めぐる風の星唄

風結

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炎の凪唄

ラクン・ノウ 2

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 ーーアルに、また、負けた。
 立ち上がりながら。
 そんなことを考えている状況ではないと、わかっているのに、それでも俺を、落胆させる。
 アルの期待にアルをたのし応えられなかったませられなかった
 ーー勘違いしていた。
 「放出」は、手段の一つに過ぎなかったというのに。
 最終手段にしてしまった。
 それさえ使えば、上手くいくと、思い込んでいた。
 アルが、そんな安直なことを、するはずがないと、身に沁みてわかっていたというのに。
 「魔雄の遺産」で上手くいったからと、衝動のままに動いた結果が、これだ。
「はぁ~」
 耳をぶつけたのか、痛みで感覚がなく、反対側の左耳も、聞き取り難い。
 アルとイオアニスが、何か話しているようだったが、半分も理解できなかった。
 だが、まだ終わりじゃない。
 身の内に、熱は、まだある。
 もう一度、「放出」ができるかどうかは、わからない。
 今、この瞬間に。
 何一つ、手立てはない。
 横目で確認したが、真ん中の容器の女性は、今も、身動ぎ一つしていない。
 ーー怒りに任せ、行動してしまったことを、後悔はしていない。
 愚かではあっても、人の死に、心を動かされないような者にはなりたくない。
「……ん?」
 ーー死んだ。
 ふと、記憶に引っ掛かり、容器の中の動かない女性を、今度は、しっかりと見た。
 ーー魔力が無くなったわ。
 ボルネアの言葉で、勝手に思ってしまっていたが、本当にーー。
「……単眼の巨人サイクロプス
 そんな昔のことではないのに、何故か、懐かしい心地になってしまう。
 あのときの、アルの言葉。
 ーー獣種や人種も、いつ死ぬのか、という判断は、実はとても難しいのです。
 彼女は、死んでいるようには、見えない。
 動かないだけで、眠っているだけのようにも、見える。
 ーー時間は、ある。
 イオアニスは、もう、俺を障害だとは思っていない。
 彼に直接、襲い掛かるのは、得策ではない。
 バレてしまった。
 待ち受けている、手段を用意している、相手に、「放出」だけで勝てるはずがない。
 ーー戦闘経験では、俺のほうが上だ。
 そう言いながら、感情的に行動した挙げ句、あっさりとやられてしまったが、その言葉に間違いはない。
 アルに、鍛錬を重ねられたいじめられた、俺よりも、経験を積んでいるとは思えない。
 闘いとは、如何に自分の有利な方向に、引き摺り込めるかをーー。
「さてと」
 ーー時間が、なくなる。
 イオアニスが、席を立つ。
 ベルニナに、処置を施すためだろう。
 それで、助かるかもしれない。
 完全アル不完全イオアニスでも、結果は変わらないこともある。
 そうなったら、本当に、俺は、道化以下だ。
「ーーーー」
 中途半端でも、考えられるだけ、考えた。
 ーー見切り発車。
 だが、それで良い。
 答えが用意されていることなど、人生では、殆どないのだから。
 待っているくらいなら、動き、切り拓く。
 ーー一つ、わかったことがある。
 俺が動き、変わるかもしれないことーー。
「はぁっ!」
 俺は、全力で、片手剣を打ち当てた。
 当然。
 こちらにも、対策は施されている。
「同じことを繰り返すとは、無様なことだ」
 俺も、老魔法使いと、同意見だ。
 俺よりも、魔法に詳しい、彼の見立てだ。
 「放出」では、容器を覆っている、まもりを、吹き払うことはできないのだろう。
 ーー無様ではあるが、無駄ではない。
 攻撃をし続ける、愚者おれあざける、イオアニスは、足を止めた。
 結果が伴わなければ、結局、無駄ではあるのだが、ーー今は、それを考えない。
 やらなければならないのは、別のこと。
 わかっていて考えなかったことを、ーー考える。
 ーー偽物。
 或いは、ベルニナと同じく、俺も、向き合っていなかったのかもしれない。
 「放出」が、一つの手段だとするなら。
 アルが、言っていなかったこと。
 あの意地悪は、もう一つの手段を、俺に与えてくれた。
 ーー『魔雄』になったまま、ずっと。
 そうなったら、ーー戻ってこられなかったら、アルの勝ちだ。
 ーー「抜き」。
 あのとき、「魔雄」だった、俺は、熱をーー一点に集めることができた。
 あの力を使えばーー。
「違う」
 俺は、攻撃を止め、言葉に出し、否定する。
「やっと、諦めたか」
 イオアニスが、早とちりをし、近づいてこようとしたので、剣を掲げる。
 ーー「魔雄にせもの」。
 そう思い込もうとしていたが、ーー「魔雄あれ」も、間違いなく、「魔雄おれ」なのだ。
 俺が使えない力を、「魔雄おれ」は、使える。
 ーーああ、わかってしまう。
 アルを、気に入ってしまったから。
 好きになってしまったから。
 あの、意地悪を。
 どうしても、嫌いになんてなれないから。
「それじゃあ、アルの、思う壺だ」
 ーーそうだ、違う。
 俺は、人形じゃない。
 魔雄アルに、見せつける。
 その先に、足を踏み出してみせる。

   抉られる
   幻想の代わりなど 現実ができるはずがない
   だから 俺は 自分を消した
   誰も気づかないように 違和感すら抱かれないように
   ただ 空白を埋めた
   実際 俺には 何もなかった
   団員たちは 賛辞を浴びるが 俺に気づく者など
   誰もいなかった

 嘗て抱いた思いを、明確に、刻み込む。
 そうだ。
 今の俺に必要なのは、「魔雄おれ」じゃない。
「ーーーー」
 幻想団すみか団員かぞく
 飽きるほど、繰り返した。
 一度も、成し得なかった。
 そこは、馴染んだみあげるだけの場所くらやみ
 幻想ひかりに、手を伸ばし、届かない、俺はーー。
 ーー落ちていく。
 ーー底は、ない。
 崩れ、解け、自分おれ消えれうすれてしまい、透明やさしいばしょに。
 ーー空白。
 彼の、苦悩に、身を浸す。
 自分に敗けーー。
 魂を焦がしーー。
 それでも尚、気高くあろうとした、闘士。
 彼と、その原風景までもを、共有した。
 ーー蒼風。
 あの双樹たいせつな、あの里で、ーー彼はかぜが誓ったみたされる
 ……溢れてくるかぜはささやく
 道を見出した「黒猫かれ」なら、ーー「黒猫おれ」が立ち向かわないことなどっ、有り得ない!
双風剣ヴォルブルーメっ!!」
 ーー果てなき修練の末に、到達した、俺のねがい
 約束したあのさとも場所はあのひとも、もう、失ってしまったというのに。
 捨てられなかった、俺の、想いこいごころ
 そのすべてを籠めたのが、ーー魔法剣。
「何だ!? 何をしようとしている!!」
 慌てたイオアニスが、呪文を唱えるが、ーー遅すぎる。
 ーー風が、教えてみちびいてくれる。
 おもかげを辿るように、この一撃ひとうちをーー。
「はあぁっ……とぁっ!?」
 がきんっ、と音がした瞬間、俺は、床に転がった。
 刹那。
 それまで俺がいた場所を、折れた剣身が、回転しながら通過していった。
 魔力に、剣が耐えられなかったようだーー。
 ーーではなく。
「『風音かのん』…っ!?」
「ーーん?」
 床に寝転んだ、俺の上を、今度は、イオアニスの魔法が飛んでいく。
「あ…と?」
 剣身を避けたときの衝撃で、ーー空白が解けるうまる
 「黒猫おれ」ーー「ラクン・ノウおれ」の一撃で、ひびが入っていた容器に、衝撃波のような魔法が直撃ーー。
「ぎぃ……」
 間抜けな魔法使いが、歯ぎしりしても、もう遅い。
 風の女神ラカは、俺の味方をした。
「まぁ、妥当せいこうだな」
 黒猫なら、容器を真っ二つにしただろう。
 俺は、容器に、罅を入れることしかできなかった。
 それでも、俺は、「黒猫おれ」になり、「ラクン・ノウおれ」にはできなかったことをした。
 ーーアルの顔が見たかったんだが、仕方がない。
 そんな余裕は、なかった。
 魔法が掛けられている所為か、泉に落ちる水滴のような、澄んだ音を立て、容器が砕ける。
「ぐっ……と?」
 容器の中の、液体に押し流されまいと、踏ん張ったが、どろりとした透明な粘着液は、そのままの形を保ったままだった。
 だが、支えを失ったのか、均衡が崩れたのか、前のめりになった、女性が、液体から飛び出してくる。
「いぐゎ……」
 ーー不味い。
 変な声が出てしまった。
 女性を受け止めたのだが、俺の頭より大きな、二つのものが、やわらかいものが、顔に押しつけられる、というか、挟まってしまう、というか、可愛い兎さんもこんらんの皆で応援中きわみ
 ーー理性と悟性を、三年分、前借りして総動員。
 ここまで大きいと、着る服が限られるので、大変だろう。
 ーーではなく。
 これまでに見た、人種アオスタの中で、最も双丘が豊かだが、普通の部類に入る三人が、軽蔑の視線を向けてくる前に、適切に対処しなくてはならない。
「ーーーー」
 女性を、ネーラもふもふ、落ちないように抱き留め、ネーヴもふっ、ゆっくりと足から、コネーラもっふん、下ろし、ココネもっふもふ、横たわらせる、お負けで爆雄もっふる
「アルっ! この女性ひとは、大丈夫か!?」
「まったく、ラクンさんは、浮気者ですね。『魔雄』ではなく、『黒猫』さんと交わるなかよくするなんて」
 そんなことは聞いていない。
 そう、「魔雄」ではなく、「黒猫」になったことで、俺の勝ちだ。
 勝利者権限ということで。
 俺のやらかしに喜んでいないで、さっさと答えろーーと睨みつけてやったら、魔雄アルは、つまらなそうに答えた。
「その女性は、魔力を失っただけです。これから衰弱していきます。処置をしなければ、あと半日というところでしょう」
「このっ、不埒者が!」
 イオアニスが、怒気を孕ませ、叫ぶ。
 俺は、当然、アルの話を、最後まで聞いていなかった。
 ーーまだ、終わってなどいないのだ。
「ーーっ!?」
 「風音」の呪文を唱え終えた、イオアニスは、術を放つのを躊躇う。
 俺が直接、彼に向かわず、五歩、別の方向に走ったからだ。
 そう、俺の背後には、別の容器。
 俺が避ければ、「風音」が容器に当たる。
 さりとて、魔法が当たったところで、容器が破壊されるかどうかは、わからない。
 目まぐるしく変わる状況に、手をこまねき、イオアニスは、決断できないでいる。
 ーー遅い。
 判断の、ひとつひとつが遅い上に、態々、手札まで明かしてくれる。
「ぬぅ……ではっ、『風吹ふぶき』をーー」
 やっとこ方針を決した、イオアニスの顔が引き攣る。
 「風吹」の呪文は、短い。
 即座に唱えれば、間に合っただろう。
 だが、イオアニスはーー。
 俺が、折れた剣を投げると、反射的に目を瞑ってしまう。
「っ!」
 目を開けた、老魔法使いが見たのは、拳を振り上げている、俺の姿。
 ここで、イオアニスがーー笑う。
「おおぉっ!!」
 気合いを入れた、大声を上げながら、ーー俺は、内心で溜め息を吐いた。
 魔雄アルと比べたら、他の魔法使いに、失礼になる。
 魔雄あれは、例外きかくがい
 こうまで、こちらおれの思惑に引っ掛かってくれるので、些か拍子抜けしてしまう。
 拳で、イオアニスのまもりを打ち破ることはできない。
 その事実を認識した、彼は、余裕を持ち、手のひらを突き出す。
 ボルネアが、鍛錬で同じ動作をしていたので、確信する。
 これまでとは違う、高位の魔法ーー長い呪文を唱えようとしていた。
 ーー先程の、剣での攻撃。
 イオアニスを攻撃したとき、まもりに防がれたが、彼は俺を、「風吹」で吹き飛ばした。
 そして、もう一つ。
 彼は、風を纏ったまま、行動しているーーできているのだ。
「ふん。ーー終わりだ」
 もう、慌てる必要もない。

   …憧憬に舞う風は …古の故郷へと
   …本質は言葉 …本命は言風

 俺は、殴る動作を、止める。
 それから。
 呪文を唱え始めた、イオアニスの左肘の内側に、俺の右の手首を。
 次いで、彼の左腕の上に、俺の右腕を置く。
 ーー隙間には、風。
 触れているのに、触れていないような、不思議な感触。
 不審げな、老魔法使いは、それでも呪文を唱え続ける。

   …水に文字を連ねよ …削る地に …血を捧げよ
   …氷で炎を焼け …雷は空へと遡れ

 事ここに至り、まだ理解できていないようなので、説明してやる。
「これから腕を後ろに持っていって、地面にゆっくりと引き倒す。それでもまだ、呪文を唱えていたら、攻撃する」
 説明が終わったので、肘を支点に、腕に力を入れる。
 まもりごと腕を抱え、動かすーー動かせる。
 ぽかんとした顔の、イオアニス。
 こんなこと、彼は、想定していなかったのだろう。
 初老の魔法使いの力で、抗うことなどできない。

   …遠く遠く …願う場所は …遥かな地平

 イオアニスの左腕を後ろに持ってきたので、逃げられないように、左手で、彼の左肩をつかんで、俺の側に引き寄せる。
 やったことがない者は、感覚的にわからないかもしれないが、これで左右に体を動かせなくなる。
 二箇所の、固定。
 イオアニスの顔が、強張っていた。
 呪文を続けようとしたところで、体重を掛ける。
「っ!?」
 足を払う必要もない。
 ゆっくりと倒し、腹這いにさせる。

   …根源に …果てしっ

「っぃ!?」
 呪文を唱えたので、宣言通りに、頭突きこうげき
「…………」
「呪文は、途切れたようだな」
 イオアニスは、風を纏っているので、損傷ダメージはない。
 ただ、突発的に、頭が上下動しただけなのだが、ーー老魔法使いには、それで十分だったようだ。
 ーー残念。
 これまで痛めつけられた、仕返しに、腕を捻り上げようとしたのだが、彼の、頭や背中のまもりが邪魔をし、上手くいかない。
「次は、呪文が唱えられなくなるように、歯が折れるくらいに、『風の女神の微笑みカオナ』を叩き込む」
「……っ」
 思いつきで術名を言ってみたが、イオアニスは、押し黙る。
 「放出」や「双風剣」などを見せたし、まだ何かあるかもしれないと、脅しくらいにはなるだろう。
「というわけで、ボルネアとオルタンスの活躍に、期待しています。それでは、僕は、行ってきますね」
 気絶している女性を除き、すべての人の視線を集めた、アルは、通路から出ていってしまった。
 ベルニナのことが気になり、うっかり視線を向けてしまいそうになったところで、ぐぐぐっと、顔ごと別の対象に持っていく。
「こらこら、そこの二人。何を、ついていこうとしているんだ」
「にゃ?」
「わん?」
 アルを追い、洞穴から出ていこうとする、人猫と犬人おいてけぼり
 ーー俺の頑張りを、台無しにしないでくれ。
 本当にわかっていない、というか、忘れているようなので、しっかりと言葉にする。
「二人は、本当に、アルが好きなのか? 俺は、アルが、何をしに、出ていったのかわかるし、二人に、何を期待しているのかも、わかっているぞ?」
「……わかっているわよ」
「……あとで、嬲り殺し」
 何となく、そうじゃないかと思っていたが、オルタンスは、本性を隠していたようだ。
 ボルネアも、きっと、同じなのだろうが、そこまで変わらないような気もする。
 彼女たちが、嫉妬を拗らせない内に、短く言葉にする。
「頼む」
 無言で、二人は、頷くーーのだが、二人の気迫。
 俺が、予想していたのとは、違う。
 ーーこれは?
 アルに成果を見せたい、というだけではないように感じられるが、普段とは異なる、二人の、真剣さの理由がわからない。
 ーーそうじゃない。
 これは、二人に失礼だ。
 彼女たちも、ベルニナの命が懸かっていることは、わかっている。
 真剣に向き合うのはーー。
 俺は、ボルネアとオルタンスの、心根を、誤解していたようだ。
 兎にも角にも、アルが言ったように、二人の活躍に期待するしかない。
 俺では、逆立ちしたところで、どうにもならないことだ。
「あの、ラクンさん、何をーー」
「これから、ボルネアとオルタンスが、魔法陣を使って、術を施す」
 ーーベルニナの、命が懸かっている。
 彼女に失礼とか、俺の羞恥心とか、そんなものは、炎に焼かれ、消し炭に。
「俺を、ーー信じてくれるか?」
 ベルニナを、正面から見詰め、尋ねるさしだす
「ーーはい」
 慈愛、とはまた違う、彼女の、優しい微笑みうまれたてのほのお
 ーーまた。
 俺の、深い場所が、ベルニナのほのおと呼応し、ねつで満たされる。
 そして、ーー一瞬で、消火されてしまった。
「にひ」
「むひ」
 先程までの真剣さはどこへやら、俺とベルニナの、浮いた話ーーかもしれない遣り取りを見るなり、十年の恋も冷めるアルにみせてやりたい甘々などくどくしい笑顔を浮かべていた。
「……何をしようとしているのだ。いや、そもそも、何をしに来たのだ」
「まぁ、見てな」
 と、答えてから、重要ーーかもしれないことに、思い至る。
 そういえば。
 俺が一方的に始めてしまったので、イオアニスからすれば、訳が分からないのも、当然。
 ーー冒険者が、何の用だ。
 ーーさっきから、何なのだ?
 彼はずっと、そのような疑問を呈していた。
 振り返ってみると。
 それらの問いに、俺は、何も答えなかった。
 ーー研究施設に侵入してきた、暴漢に、取り押さえられている。
 そう考えた瞬間、自分が悪者のように思えてきた。
 説明しようにも、アルがまだ、全容を明かしていないので、正しく伝えられない気がする。
「……まぁ、良いか」
 アルが戻って来たら、その辺りのことを、上手く説明してくれるーーはず。
「うにゃーーっ!!」
「うわーーんっ!!」
 魔法陣が描かれた、紙を三枚、ベルニナが浸かっている容器に叩きつけると、性急に魔力を籠め始める。
「う~ん?」
 大丈夫だろうかと、心配になってくる。
 多少、緩んでいるほうが、彼女たちらしいと思うのだが、全力でやっているところに、水を差すのは、好手ではないだろう。
「……何という、魔力だ」
 研究施設に魔力干渉されている、怒りよりも、二人の魔力量への、驚嘆が上回ったらしい。
 まるで、光り輝く太陽を見るかのように、二人を直視できず、呻き声を発している。
「そう、なのか?」
 居館を初めて訪れたとき、絶雄の魔力と気勢を浴び、感覚が麻痺してしまったのか、ちょっと圧迫感がある程度でしかない。
 ボルネアとオルタンスが、魔法陣に魔力を注ぎ込んでいる姿を、普通に見ることができる。
「お主、……何者…だ?」
 イオアニスだけでなく、呆れたような気配が、ベルニナからも漂ってくる。
「何者って、最初に名乗ったーー」
「ふみゃ~~」
「わふ~~」
 終わったようだ。
 と言っても、成功したかどうか、俺には、まったくわからない。
 魔力を使い果たした、二人は、背中合わせで、とすんっと座り込んでしまう。
「おつかれさん」
 成否は、まだ不明だが、全力でやってくれた、彼女たちを、心からねぎらう。
 ボルネアとオルタンスは、方向を見ながら、最高の笑顔を花咲かせる。
 ーー大丈夫だ。
 俺は、きちんと、兎さんも跳ね回るくらいに、正しく理解している。
 この、彼女たちの、風の女神ラカも祝福するような、魅力的な微笑みは、これからやってくるうらやましくな男に向けられたんてないんものなのだだからな
「よくできました。『ご褒美』は、あとであげますので、楽しみにしていて下さい」
 そんな言い方は、どうかと思ったが、二人は満足しているようなので、きっと、問題ないのだろう。
 アルは、腕に抱えた、二枚の大きな布の内、一枚を女性に掛けると、もう一枚を投げ上げた。
 容器の後ろに備えつけられた、階段に布が落ちると、ーーベルニナと目が合ってしまったので、俺は、眩しい肌色から、目を逸らしたのだった。
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