともに下ってオウに被さると、杯の罅割れのような正三角形に文字が浮かび上がる。
「なん……だとっ!? 『古代文字』か!! 『異界の神々の残滓』をっ、嬢ちゃん! あんた何者だっ!?」
あたしが何者かって?
はっ、今頃そんなこと言ってるから、茶竜は負けんだよ!
「展開!」
「ぬっ?」
気づいたとこで手遅れ。オウが見回したときには、配置は完了してる。
さぁ~て、終わりの始まりって奴だ。これまで三位一体で戦ってた三竜が、オウを囲うように散ってる。
茶竜に敬意を払って、最大の攻撃をお見舞いする。
「まずはアカだ! 儼乎たる竜種の長の力っ、粋がった小僧に教えてやれ!!」
「ふぉっふぉっふぉっ、久方ぶりに血が滾るわい! お嬢ちゃんの願いとなれば、竜種の長にのみ引き継がれし竜印、使ってやろうぞ!」
空間が歪んだーーそう思えるほどの、竜の威厳。
目の錯覚なのか、アカが巨大化したように見える。そうして、静寂に君臨する古炎竜が、魂に刻まれた傷痕を露わにする。
「竜種の誓約」
「ぐおっ!? 何だっ、体が勝手にぃっ!!」
竜種の長のみが使える、竜族に対する強制。言い換えれば、竜の魂に直接損傷を負わせる業だ。
「どうしたどうした! 『結界』が緩んでんぞ! 他竜の干渉で揺らぐほど、薄弱な闘争心しか持ち合わせてねぇってか?」
「ごあぁぁあああっ……むんっ!! はっ、甘くみんなよっ、嬢ちゃん!! 俺を止められんのは俺だけだ! どうした? 次っ、こいやぁ!!」
ふっ、やるじゃねぇか!
強制的に動かされてたオウの動きが止まる。だが、それだけだ。反撃ができねぇなら、言われるままに攻撃してやろうじゃねぇか。
「シロっ、追撃だ! 成竜になって手にしたっていう新たなる力! そこの業突く張りに教えてやんな!!」
「はふっ! じゃあっ、いっきま~す!!」
純白の毛で覆われた、もふもふの黒竜が空中で静止すると、ーー背中がぞわっとした。
奈落にある何かが引き寄せられた、いや、逆だ、何かが引っ張り出された。
「浄化!」
「ん? ぅ…うばばばばばばぁあぁぁあああっ~~っ」
何が起こってんのかわかってねぇオウが悶える。
シロは「浄化」って言ってるが、その実、とんでもねぇ黒竜の業だ。
クロが言うにゃあ、存在を抹消する力らしい。
体に傷を負うのとは違った、壮絶な喪失感や沈痛みたいなもんに苛まれるらしいが、はっは! 茶竜っ、暴れ狂いながらもまだ立ってやがる!
「そろそろ限界か~? 負けを認めちまいな~?」
「がっはっはっ!! 腹の底から笑いが込み上げてきやがる!! 力が湧いてきやがる!! 止まんねぇっ、俺は止まんねぇぞっっ!!」
どこにそんな力があんのか、あたしの挑発に、爆発的な魔力の発現と発憤興起で応える。
そうかそうか、なら竜頭竜尾、徹底的に完全無欠に叩き潰してやるしかねぇな。
「お待ちかねだっ、クロっ! ぶちまけてやんな!!」
「姫さまのご命令となれば! 全力でお応えせねばなりますまい!」
ふざけた口調だが、まあ、全力だって部分は疑ってねぇ。
「暗黒冥府絶黒滅殺黒月極限漆黒波動球っっっ!!!」
ってわけで、口調よりふざけた技名をクロが絶叫する。
まるで風の隙間から食み出してきたかのように、黒い球体がいずこともなく吐き出された。
最近、最終実験して、やっとこ完成させたっていう、クロの最強魔術。
重い球、とか言ってやがったが、……何てぇか、ほんとぉ~に重そうなだけの球に見えんだが。
本当に、球を黒くするのに手間取りました。なんてクロが情感たっぷりに言ってやがったから顔面を殴っちまったんだが。失敗した、効果を聞いときゃよかった。
ごとっ。
吊っていた糸が切れたように、黒球はオウの上に落っこちる。
びしっっ。
一瞬遅れて、オウを中心に奈落全体の地面が陥没する。
「げばぁあっっ!?」
オウは黒球を受け止めようとしたがよ、まったく歯が立たねぇ。
空の星が落ちてきたみてぇに、抵抗すらできず圧し潰されたーー、
「な……なぁめぇえんっじゃああねぇええっっ!!」
かと思ったが。
角が折れてなお、爪が弾け飛んでなお、闘いの化身の魂は砕けなかった。
「おや、押し返されていますね。これはーー、立ち上がられると厄介です。ああなってしまったチャエンは、もう、誰にも止められません」
ちっ、こうなりゃ必殺の、「三竜撃破」しかねぇか。
三竜での全力同時攻撃。
それだとオウを殺しちまうってんで、作戦会議で却下されたんだが、もうこりゃ「三竜撃破」じゃなきゃ茶竜の魂を挫くのは不可能だろ。
「アカっ! シロっ! 『三竜撃破』だっ、いけっか!」
「あと一度なら、無理をすればいけるわい!」
「まふっ! 待ってください! 魔力を溜めるのにっ、もう少し掛かります!」
使い慣れてない所為か、シロは連発に難があるようだ。クロは他の魔術もあんだろうから、シロは通常攻撃で……って!?
早ぇっ、もう膝立ちになってやがる!! にゃろうっ、間に合うか!?
「おおおぉっ、楽しいぜぇ~~っっ!! こんなに滾るのは『神竜大戦』以来だぜぇ~~っっっ!!! よっしゃあぁっ……」
ぐちゃ。
あ。潰れた。
奈落にあたしの命令が飛ぶ。
チャは土や地の属性、とかクロが言ってやがったが、この場所ーー「奈落」はとんでもねぇ。半日掛けて地下に潜ってみれば、竜が飛び回れるほどの巨大な空間。
チャの趣味で、「冥府」とかじゃなくて「奈落」って呼んでるみてぇだな。って、そんなこと考えてる場合じゃなかった!
あたしなんか塵に思えるくれぇの圧倒的な、空間すべてを光で薙ぎ払う、茶色の閃光が視界を埋め尽くす!
茶竜の息吹!!
はっは! もう何がなんだか、凄すぎてわけがわからねぇ!
轟音と衝撃で、クロの竜頭に立ってるあたしまで吹き飛ばされそうになる。
アカに匹敵する強さってのは本当らしいな! 縦列の先頭のアカと、真ん中のシロが防御に徹したってのに、この威力だ!
「横列!」
アカとシロが左右に散って、直後にクロの息吹。
大して効かねぇが、牽制だから問題なし! 本命はこっちだ!
「続けて放てっ、アカ! シロ!」
二竜の息吹が追撃!
だがよ、チャは攻撃に特化してるってのに、防御がやたら堅ぇ。
ーー本来後衛であるべきなのに、前衛で止まらず、そのまま敵に突っ込んでいってしまうのがチャエンです。
なんてクロが言ってたが、それでここまでの攻撃力を身につけたってんだから、いっそ天晴れだ!
それでも三竜が相手だ、確実に損傷は積み重なっていってる。だが、そこそこ深ぇ傷もあるってのに、怯みやしねぇ。逆に闘争心を増してやがる。
「がははっ! やっじゃねぇかっ、嬢ちゃんよ!!」
雄叫び、いや、歓喜の声が奈落に木霊する。
ほんと、戦いが楽しくて仕方がねぇってのが、こっちまで伝わってきやがる。
「チャこそだ! ここまでやるとは思ってなかったぜ!!」
油断してたわけじゃなかったが、一拍、遅れちまった。
あたしがチャに応えてる間に、茶竜はもう飛び上がってた。
「寸胴!」
「おおっ!?」
あたしの指示に三竜が呼応する。
見えない円筒の壁をなぞるように三竜が舞い、アカがチャーーどうもしっくりこねぇな、オウにすっかーーオウと、魔力と爪を削ってる間に、二竜が上にーー、
「からの~、漏斗!」
クロとシロの、頂点から拡がってくような挟撃。オウが気を取られてる隙に、アカが後方に回って逃げ道を塞ぐ。
「ごがぁっ!!」
「っ! 直列!!」
予感めいた閃きに、あたしは無我夢中で叫んだ。
オウに向けて縦列となった刹那ーー地面に落ちていった茶竜は、反撃の息吹を放つ!
「っ!!」
息吹を放った格好のまま、オウは地面に落っこちる。
くはっ! ほんと、見上げたもんだ! そんな状況でも攻撃を選ぶなんてな!
だがなっ、それが命取りだ! この好機っ、逃すわけにはいかねぇ!
「かっ! よく頑張ったが、ここまでだ! 止めを刺させてもらうぜ!!」
「はっ! 冗談言ってくれんなっ、嬢ちゃん! 面白ぇのはこっからだろうがよ!!」
オウは即座に立ち上がるが、さすがに攻撃は続かず、奈落の真ん中で戦況を窺う。
じゃあよ、取って置きって奴を見せてやんか! とくと味わいやがれ!!
「至純なるは天の牢獄! 遥けき賓よっ、努努怠ること勿れ! 言葉が在る末のっ、世界の理を! 魂に懸けてっ、生命の丘にて詳らかにせよ!!」
掲げた手のひらに、光よりも透明な世界が構成される。物質の軛より解き放たれた、「循環する幻灯」が極限にまで純化される。
須臾、世界を揺るがすように、あたしは叫ぶ。
「天輪っっっ!!!」
紙を焼くような音とともに、極光が解けて、巨大な光の輪を形成する。
「おいおいっ、嬢ちゃん! そりゃあ『至神』にしか使えねぇっつぅ、最上位神聖術じゃねぇか! なんで嬢ちゃんが使えんだ!?」
驚いてる割に、その顔には野太い笑みが浮かんでる。本当の馬鹿ってのは、煮ても焼いても食えねぇってか?
ーー認めた相手に対してしか「結界」を張りません。
クロの言ってた通り、攻撃を捨てて、防御に全振り。なら、あたしも奥の手を使うのに、躊躇いはねぇってもんだ!
「この程度で驚いてもらっちゃあ困る! あたしの本気って奴をっ、魂尽き果てるまで刻みつけやがれ!!」
掲げた手のひらを、胸の前に。享けとめるように両手を重ねる。
降ってくる。
最も遠くて、最も近い場所から、それは昇ってきて。
「ふるりふるり、こなたはべれり、ゆらりゆらり、つのりつのらし、としにとしつき、ころりころり、かくよあれかし、いまになれかし」
古き言葉は、失われた時代。捧げた言葉は、つながれた記憶。
「天輪」の中心で、それは結実する。
「原初の夢」
夢見るように紡いだ欠片は、光の湖面に、幻を濾して創ったような正四角錐を現出させる。
かたんっ。
小さな音を立てて、天頂から、ふわりと正三角形が湖面に触れて。
かたんっかたんっかたんっーー。
本のページを捲るように、正三角形が開かれて。速度を増して、湖面を埋め尽くすと、反り上がって神々を祝福する杯が醸成される。
クロが杯の上に移動して、あたしは手のひらの光を注ぎ込む。
反転した杯が「天輪」とともに下ってオウに被さると、杯の罅割れのような正三角形に文字が浮かび上がる。
「なん……だとっ!? 『古代文字』か!! 『異界の神々の残滓』をっ、嬢ちゃん! あんた何者だっ!?」
あたしが何者かって?
はっ、今頃そんなこと言ってるから、茶竜は負けんだよ!
「展開!」
「ぬっ?」
気づいたとこで手遅れ。オウが見回したときには、配置は完了してる。
さぁ~て、終わりの始まりって奴だ。これまで三位一体で戦ってた三竜が、オウを囲うように散ってる。
茶竜に敬意を払って、最大の攻撃をお見舞いする。
「まずはアカだ! 儼乎たる竜種の長の力っ、粋がった小僧に教えてやれ!!」
「ふぉっふぉっふぉっ、久方ぶりに血が滾るわい! お嬢ちゃんの願いとなれば、竜種の長にのみ引き継がれし竜印、使ってやろうぞ!」
空間が歪んだーーそう思えるほどの、竜の威厳。
目の錯覚なのか、アカが巨大化したように見える。そうして、静寂に君臨する古炎竜が、魂に刻まれた傷痕を露わにする。
「竜種の誓約」
「ぐおっ!? 何だっ、体が勝手にぃっ!!」
竜種の長のみが使える、竜族に対する強制。言い換えれば、竜の魂に直接損傷を負わせる業だ。
「どうしたどうした! 『結界』が緩んでんぞ! 他竜の干渉で揺らぐほど、薄弱な闘争心しか持ち合わせてねぇってか?」
「ごあぁぁあああっ……むんっ!! はっ、甘くみんなよっ、嬢ちゃん!! 俺を止められんのは俺だけだ! どうした? 次っ、こいやぁ!!」
ふっ、やるじゃねぇか!
強制的に動かされてたオウの動きが止まる。だが、それだけだ。反撃ができねぇなら、言われるままに攻撃してやろうじゃねぇか。
「シロっ、追撃だ! 成竜になって手にしたっていう新たなる力! そこの業突く張りに教えてやんな!!」
「はふっ! じゃあっ、いっきま~す!!」
純白の毛で覆われた、もふもふの黒竜が空中で静止すると、ーー背中がぞわっとした。
奈落にある何かが引き寄せられた、いや、逆だ、何かが引っ張り出された。
「浄化!」
「ん? ぅ…うばばばばばばぁあぁぁあああっ~~っ」
何が起こってんのかわかってねぇオウが悶える。
シロは「浄化」って言ってるが、その実、とんでもねぇ黒竜の業だ。
クロが言うにゃあ、存在を抹消する力らしい。
体に傷を負うのとは違った、壮絶な喪失感や沈痛みたいなもんに苛まれるらしいが、はっは! 茶竜っ、暴れ狂いながらもまだ立ってやがる!
「そろそろ限界か~? 負けを認めちまいな~?」
「がっはっはっ!! 腹の底から笑いが込み上げてきやがる!! 力が湧いてきやがる!! 止まんねぇっ、俺は止まんねぇぞっっ!!」
どこにそんな力があんのか、あたしの挑発に、爆発的な魔力の発現と発憤興起で応える。
そうかそうか、なら竜頭竜尾、徹底的に完全無欠に叩き潰してやるしかねぇな。
「お待ちかねだっ、クロっ! ぶちまけてやんな!!」
「姫さまのご命令となれば! 全力でお応えせねばなりますまい!」
ふざけた口調だが、まあ、全力だって部分は疑ってねぇ。
「暗黒冥府絶黒滅殺黒月極限漆黒波動球っっっ!!!」
ってわけで、口調よりふざけた技名をクロが絶叫する。
まるで風の隙間から食み出してきたかのように、黒い球体がいずこともなく吐き出された。
最近、最終実験して、やっとこ完成させたっていう、クロの最強魔術。
重い球、とか言ってやがったが、……何てぇか、ほんとぉ~に重そうなだけの球に見えんだが。
本当に、球を黒くするのに手間取りました。なんてクロが情感たっぷりに言ってやがったから顔面を殴っちまったんだが。失敗した、効果を聞いときゃよかった。
ごとっ。
吊っていた糸が切れたように、黒球はオウの上に落っこちる。
びしっっ。
一瞬遅れて、オウを中心に奈落全体の地面が陥没する。
「げばぁあっっ!?」
オウは黒球を受け止めようとしたがよ、まったく歯が立たねぇ。
空の星が落ちてきたみてぇに、抵抗すらできず圧し潰されたーー、
「な……なぁめぇえんっじゃああねぇええっっ!!」
かと思ったが。
角が折れてなお、爪が弾け飛んでなお、闘いの化身の魂は砕けなかった。
「おや、押し返されていますね。これはーー、立ち上がられると厄介です。ああなってしまったチャエンは、もう、誰にも止められません」
ちっ、こうなりゃ必殺の、「三竜撃破」しかねぇか。
三竜での全力同時攻撃。
それだとオウを殺しちまうってんで、作戦会議で却下されたんだが、もうこりゃ「三竜撃破」じゃなきゃ茶竜の魂を挫くのは不可能だろ。
「アカっ! シロっ! 『三竜撃破』だっ、いけっか!」
「あと一度なら、無理をすればいけるわい!」
「まふっ! 待ってください! 魔力を溜めるのにっ、もう少し掛かります!」
使い慣れてない所為か、シロは連発に難があるようだ。クロは他の魔術もあんだろうから、シロは通常攻撃で……って!?
早ぇっ、もう膝立ちになってやがる!! にゃろうっ、間に合うか!?
「おおおぉっ、楽しいぜぇ~~っっ!! こんなに滾るのは『神竜大戦』以来だぜぇ~~っっっ!!! よっしゃあぁっ……」
ぐちゃ。
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