1 / 18
0,5話 「猫まんま」の姫
1
しおりを挟む
初めまして、私はクロッツェと申します。
突然ですが、大変です。何が大変かというと、城下が燃えています。で、王様と王子様は、国民をほっぽって、とっとと逃げ出しました。
そう、とんずら放いたわけですが、彼らからすると、王家の血筋を守るため、とか、再起を図るため、とか、尤もらしい理由があるのかもしれませんが。
実際には、お為ごかしの言行でしかありません。
さて、どうでしょう、阿鼻叫喚の「冥府」へと叩き堕とされた国民が、どう考え、行動するかは今後の楽しみ、ではなく、歴史の審判に委ねるとして。
「聖王国」などと呼び習わされているカイキアス国には、「五竜将」なる大陸最強と謳われた五色軍があったのですが。
伝説の「五色の竜」から戴いたという五色の竜将は、運悪く王都に参集していたので、ああ、何ということでしょう、全員無残にも討ち取られてしまいました。
あと十年で建国千年となり、「千年王国」を迎えるということで今から準備をしていたというのに、すべては無駄になってしまいました。
ですが、まあ、そんな些事は措いておいて。私が傅役ーーああ、教育係のようなものですねーーを務めている姫さまは、生贄にされてしまいました。
生贄、と言うと言葉は悪いですが、自分たちが逃げ切るための囮としたのですから、強ち間違いではありません。
人間の本性とは危難の際に垣間見える、とはよく言ったものです。
お可哀想な姫さまは、独り、王城に取り残されてしまいました。どれほど心細く思われていることでしょう。
がこんっ。
隠し通路の壁が開いたので、入っていきましょう。
ーーとてとてとてとて。と、のんびり歩いているので、姫さまの救援まで、それなりに時間が掛かってしまいます。
ああ、隠し通路の壁を閉め忘れたのは態とですので、もしかしたら、あとから敵兵が雪崩れ込んでくるかもしれません。
そうそう、姫さまのことでしたね。まだお話ししていませんでした。
傅役の私の然らしめるところ、姫さまは大層元気に成長されたと自負しております。特に情緒面。ええ、私の好み通りに育ってくださいました。
本当に、苦労した甲斐がありました。
赤子の頃は、猫百匹ほどでしたが、物心がつく頃には、なんと千匹。その後、私の指導と相俟って、十二歳の誕生日を迎えられた暁には、一万匹の猫が被れると、もはや猫そのまんま、「猫まんま」の称号を姫さまに贈り物したら、顔面を拳で殴られました。
はい、あれは良い一撃でした。
私の育て方は間違っていなかったと、ほろりと、涙が流れてしまいました。
そうして十五歳になられた、「猫まんま」のリップス・アークネス・ラカス・カイキアス王女……いえ、やっぱり長いので「姫さま」にしましょう。それに、聖王国は滅びそうですので正式名でなくとも構わないでしょう。
ととっ、話が逸れてしまいましたね。
何でも、大陸の「四聖女」とか持て囃された姫さまは、「西の赤き薔薇の姫」とか称えられ、耳目を集める存在になりました。
彼らの神に、生贄として捧げられてしまった姫さま。お可哀想な姫さま。
このクロッツェ、身命を賭して、姫さまの救出に向かいますので、今しばらくのご辛抱を。
ーーおや、これは魔石でしょうか。品質も良いようですし、是非にも入手しなくては。
というわけで、今少し遅くなりますが、どうか姫さま、野獣のような男どもの手に掛かるようなことは控えてくださいね。婚約者もおられることですし、姫さまには幸せになっていただかないと。
クロッツェは、そのように、心の底より願っております。
聖暦一四三一年 白の月 十三日 正午
クロッツェ(ハクイルシュルターナ)
突然ですが、大変です。何が大変かというと、城下が燃えています。で、王様と王子様は、国民をほっぽって、とっとと逃げ出しました。
そう、とんずら放いたわけですが、彼らからすると、王家の血筋を守るため、とか、再起を図るため、とか、尤もらしい理由があるのかもしれませんが。
実際には、お為ごかしの言行でしかありません。
さて、どうでしょう、阿鼻叫喚の「冥府」へと叩き堕とされた国民が、どう考え、行動するかは今後の楽しみ、ではなく、歴史の審判に委ねるとして。
「聖王国」などと呼び習わされているカイキアス国には、「五竜将」なる大陸最強と謳われた五色軍があったのですが。
伝説の「五色の竜」から戴いたという五色の竜将は、運悪く王都に参集していたので、ああ、何ということでしょう、全員無残にも討ち取られてしまいました。
あと十年で建国千年となり、「千年王国」を迎えるということで今から準備をしていたというのに、すべては無駄になってしまいました。
ですが、まあ、そんな些事は措いておいて。私が傅役ーーああ、教育係のようなものですねーーを務めている姫さまは、生贄にされてしまいました。
生贄、と言うと言葉は悪いですが、自分たちが逃げ切るための囮としたのですから、強ち間違いではありません。
人間の本性とは危難の際に垣間見える、とはよく言ったものです。
お可哀想な姫さまは、独り、王城に取り残されてしまいました。どれほど心細く思われていることでしょう。
がこんっ。
隠し通路の壁が開いたので、入っていきましょう。
ーーとてとてとてとて。と、のんびり歩いているので、姫さまの救援まで、それなりに時間が掛かってしまいます。
ああ、隠し通路の壁を閉め忘れたのは態とですので、もしかしたら、あとから敵兵が雪崩れ込んでくるかもしれません。
そうそう、姫さまのことでしたね。まだお話ししていませんでした。
傅役の私の然らしめるところ、姫さまは大層元気に成長されたと自負しております。特に情緒面。ええ、私の好み通りに育ってくださいました。
本当に、苦労した甲斐がありました。
赤子の頃は、猫百匹ほどでしたが、物心がつく頃には、なんと千匹。その後、私の指導と相俟って、十二歳の誕生日を迎えられた暁には、一万匹の猫が被れると、もはや猫そのまんま、「猫まんま」の称号を姫さまに贈り物したら、顔面を拳で殴られました。
はい、あれは良い一撃でした。
私の育て方は間違っていなかったと、ほろりと、涙が流れてしまいました。
そうして十五歳になられた、「猫まんま」のリップス・アークネス・ラカス・カイキアス王女……いえ、やっぱり長いので「姫さま」にしましょう。それに、聖王国は滅びそうですので正式名でなくとも構わないでしょう。
ととっ、話が逸れてしまいましたね。
何でも、大陸の「四聖女」とか持て囃された姫さまは、「西の赤き薔薇の姫」とか称えられ、耳目を集める存在になりました。
彼らの神に、生贄として捧げられてしまった姫さま。お可哀想な姫さま。
このクロッツェ、身命を賭して、姫さまの救出に向かいますので、今しばらくのご辛抱を。
ーーおや、これは魔石でしょうか。品質も良いようですし、是非にも入手しなくては。
というわけで、今少し遅くなりますが、どうか姫さま、野獣のような男どもの手に掛かるようなことは控えてくださいね。婚約者もおられることですし、姫さまには幸せになっていただかないと。
クロッツェは、そのように、心の底より願っております。
聖暦一四三一年 白の月 十三日 正午
クロッツェ(ハクイルシュルターナ)
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
彼女は白を選ばない
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
ヴェルークは、深い悲しみと苦しみの中で、運命の相手とも言える『番』ティナを見つけた。気高く美しかったティナを護り、熱烈に求愛したつもりだったが、彼女はどうにもよそよそしい。
プロポーズしようとすれば、『やめて』と嫌がる。彼女の両親を押し切ると、渋々ながら結婚を受け入れたはずだったが、花嫁衣装もなかなか決めようとしない。
そんなティナに、ヴェルークは苦笑するしかなかった。前世でも、彼女は自分との結婚を拒んでいたからだ。
※短編『彼が愛した王女はもういない』の関連作となりますが、これのみでも読めます。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる