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3話 仲間を集める姫
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ぷるぷるだった。いい意味ではなく、悪い意味で。
「アカンテ、大丈夫? いきなりぽっくり逝ったりしないわよね?」
「ふぉっふぉっふぉっ、剛毅なお嬢ちゃんじゃのぅ。第一声がそれとは。心配いらんて、こう見えて、お嬢ちゃんの数十倍から百倍くらいの余生があるでな」
「百倍って、凄いわね。あと一万三千五百年も生きられるなんて」
「姫さま。百五十歳まで生きるおつもりですか? 精々百三十歳くらいにしておいてください」
「すわっ! いつの間にか、人間はそんなに長生きできるようになったのですか?」
「ああ、違いますよ。姫さまは神聖術が使え、且つ私の指導で毎日『浄化』を自らに施しているので、今代の人々の、平均寿命の一、五倍は生きるのではないかと予想しております」
神聖術が使える者は長寿である。これは迷信ではなく、事実として認識されている。
いえ、今は私のことではなくて、よぼよぼのお爺さんのことよ。
幸い、アカンテの喋りはしっかりしてるし、頭の回転も悪くなさそう。というか、クロッツェの言う通りなら、傅役でも勝てないくらいの知恵者のはずだけどーー。
「でも、吃驚したわ。普通に城下に住んでるなんて」
小ぢんまりとした一軒家。
室内も、取り立てて言及することもない、良くも悪くもないーーまさに「普通」という言葉がぴったりね。強いて言うなら、清潔に保たれている、といった特徴くらいかしら。
魔術なのか、それとも人を雇っているのか。
室内の中央に置かれたテーブルに、四つの椅子。なぜか私が上座の位置に座ってるんだけど、いいのらしら。
クロッツェとシロンがさっさと座ってしまったので、仕方がなく余ったこの席に座ったんだけど。
「見ての通り、老い耄れなのでな。体が鈍らぬよう散歩を日課としておった。時々村に行っては薬師の真似事をしてな、いつしか重宝がられて幾つかの村を巡回するようになったのじゃ。村が街になった頃、通うのも面倒になって街に住むことにしたのじゃが、気づいたら国ができておった」
「それって、簡単に話してるけど、百年とか千年の単位の話よね」
「それと、国ができた、と他人事のようにアカンテは話していますが、普通に考えれば、為政者がアカンテを放っておくはずがありません。『助言』とか『手伝い』とか、そういうことをしている内に、ボレアス国が成ったのでしょう」
それはまた、一国に一竜、とか言いたくなってくる話ね。
でも、一竜いた聖王国は、あんな風になってしまったんだから、偉大なる存在とて竜によりけり、ということね。
「さて、お嬢ちゃんはクロッツェに乗って飛んできたのかの?」
「え? それはーー」
答えようとして、一拍。
アカンテに変化はない。今もぷるぷるなんだけど、何て言えばいいのかしら、気配が引き締まった、ような気がして。
呼吸一回分、考えを巡らせる。
「そうね。ちょっとおかしいわ。シロンの塒からーー率先して私とシロンを乗せて運んでくれるなんて、クロッツェらしくないわ。ーー何を企んでるの、クロッツェ?」
「ふぉっふぉっふぉっ、さすがはお主の教え子じゃの、クロッツェよ」
「ええ、まるで信用されていないところなど、傅役冥利に尽きる、と言ったところです」
何だか馬鹿にされた気分になるけど、これは私でもわかるわ。
飄々としてるけど、本心を隠そうとしたわね。大陸では、黒竜が現れたと噂になっているからーー、
「クロッツェは言わんじゃろうから、わしが言うてやろう。お嬢ちゃんは、ファナトラの森に逃亡し、次に現れたのがアペリオテス国。その時点では、本物の『薔薇の姫』だと思われていたようじゃが、そこから北に向かって白竜が姿を現した。伝説の『五色の竜』というだけで大騒ぎじゃというのに、そこに黒竜まで現れてみぃ、どんな噂が立つかいのぅ」
と、考える前に助言をされて。直後にシロンが答えを教えてくれた。
「さふっ。黒竜だけど白い僕まで飛ぶと、『四聖女』の一人のリップスさんと関連づけられてしまいます。白竜だけど黒いクロッツェさんの噂で、リップスさんの噂を吹き飛ばしたのに、僕が飛んだら噂が再燃してしまいます」
うわ、何だかクロッツェに叩き込まれていた頃を思い出すわね。ときどき許容量を超えて教え込んできて、挫折感や無能さを味わわせてきたのよ。
謙虚さを忘れないように、とか傅役が言ってたけど、どう見てもクロッツェは楽しんでいたから、知れたものではないわね。
「『四聖女』といえば、ボレアス国にも一人いたはずよね」
こういうところが私の駄目なところね。
私のために骨を折ってくれたクロッツェに、素直にお礼が言えないから。
私とクロッツェはそんな仲じゃないのよーーなんて言い訳で自分を誤魔化して、話を逸らしてしまった。
「地域によって、価値観は変わるでの。ボレアス国の『聖女』は、『狩姫』とも称えられておる。その美貌に加えて、強き女の象徴として崇められておるの」
「うっ……羨ましいわ。やっぱり私はどこかで間違えたのかしら」
大陸の西では、貞淑であることが美徳とされていたから、聖王国の利益となるために、猫万匹は選択の余地がなかったのかもしれないけど。別に後悔しているわけじゃないけど。
ーー夢に見たことはあったわね。本当の私が受け容れられている世界。
ミースや子供たちは受け容れてくれた。でも、駄目ね、王女としての私には、勇気が、覚悟が持てなかった。
ーー私は、何を信じられなかったんだろう。
「お嬢ちゃんは、わしに会いにきたわけじゃが。さても、何をしにきたのかいのぅ?」
「ーーそれは」
考えに沈んで、反応が遅れてしまった。
言葉を継ごうとして。寂れた赤髪の下の、くすんだ石のようだった瞳が宝石の輝きを宿した瞬間に、言葉が奪い去られる。
「お嬢ちゃんは逃げた。それから、アペリオテス国へと。しかし、そこからはただの、逃げ、ではないの。目的があるのじゃろう。聖王国を奪い返すため? 復讐のため? いやいや、お嬢ちゃんはそんな易い性格ではあるまい? クロッツェの教え子であることを勘案するに、『五色の竜』を集め、何を企んでおるのかの」
「ーー商人ギルドの、任命権?」
これは、まともにやっても駄目よ。クロッツェ以上の相手と、正面から遣り合うなんて無謀もいいところ。
アカンテは、知りすぎている。そこには何か絡繰りがあるはず。
有り得なさそうなことまで考慮して、現実的なものを選んでみたけど、どうかしら?
「ふぉっふぉっふぉっ、クロッツェとシロンを連れておる時点で、力を貸してやるつもりだったがのぅ。わしはお嬢ちゃんが気に入ったで、お嬢ちゃんがやろうとしていることの内容如何によっては、積極的に力を貸してやろう」
どうやら、正解だったみたいね。
まったく、いつ崩れるともしれない、氷柱の上を歩かされてる気分よ。冷静さが必要だと思ったから、にゃんこたちと一緒に考えたけど、こっちも正解だったみたいね。
「ーーーー」
大陸中の情報が、別けても確度が高く迅速に集まる組織といえば、商人ギルドしかない。
そして、ギルドを掌握する方法の中で、わかり易く、そうであるが故に難しいのが、ギルド長を決める権限ーー任命権を持つこと。
こんな陰謀めいたこと、普通なら馬鹿々々しくて、ぽいっと捨ててるとこだけど。竜ならーーアカンテなら可能。
言いたくはないけど、以前クロッツェがギルドの構成について話していたときに、ぽろりと口にした、何故か商人ギルドが有能すぎるのですよね、という言葉が決め手になった。
ギルド長にだけは正体を明かして、折々に触れ、力を貸しているーーというところかしら。
「ああ、やっと姫さまのなさろうとしていることを知ることができるのですね。このクロッツェ、心待ちにしておりました」
別に、逃げ場を塞がなくても、きちんと話すわよ。
下手すると、三竜は呆れて、誰も協力してくれなくなるかもしれないけど。それでも私自身で決めて、前に進んできたんだもの。
ぜんぶ赤裸々にっ、あけっぴろげにおっぴろげてやるわ!
「ーー私はね、ずっと考えていたわ。アカンテが言ったように、始めは感情のままに、奪われたものを奪い返してやる! とか、国民の苦痛を何倍にもして返してやる! とか、そんなことばかり考えてた。でも、考えれば考えるほど、思い知ったわ。私にできることなんて、本当に少ないってことに」
私に残ったのは、「聖女」や「薔薇の姫」という肩書きだけ。
クロッツェは、興味がなければ自分からは動かない、空気のようなものだから、ーーまあ、独りではなかったのは、それなりに助かったから認めてあげなくもないけど。
「ラスティを、アペリオテス国を利用しようと考えたわ。でも、そんな資格が私にあるのかと考えて、身動きが取れなくなってしまった自分の弱さが、死ぬほど嫌になったわ」
もう、この世界に、ラスティがいないことに、安堵してしまった。
なんて、……なんて醜いのかしら。
アペリオテス国を利用する、その根幹たる理由がなくなって、私は喜んでしまったのよ。もう、選ばなくて、悩まなくていいことに。
私は、ラスティを選んだ。けど、ラスティを愛していたかと言えばそうではない。いずれ、愛することができるようになると、なるはずだと、自分を誤魔化していた。
「色んなことを思い出したわ。だいたいはカイキアスの、大好きだった人々のことね。それから、私ができること、だけじゃなくて、国民が私に望んでいること、を考えるようになったわ」
国を捨てて逃げた「薔薇の姫」。罵声を浴びせられて当然。
でも、人々は私にそこまで多くのことを期待していなかった。国を守るために戦うなんて、私の独り善がり。
じゃあ、私はーー「薔薇の姫」は何だったのかなって考える。
象徴だったのかな、と思う。
聖王国の象徴、繁栄の象徴、幸せの象徴ーー国民が私を通して見ていたもの。まだ幼い頃、そうしたものを感じて、猫を被るようになって、猫万匹でーー人々が望んでいると。
言い訳なんて、情けないわね。
ずっと考えていた。私がしたいこと、私がしなくちゃいけないこと、国民が私にして欲しいこと。そうして、やっと心に落ちてきたのはーー。
「なるほどのぅ。『五色の竜』を率いて、無事な姿をカイキアスの民に見せる。逃亡している王と王子、それにノトゥス国への心理的圧迫……」
「うん、アカンテと同じことを考えたんだけどね。でもね、それって、私らしくないって気づいたのよ」
「ほっ? では、何とするのかのぅ?」
「始めはね、伝説の『五色の竜』と一緒に、私の無事な姿を見せれば、それですかっとすると思ったのよ。でもね、それじゃあ駄目なのよ。ノトゥス国は、『五色の竜』と共にある私を脅威だと思うだろうし、父さんも兄さんもそれを利用するわ。何より、国民は私が生きていることを知って、どう思うかしら? どうするかしら?」
「それは、色々とあるでしょうね。始めは、影から操ろうかと思ってましたが、その必要もなく、姫さまの人気はーー崇拝と言っても良い水準になっていましたから」
それは、私の罪。
「聖女」に「薔薇の姫」。私が創り出してしまったもの。私は、責任を取らないといけない。最低限の義務として、幕引きをしないといけないのよーー。
「ーー、……殺すわ」
私は今、どんな顔をしてるのかしら。
魔竜だって怯えるくらいの、下卑た顔かしら。それとも、心の底から溢れた歓喜に歪んだ、醜い笑顔かしら。
クロッツェに、シロンに、アカンテにーー三竜に誓いを立てるように、曝け出してやる。
溜め込んで、灼けて焦がれて。
ーーやっと言葉にできるからっ、ぶちまけてやるわ!!
にゃんこたちっ! 私の近くにいると熱いからっ、離れてなさい!!
脱ぎ。脱ぎっ。
脱ぎ。脱ぎっ。
脱ぎ。脱ぎっ。
脱ぎ。脱ぎっ。
脱ぎ。脱ぎっ。
猫どもっ、十分に離れたか? じゃなけりゃ耳塞げっ! ってそりゃ無理か!?
「あたしはっ、あたしを殺す! 『聖女』!? 『薔薇の姫』!? そんなもんっ、徹底的にだ! 欠片も残さず焼き尽くしてっ、灰にしてやる!!」
言葉にして、確認して、ーー苦しい。
体の奥深くが軋んでる。自分を殺すことの意味が、今更わかるなんてよ、ほんとに、あたしはどんだけ馬鹿なんだ。
「……そうだ、あれも……『猫まんま』もあたしだ。殺すと決めて、失うと知って、やっと気づきやがった馬鹿があたしだ。『偽物』でも『作り物』でも、みんなの中で生きてる、大切な『リップス姫』だ。だから、だから……」
一番失いたくなかったものを。一番大切にしていたものを。ずっと、最後まで守りたかったものをーー。
「あたしはっ! あたしが大好きなみんなの内にいるっっ!! あたしを殺すことにしたっっっ!!!」
どどんっ、と世界に届きやがれ、とばかりに宣言する!
「……ぷっ、くくっ、ぐぷっはっはっはっ、あーはっはっはっ!」
「くぉ~、嗤うんじゃねぇ! あたしの大決心だぞっ、一大決心だぞっ、『薔薇の姫』とか創っちまってごめん! って大っ大っ大っ大っっ謝罪するんだ!」
くそっ! 子供っぽいとか言うなよ!
クロが抱腹絶倒してん意味はわかってるが、そういうことじゃないんだよ! わかるだろ!? そういうことじゃないんだってよ!!
「ぷぷっ……。ーーそれで、姫さま。姫さまを殺すというと、『五色の竜』で姫さまをバリバリ食べるのですね?」
「ばふっ! 僕はリップスさんのお腹がいいです!」
「仕方がないのぅ。年長者は残りもので我慢してやるわい」
「怖ぇこと言うな! そんなもん、編隊の先頭の、クロの竜頭に乗ったあたしの姿を見せつけたあと、光に解けるように消えていくに決まってんだろ」
「…………」
「…………」
「……姫さま。物語の読みすぎでは?」
にゃろう! なんでそこだけ冷静に返しやがる!
「それでは、竜について、姫さまに知っていただきましょう。アカンテーー覚悟は良いですか?」
くっ、この傅役。あたしのこと「恥ずかしい奴」認定して、さっさと先に進めるつもりか!
あたしは、そうはさせまじとしたが、アカを見た瞬間に。
あたしの羞恥心なんて薄っぺらなものは、「冥府」まで堕ちていっちまった。
「ーーーー」
苦悩ーーそんな言葉じゃ足りねぇ、絶望という言葉すら同情して慰めちまうような、底のねぇ哀しみが垣間見えた。短命な人類では、到底及びもつかねぇ圧倒的な深淵が、その寂れた炎眼に宿ってた。
竜種の長として、いってぇどんな光景を目の当たりにしてきたってぇのかーー。
「竜種の長であったアカンテはかつてーー『性王』と称えられていました」
「やめるのじゃっ、やめるのじゃっ」
は? ……おいおい。
爺が両手で顔を覆って、左右に頭を振って、いやんいやんしてやがるぞ。
「『せいおう』って、『聖なる王』じゃなくて、『性欲の王』か?」
「さすがでございます、姫さま。違うことなく、一字一句、その通りでございます」
「やめるのじゃっ、やめるのじゃっ」
ふりふりふりふり。
ーー困った。何だかアカのいやんいやんが可愛く見えてきやがった。
深淵もまた等しくおまえを見返すのだ、とか過去の偉人の言葉まで持ち出して考えちまったあたしの、貴重な時間を返しやがれ。
「どうします? 私が話しても良いですが、『神竜大戦』までとなれば、アカンテが話すのが筋だと思いますが」
「……もう良いわ。覚悟もできた。クロッツェこそ、わしを利用しようとしたようじゃが、覚悟は決まったのかの?」
「私のほうは、覚悟とか、そういうものではないですからね」
クロとアカの間で、よくわからねぇ会話が交わされる。って、そうじゃねぇ、クロが言ってたっけな、女性体になれねぇ理由って奴を、アカに会ってから話すって。
「お嬢ちゃん、『神竜大戦』について説明してくれるかの?」
「そりゃ、神竜に属する竜と、魔竜に属する竜が戦って、神竜側が勝利したって戦争だろ? ーーん? アカって竜種の長だったんだよな? ってことはアカが神竜なのか?」
「神竜大戦」、或いは「神竜撃破」ーー古い話だ。
お伽噺とか神話とか、そんな人類の黎明期のーー神学者の中には、人類の誕生前だと主張する奴もいるってぇくらい昔の出来事。
「クロッツェ。お嬢ちゃんには教えておらんのかの?」
「必要のない知識でしたからね。それに、下手に教えると、ないとは思いますが、私が竜であることを気取られる懸念がありましたから」
こりゃまた、衝撃の真実! なんて匂いがぷんぷんしてきやがる。ってか、クロの奴、妙なとこであたしを買い被ってやがるな。
まあ、クロがそうするくれぇの秘密ってことだからな、ほれほれっ、好奇心と求知心がダンスを踊ってやがる、前振りなんざどうでもいいから、さっさと教えやがれ!
「神竜と魔竜の戦いーーというのはの、過去の人間が作った、物語に端を発しておる」
「は? ……それって、創作? ってことは、『神竜大戦』なんてなかったってことか?」
「いやいや、『神竜大戦』はあったぞい。じゃがの、『神竜』の文字を見てみよ。『神』と『竜』じゃろう。後世の人間は、『神竜』が勝利した戦争だと思うとるようじゃが、答えは馬鹿らしいくらいに単純じゃ」
「何だそりゃ、『神竜』と『魔竜』じゃなくて『神』と『竜』で戦ったってことか?」
アカが首肯する。クロとシロも当然って顔してるから、ほんとのことらしいな。
確かに、聞いてみりゃ納得だ。思い込みって奴なのか、生まれてからずっとそう思ってたからよ、疑問を抱くことさえなかった。
「ってことは、竜は負けちまって、戦争の生き残りが『五色の竜』ってことなんか?」
「ふぉっふぉっふぉっ、逆じゃな。竜は辛うじて勝利を拾ったが、『五色の竜』しか生き残ることができんかった。ーーこれから、そうなってしもうた経緯について語ってやるかいのぅ」
スリンが言ってたな。完璧だったから気づいちまったって。
人にとっての、歴史という尺度の時間。竜にとっては、昨日のことのように、なんてことはねぇとは思うが。
圧し掛かって潰れそうな、遥かな星霜に触れることすらできねぇあたしが口を出していいことじゃねぇから。
大きすぎる感情なのか何なのか、隠しちまったアカの話に、静かに耳を傾けることにする。
「わしが生まれる、ずっと以前から竜種と神々は争っていたそうじゃ。神は、竜より強かった。じゃが、竜より強くなるのに時間が掛かり、また竜より少ない子しか生せなかった。逆に竜は、神より総じて弱かったが、早う強くなることができ、多くの子を生した。そして、ここが重要になるのじゃが、種として存亡の機に陥ると、竜種、神々共に、強くなる時間が早まり、子の数も増えたーーということじゃ。竜種の総意と言いたいところじゃが、やはり本能なのかのぅ。魂に刻まれた命令、宿命のごとく戦いを止めることができず、危機となれば勢力を盛り返し、いつ果てるともない無益な、愚かな行為を繰り返しておった」
永遠に戦うことを宿命づけられた存在。
そうすっことで生命って奴が活性化すんのかもしんねぇが、この仕組みを作った奴ーーなんてのがいたら、「冥府」ですら生温ぃ、「永遠の滅び」まで堕ちるべきだな。
「じゃがの、そこに変化が生じたのじゃ。それは、神々の頂点とされた五柱ーー『至神』の一柱が消えたことから始まった。永遠の命を持つとされる、寿命がない一柱が何故消えたのか、未だにわからぬことじゃがな。神々の長が消えて、新たな長が立ったが、ーー一柱はおかしな奴じゃった。なんと、休戦を申し出てきよった。竜種の長となってだいぶ経っておったわしは、耳を疑った。そのようなこと、考えたことすらなかったからの。じゃが、言われて、考えてみて、気づいたのじゃよ。別に神々が憎くて戦っていたわけではないということに。戦って、殺し合うことが日常になっていて、そんなことにすら気づけなくなっておった。一柱の言葉は、波紋となって、波となって拡がった。そうして、相争わぬ新たな時代がやってきたのじゃが、当時は思いもせなんだ。それが破滅へと至る門を開けてしまったということにーー」
竜だって、神だって間違える。思い込みーーと言っても、あたしのと比べちゃいけねぇのかもしんねぇが、竜も神もどんだけ深ぇ陥穽に嵌まっていたんだか。
「わしは老いていたでな、そろそろ長の座を譲ろうと考えていた頃じゃった。竜種も、そして神々も、穏やかな時間を享受し、必然的に、両者とも個体数が増えよった。そう、数が増えてもうたーー相手を殲滅できるほどに。数が減った状態で起こるはずの『狂騒』が、数が増えた状態で起こったのじゃ。それが『神竜大戦』。相手を滅ぼさなければ、自分たちが滅ぼされると。『狂騒』に身を焦がし、世界を混沌の海に沈めたのじゃ。ーーここまで聞いたならわかるじゃろうが、竜は劣勢じゃった。神のほうが強いのじゃから、正面から戦えば負けて当然。じゃが、『狂騒』に灼かれた竜は、個々に戦い、協調などというものはまるで頭になく、敗北への道をひたすらに突き進んでおった」
アカは、背凭れに体を預けて、一息つく。
長い話だと、そう思ったが、そうじゃねぇ。この少ねぇ言葉に、途方もねぇ星霜と想いが横たわってるんだ。想像が及ばねぇ、受け留めきれねぇから、あたしん内でおかしくなっちまってやがる。
「そこで、私たちの出番というわけですね。その頃、私たちーークロッツェとシロン、チャエンは、成竜となってはいませんでした。それが幸いしました。新たに生まれた竜たちは、私たちを追い越して成長し、『狂騒』に駆られて神々に挑んでゆきました。成竜になっていない私たちは、比較的『狂騒』の影響が少なく、三竜で協力して戦うことができました。ああ、因みに。成竜になっていなかった私たちは、アカンテに相手をしてもらえなかったので、清い体のままです」
「やめるのじゃっ、やめるのじゃっ」
駄目だって、アカ。そんなこと言ったら、やる気がフル回転すんのがクロだってのに。
「竜種の長であったアカンテは、それ以外の雌になった竜を、『性王』となって孕ませました。いやあ、あれは凄かったですね。私も『狂騒』の影響を、それなりに受けていましたので、『性王』に相手してもらえないことを悔しく思ったりしたこともありました」
毒を吐いたから次は猛毒を、ってとこで、アカがクロの話を遮った。
「もうええわいっ、もうええんだわいっ、言われる前に言うてやるぞい!」
と、勢い込んだのはいいものの、余程言いたくねぇことなのか、ただでさえ爺でちっせぇってのに、豆粒になんくれぇの勢いで萎みながら、女々しい口調で続きを話してった。
「……それでな、さっきも言うたが、わしは引退間際でな、戦いの中盤辺りで子種が、……尽きてしもうた。運が悪いことにな、子種が尽きたことが影響したのか、理性を取り戻してもうて、……じゃが、体は止まらんかった。ーー辛かった。ほんに、……辛かった。雌が次から次へとやってきて、子は生せないというに、このままでは本当に竜種は滅びてしまうというに、……止まらんのじゃ。……わしの所為じゃないのに、わしの所為じゃないというのにっ、神々の奴らはっ、みんなしてわしのことを『性王』『性王』『性王』呼ぶんじゃあ~っ」
「あー、爺、ほらほら背中摩ってやんから、泣き止め~」
「性王」を三度も繰り返して、本当に嫌だったんだな。
子作りはしたことねぇから、まだよくわかんねぇが、無理やりそれをしなくちゃならねぇのは、苦痛以外の何ものでもねぇってのはわかる。
快楽も、そこをすぎりゃあ、ただの毒だしな。
「アカンテも苛めたことですし、そろそろ逆転劇の話をしましょうか」
逆転劇ーーか。それには興味がある。
劣勢の上に、運まで神々の味方っていう八方塞がり。いくらクロでも跳ね返せねぇような状況だが、ーーやっぱ世にも恐ろしい、魔竜もドン引きの汚ねぇ手を使ったんだろうなぁ。
「何だか姫さまは誤解しておられるようですが、私たちにとっても想定外だったのです。私とシロン、チャエンが共闘しても、中級神ーーああ、当時は面倒なのでそう呼んでいたのですが、中級神にも勝てませんでした。そこで、下級神をちまちま潰していきました」
「とふっ! 突っ込んでいくチャエンさんを援護しながらっ、クロッツェさんの指示で捥ぎ取っていきました!」
……捥ぎ取ったって、命か魂のことだよな?
あー、いや、もう黙って聞いてるって雰囲気でもねぇし、聞いてみっか。
「でもよ、下級神とやらを潰してたら、さすがに目障りじゃねぇか? 中級神とかが援護にくるか、あと『至神』とやらが命令とかしなかったのか?」
「一言で言ってしまうとーー雑兵がいくら減ろうが、興味がなかったのでしょうね。『至神』からすれば、中級神ですら捨て駒扱いでしたから。あと、お盛んだったアカンテも、三竜の行動にまったく気づいていませんでした」
クロに任せると碌なことにならねぇと悟ったのか、アカが復活して話に加わる。
「そうして、竜種も神々も、知ることになる。竜は、魔力を世界に放っておる。人間はの、その魔力を使うて、魔術を行使しておるのじゃ」
「そういや、前にクロが言ってたな。昔は、今より強力な魔術が使えたって。『五色の竜』ーー五竜にまで減っちまったから、弱い魔術しか人間は使えなくなったってことか?」
「正解じゃ。反面ーーと言うのは違うかの。神々は神聖力を、祈りを捧げてくる人間に直接渡しておった。そして、祈りの強さの分だけ、神聖力を増して回収しておったーーと、竜種も神々も思うておった」
実際は違ってたってわけか。竜は魔力を放出するだけ。翻って、神々は神聖力を回収してたってことは、それが二者の力の差になってたってことか?
「んー、クロのこった、下級神は漏れなく潰したんだろうから、そこがなくなったーーん? いや、止まった、のか? そーなっと、神聖力は、神々の間で循環してたってことか?」
「ばふっ! リップスさんっ、凄いです! そうなんです! 人間の祈りは下級神が吸い上げてっ、純化させながら『至神』まで巡っていたんです!」
ん? なんだ?
今、何かが引っ掛かった。竜が有利になる方法がーー糸口をつかんだと思った刹那に。
糸のほうが途中から切断されちまったが。まあ、わかんなくなっちまったもんは仕方がねぇ。
「竜種も神々も、異変に気づき、答えに辿り着いた。時間が経てば経つほど、神聖力が得られなくなった神々は不利となってゆくのじゃ。そこからは、正面からの潰し合いじゃのーーと言いたいところじゃが、幸い、竜に長の命令は届いたのじゃ」
「均衡が崩れて、『狂騒』の縛りも緩くなったってことか。命令ってのは、当然ーー全竜、逃げろ! ってことだろ?」
「姫さまの仰る通りです。時間が経つほどに神々は弱まるのですから、遁走するに決まっています。最後のほうは、三竜でも上級神に勝てましたからね。生き残りの『至神』ーー神々の長をアカンテが討ち果たし、多大なる犠牲を払って『神竜大戦』は結末を迎えました」
「で。クロが女性体になれねぇってのは、どんな面白ぇ理由があるんだ?」
「いえ、姫さま。もう少し、余韻というものを大切にしてください。愛と哀しみの『神竜大戦』が一気に陳腐なものに成り下がってしまった気分です」
何言ってやがる。クロの言葉からして、茶化す気満々じゃねぇか。
「だがよ、よくクロたち三竜は生き残れたよな。最後の、全竜が逃げまくってた頃も、竜種の中じゃ底辺の力しかなかったんだろ?」
「鬼ごっこのようなものでしたからね」
「そーゆーことか。灯台下暗し、常套手段。神々の拠点に隠れてやがったな」
「さすが姫さま、お見通しでございますか。『神域』にいるのは、毒沼に埋まっているようなものでしたが、そうしないと木っ端三竜は一瞬で、ぶっ殺、と駆除されていたでしょうから。やむにやまれず、ということです」
「やぶっ! でもでもっ、危なかったんです! クロッツェさんが成竜になったのでっ、白竜の能力で切り抜けることができました!」
やむにやまれず、ってそういうことかい。
白竜であることに違和感を抱いてたらしいクロからすっと、白竜の能力を使うことに忸怩たるものがあったのかもしんねぇな。
「そんで、シロ。あたしのお腹、撫でていいから、クロの醜聞を話してくんな」
シロが座った椅子ごと後ろに引いて、極上のクッションに、ぽすんっ。
……なんか、前回よりシロの手つきがいやらしくなってるが、こりゃ気にしたら負けって奴だな。
「うぷっ。通常、成竜になっていない幼竜は、子作りの相手と見做されません。でも、クロッツェさんは、早熟というか見栄えが凄い良かったので、目をつけられてしまいました」
「それは、わしの落ち度でもあるの。まさか、幼竜に手を出す竜がおるとは思わんかったでな。わしがシロンから知らせを受け、仕置きするまでの期間、……ぷっ、くくっ、……クロッツェは、それはそれは大変な目に遭うていたそうじゃ……」
ぷるぷるの横揺れに、笑いを堪えた縦揺れまで加わって、そのまま「楽園」まで逝っちまいそうだ。
表情はいつものまんまだが、どっか陰を背負った体で、観念したのかクロが話し始める。
「女性体を見られたのが運の尽きでした。男性体になっても、『竜化』しても白竜は追ってきました。シロンもチャエンも味方してくれましたが、如何せん私たちは幼竜で、白竜一竜に敵いませんでした。あの悍ましい日々は、思い出したくもないので、長老と呼ばれていた白竜に頼んで、記憶を消してもらいました。それでも、あの竜のことは、忘れたとしても嫌悪だけは残っていて。この一件の主因でもあった、白竜である自身を、益々疎むようになっていきました」
「なるほどな。だから、そんなにも性格が歪んじまったのか」
クロは淡々と語っていったから、あたしも淡々と所感を述べることにする。
残念とか言ったらクロには悪ぃが、期待してたほどの突飛な話じゃなかったからな、ついでに気になってたことを聞くか。って思ったらーー、
「爺さん! 帰ったわよ!」
ばんっ、と勢いよく扉が開く。
壊れるんじゃねぇかってくらいの音と、それ以上に威勢のいい若い女の声が部屋に飛び込んできた。
「ほ? 珍しいわね。爺さんに、お客さん?」
二十歳には届いてねぇか。生気に満ちたはつらつとした美女が、順繰りにあたしたちを見ていって。
傍から見たら奇妙な、シロに座ってるあたしで止まった。
「うわぁ、これはまた、とんでもない美少女ね。それでこの赤髪ってことはーー爺さんの隠し子ね!!」
「子がいたとして、隠す必要なんてないわい。この娘は……」
「わかってるわよ。西の『聖女』のリップス王女でしょ? 他にこんな美少女がいるのなら、噂になっているはずだもの」
アカとの遣り取りからして、親しい間柄のようだな。なら、隠し事する必要はねぇだろう。
ーーにしても大柄な、「狩姫」の称号に違わぬ、俊敏そうなしなやかな肢体。それでいて、女らしさを失ってない。
「そっちこそ、北の『聖女』、リンネだろ? ……ちくしょう、その筋肉が羨ましいぜ」
「北じゃ、強い女は尊ばれるのよ。ひ弱な女ほどもてるらしい南に生まれなくて、ほんと良かったわ」
言いながら、慣れた手つきで茶を淹れる。
「聞いていいか?」
「何?」
「超絶美少女のシロと、『女殺し』のクロには、まったく関心向けてねぇようだが、何かあんのか? 顔見知りって感じじゃねぇが」
「ああ、私はね、勘が鋭いのよ。そちらのシロさんは、ーー底が知れないわ。もっと酷いのが、そちらのクロさん。真っ当な人生を送りたいのなら、係わったら駄目な人たちね。それよりも、あなたのほうが面白そう。『薔薇の姫』とか呼ばれてたみたいだけど、それ、本性ね。決めたわっ、今度一緒に狩りに行きましょう!」
ラスと同じ人種か。才能の宝庫って奴だな。だが、こういうからっとした奴は嫌いじゃねぇ。ってことなら、さっそく今からでもーー。
「ふぅ、リンネ。わしらはこれから出掛けるでな。しばらく留守に……」
「爺さん一人にはできないから、私もついて…いくわ……」
魔術を使ったのか、不自然に意識を失うリンネ。
支えたアカがぷるぷるしてたからな、シロの膝から飛び出して、彼女の腕を取って一気にお姫さま抱っこ。
リンネの最後の、アカに向けた視線。
親に捨てられた餓鬼みてぇなーー孤児院でよく見た眼差しに似てたが。
「大柄なリンネを軽々と持ち上げるとはの。お嬢ちゃんもシロンと同じで、クロッツェに改造されてしもうたのか」
「肉体改造ってことならそうだな。お陰でリンネみてぇな、引き締まった体じゃなくて、ぷにぷにになっちまった」
クロが寝室の扉を開けたから遠慮なく入っていって、赤竜と「聖女」が使うには質素な寝床に寝かせてやる。
「アカ、説明。じゃねぇと、クロと同じ扱いにすっぞ」
話さねぇなら、とりあえず顔面に一発、打ち込む。
「リンネはのぅ、明日、結婚式なのじゃ」
「……は?」
ちょっと待った。頭がついていかねぇんだが。
……くそっ、駄目だ! ちゃんと説明しやがれ!
「そんなおっかない顔で見ずとも、説明してやるわい。この世界には、幾らでも不幸が転がっておる。柵というものかの、魔獣の生贄にするとして攫われたリンネを、わしが育てることにした。終ぞ、リンネの寂しさを埋めてやることが敵わず、家族というものに執着するようになってしもうた。わしが式に出ると色々と問題があるでな、ーー昨日、リンネを守ろうとして亡くなった両親の墓の前で、『竜の誓い』を立てたでな、このまま出発するとしよう」
「『竜の誓い』ということは、リンネ様と正式に家族となったーーということですか?」
「わかっておるのなら、態々聞かんでも良かろう。ふぅ、誰に似たのか、強情な娘じゃからのぅ。中途半端なことができん以上、一旦わしから離れたほうがええ」
ったく、難儀なことだ。そんな顔して言われたら、なんも言えねぇだろうが。
「それでは、次は東にーーチャエンの塒に向かいましょう」
「茶竜ーーチャグリッパガゼルは、大地と関係が深くて、『豊穣』とか『静謐』とかか? あと『粛然たる技巧』って呼ばれてて、芸術や学芸を司ってるとも言われてんな」
気を利かせた、なんてことじゃねぇだろうが。クロが話題を転換したから、湿っぽい雰囲気を蹴散らすために、あたしも乗ってやる。
「それらは人間たちの心象からきたものですからね。チャエンに相応するのは、多少方向性は違えど、『豊穣』くらいですか。闘いの『技巧』ということなら、まんま、ということになります。ああ、忘れていました。奴の属性は、土や地でしたね」
「てえと、クロより強ぇのか?」
「ええ、確実に。正面から闘ったら、私は勝てません。私は魔術に没頭しましたが、チャエンは魔術も含めて闘いに特化したような竜です。『神竜大戦』のあとも、ずっと鍛錬していたでしょうから、私とシロンの二竜でも勝てるかどうか。もしかしたら、アカンテよりも強くなっているのかもしれません」
「だの。以前より衰えているからの、今はわしのほうが上じゃったとしても、そう遠くない内に、抜かれるじゃろうて」
「で。わかってますよね、姫さま?」
はっ! そんなもんっ、言われなくてもわかってんよ!
どんだけあたしを甘く見て、って違ぇか、ったく、楽しんでやがるなクロの奴。
仕方がねぇな、今回はクロの力も借りなきゃいけねぇんだから、お望み通りに踊ってやんよ!
「ほれっ、行くぞ、クロ! シロ!」
こっちから行動しねぇと、リンネの顔も見ずについてきかねねぇから、クロとシロの腕を取って、先に家から出っことにする。
扉が閉まる前に振り返ると。アカの視線は、もうあたしたちには向いてなくてーー。
まあ、機会があったらだけどな、親父と兄貴に会ったらあたしもーー。うん、死なねぇくれぇにぶん殴ってやろう。
よしっ! そんじゃあっ、これから作戦会議と洒落込むぞ!!
「アカンテ、大丈夫? いきなりぽっくり逝ったりしないわよね?」
「ふぉっふぉっふぉっ、剛毅なお嬢ちゃんじゃのぅ。第一声がそれとは。心配いらんて、こう見えて、お嬢ちゃんの数十倍から百倍くらいの余生があるでな」
「百倍って、凄いわね。あと一万三千五百年も生きられるなんて」
「姫さま。百五十歳まで生きるおつもりですか? 精々百三十歳くらいにしておいてください」
「すわっ! いつの間にか、人間はそんなに長生きできるようになったのですか?」
「ああ、違いますよ。姫さまは神聖術が使え、且つ私の指導で毎日『浄化』を自らに施しているので、今代の人々の、平均寿命の一、五倍は生きるのではないかと予想しております」
神聖術が使える者は長寿である。これは迷信ではなく、事実として認識されている。
いえ、今は私のことではなくて、よぼよぼのお爺さんのことよ。
幸い、アカンテの喋りはしっかりしてるし、頭の回転も悪くなさそう。というか、クロッツェの言う通りなら、傅役でも勝てないくらいの知恵者のはずだけどーー。
「でも、吃驚したわ。普通に城下に住んでるなんて」
小ぢんまりとした一軒家。
室内も、取り立てて言及することもない、良くも悪くもないーーまさに「普通」という言葉がぴったりね。強いて言うなら、清潔に保たれている、といった特徴くらいかしら。
魔術なのか、それとも人を雇っているのか。
室内の中央に置かれたテーブルに、四つの椅子。なぜか私が上座の位置に座ってるんだけど、いいのらしら。
クロッツェとシロンがさっさと座ってしまったので、仕方がなく余ったこの席に座ったんだけど。
「見ての通り、老い耄れなのでな。体が鈍らぬよう散歩を日課としておった。時々村に行っては薬師の真似事をしてな、いつしか重宝がられて幾つかの村を巡回するようになったのじゃ。村が街になった頃、通うのも面倒になって街に住むことにしたのじゃが、気づいたら国ができておった」
「それって、簡単に話してるけど、百年とか千年の単位の話よね」
「それと、国ができた、と他人事のようにアカンテは話していますが、普通に考えれば、為政者がアカンテを放っておくはずがありません。『助言』とか『手伝い』とか、そういうことをしている内に、ボレアス国が成ったのでしょう」
それはまた、一国に一竜、とか言いたくなってくる話ね。
でも、一竜いた聖王国は、あんな風になってしまったんだから、偉大なる存在とて竜によりけり、ということね。
「さて、お嬢ちゃんはクロッツェに乗って飛んできたのかの?」
「え? それはーー」
答えようとして、一拍。
アカンテに変化はない。今もぷるぷるなんだけど、何て言えばいいのかしら、気配が引き締まった、ような気がして。
呼吸一回分、考えを巡らせる。
「そうね。ちょっとおかしいわ。シロンの塒からーー率先して私とシロンを乗せて運んでくれるなんて、クロッツェらしくないわ。ーー何を企んでるの、クロッツェ?」
「ふぉっふぉっふぉっ、さすがはお主の教え子じゃの、クロッツェよ」
「ええ、まるで信用されていないところなど、傅役冥利に尽きる、と言ったところです」
何だか馬鹿にされた気分になるけど、これは私でもわかるわ。
飄々としてるけど、本心を隠そうとしたわね。大陸では、黒竜が現れたと噂になっているからーー、
「クロッツェは言わんじゃろうから、わしが言うてやろう。お嬢ちゃんは、ファナトラの森に逃亡し、次に現れたのがアペリオテス国。その時点では、本物の『薔薇の姫』だと思われていたようじゃが、そこから北に向かって白竜が姿を現した。伝説の『五色の竜』というだけで大騒ぎじゃというのに、そこに黒竜まで現れてみぃ、どんな噂が立つかいのぅ」
と、考える前に助言をされて。直後にシロンが答えを教えてくれた。
「さふっ。黒竜だけど白い僕まで飛ぶと、『四聖女』の一人のリップスさんと関連づけられてしまいます。白竜だけど黒いクロッツェさんの噂で、リップスさんの噂を吹き飛ばしたのに、僕が飛んだら噂が再燃してしまいます」
うわ、何だかクロッツェに叩き込まれていた頃を思い出すわね。ときどき許容量を超えて教え込んできて、挫折感や無能さを味わわせてきたのよ。
謙虚さを忘れないように、とか傅役が言ってたけど、どう見てもクロッツェは楽しんでいたから、知れたものではないわね。
「『四聖女』といえば、ボレアス国にも一人いたはずよね」
こういうところが私の駄目なところね。
私のために骨を折ってくれたクロッツェに、素直にお礼が言えないから。
私とクロッツェはそんな仲じゃないのよーーなんて言い訳で自分を誤魔化して、話を逸らしてしまった。
「地域によって、価値観は変わるでの。ボレアス国の『聖女』は、『狩姫』とも称えられておる。その美貌に加えて、強き女の象徴として崇められておるの」
「うっ……羨ましいわ。やっぱり私はどこかで間違えたのかしら」
大陸の西では、貞淑であることが美徳とされていたから、聖王国の利益となるために、猫万匹は選択の余地がなかったのかもしれないけど。別に後悔しているわけじゃないけど。
ーー夢に見たことはあったわね。本当の私が受け容れられている世界。
ミースや子供たちは受け容れてくれた。でも、駄目ね、王女としての私には、勇気が、覚悟が持てなかった。
ーー私は、何を信じられなかったんだろう。
「お嬢ちゃんは、わしに会いにきたわけじゃが。さても、何をしにきたのかいのぅ?」
「ーーそれは」
考えに沈んで、反応が遅れてしまった。
言葉を継ごうとして。寂れた赤髪の下の、くすんだ石のようだった瞳が宝石の輝きを宿した瞬間に、言葉が奪い去られる。
「お嬢ちゃんは逃げた。それから、アペリオテス国へと。しかし、そこからはただの、逃げ、ではないの。目的があるのじゃろう。聖王国を奪い返すため? 復讐のため? いやいや、お嬢ちゃんはそんな易い性格ではあるまい? クロッツェの教え子であることを勘案するに、『五色の竜』を集め、何を企んでおるのかの」
「ーー商人ギルドの、任命権?」
これは、まともにやっても駄目よ。クロッツェ以上の相手と、正面から遣り合うなんて無謀もいいところ。
アカンテは、知りすぎている。そこには何か絡繰りがあるはず。
有り得なさそうなことまで考慮して、現実的なものを選んでみたけど、どうかしら?
「ふぉっふぉっふぉっ、クロッツェとシロンを連れておる時点で、力を貸してやるつもりだったがのぅ。わしはお嬢ちゃんが気に入ったで、お嬢ちゃんがやろうとしていることの内容如何によっては、積極的に力を貸してやろう」
どうやら、正解だったみたいね。
まったく、いつ崩れるともしれない、氷柱の上を歩かされてる気分よ。冷静さが必要だと思ったから、にゃんこたちと一緒に考えたけど、こっちも正解だったみたいね。
「ーーーー」
大陸中の情報が、別けても確度が高く迅速に集まる組織といえば、商人ギルドしかない。
そして、ギルドを掌握する方法の中で、わかり易く、そうであるが故に難しいのが、ギルド長を決める権限ーー任命権を持つこと。
こんな陰謀めいたこと、普通なら馬鹿々々しくて、ぽいっと捨ててるとこだけど。竜ならーーアカンテなら可能。
言いたくはないけど、以前クロッツェがギルドの構成について話していたときに、ぽろりと口にした、何故か商人ギルドが有能すぎるのですよね、という言葉が決め手になった。
ギルド長にだけは正体を明かして、折々に触れ、力を貸しているーーというところかしら。
「ああ、やっと姫さまのなさろうとしていることを知ることができるのですね。このクロッツェ、心待ちにしておりました」
別に、逃げ場を塞がなくても、きちんと話すわよ。
下手すると、三竜は呆れて、誰も協力してくれなくなるかもしれないけど。それでも私自身で決めて、前に進んできたんだもの。
ぜんぶ赤裸々にっ、あけっぴろげにおっぴろげてやるわ!
「ーー私はね、ずっと考えていたわ。アカンテが言ったように、始めは感情のままに、奪われたものを奪い返してやる! とか、国民の苦痛を何倍にもして返してやる! とか、そんなことばかり考えてた。でも、考えれば考えるほど、思い知ったわ。私にできることなんて、本当に少ないってことに」
私に残ったのは、「聖女」や「薔薇の姫」という肩書きだけ。
クロッツェは、興味がなければ自分からは動かない、空気のようなものだから、ーーまあ、独りではなかったのは、それなりに助かったから認めてあげなくもないけど。
「ラスティを、アペリオテス国を利用しようと考えたわ。でも、そんな資格が私にあるのかと考えて、身動きが取れなくなってしまった自分の弱さが、死ぬほど嫌になったわ」
もう、この世界に、ラスティがいないことに、安堵してしまった。
なんて、……なんて醜いのかしら。
アペリオテス国を利用する、その根幹たる理由がなくなって、私は喜んでしまったのよ。もう、選ばなくて、悩まなくていいことに。
私は、ラスティを選んだ。けど、ラスティを愛していたかと言えばそうではない。いずれ、愛することができるようになると、なるはずだと、自分を誤魔化していた。
「色んなことを思い出したわ。だいたいはカイキアスの、大好きだった人々のことね。それから、私ができること、だけじゃなくて、国民が私に望んでいること、を考えるようになったわ」
国を捨てて逃げた「薔薇の姫」。罵声を浴びせられて当然。
でも、人々は私にそこまで多くのことを期待していなかった。国を守るために戦うなんて、私の独り善がり。
じゃあ、私はーー「薔薇の姫」は何だったのかなって考える。
象徴だったのかな、と思う。
聖王国の象徴、繁栄の象徴、幸せの象徴ーー国民が私を通して見ていたもの。まだ幼い頃、そうしたものを感じて、猫を被るようになって、猫万匹でーー人々が望んでいると。
言い訳なんて、情けないわね。
ずっと考えていた。私がしたいこと、私がしなくちゃいけないこと、国民が私にして欲しいこと。そうして、やっと心に落ちてきたのはーー。
「なるほどのぅ。『五色の竜』を率いて、無事な姿をカイキアスの民に見せる。逃亡している王と王子、それにノトゥス国への心理的圧迫……」
「うん、アカンテと同じことを考えたんだけどね。でもね、それって、私らしくないって気づいたのよ」
「ほっ? では、何とするのかのぅ?」
「始めはね、伝説の『五色の竜』と一緒に、私の無事な姿を見せれば、それですかっとすると思ったのよ。でもね、それじゃあ駄目なのよ。ノトゥス国は、『五色の竜』と共にある私を脅威だと思うだろうし、父さんも兄さんもそれを利用するわ。何より、国民は私が生きていることを知って、どう思うかしら? どうするかしら?」
「それは、色々とあるでしょうね。始めは、影から操ろうかと思ってましたが、その必要もなく、姫さまの人気はーー崇拝と言っても良い水準になっていましたから」
それは、私の罪。
「聖女」に「薔薇の姫」。私が創り出してしまったもの。私は、責任を取らないといけない。最低限の義務として、幕引きをしないといけないのよーー。
「ーー、……殺すわ」
私は今、どんな顔をしてるのかしら。
魔竜だって怯えるくらいの、下卑た顔かしら。それとも、心の底から溢れた歓喜に歪んだ、醜い笑顔かしら。
クロッツェに、シロンに、アカンテにーー三竜に誓いを立てるように、曝け出してやる。
溜め込んで、灼けて焦がれて。
ーーやっと言葉にできるからっ、ぶちまけてやるわ!!
にゃんこたちっ! 私の近くにいると熱いからっ、離れてなさい!!
脱ぎ。脱ぎっ。
脱ぎ。脱ぎっ。
脱ぎ。脱ぎっ。
脱ぎ。脱ぎっ。
脱ぎ。脱ぎっ。
猫どもっ、十分に離れたか? じゃなけりゃ耳塞げっ! ってそりゃ無理か!?
「あたしはっ、あたしを殺す! 『聖女』!? 『薔薇の姫』!? そんなもんっ、徹底的にだ! 欠片も残さず焼き尽くしてっ、灰にしてやる!!」
言葉にして、確認して、ーー苦しい。
体の奥深くが軋んでる。自分を殺すことの意味が、今更わかるなんてよ、ほんとに、あたしはどんだけ馬鹿なんだ。
「……そうだ、あれも……『猫まんま』もあたしだ。殺すと決めて、失うと知って、やっと気づきやがった馬鹿があたしだ。『偽物』でも『作り物』でも、みんなの中で生きてる、大切な『リップス姫』だ。だから、だから……」
一番失いたくなかったものを。一番大切にしていたものを。ずっと、最後まで守りたかったものをーー。
「あたしはっ! あたしが大好きなみんなの内にいるっっ!! あたしを殺すことにしたっっっ!!!」
どどんっ、と世界に届きやがれ、とばかりに宣言する!
「……ぷっ、くくっ、ぐぷっはっはっはっ、あーはっはっはっ!」
「くぉ~、嗤うんじゃねぇ! あたしの大決心だぞっ、一大決心だぞっ、『薔薇の姫』とか創っちまってごめん! って大っ大っ大っ大っっ謝罪するんだ!」
くそっ! 子供っぽいとか言うなよ!
クロが抱腹絶倒してん意味はわかってるが、そういうことじゃないんだよ! わかるだろ!? そういうことじゃないんだってよ!!
「ぷぷっ……。ーーそれで、姫さま。姫さまを殺すというと、『五色の竜』で姫さまをバリバリ食べるのですね?」
「ばふっ! 僕はリップスさんのお腹がいいです!」
「仕方がないのぅ。年長者は残りもので我慢してやるわい」
「怖ぇこと言うな! そんなもん、編隊の先頭の、クロの竜頭に乗ったあたしの姿を見せつけたあと、光に解けるように消えていくに決まってんだろ」
「…………」
「…………」
「……姫さま。物語の読みすぎでは?」
にゃろう! なんでそこだけ冷静に返しやがる!
「それでは、竜について、姫さまに知っていただきましょう。アカンテーー覚悟は良いですか?」
くっ、この傅役。あたしのこと「恥ずかしい奴」認定して、さっさと先に進めるつもりか!
あたしは、そうはさせまじとしたが、アカを見た瞬間に。
あたしの羞恥心なんて薄っぺらなものは、「冥府」まで堕ちていっちまった。
「ーーーー」
苦悩ーーそんな言葉じゃ足りねぇ、絶望という言葉すら同情して慰めちまうような、底のねぇ哀しみが垣間見えた。短命な人類では、到底及びもつかねぇ圧倒的な深淵が、その寂れた炎眼に宿ってた。
竜種の長として、いってぇどんな光景を目の当たりにしてきたってぇのかーー。
「竜種の長であったアカンテはかつてーー『性王』と称えられていました」
「やめるのじゃっ、やめるのじゃっ」
は? ……おいおい。
爺が両手で顔を覆って、左右に頭を振って、いやんいやんしてやがるぞ。
「『せいおう』って、『聖なる王』じゃなくて、『性欲の王』か?」
「さすがでございます、姫さま。違うことなく、一字一句、その通りでございます」
「やめるのじゃっ、やめるのじゃっ」
ふりふりふりふり。
ーー困った。何だかアカのいやんいやんが可愛く見えてきやがった。
深淵もまた等しくおまえを見返すのだ、とか過去の偉人の言葉まで持ち出して考えちまったあたしの、貴重な時間を返しやがれ。
「どうします? 私が話しても良いですが、『神竜大戦』までとなれば、アカンテが話すのが筋だと思いますが」
「……もう良いわ。覚悟もできた。クロッツェこそ、わしを利用しようとしたようじゃが、覚悟は決まったのかの?」
「私のほうは、覚悟とか、そういうものではないですからね」
クロとアカの間で、よくわからねぇ会話が交わされる。って、そうじゃねぇ、クロが言ってたっけな、女性体になれねぇ理由って奴を、アカに会ってから話すって。
「お嬢ちゃん、『神竜大戦』について説明してくれるかの?」
「そりゃ、神竜に属する竜と、魔竜に属する竜が戦って、神竜側が勝利したって戦争だろ? ーーん? アカって竜種の長だったんだよな? ってことはアカが神竜なのか?」
「神竜大戦」、或いは「神竜撃破」ーー古い話だ。
お伽噺とか神話とか、そんな人類の黎明期のーー神学者の中には、人類の誕生前だと主張する奴もいるってぇくらい昔の出来事。
「クロッツェ。お嬢ちゃんには教えておらんのかの?」
「必要のない知識でしたからね。それに、下手に教えると、ないとは思いますが、私が竜であることを気取られる懸念がありましたから」
こりゃまた、衝撃の真実! なんて匂いがぷんぷんしてきやがる。ってか、クロの奴、妙なとこであたしを買い被ってやがるな。
まあ、クロがそうするくれぇの秘密ってことだからな、ほれほれっ、好奇心と求知心がダンスを踊ってやがる、前振りなんざどうでもいいから、さっさと教えやがれ!
「神竜と魔竜の戦いーーというのはの、過去の人間が作った、物語に端を発しておる」
「は? ……それって、創作? ってことは、『神竜大戦』なんてなかったってことか?」
「いやいや、『神竜大戦』はあったぞい。じゃがの、『神竜』の文字を見てみよ。『神』と『竜』じゃろう。後世の人間は、『神竜』が勝利した戦争だと思うとるようじゃが、答えは馬鹿らしいくらいに単純じゃ」
「何だそりゃ、『神竜』と『魔竜』じゃなくて『神』と『竜』で戦ったってことか?」
アカが首肯する。クロとシロも当然って顔してるから、ほんとのことらしいな。
確かに、聞いてみりゃ納得だ。思い込みって奴なのか、生まれてからずっとそう思ってたからよ、疑問を抱くことさえなかった。
「ってことは、竜は負けちまって、戦争の生き残りが『五色の竜』ってことなんか?」
「ふぉっふぉっふぉっ、逆じゃな。竜は辛うじて勝利を拾ったが、『五色の竜』しか生き残ることができんかった。ーーこれから、そうなってしもうた経緯について語ってやるかいのぅ」
スリンが言ってたな。完璧だったから気づいちまったって。
人にとっての、歴史という尺度の時間。竜にとっては、昨日のことのように、なんてことはねぇとは思うが。
圧し掛かって潰れそうな、遥かな星霜に触れることすらできねぇあたしが口を出していいことじゃねぇから。
大きすぎる感情なのか何なのか、隠しちまったアカの話に、静かに耳を傾けることにする。
「わしが生まれる、ずっと以前から竜種と神々は争っていたそうじゃ。神は、竜より強かった。じゃが、竜より強くなるのに時間が掛かり、また竜より少ない子しか生せなかった。逆に竜は、神より総じて弱かったが、早う強くなることができ、多くの子を生した。そして、ここが重要になるのじゃが、種として存亡の機に陥ると、竜種、神々共に、強くなる時間が早まり、子の数も増えたーーということじゃ。竜種の総意と言いたいところじゃが、やはり本能なのかのぅ。魂に刻まれた命令、宿命のごとく戦いを止めることができず、危機となれば勢力を盛り返し、いつ果てるともない無益な、愚かな行為を繰り返しておった」
永遠に戦うことを宿命づけられた存在。
そうすっことで生命って奴が活性化すんのかもしんねぇが、この仕組みを作った奴ーーなんてのがいたら、「冥府」ですら生温ぃ、「永遠の滅び」まで堕ちるべきだな。
「じゃがの、そこに変化が生じたのじゃ。それは、神々の頂点とされた五柱ーー『至神』の一柱が消えたことから始まった。永遠の命を持つとされる、寿命がない一柱が何故消えたのか、未だにわからぬことじゃがな。神々の長が消えて、新たな長が立ったが、ーー一柱はおかしな奴じゃった。なんと、休戦を申し出てきよった。竜種の長となってだいぶ経っておったわしは、耳を疑った。そのようなこと、考えたことすらなかったからの。じゃが、言われて、考えてみて、気づいたのじゃよ。別に神々が憎くて戦っていたわけではないということに。戦って、殺し合うことが日常になっていて、そんなことにすら気づけなくなっておった。一柱の言葉は、波紋となって、波となって拡がった。そうして、相争わぬ新たな時代がやってきたのじゃが、当時は思いもせなんだ。それが破滅へと至る門を開けてしまったということにーー」
竜だって、神だって間違える。思い込みーーと言っても、あたしのと比べちゃいけねぇのかもしんねぇが、竜も神もどんだけ深ぇ陥穽に嵌まっていたんだか。
「わしは老いていたでな、そろそろ長の座を譲ろうと考えていた頃じゃった。竜種も、そして神々も、穏やかな時間を享受し、必然的に、両者とも個体数が増えよった。そう、数が増えてもうたーー相手を殲滅できるほどに。数が減った状態で起こるはずの『狂騒』が、数が増えた状態で起こったのじゃ。それが『神竜大戦』。相手を滅ぼさなければ、自分たちが滅ぼされると。『狂騒』に身を焦がし、世界を混沌の海に沈めたのじゃ。ーーここまで聞いたならわかるじゃろうが、竜は劣勢じゃった。神のほうが強いのじゃから、正面から戦えば負けて当然。じゃが、『狂騒』に灼かれた竜は、個々に戦い、協調などというものはまるで頭になく、敗北への道をひたすらに突き進んでおった」
アカは、背凭れに体を預けて、一息つく。
長い話だと、そう思ったが、そうじゃねぇ。この少ねぇ言葉に、途方もねぇ星霜と想いが横たわってるんだ。想像が及ばねぇ、受け留めきれねぇから、あたしん内でおかしくなっちまってやがる。
「そこで、私たちの出番というわけですね。その頃、私たちーークロッツェとシロン、チャエンは、成竜となってはいませんでした。それが幸いしました。新たに生まれた竜たちは、私たちを追い越して成長し、『狂騒』に駆られて神々に挑んでゆきました。成竜になっていない私たちは、比較的『狂騒』の影響が少なく、三竜で協力して戦うことができました。ああ、因みに。成竜になっていなかった私たちは、アカンテに相手をしてもらえなかったので、清い体のままです」
「やめるのじゃっ、やめるのじゃっ」
駄目だって、アカ。そんなこと言ったら、やる気がフル回転すんのがクロだってのに。
「竜種の長であったアカンテは、それ以外の雌になった竜を、『性王』となって孕ませました。いやあ、あれは凄かったですね。私も『狂騒』の影響を、それなりに受けていましたので、『性王』に相手してもらえないことを悔しく思ったりしたこともありました」
毒を吐いたから次は猛毒を、ってとこで、アカがクロの話を遮った。
「もうええわいっ、もうええんだわいっ、言われる前に言うてやるぞい!」
と、勢い込んだのはいいものの、余程言いたくねぇことなのか、ただでさえ爺でちっせぇってのに、豆粒になんくれぇの勢いで萎みながら、女々しい口調で続きを話してった。
「……それでな、さっきも言うたが、わしは引退間際でな、戦いの中盤辺りで子種が、……尽きてしもうた。運が悪いことにな、子種が尽きたことが影響したのか、理性を取り戻してもうて、……じゃが、体は止まらんかった。ーー辛かった。ほんに、……辛かった。雌が次から次へとやってきて、子は生せないというに、このままでは本当に竜種は滅びてしまうというに、……止まらんのじゃ。……わしの所為じゃないのに、わしの所為じゃないというのにっ、神々の奴らはっ、みんなしてわしのことを『性王』『性王』『性王』呼ぶんじゃあ~っ」
「あー、爺、ほらほら背中摩ってやんから、泣き止め~」
「性王」を三度も繰り返して、本当に嫌だったんだな。
子作りはしたことねぇから、まだよくわかんねぇが、無理やりそれをしなくちゃならねぇのは、苦痛以外の何ものでもねぇってのはわかる。
快楽も、そこをすぎりゃあ、ただの毒だしな。
「アカンテも苛めたことですし、そろそろ逆転劇の話をしましょうか」
逆転劇ーーか。それには興味がある。
劣勢の上に、運まで神々の味方っていう八方塞がり。いくらクロでも跳ね返せねぇような状況だが、ーーやっぱ世にも恐ろしい、魔竜もドン引きの汚ねぇ手を使ったんだろうなぁ。
「何だか姫さまは誤解しておられるようですが、私たちにとっても想定外だったのです。私とシロン、チャエンが共闘しても、中級神ーーああ、当時は面倒なのでそう呼んでいたのですが、中級神にも勝てませんでした。そこで、下級神をちまちま潰していきました」
「とふっ! 突っ込んでいくチャエンさんを援護しながらっ、クロッツェさんの指示で捥ぎ取っていきました!」
……捥ぎ取ったって、命か魂のことだよな?
あー、いや、もう黙って聞いてるって雰囲気でもねぇし、聞いてみっか。
「でもよ、下級神とやらを潰してたら、さすがに目障りじゃねぇか? 中級神とかが援護にくるか、あと『至神』とやらが命令とかしなかったのか?」
「一言で言ってしまうとーー雑兵がいくら減ろうが、興味がなかったのでしょうね。『至神』からすれば、中級神ですら捨て駒扱いでしたから。あと、お盛んだったアカンテも、三竜の行動にまったく気づいていませんでした」
クロに任せると碌なことにならねぇと悟ったのか、アカが復活して話に加わる。
「そうして、竜種も神々も、知ることになる。竜は、魔力を世界に放っておる。人間はの、その魔力を使うて、魔術を行使しておるのじゃ」
「そういや、前にクロが言ってたな。昔は、今より強力な魔術が使えたって。『五色の竜』ーー五竜にまで減っちまったから、弱い魔術しか人間は使えなくなったってことか?」
「正解じゃ。反面ーーと言うのは違うかの。神々は神聖力を、祈りを捧げてくる人間に直接渡しておった。そして、祈りの強さの分だけ、神聖力を増して回収しておったーーと、竜種も神々も思うておった」
実際は違ってたってわけか。竜は魔力を放出するだけ。翻って、神々は神聖力を回収してたってことは、それが二者の力の差になってたってことか?
「んー、クロのこった、下級神は漏れなく潰したんだろうから、そこがなくなったーーん? いや、止まった、のか? そーなっと、神聖力は、神々の間で循環してたってことか?」
「ばふっ! リップスさんっ、凄いです! そうなんです! 人間の祈りは下級神が吸い上げてっ、純化させながら『至神』まで巡っていたんです!」
ん? なんだ?
今、何かが引っ掛かった。竜が有利になる方法がーー糸口をつかんだと思った刹那に。
糸のほうが途中から切断されちまったが。まあ、わかんなくなっちまったもんは仕方がねぇ。
「竜種も神々も、異変に気づき、答えに辿り着いた。時間が経てば経つほど、神聖力が得られなくなった神々は不利となってゆくのじゃ。そこからは、正面からの潰し合いじゃのーーと言いたいところじゃが、幸い、竜に長の命令は届いたのじゃ」
「均衡が崩れて、『狂騒』の縛りも緩くなったってことか。命令ってのは、当然ーー全竜、逃げろ! ってことだろ?」
「姫さまの仰る通りです。時間が経つほどに神々は弱まるのですから、遁走するに決まっています。最後のほうは、三竜でも上級神に勝てましたからね。生き残りの『至神』ーー神々の長をアカンテが討ち果たし、多大なる犠牲を払って『神竜大戦』は結末を迎えました」
「で。クロが女性体になれねぇってのは、どんな面白ぇ理由があるんだ?」
「いえ、姫さま。もう少し、余韻というものを大切にしてください。愛と哀しみの『神竜大戦』が一気に陳腐なものに成り下がってしまった気分です」
何言ってやがる。クロの言葉からして、茶化す気満々じゃねぇか。
「だがよ、よくクロたち三竜は生き残れたよな。最後の、全竜が逃げまくってた頃も、竜種の中じゃ底辺の力しかなかったんだろ?」
「鬼ごっこのようなものでしたからね」
「そーゆーことか。灯台下暗し、常套手段。神々の拠点に隠れてやがったな」
「さすが姫さま、お見通しでございますか。『神域』にいるのは、毒沼に埋まっているようなものでしたが、そうしないと木っ端三竜は一瞬で、ぶっ殺、と駆除されていたでしょうから。やむにやまれず、ということです」
「やぶっ! でもでもっ、危なかったんです! クロッツェさんが成竜になったのでっ、白竜の能力で切り抜けることができました!」
やむにやまれず、ってそういうことかい。
白竜であることに違和感を抱いてたらしいクロからすっと、白竜の能力を使うことに忸怩たるものがあったのかもしんねぇな。
「そんで、シロ。あたしのお腹、撫でていいから、クロの醜聞を話してくんな」
シロが座った椅子ごと後ろに引いて、極上のクッションに、ぽすんっ。
……なんか、前回よりシロの手つきがいやらしくなってるが、こりゃ気にしたら負けって奴だな。
「うぷっ。通常、成竜になっていない幼竜は、子作りの相手と見做されません。でも、クロッツェさんは、早熟というか見栄えが凄い良かったので、目をつけられてしまいました」
「それは、わしの落ち度でもあるの。まさか、幼竜に手を出す竜がおるとは思わんかったでな。わしがシロンから知らせを受け、仕置きするまでの期間、……ぷっ、くくっ、……クロッツェは、それはそれは大変な目に遭うていたそうじゃ……」
ぷるぷるの横揺れに、笑いを堪えた縦揺れまで加わって、そのまま「楽園」まで逝っちまいそうだ。
表情はいつものまんまだが、どっか陰を背負った体で、観念したのかクロが話し始める。
「女性体を見られたのが運の尽きでした。男性体になっても、『竜化』しても白竜は追ってきました。シロンもチャエンも味方してくれましたが、如何せん私たちは幼竜で、白竜一竜に敵いませんでした。あの悍ましい日々は、思い出したくもないので、長老と呼ばれていた白竜に頼んで、記憶を消してもらいました。それでも、あの竜のことは、忘れたとしても嫌悪だけは残っていて。この一件の主因でもあった、白竜である自身を、益々疎むようになっていきました」
「なるほどな。だから、そんなにも性格が歪んじまったのか」
クロは淡々と語っていったから、あたしも淡々と所感を述べることにする。
残念とか言ったらクロには悪ぃが、期待してたほどの突飛な話じゃなかったからな、ついでに気になってたことを聞くか。って思ったらーー、
「爺さん! 帰ったわよ!」
ばんっ、と勢いよく扉が開く。
壊れるんじゃねぇかってくらいの音と、それ以上に威勢のいい若い女の声が部屋に飛び込んできた。
「ほ? 珍しいわね。爺さんに、お客さん?」
二十歳には届いてねぇか。生気に満ちたはつらつとした美女が、順繰りにあたしたちを見ていって。
傍から見たら奇妙な、シロに座ってるあたしで止まった。
「うわぁ、これはまた、とんでもない美少女ね。それでこの赤髪ってことはーー爺さんの隠し子ね!!」
「子がいたとして、隠す必要なんてないわい。この娘は……」
「わかってるわよ。西の『聖女』のリップス王女でしょ? 他にこんな美少女がいるのなら、噂になっているはずだもの」
アカとの遣り取りからして、親しい間柄のようだな。なら、隠し事する必要はねぇだろう。
ーーにしても大柄な、「狩姫」の称号に違わぬ、俊敏そうなしなやかな肢体。それでいて、女らしさを失ってない。
「そっちこそ、北の『聖女』、リンネだろ? ……ちくしょう、その筋肉が羨ましいぜ」
「北じゃ、強い女は尊ばれるのよ。ひ弱な女ほどもてるらしい南に生まれなくて、ほんと良かったわ」
言いながら、慣れた手つきで茶を淹れる。
「聞いていいか?」
「何?」
「超絶美少女のシロと、『女殺し』のクロには、まったく関心向けてねぇようだが、何かあんのか? 顔見知りって感じじゃねぇが」
「ああ、私はね、勘が鋭いのよ。そちらのシロさんは、ーー底が知れないわ。もっと酷いのが、そちらのクロさん。真っ当な人生を送りたいのなら、係わったら駄目な人たちね。それよりも、あなたのほうが面白そう。『薔薇の姫』とか呼ばれてたみたいだけど、それ、本性ね。決めたわっ、今度一緒に狩りに行きましょう!」
ラスと同じ人種か。才能の宝庫って奴だな。だが、こういうからっとした奴は嫌いじゃねぇ。ってことなら、さっそく今からでもーー。
「ふぅ、リンネ。わしらはこれから出掛けるでな。しばらく留守に……」
「爺さん一人にはできないから、私もついて…いくわ……」
魔術を使ったのか、不自然に意識を失うリンネ。
支えたアカがぷるぷるしてたからな、シロの膝から飛び出して、彼女の腕を取って一気にお姫さま抱っこ。
リンネの最後の、アカに向けた視線。
親に捨てられた餓鬼みてぇなーー孤児院でよく見た眼差しに似てたが。
「大柄なリンネを軽々と持ち上げるとはの。お嬢ちゃんもシロンと同じで、クロッツェに改造されてしもうたのか」
「肉体改造ってことならそうだな。お陰でリンネみてぇな、引き締まった体じゃなくて、ぷにぷにになっちまった」
クロが寝室の扉を開けたから遠慮なく入っていって、赤竜と「聖女」が使うには質素な寝床に寝かせてやる。
「アカ、説明。じゃねぇと、クロと同じ扱いにすっぞ」
話さねぇなら、とりあえず顔面に一発、打ち込む。
「リンネはのぅ、明日、結婚式なのじゃ」
「……は?」
ちょっと待った。頭がついていかねぇんだが。
……くそっ、駄目だ! ちゃんと説明しやがれ!
「そんなおっかない顔で見ずとも、説明してやるわい。この世界には、幾らでも不幸が転がっておる。柵というものかの、魔獣の生贄にするとして攫われたリンネを、わしが育てることにした。終ぞ、リンネの寂しさを埋めてやることが敵わず、家族というものに執着するようになってしもうた。わしが式に出ると色々と問題があるでな、ーー昨日、リンネを守ろうとして亡くなった両親の墓の前で、『竜の誓い』を立てたでな、このまま出発するとしよう」
「『竜の誓い』ということは、リンネ様と正式に家族となったーーということですか?」
「わかっておるのなら、態々聞かんでも良かろう。ふぅ、誰に似たのか、強情な娘じゃからのぅ。中途半端なことができん以上、一旦わしから離れたほうがええ」
ったく、難儀なことだ。そんな顔して言われたら、なんも言えねぇだろうが。
「それでは、次は東にーーチャエンの塒に向かいましょう」
「茶竜ーーチャグリッパガゼルは、大地と関係が深くて、『豊穣』とか『静謐』とかか? あと『粛然たる技巧』って呼ばれてて、芸術や学芸を司ってるとも言われてんな」
気を利かせた、なんてことじゃねぇだろうが。クロが話題を転換したから、湿っぽい雰囲気を蹴散らすために、あたしも乗ってやる。
「それらは人間たちの心象からきたものですからね。チャエンに相応するのは、多少方向性は違えど、『豊穣』くらいですか。闘いの『技巧』ということなら、まんま、ということになります。ああ、忘れていました。奴の属性は、土や地でしたね」
「てえと、クロより強ぇのか?」
「ええ、確実に。正面から闘ったら、私は勝てません。私は魔術に没頭しましたが、チャエンは魔術も含めて闘いに特化したような竜です。『神竜大戦』のあとも、ずっと鍛錬していたでしょうから、私とシロンの二竜でも勝てるかどうか。もしかしたら、アカンテよりも強くなっているのかもしれません」
「だの。以前より衰えているからの、今はわしのほうが上じゃったとしても、そう遠くない内に、抜かれるじゃろうて」
「で。わかってますよね、姫さま?」
はっ! そんなもんっ、言われなくてもわかってんよ!
どんだけあたしを甘く見て、って違ぇか、ったく、楽しんでやがるなクロの奴。
仕方がねぇな、今回はクロの力も借りなきゃいけねぇんだから、お望み通りに踊ってやんよ!
「ほれっ、行くぞ、クロ! シロ!」
こっちから行動しねぇと、リンネの顔も見ずについてきかねねぇから、クロとシロの腕を取って、先に家から出っことにする。
扉が閉まる前に振り返ると。アカの視線は、もうあたしたちには向いてなくてーー。
まあ、機会があったらだけどな、親父と兄貴に会ったらあたしもーー。うん、死なねぇくれぇにぶん殴ってやろう。
よしっ! そんじゃあっ、これから作戦会議と洒落込むぞ!!
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