めぐる風の星唄

風結

文字の大きさ
上 下
35 / 49
炎の凪唄

魔雄ハビヒ・ツブルク 3

しおりを挟む
 ーーベルナルディーノ国。
 猫種の国だ。
 この猫国と国境を接しているのが、人種アオスタの国である、ミセル国。
 アルは、俺が与えた課題で、頭を悩ましているので、代わりに馭者をやっている。
 ーー最後尾。
 ベンズに向かうには、混雑する、中央の街道を通らなければならない。
「あれれ? アオスタですかー?」
 見回りの、管理官だろう。
 ほわほわな、垂れ耳。
 彼が驚いたのと同じく、俺も意表を突かれた。
兎人メソルチーナが外で仕事なんて、珍しいな。噂で、幻想団に一人、いるとは聞いたことがあるが」
「あー、ネーラの姐さんのことですねー。僕も、姐さんと同じでー、兎族の中では変わり者でしたー。同じ場所で、じっとしてることなんてー、できっこないんですよー」
 人懐っこい兎だ。
 革鎧に、短剣。
 武装した兎種は、現代では初めて見たが、相変わらず、ーー似合っていない。
 気配でわかる。
 それなりに強いのに、子供がごっこ遊びをしているような微笑ましさがある。
 前を見ると、幾人かが垂れ耳兎に視線を向けていた。
 もしかしたら、この長蛇の馬車の列には、兎人目当ての者がいるのかもしれない。
「ご覧の通りですのでー、三つ時ほど、お待ちくださいー。あと、獣種の方からー、嫌がらせとかされちゃったらー。こう見えて、僕はー、結構強いのでー、おしおきしちゃいますよー」
「ネーヴ君。お待ちなさい」
 兎人ーーネーヴが立ち去ろうとしたところに、猫人ジッテンが現れる。
 軽装鎧に、瀟洒な身形。
 明らかに、高位の者だ。
 洗練された立ち居振る舞い。
 だのに、無骨な、飾り気のない長剣。
「どうか、なさいましたかー、フルドリッヒ様ー?」
「この方々を、予備の門まで、お連れなさい」
「ええ? でもー、でもー? うんっ、わっかりまっしたー」
 ネーヴが先導していく。
 何もしなくても、彼の後ろを馬が追っていくので、不思議な光景が現出している。
 ーー連行される、人種の馬車。
 周囲の獣種が、胡散臭げに俺を見ていた。
 だが、その視線は、つつっと移動し、ネーヴに行き着くと、だらしないものに変わる。
「助かるーーということで合っているか?」
「お急ぎの、ご様子。ベルナルディーノ国を、直行で抜けられるよう、手配いたしましょう」
 列から離れたところで、話し掛けると、委細承知した旨を、猫人が伝えてくる。
 到着まで黙っていようと思ったが、好奇心を抑え切れず、聞いてしまった。
「黒毛の猫種とは、珍しいな。初めて見た」
「獣種の、始祖のことは、未だ解明されていないようですが、同じく、猫種に、黒毛がいるかどうかも、わかっていないようです。呪われた子、などと吹聴されましたが、教会がーーヌーテ様が、見解、という形で、問題がないことを伝え、赤子の私を抱き、祝福してくださいました」
「そうか」
「ーー似ていますね」
「ん? 何がだ?」
「いえ、何でもありません」
 嬉しいことを、言ってくれる。
 俺と同じく、四英雄であるヌーテも、長生きをしたから、猫人は、壮年期になったばかりのようだ。
「ネーヴ君。この馬車を、どう見ますか?」
「ほー? 普通ですねー。うん? うんん? あややっ、ちょっとー、変な感じー?」
 正門よりも、一回り小さい門に着いたところで、フルドリッヒが、兎人で遊んでいた馬を止めながら、問い掛ける。
 ネーヴを抱え、遊び足りないといったていの馬から、引き離す。
「動物に、好かれ易いのか?」
「はいー。なんか、僕からー、好い匂いが出てるっぽいんですー」
 「撫師ナデスター」の本領発揮といきたいところだが、急ぎなので、泣く泣く我慢する。
「この、特徴的な装飾は、ミュスタイアのーー絶雄カステル・グランデ王が所有する、三台の内の、一台です」
「えっ、えー? するとー、お兄さん、魔雄様だったりしちゃいますかー?」
「ネーヴ君!? 何故それを知って……、いえ、ごほんっ、ごほんっ」
 鎌を掛けられた格好になってしまった、猫人ーー黒猫は、空咳で誤魔化す。
「いや、失敬。ーー魔雄殿の噂が、人相にんそうの類まで伝わってきていましてな」
 そこまで知られているのなら、隠す必要もない。
「魔雄ハビヒ・ツブルクは、故人だ。だから、俺が言えることは。ーーユングフラウで、噂の元となったアオスタは、俺だ」
「そして。ーー絶雄殿に、認められた」
 緊迫した場面なのだが、ネーヴが俺たちを交互に見つつ、短い両手をばっさばっさとやっているので、緊張感が解けてしまう。
「ーー便宜を図る代わりに、お願いしたきがございます」
 ここまで、国境を二つ、上手く抜けられたが、最後に一悶着あるようだ。
 だが、黒猫の目を見ればわかる。
 俺好みの展開だ。
「だが、まぁ、事情を聞かせてくれ」
 ただ、闘うだけなのも、味気ない。
 黒猫の戦意に、揺らぎがある。
 ーー全力でやってもらうためにも。
 できるなら、取り除いてやりたい。
「私は、猫種の名家の生まれです。幼き頃より、『家名を汚すな』と、事あるごとに叩き込まれました」
 ネーヴが、重い空気に耐え切れず、踊り出そうとしたので、一撫でけんこんいってき
 上手く急所に入ったようで、もふもふが脱力する。
「鰐種の上に、竜種があるとされます。しかし、鰐種は、内向きの性向で、外野の声など一向に気にしません。犬種の上には、狼種。ですが、これも、勢力では犬種が上であり、優れた個も多く生まれます。それだけでなくーー」
 聖犬種のことを仄めかしたので、頷いてやる。
「はい。そして、猫種の上に、ーー虎種。私は、虎種と、これまで幾度も闘いました。ーー一度も、負けませんでした。ですが、私は今も、虎種から、軽侮されます。猫種は、虎種に劣るということを、受け容れてしまっています。『家名を汚すな』ーーそう言ってきた、先達までもが、抗いもしなかった。ーー何が、何がっ、名家か!」
 黒猫の気配が膨れ上がる。
 ネーヴの目に、涙が浮かぶ。
 兎種に認められなかった、自分を、黒猫に重ねているようだ。
「ーー自分が、許せないのか?」
「……気づかず、私自身、何より憎んでいた、その言葉に、縛られてしまっていました。……絶雄殿が、衰退期に入る前に、闘いを、挑むことを、ーーしなかった」
 俺の言葉を肯定するように、黒猫は、訥々と語っていく。
「これまで、私は、一度も剣で、負けたことが、ありません。本気を出したのは、魔物相手に、一度だけです。衰退期の、絶雄殿に、私は勝てないでしょう。ですがーー」
「壮年期のカステルに、挑めなかった時点で、ーー敗けちまったか」
 闘うことができなかった。
 闘い、敗けたとしても、ーー答えには、辿り着けた。
 気づいたときには、敗北していた。
 ーーそう、自分に、敗けていたのだ。
「フルドリッヒ。お前さんの魔力は、吹き抜ける、爽快な風のようだ」
 俺の言葉に、顔を上げた、黒猫に、手のひらを差し出してから。
 星霜に、凝り続けた、魔力を享けとめる。
「ーー深き、麗しの、蒼風の双樹」
 目をみはる、黒猫。
 逃さない。
 黒猫の、強さの、根源。
「ーーこれはしたり。魔力から、私の、……あの里の、原風景まで見透かされてしまいましたか」
 そうだ。
 純粋な、戦意を、昂らせろ。
「カステルの、『十全』。今、眼前に、それを成す、唯一の者がいるぞ」
 カステルの剣は、十の特性を持つ。
「『十全』とは……、まことか……?」
「俺に適合するのは、五つだと言われた。だが、カステルに憧れていた、俺は、我が儘を言って、十、すべてを注ぎ込んでもらった」
 そうだ。
 カステルは、絶雄は今も、俺の中で生きている。
「楽しみたいところだが、時間は有限だ。一合で決めさせてもらうぞ」
「それは、全力で相手をしてくれるということでしょう。ならば、望むところです」
 もう、面倒な言葉は、いらない。
「やるぞ」
「相分かった」
 ネーヴから離れる。
 同時に、抜剣。
 黒猫の剣を、盾で受けるのは得策ではない。
 猫人の、練られた魔力が教えてくれる。
「はぁっ!」
 掲げた剣の、剣身を、雷の如き、蒼光が乱打する。
 ーー魔法剣。
 稚拙な、魔力操作。
 そう、本来は、こういうものなのだ。
 粗削りで、剥き出しのーー。
 魂で、染め上げるような、色彩いろ
 ヌーテが、完成させた。
 成せるのは、カステルの弟子だった、オルタンス、一人。
 今は、俺の弟子となった、彼女のほうが、黒猫よりも強い。
 だが、わかる。
 闘えば、黒猫は、敗けない。
 オルタンスには、猫人の、蒼い風のような、深みは、まだない。
「全力で、来い!」
 ーーここからだ。
 歓喜が渦巻く。
 カステルに鍛えられた、絶雄の娘オルタンスを、軽々と超えていく。
 ーー来る。
 風が、吹く。
双風剣ヴォルブルーメっ!!」
 光雷を、風の女神ラカが踏み拉く。
 ーー性質も、相性も、ちぐはぐだ。
 ネーヴも、アルでしたちも、大丈夫だとは思うが、一応、「結界」を張っておく。
「ぁああぁっ!!」
 長剣に留まり切れなかった、風が弾け、黒猫の両腕を血塗れに。
 続いた、閃光が、顔を斜めに切り裂く。
 だが。
 揺るがない。
 風に濡れた、双眸は、俺の内側を、衝動かぜで満たす。
 須臾しゅゆーー相克にあった風と光が、沸騰あんていする。
「ーーっ」
 絶叫すら呑まれ、黒猫が、疾駆する。
 剣を上に。
 振り下ろされる、魔力かぜの激甚。
 触れる、一点に。
「ーーーー」
 俺は、熱を、施す。
 それから。
 カステルの、「十全」の五の、秘奥わざ
 ーー「抜き」。
「なっ……」
 俺の剣から、すべてが抜け落ちる。
 奪われた、黒猫の剣が、風を喪う。
 ーーカステルなら、すべてを奪える。
 俺には、無理だ。
 精々、一瞬の空白を、作れる程度。
 だが、それで十分。
「……あ」
 凪いだ風に抗い、俺の片手剣が、黒猫の喉元に。
 微動だにしない、猫人に、俺は、告げる。
「前言撤回だ」
 黒猫が、迷子の仔猫のような表情を浮かべながら、顔を上げる。
「十分に、楽しめた」
 にかっ、と笑ってやる。
 風が解けた、黒猫の、穏やかな、憧憬の眼差し。
「……完敗です」
「フルドリッヒ様ー!!」
「ネーヴぁっ!?」
 兎人に押し倒された、黒猫は、強制「治癒」うさぎさんは施され中おおはしゃぎ
「はは、魔力の残量が少ないんだから、大人しく『治癒あい』されるんだな」
「未熟者ですので、一度に、すべての魔力を使い切ることができません。だからこそ、減魔症を恐れず、剣に籠めることができるのですがーー」
 絶賛治癒魔法中のネーヴを抱えたまま、黒猫は立ち上がる。
「魔雄殿ーーでよろしいのかな?」
 ーーそうだな。
 楽しませてくれた、お返しくらいは、するとしよう。
「フルドリッヒ。これを見せるのは、お前が初めてだ」
 俺は、魔石のカードを取り出す。
「Sクラスーーではない、ようです……が!?」
 気づいたようだ。
「ーー今は、ラクン、とだけ名乗っておく」
「ラクン……幻魔大公……? 絶雄殿のーー。認められた、証し、か」
 黒猫は、驚きと、納得の表情を見せる。
 見せびらかすものでもないので、さっさと仕舞い込む。
「まぁ、今の俺は、冒険者で、幻魔団の団長だ」
「なるほど。馬車には、団員の方が乗っているのですね。只人ただびとでない方が二人と、もう一人ーー私は、試されてあそばれているのでしょうか?」
「ああ、すまん。アルのことは、気にしないでくれ」
 まったく、どうしようもない。
 やっとこ、真面になったかと思えば、すぐにこれだ。
 ーー昼飯抜きだな。
「ちょっとした、騒ぎになているようです。お早くーー」
 黒猫が、派手にやったから、列の獣種たちは、興味津々のようだ。
 無遠慮に、近づいてくる者もいる。
 ここは、お言葉に甘えるとしよう。
「ーーーー」
 国境を越え、しばらく行くと。
 背後が騒がしくなる。
 旅は、賑やかなほうが良いとはいえ、弟子三人は、やはり多い。
「魔雄様。ここらでよろしいでしょう。止めて下さい」
「ん? どうした、アル?」
 小窓から、話し掛けられたので、振り返ると。
 そこにいたのは、ボルネアだった。
 ぱんっ、と手を叩くと、俺の名をーー?
「ラクン・ノウ」
「あ……ああぁがああぁぁっ!?」
 腕がーー。
 悲鳴を上げた、というか、絶叫した。
「う……動かせない……」
 少しでも動かせば、激痛が走る。
 これまでに経験したことのない痛みに、症状。
 腕を動かさなければ、痛みはないが、このままにしておいたら、きっと、悪化する。
「本当に、ラクンさんは、面白いですよね。今の今まで、痛みを感じていなかったんですから」
「うごぉ……。あー、記憶が戻ってきた。起き掛けに、やってくれたな」
 起きた、直後から、ずっと「魔雄」だったようだ。
 毎度のことながら、完全に「魔雄」として行動していた。
「楽しませてくれた、お礼に、二人とも、『治癒』をお願いします」
 アルにお願いされ、渋々だが、俺に「治癒」を施してくれる。
「二人の頭を撫でるのは、解禁したのか?」
「ええ、僕のほうが耐えられないので、一日、三回は撫でさせてもらうことにしました。次の『ご褒美』は、頬に接吻です」
 二人が、頬を赤らめ、もじもじしていた。
 唇ではなく、頬で良いのかと思ったが、魔雄の膝までは、先が長い。
 このくらいの進展具合で、丁度良いのだろう。
「ボルネア。オルタンス。それくらいで良いですよ」
「え? まだ、全然、痛いんだが」
「ところで、どうして腕を痛めたか、理解していますか?」
 話を逸らされるが、今の俺に、自由権は、殆どない。
「ーー黒猫の、一撃。『抜き』に失敗していたみたいだな」
「ぷっ」
「笑いやがったな、こら」
「ぷぷっ。だって、そうなっても、仕方がありません。ラクンさん、完全に力を抜いていましたよね。カステルの『抜き』は、まったくの別物ですよ。下手をすれば、骨が折れていたところです」
 悪戯小僧の、笑みだ。
 笑壺に入るーーというわけではなさそうだが、どちらにせよ、癇に障るうでがいたい
 居館で、人犬ジョミニ相手に、アルが使っていた技だ。
 当然、見ただけの俺が、使いこなせるはずがない。
「もしかして、俺、物凄く、危なかったか?」
「はい。十中八九、真っ二つでした」
 今頃、ぶるっときた。
「ですが、課題は、達成しました。風属性をぷらすした、魔法剣を受け流しましたが、自覚はありますか?」
「任意の場所に、熱を放出できたような……気がする?」
 正直、どうやったのか、自分でもまったくわからない。
「そういうわけで、三人とも、最終段階ということです。ボルネアとオルタンスの魔力は、二人のために使います。腕は、痛くても構わないので、ゆっくりと伸ばしてください。そうしたら、次は曲げて。あとは、繰り返していれば、動くようになります」
「はぁ、『大図書館カマカウ』か」
「どういうことかしら、ラクン」
 珍しい、というのも失礼だろう。
 これまでは、俺とアルが話し、二人は大人しく聞いているのが常だったが、アルと一緒にいたいのであれば、それは悪手であると、学んだようだ。
「ボルネアは、治癒魔法が効果を発揮するようになったのがいつか、知っているか? 因みに、俺は、知らない」
「えっと、古代期には、今の水準に至ったと、父様が言っていたわ」
「俺は、魔法に詳しくない。だが、一つ、わかることがある。それは、『ハビヒ』前、と、『ハビヒ』後、だ」
「……益々、わからなくなったわ」
 これは、確かに、こんがらがっていて説明が難しいかもしれない。
「アルは、治癒魔法に因らない、治療技術を知っている。当然、その元になるのは、『大図書館』だ」
「その頃ーー古代期には、治癒魔法以外の治療も、普通に存在した?」
 オルタンスも加わってくる。
 やはり、理解力は、ボルネアよりも上のようだ。
「別に、これは大したことじゃない。単に、アルの知識の源泉がどこか、どういう意味があるのか、気になっただけだ……ぐっ」
 痛い。
 痛いがーー、少しずつ動かしていく。
 後遺症がなく、治るところまでは、治癒してくれたーーはずだから、それだけでもありがたい。
「ラクン・ノウ幻魔大公」
「くぅあっ!?」
 少しではないくらい、動かしてしまった。
 そうだった。
 ーー火に油を注ぐよけいなことをすると、取り返しのつかないことになる。
 豚人ザンクトから注意を促されていたのに。
 ーー俺の、馬鹿。
 油を注ぐどころか、大噴火させてしまった。
 「魔雄」だったとはいえ、自分から暴露するなど、もしかして俺は、気づいていないだけで、見栄っ張りなのかもしれない。
「ネーラ様がーー」
「やめろ。様づけは、やめろ」
 背中が、ぞわっとした。
「ネーラさんは、『公』ではなく、『大公』を選びました。それは、そちらのほうが誤解され難いからです」
「こら、アル。勝手にネーラを悪役にするな。『なにもかくさない』ネーラは、本当に、語呂で決めたんだ。悪役は、ネーラにどうじて、道筋をつけた、アルのほうだろうが」
 ーー誤解?
 わかりそうで、わからない。
 もどかしい。
 喉元まで出掛かっているのに、非常によろしくない悪寒が、答えに辿り着くのを邪魔している。
「あっ、わかったわ!」
「まだ、わからない」
 朗らかな笑顔の人猫セドゥヌムと、苦渋の犬人ウンター
 勝ち誇った、ボルネアは、俺のことなど歯牙にもかけず、喜び勇んで回答を口にする。
「父様のっ、後継者!」
「……何の、話だ?」
 そういえば、あのときの、黒猫の表情。
 絶雄の、称号だけに、驚いている様子ではなかった。
「では、答え合わせといきましょう。『公』ではなく『大公』とすることで、ラクンさんが、カステルの後継者ーーつまり、ミュスタイア国の次期国王であることを、明確にしたのです」
「ちょっと待て。それ、絶雄様は、というか、絶雄様が理解していないだろう?」
 少し、言葉がおかしくなったが、趣意は伝わったはずだ。
 アルが、にっこり、と笑っていた。
 以心伝心。
 どうやら、伝わり過ぎたようだ。
「ティソさんは、理解していました。今頃、裏工作でもしているかもしれません」
「ぐぅぎいっ!!」
 もう考えるのも馬鹿らしくなり、俺は一気に、腕を伸ばしてしまうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

転生チートは家族のために ユニークスキル『複合』で、快適な異世界生活を送りたい!

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...